● 喫茶店のマスター


愛する妻を他人に・・・背徳の陰に引き摺られながらも、体を噴き上げる悦びをこらえ切れず、夫の傍でよがりの声を洩らしてしまう妻・・・

このような妻の姿を追い求めて、私はあてどない放蕩の旅を続けます。

「妻を貫いた他人棒」の長編をお届けします。




【人 形 教 室】

妻を他人に抱いてもらう私たちの体験はまだ浅いのですが、数回目の体験の入り口は、私の方からではなく、妻の方から差し出されました。


愛する妻を、私以外の男に抱いてもらうという特異な体験を続けていると、このようなケースが出てきても当然なのでしょう。

いつか、そのような日が訪れてくると思っていました。



ここ一月ばかりの間、私には、気になることがありました。

二人きりの毎日で、いつもと変わらず忙しそうに台所を動き回っているエプロン姿を見るのは嬉しいのですが・・

何だか妻の姿の中に、はしゃぐようなところ、冗談を言いながらクスッと笑うようなところが見られなくなってきたのです。


妻は手料理の他に、パッチワークや手芸も好きなようで、勤めの息抜きのためなのでしょうか、人形づくり教室と料理教室に通っています。


ほぼ毎週土曜日になると、車を一時間半ばかり走らせて、少し離れたある町の人形教室に出かけるのです。


それで、そのことなのですが、人形教室に行く土曜日の朝になると、何だか憂鬱そうな顔をして出かけるようになりました。

そして、帰宅も、それまでよりは二時間ばかり早くなることが何度かありました。


別に、厚化粧をし、色濃い服を着飾って出て行く訳でもありませんし、早く帰ってくれることは、夫にとって嬉しいはずです。

でも、何だか変だなあと思っていました。



「何だか、オレに聞いてほしいことがあるんじゃない? 土曜日になると、ちょっと変だよ。」


どきっとしたように驚いた妻が、私の顔を見つめました。



「そうかなあ? そんな風に見える?」



「見えるさ。お互い約束しただろう。何でも隠し事をしないって・・

何度もおまえに、かわいそうなことをさせたんだから・・たまにはオレが力になってあげるよ。」



話そうかどうか、しばらく思い迷っていた妻は、おもむろに切り出しました。


「その、『かわいそうなこと』と、関係あるの。

わたし、今、ある男性から言い寄られていて、それを断ってはいるんだけど・・だんだん気まずくなっていくの。」



「・・・どうして? 別に、断るんだったら、気まずくなっても構わないんじゃない?」



「う〜ん、違うの。 私が通っている人形教室で仲良しの子が二人いて・・

教室に通っているのも、半分はそのお友達とのおしゃべりが楽しくて通っているようなものなの。」



「それで・・?」



「それでね、帰り際になるといつも三人そろって、近くの喫茶店でおしゃべりの続きをするんだけど・・

私に言い寄ってきたのは、そこのマスターなの。

三人で一緒に行く回数も段々減ってきて・・友達が私に言うの。『どうして、一緒に来ないの?』って。

そんなちょっとしたことで、最近 友達との関係が気まずくなってきたの。」



「そうか・・おまえの友達が変だと思うのは、当然だろうな。それで、おまえはそのことを友達に言ったのか?」



「まさか・・そんなこと、言える訳ないじゃない・・?」



「その喫茶店は、何ていう名前なんだ? それから、おまえはそのマスターのことをどう思っているんだ?」



「新町の“金木犀”というお店なの。

わたし、人形教室が終わって、その後4時からまた、料理教室に行かなければならないことは、あなたも知っているでしょ?

その間、時々、一人で時間を過ごす時があるの。」



妻は、友達がいい時間になると帰ってしまうこと、料理教室が始まる時間までしばらく待たなければならないこと、

そんな時、マスターが妻の話し相手になってくれることを話してくれました。


思いがけず、マスターから告白されて、一応は断ったもののその後の態度を曖昧にしているうちに、

お店に行き辛くなり、料理教室も欠席しているようです。



妻から思いがけない告白をされた私は、この顛末をどうつけたらいいか、思いあぐねてしまいます。


今、私が一番気になるのは、妻がその男のことをどう思っているのかということです。

妻の友達関係の方は、私の返答次第で修復されるでしょう。


「態度を曖昧にしている」という心情は、女の性が受け身である以上、仕方がないことなのかもしれませんが、

妻の心が幾分その男に傾いていっていることを表しています。


(これは、今すぐ結論を出すようなことじゃないな。)



「悪いんだけど、時間をくれないか。そんなに長くじゃないんだ。あさっての夜に、オレの気持ちを伝えるから、待ってほしいんだ・・」




その夜、褥の中で、乱れる心を整理します。

先ず、妻が私の問いかけに対して、その一瞬こそは驚愕の表情を示しましたが、素直に自分の心を打ち明けてくれたことをとても嬉しく思います。


こんなことは、やろうと思えば、私に黙って自分の意思で行えることです。それを、はっきりと私に告げてくれた妻に、深い信頼を覚えます。



(妻の心をしっかり確かめた上で、妻がそのことを望んでいるのなら、その通りにしてあげよう。)



まだ、整理しなければならないことが残っています。

二つ目に、仮に妻が男に抱かれるとして・・妻を男が待ち受けている所へ送り出すのか、

それともこれまでと同じように、私が見ている前でセックスしてもらうのか、果てまた、男は私の申し出を受け入れるのか・・?



妻の貸し出し・・私は、これまでに経験したことがありません。

多分・・良人が傍にいないという点で、夫への背信の陰は随分と薄くなり、悦びの度合いは格段に増すのかもしれません。


でも、一旦この行為を始めてしまうと歯止めが利かず、同じような行為を繰り返すようになる危険性があります。


このことは、私が「寝取らせ」という禁断の世界に踏み込んでからこれまでに至った経過を思えば、確実なことのように思えます。


また、妻が感じる悦びには及びませんが、自分が妻の傍にいて、妻と同じように興奮してこそ満足できるのです。


多分・・妻から事後報告を受けても、ビデオで再生しても、交わりの臨場感や焼けるような嫉妬は感じないように思えます。


そして何より、このような経験を重ねるごとに少しずつ変わっていっている妻を、更に変わってしまう可能性が高い状況に放り出して・・

それから、妻を私の元に繋ぎ止めておくために、彼女を愛おしむ深甚の努力を続けていく自信もありません。



(貸し出しは、止めよう。男にこのことを了承してもらって・・そのことがうまく運ばなかったら、妻に言い聞かせて諦めさせよう。)



三つ目に、男と妻との営みを夫が傍で見守りたいという常識では考えられないことを、どうしてその男に伝えるのか?

このような異常な願望を、まだ男への返答を生半可にしている妻に伝えさせるのは、余りにも酷すぎます。



(やっぱり、その男には、直接私が足を運んで伝えよう。そして、話がどう転ぶかわからないけれど・・

もし、男がそのことを受け入れるならば、男が願っている妻とのセックスを一夜限りにしてほしいことも頼もう。)


(一度、私の眼で、その男のことを確かめる必要があるな。 明日、こっそりその店を訪れてみよう。)



“金木犀”その店は、繁華街に面する横通りにありました。

洒落た造りのドアを空けると、ベスト姿で温かく客を迎え入れているマスターの姿が目に留まりました。

がっしりした筋肉質の体形で、日焼け顔がにっこり微笑むと、白い歯がこぼれます。


(外見からしかわからないが、これだったら妻が心を傾けても無理はないな。)


お店の造りは木造で、その羽目板には、彼が登山をした時の写真が数多く並べられています。


(山男なんだ・・自然を愛する男は、女への愛も細やかなのかもしれない。)


(この時間帯は、お客が少なくて、割と暇そうだな。)


それだけ確かめてから、私は、努めて印象が残らないように、隅っこの席でコーヒーを飲み終え、静かに店から出ていきました。


(もしかして・・いや、多分・・再びこの男に会って、あからさまなことをお願いする場面が訪れてくるのだろう。)




日が明けて、妻が男に抱いている気持ちを確かめ、私の返答を妻に伝える時を迎えます。

でも、一つだけ、心配なことがあります。

もし妻が、「男と二人だけで過ごさせて・・」と言った時、彼女を納得させるだけのものが用意されていません。



「今日は、オレがおしゃべりしなければならない番だな。
そのマスターへの返事が、凄く曖昧になっているような気がするんだけど・・

その男性のこと、どう思っているの?」



「もちろん、初めて告げられた時はびっくりして断ったわ。

でも、2〜3回、同じように求められると、だんだん気の毒というか、申し訳ないような気がしてきて・・」



「おい、おいっ、申し訳ないのは、オレに対してだろ? それで、そのマスターのこと、好きなのか?」



「とてもいい男性よ。話していると楽しくて、時間を持て余すようなことはなかったわ。

『好きか、嫌いか?』って聞かれると、『好きよ。』って、答えるわ。」



それから妻は、そのマスターとの話の内容を語ってくれました。


辻本が、名峰として知られる山々を踏破した体験を話したり、

逆に妻が、得意分野であるダイエット料理やハーブの栽培の仕方について教えてあげたり・・

互いの趣味に関する話が楽しいということでした。



「それで、その男とセックスしたいのか。」



「うう〜ん、そうじゃない。私の方から求めて、辻本さんに抱かれたいとは思わない。これは本当よ。

打ち明けられて、お断りして・・その後また求められてどうしたらいいか困っているから、思い切ってあなたに打ち明けたの。」



「その男は、辻本という名前なのか。オレも昨晩、ずっと考えたんだけど・・これまで随分おまえを苦しめてきたと思うんだ。

おまえが、そのことを望んでいるなら、オレに応えてくれた時と同じように、おまえの望みを叶えてあげたいんだ。」



「ちょっと、待って。 今、『わたしの望み』って言ったけど、正直言ってそこまではいってないの。

ただ、わたし達夫婦でしょ?この前、あなたがわたしに頼んだとき、わたしが答えたわ。

今度のことは、わたしがあなたに頼んでいる訳ではないけれど・・打ち明けられた方が、決めるべきだと思うの。」



「実は、昨日、そのお店に行ってみたんだ。マスターのこともしっかり見てきたよ。なかなか素敵な男性じゃない? 

おまえの心の中に、『好きよ』って思いが少しでもあるのなら、抱いてもらって、いいよ。」



「それからさぁ〜、こんなこと、オレから仕向けたことで、言えた義理ではないんだけど・・

おまえが他の男に抱かれて感じてしまう姿を見る度に、こんなことに嵌ってしまったら・・と、心配してしまうんだ。



「あなたの思いが、よくわかんないんだけど・・わたしに、そうなってほしいんじゃないの?」



「確かに、おまえのそのような姿を求めながら、それでいて、ハマってほしくないなんて・・

言ってることが矛盾していることは、自分でもわかってるんだ!


でも、約束して欲しいんだ。マスターに抱いてもらうのは、一度だけってことを。」



「わかった・・あなたが、そう決めたのなら・・・ でも、これだけは信じてね。

そのときになると舞い上がってしまって、わからなくなってしまうんだけど・・
あなたへの気持ちは、変わらないってことを・・・」



それから、私は妻に、自分が“金木犀”に行って、きちんとマスターに話してくることを伝えました。


その後、妻が私を見つめながらおもむろに言い出しました。それは、私が最も心配していたことでした。



「あなた、わたし、どうすればいいの? これまでと違って、辻本さんと二人だけになるの?」



「おまえに任せるよ。」「おまえ自身は、どうしたいの?」なんて言葉は、愛する妻に対する不実です。

妻に、恥じらいと慎ましさを身に包んだ姿のままでいてほしいのなら、独りで出かけることを止めてほしいと、はっきり伝えなければなりません。



「これは、『できたら・・』ではなくて、『絶対に、』男と二人だけでセックスして欲しくないんだ。

やっぱりオレは、その最中におまえの傍にいたいんだ・・」



「よかった・・あなたが『わたしに任せる』って言うんじゃないかと、びくびくしていたんだ・・

はっきり、そう言ってくれて、嬉しい・・」



「済まないんだけど、オレがそのことを男に話して、もし断られたら、このことをきっぱり諦めて欲しいんだ。」



「うん、そうなったら、わたし・・人形教室を辞める。」



こうして、妻からの告白は、曖昧なものではなくなって、具体的な詰めを伴って実行に向かうことになりました。

最後にひとつ、妻の心を確かめてみたくなります。



「これは仮の話だけど、もしオレが、『その男と、二人だけでセックスしてもいいよ。』って言ったら、どうするつもりだったの?」



「それは、あなたに傍にいて欲しいけど、あなたがそう言うのだったら、多分出かけると思う・・・

だって、わたしの夫であるあなたが、そうしたがっているんだから・・」


(やっぱり・・これから先も、このようなことを続けるごとに、妻は少しずつ変わっていくんだ・・

ふしだらなことを妻に求めつつ、彼女の心の変容を小さなものに食い止めるには、それ相応の努力が必要なんだ・・)




【喫茶店のマスター】

その後しばらく経って、男の店を訪れてその本心を確かめ、彼の望み通りに妻を抱いてもらってもいいことを伝える日を迎えました。


予め、電話で名前を名乗り、こちらが伺うことを告げると、マスターは狼狽してしまうでしょう。


普通のお客さんのようにカウンターに座り、頃合いを見計らっておもむろに切り出す・・というのが自然な流れのように思えます。



その日の昼下がり・・“金木犀”の店内に、この前と同じように焙煎機を動かしているマスターの姿がありました。


コーヒーの半分ほどを空けた私は、手が空いたマスターに向かって、切り出しました。



「ちょっと、よろしいですか? 妻が、時々このお店でお世話になっているのですが・・その夫の小野と申します。」


突然のことで、そして「妻」「夫」という言葉の響きにどきっとしたのでしょうか、怪訝そうな顔で、私を見つめます。



「実はですね、こんな所でお話しすることではないと思うのですが、お電話をすると返ってあなたを驚かせると思って・・

何もご連絡せず、突然お伺いしたのです。実は、妻のことについて、お話したいのです。」



私が、話を折り目正しく始めたからなのでしょうか、マスターは話の冒頭部分だけを聞いて、何かを察知したようです。



「失礼ですが、ちょっと、お待ちいただけませんか?」



見ていると、マスターは何事か、若い女の子に頼んでいます。きっと、込み入った話があるので、すべて任せることを頼んでいるのでしょう



「どうぞ、こちらの方でお話を伺わせていただきます。」



マスターと私は、お店を抜けて、建物の別口から応接室に入りました。

「私、このような者でして・・」名刺を手渡します。じっと見入っていたマスターが、弾けるような笑顔で答えます。



「いやぁ〜驚きました。理香さんのご主人さんですか。まさか、ご主人がお見えになるなんて・・」



私は、男の明るさにびっくりしてしまいました。大概こんな場合は、申し訳無さそうにとか、照れくさそうに・・というのが通例です。



「妻から、大体の話は聞いたのですが・・今日は、あなたの本心をお聞かせいただきたいと思ってやってきました。

それで、妻のこと、好きなのですか?」



「いやぁ〜、困りました。ご主人を前にして言いにくいのですが・・そうでないと、そんなことしません。」



続いてマスターは、ちょうど店が暇になりそうな時間帯に、妻とその仲間がやってくること、

一人になって、本を読んだり、しばしの間編み物をしたりしている姿を見かけること、

そして、そんな時、邪魔にならない程度に話し相手になっていることを語ってくれました。



「そうですか。そんなことしてるんだ・・」


(ずっと前に、プレゼントしてくれた手編みのセーターは、こんな時間を利用して編んでいたのか・・・)



「いつも一緒に過ごしているご主人にはわからないかもしれませんが、素敵な女性が俯いて編み棒を動かしている姿を見たら、

誰だって声をかけたくなりますよ。幾度か話しているうちに、奥様の魅力にたまらなくなってしまいました。」



そしてマスターは、妻に魅かれる理由が、容姿や仕草だけではなく、相手の話にじっと耳を傾けたり、

そして、時々にっこり微笑みながら頷いたり、その心遣いや優しさにあることを話してくれました。」



(単に、妻の体を求めているだけじゃないんだ。女の品性を見る目も持っているのかもしれない。)



「わかりました。それで、あなたが望んでおられること、どうされますか?」



「どうされますかって? もちろん、きっぱり諦めます。修羅場は嫌ですから。
まさか、旦那様が来られるなんて、想定外でした。」



そして、マスターは、妻に2〜3回そのことを迫ってから、しばらく姿を見なかったので心配していたことなども話してくれました。



「あんな素敵な女性とだったら・・と思ったのです。決して、彼女と火遊びを楽しむつもりだったのではありません。

でも、結果として、ご主人と奥様にご迷惑をおかけしましたこと、深くお詫びいたします。」



マスターは、椅子から立ち上がり、深々と頭を下げました。



「そんなこと、なさらないで下さい。お詫びしていただかなくていいんです。私の方から、お願いしたいのです。」



「えっ、・・おっしゃっていることが、よくわからないのですが・・?」



「妻を、貴方に抱いてほしいのです。

私も妻から打ち明けられて・・当然のことながら、その男の人をどう思っているのか確かめますよね。

その時の妻の返事が、貴方を求めている訳ではないのですが、好意を持っていることは確かなんです。」

妻と二人で話し合った結果、私は、貴方に妻を抱いてもらうことを決心したんです。」



マスターは、訝しそうに私の顔を見ながら、



「そんなことお聞きしますと、びっくりしますよ。何か、特別な事情がおありなのですか?」


と尋ねてきました。



「妻を愛していることは間違いないのですが、私にはちょっと変わった癖がありまして・・」



この後しばらく、私は、妻を他人に抱いてもらうことに密かな喜びを覚える自分の性癖のことについて話しました。



「そんなことを思っている男の妻でよろしければ、抱いてやっていただけますか?」



「そうですか。そんな方が稀にいらっしゃるとは聞いてはいたのですが、心の内をはっきり言っていただいて・・私の心も決まりました。

そんな話を聞いたからといって、私が心変わりする程度の奥様ではありませんよ。私の方こそお願いします。」



「ところで、一つお願いがあるのですが・・もし、受け入れていただけるのなら、貴方と妻がいる部屋に私も加えてほしいのです。」



「えっ、『小野さんも一緒に』と、言いますと・・つまり、3Pをするということですか?」



「いやっ、そうじゃないんです。私は、ただ貴方と妻の行為を傍から見ているだけでいいんです。」



マスターは、ほんのしばらく私から目を離しましたが、すぐに・・



「わかりました。小野さんが耐え難いことを忍んで、奥様を私に預けて下さるのですから、

そのことを思うと、承知しない訳にはいかないでしょう。」



ちょっと時間が経っていますが、私は再びマスターに会って、房事の決め事や条件などを話し合うつもりはありません。

この機会に、肝心なところだけは決めておきたいと思って、マスターに話します。



「もう一つ、お願いしたいことがあるのですが・・今後のことについて約束していただきたいのです。

妻とは、一夜限りにしていただけませんか?」



「わかりました。元々、小野さんが私の店に来られて、その話をされ始めた時から諦めようと思っていました。

成り行きとは言え、奥様を抱かせていただけるなんて、思ってもみませんでした。

奥様にとっては、“不倫”をすることになるのですから・・そんなこと、何度も求められませんよ。」



この後、私とマスターは、避妊のこと、妻が嫌がることはしないこと、そして、その行為が行われている間、私は自由にしていいことや、

マスターが、妻のことを“理香さん”と呼んでも構わないことなどを確認しました。


最後にそれとなく、妻にフェラを要求しても、彼女がそれに応えてくれないことを伝えておきました。



「これから、ご連絡しなければならないことが出てくると思いますので、携帯の番号をお願いできませんか。」



こうして、綿密とは言えませんが、粗方の打ち合わせが終わって、妻のほのかな願いと言うより、

私の醜悪な欲望が、実現に向かって走り出しました。



「小野さん、奥様とのことが終わってから、『これまでと同じように、いつでも私のお店に来て下さい。』

って、言うつもりなんですけど、よろしいですかね?」



(多分、また友達と一緒に出かけるだろう。

しかし、例え一夜の不倫であっても、褥を共にした男と、その後何事もなかったように平静に振舞えるのだろうか。

例えひと時でも、身体が馴染んでしまったら、男の誘いを拒めなくなってしまうのではないのだろうか。


それとも、どんなに体の相性が合っても、限りなく淫靡な絡み合いの中で歓喜の時を過ごしても、

そのことが終わってみれば、さっぱりとして、ただの知り合いの男女に戻れると言うのか?


まあ、それは、それからのことだ。このようなことを行うのだから、最悪の場合、妻が私を選ぶのか、この男を選ぶのか・・

最終局面を迎えるくらいのことは覚悟しなければならないんだ・・ 今は、この男を信じよう。)





【居たたまれぬひと時】

三人で軽食を済ませた後、私たちは予約したホテルに到着します。今日は小雨で、暗がりの中にどんよりとした雲が垂れ込めています。


(妻の心の中は、あの澱んだ雲のように沈んでいるのだろうか、それとも外のネオンのようにきらめいているのだろうか・・?)



ホテルでチェックを済ませた後、私たちは交わりを行う部屋に入り、その時が訪れてくるのを待ちます。


妻がコートを脱ぐと、それと知れたところに、食い込むようにフィットしている“ピタッツ”の横しわが目に入ってきます。



(もうすぐ、おまえは、その下に包み隠している艶めかしいものを男の目に晒し、奥深いところで男の精を受け入れてしまうのか・・?)



妻がシャワーを浴びて戻ってきましたが、ストレッチパンツがスカートに変わっただけで、平装のままです。

ホテルの寝巻は、不恰好なので身につける気がしないのでしょう。


三人揃ったところで、私が知った風な顔をして、ルームサービスのワインを用意します。



「ちょっと、ゆっくりしませんか。まだ、慌てなくてもいいでしょう。」



こんな場合、互いに見知らぬ間柄ならすぐにそのことを始めるのでしょうが、僅かでも顔見知りであれば、

お互いの間をもっと細やかなものに・・と、思ってしまうのです。



「辻本さん、こんな妻の実態を知って、がっかりされたんじゃないですか?」



「いやぁ、そんなことありませんよ。私も一応、その眼はもっているつもりで、誰にでも声をかけている訳ではありません。

ご主人には申し訳ないのですが、今までずっと想っていたことが叶って・・嬉しいですよ。」



「私たちの場合は、まだこんな経験は浅いのですが、辻本さんは人妻との経験を何回かしておられるのですか?」



「私も同じようなものでして、そんなに達者な方じゃありません。

よく、登山をするのですが、山から降りてくると無性に人肌恋しくなる時があるのです。

でも、だからと言って奥様にモーションかけた訳ではないですよ。」



「そんな風に言っていただいて・・理香、女冥利に尽きるんじゃない・・?今夜は思いっきり・・・」



妻は、二人の会話を聞きながら、じっと下を向いて居たたまれないような表情をしています。


それはそうなのでしょう。自分のことが話題にされて・・

いつも閨を共にしている男と自分が好意を寄せる男、愛おしい男二人が話し合っているのですから・・


(どうもオレは、妻に、とても酷いことをしているようだ・・話の中に入ったとしても、妻は、どちらの言葉にも相槌を打てないじゃないか。)



「妻に、惨めな思いをさせたくありませんので、そろそろ始めていただけませんか?」



妻は、私の言葉に促されたかのように、辻本に手を取られ、テーブルからベッドの方へ歩んでいきました。

無言のまま私から離れていく妻の姿を見ていると、三人で過ごした僅かな時間が、居たたまれぬひと時であったことがわかります。




【小さな意地悪】

白色灯の下に立ったまま、辻本の手が優しく妻を抱きしめます。

すると、妻の両手は、ちょうど逆手懸垂をする時のように、辻本の脇の下を通って肩に届きます。


そんな風に深く抱き合うと、妻の乳房が男の胸に押し付けられて、辻物の膨らんだものも妻の股間に密着してしまいます。


妻は、それまで耐えてきたものを吐き出すように、顔を交差させながら男の唇を求めていきました。

辻本の右手も、それに応えるかのように、妻の髪を優しく撫で降ろします。


瞼を閉じてうっとりとしている妻の姿を見ていると、これから始まる私以外の男との合歓に、胸をときめかせているのかもしれません。


舌を絡み合わせ、酔いしれているような表情を見ていると、妻がその男と褥を共にすることが嫌ではなかったことがわかります。



そのうち辻本は、妻の前に跪くようにして、ブラウスのボタンを一つひとつ丁寧に外していきました。


ぷっくり膨らんだ乳房が露わになり、辻本は首筋から乳房へと舌を這わせ、乳首を優しく吸い上げます。



「あっ、あぁ〜ん……・・」



最近、夫からはしてもらったことがない 忘れかけていた愛撫を、他の男からされているのですから、妻が感じないはずがありません。


やがて、辻本の手がスカートの中に入っていきました。

衣で隠された内部の動きはわかりませんが、多分、その手はショーツの脇をすりぬけて、妻の秘部へ伸ばされているはずです。


彼の指先が淫裂の連なりをなぞっているのでしょうか、妻の両手が辻本の頭を抱きかかえ、うなじが後ろに反っていきます。



「さあ、理香さん、あちらのベッドに行きましょう。」



妻と辻本は、部屋の中央から、二人の交わりのためのベッドに移ります。

辻本がブラウス、ブラを剥いでいくと、妻がスカートを脱ぎ、最後に残った白いショーツが、とても眩しく見えます。


そのうち二人は、柔らかな曲線と硬い直線の肢体を重ね合わせ、倒れこむようにベッドに崩れていきました。


すると、妻は、これから始まる愛おしい男との交わりを待ち焦がれるような仕草で、自分からショーツを脱いでいきました。


辻本は、連れ添うように横になっている妻をしっかりと抱きしめ、体を密着させていきます。


こんな風に抱きしめられると、肌と肌が触れ合う部分が大きくなり、妻の乳房の体温までもが辻本に伝わっていくはずです。


逞しい男の肌の温もり、これから始まる秘め事への期待と不安、私に見られている背徳の心持ちなどが作用して、

妻の心はときめいているに違いありません。



「ここが、いつもご主人を喜ばせてあげているところですか?」



辻本は、女の経線をゆっくりと押し広げながら、自分が貫く予定のものを確かめるように眺めています。

まるで、私から強奪し、我が物にした戦利品の品定めをするような眼差しで・・


閨の中でしか見せたことがない妻のプライベートな部分が、見ず知らずの男の眼に晒されている姿を見ると、

妻自身の羞恥もさることながら、夫という私の存在が冒涜されているような気がして、不愉快な気分になってきます。


でも仮に、私に、妻の他に誰か好きな女性ができたとして、その女性の印を眼にするとき、

それを所有する連れ合いに、小さな嫉妬を覚えるでしょう。

辻本が言った言葉の意味がよくわかります。



そのうち辻本は、程よい角度に開いている秘部に顔を埋めていきました。

クンニが、女の性感を急激に高ぶらせ、男根の挿入を待ち焦がれるような心持ちにする最も効果的な方法であることを心得ているのでしょう。


身を包んでいたものすべてが剥がれ、自分の裸身が露わになるとき、

女性はチラッと初体験のときのことを思い出すと聞いたことがありますが、本当なのでしょうか。


例え、そうでなくても、妻にとって辻本は、まさしく未体験の男なのです。

狂おしげに身を捩らす妻の姿は、男の舌先が女の最も敏感な部分を愛撫しているからでしょうが・・

夫以外の男がそれを行っているということも、彼女を感じさせるのでしょう。



「あぁ〜・・そこは、だめぇ〜・・」



妻の秘部をなぞる男の舌先が、新たな潤いを湧かせ、両足の角度を広げていきます。

辻本の愛撫によって、肉芽の先から疼くような快感が零れる度に、彼女の意識から、私の存在は遠くなっていくのです。


女性がセックスで感じる悦びは、その前戯においてさえも、男のそれの数倍なのかもしれません。

辻本の舌先、指先が妻の秘部を弄くる度に、喘ぎが洩れてきます。


次第に、妻が肩の力を緩め、両足を大きく開いていく姿を眺めながら、私は、妻への愛おしさ、自分の惨めさが混じった複雑な嫉妬に耐えていました。



「理香さん、あなたにこんなことお願いするの、恥ずかしいのですが・・ここを、あなたの手で気持ちよくしてもらえませんか?」



辻本は両足を投げ出して座り、妻の手を取って自分の茎に導くと、妻は辻本の横脇から男のものを握ることになります。


妻の手指の腹が円をつくり、幾分慣れた手つきで辻本のものを慰め始めました。

肘から下を小刻みに動かし続けると、亀頭は大きく膨らんでいきます。


柔軟性に富んだ包皮を上下させるのではなく、茎から一線を画して膨らんでいるカリ首の根元を擦ることが、

男に極上の快感をもたらすということは、以前、私が妻に教えたことです。



(でも、男のものを、横脇から愛撫している妻の姿勢は・・私の時とは違っている・・)



私が以前に妻に教えた方法で・・そして私が、これまでされたことがない姿勢で・・

妻が、辻本のものを慰めている様子を見ると、言いようのない嫉妬が湧いてきます。



「理香さん、もう十分です。そろそろ欲しいんでしょ? ご主人の時と同じように、言ってくれませんか。」



妻が、私の了承を求めるかのように、視線をこちらに送ります。



(理香、裸のおまえになってすべて曝け出し、心のままに言えばいいんだよ。悦びを求める女になりきるというのが、二人の約束だったんだ・・)


私の願いを目線に込めて、妻に送り届けます。



「入れて・・これを、挿れて・・・」



「理香さん、挿れて欲しいなら、入れて欲しい所をはっきりと言ってほしいな。」



「お願いします。 挿れてください・・わたしのラブちゃんに・・」



「ラブちゃん?・・もっと淫らな言葉を、知っているんでしょ?」



私の予期せぬことが、起こりました。辻本は、妻のセックスにいくつかの例外があることを知らないのです。


妻にフェラを要求しても応えてくれないことは伝えてありましたが、このことは何も言ってなかったのです。



「ごめんなさい。 ねっ、わかって・・それだけは、どうしても言えないの・・」



妻は、顔を左右に振り、辻本に訴えるように、そのことを拒みます。



(多分、私が信頼する妻は、いくら相手が好意を寄せる男であっても、そんな猥褻な言葉は口にしないはずだ・・・

でも、もしかして・・・?) 



(これは、以前にも私が想像したことですが、妻がその言葉を口にしない訳は・・

余りに卑猥すぎて、妻としてのプライドがそれを許さないのか、それとも恵まれた生育環境や社会人としての良識がそうさせるのか、

あるいは、淫蕩な娼婦に姿を変えることにより、私の愛を失うことを恐れているのか・・?)



ここで、妻の拒絶に遭っている辻本にも、興味が湧いてきます。辻本は、懸命にそのことを拒んでいる妻をどう扱うのか・・?



(彼は・・これから契ろうとしている女の一分を立ててあげるだけの男の優しさ、懐の広さを持ち合わせているのか・・?)



妻が選んだ男の度量を推し量ってみたくなります。


愛する妻を他人に抱かせる夫としては、そんな小さな意地悪がささやかな愉しみなのかもしれません。


とにかく今確かなことは、辻本が妻の体を自由にしていいこと、妻が喜びを求める女の姿になりきること、

そして、私が妻を愛おしみながら見守ることだけなのです。



「わかりました、理香さん。貴女のような女性を、毎日抱けるご主人が羨ましいですよ。

でも、今夜だけは、理香さんは私のものです。ご主人のことを忘れさせてあげますからね。」



「ごめんなさい・・無理 言って・・」



私は、妻が淫語を口にしなかったこと、辻本がそれ以上、妻に求めなかったことに、ホッとした安堵を覚えます。




【魔性のときめき】

やがて、ベッドの傍らに置いてあるコンドームに手を伸ばし、その包装を破いていきました。これまでの経験が、彼女をそうさせるのでしょう。


(もうすぐ、あの薄膜一枚隔てて、辻本の勃起と妻の滑りが絡み合うんだ・・・)


妻の口から、挿入を求める卑猥な言葉が出ることを諦めた辻本は、正常位での貫きを選んだようです。


辻本は、自分の茎の根元に手を添えて、淫部の潤みを更に濃くするように、動かし続けます。


勃起の先の怒張が、楕円の限られた範囲を泳ぎ回っているようです。

そうすると妻は、男に体を密着させたまま、こらえ切れない小さな喘ぎを洩らします。


まるで、女の器が寸時も早い繋がりを求めているかのように、先ほど愛おしんだものによる最初の貫きを欲しがっているようです。


辻本は、女が挿入を待ち焦がれてどうにもならないような状態で、勃起した強張りを入れることが、

女により深い悦びをもたらすことを、経験上知っているのでしょう。


ようやく辻本は、妻のわきの下から手を掻い潜らせ、妻の上体と自分のそれを重ね合わせました。


妻の股間を目いっぱいに開き、自分の股間をも大きく広げているのは、私に対する辻本の好意なのでしょうか。


男と体を深く密着させることにより、うっとりとなった妻は、男の背中を抱きしめながら、

じっと身を預けてそのときが訪れてくるのを待ちます。



そして、いつもの光景が訪れてきます。男の貫きが走るその刹那、妻がじっと私の顔を見つめてきます。

縋りつくような、愁いの眼差し・・

このような、切なく狂おしい、そして儚く消えそうな眼差しを受けると、胸がどきどきして呼吸が辛くなるような息苦しさを覚えます。



(理香・・・おまえの女として歓ぶ姿・・これまで、それだけを思ってきたんだ。

もしかして私は、おまえのその眼差しを求めて、こんなことを繰り返しているのだろうか・・)



やがて辻本は、それまで妻の股間で揺れていた自らのものを、妻の秘口に宛がいました。


そして、辻本のお尻の筋肉が引き締まり、妻の下半身に向かって腰を沈ませると・・

露わになっていた男の茎が、ゆっくりと妻の秘部に呑み込まれていくのがわかりました。



「あっ、ああぁぁ……・・」



淫らな喘ぎをもらした妻の秘部は、最初の一突を、その奥深く受け入れるに十分潤っていたのです。


明らかに、自分が心を寄せている男性から受け取った最初の貫きは、どのような感じだったのか、後から妻に尋ねてみたくなります。


それから、辻本は、妻の顔をじっと見つめながら、己のものをゆっくりと出し入れしていきます。


激しい律動ではなくて、緩慢な出し入れを繰り返しているのは、辻本の優しさなのでしょう。


その往復がしばらく続くうちに、妻の口から、湧き上がってくるものを扱いかねているような声が洩れてきました。



「ああ〜っ… ちょっと〜ぅ・・・」



男の茎が、膣内の媚肉を擦り続けることによって、女の性感を徐々に高めていきます。


女の体は、一つの貫きから生じる快感をゆっくり味わってみようと思うのですが、

矢継ぎ早に刺突が襲ってくるので、次から次へと生まれる快感をどうしようか戸惑っているのかもしれません。


そのような心理的パニックの中で、困惑するような快感が積み重ねられていくのですから、

妻の体は、蓄えられたものの始末に困ってしまうのでしょう。



辻本は、律動に、あらんかぎりの優しさを込めて、リズムを刻んでいきます。

抜き刺しを繰り返し、妻が示す反応を観察しながら、膣腔のどの部位が最も感じやすいのか確かめたのでしょうか、

辻本は、突く場所を一定にして、刺突を繰り返します。



妻の体は、段々と気持ちよくなっていくのでしょう。

愛の律動が妻の下腹部で数回往復されると、次の喘ぎを漏らすまで、そんなに時間はかかりませんでした。



「ああぁ〜…… だめぇ〜・・」



男に抱かれながら妻は、私との交わりと同じような悦びを感じているのでしょうが、

それをつくってくれているのは、今まで経験したことが無い男性の持ちものなのです。


例え、肉棒に擦り上げられて生まれる直接的な快感が、私がつくるものと同質であっても、

夫以外の男から貫きを受けているという魔性のときめきが作用して、悦びの深さが格段に違ってくるのかもしれません。




【愛おしい二人の男】

妻の性感が次第に高まっていくのを肌で感じた辻本は、交わりの体位を変えるようです。

妻の背中側に回り、寄り添うように“くの字型”に体を並べました。


そして、妻の片足を、右手で高く持ち上げました。側位の姿勢で、妻の片足が、ゆっくり上がると、愛おしいものの全てが眼に飛び込んできます。



「理香さん、ご主人が見てられますよ。ご主人とも、こんな姿で交わったことがあるんでしょ?」


「・・・・」


辻本が私のことを持ち出したのは、夫との睦み合いを思い出させ、私に対する後ろめたい気持ちを掻き立てて・・

妻の心を揺り動かすことによって、さらに欲情させたかったのかも知れません。



「さぁ、理香さん、私は今こんな姿勢なので・・あなたの手で、そこに宛がってくれませんか?」



自分の耳元から届いた惨い申し出に、妻は一瞬ためらいの表情を見せましたが、何も言わず、そっと男の茎を秘口に導いていきました。


そして、辻本がその秘口に向かって腰を突き出すと、男の茎が、ゆっくりと稜線の中心に埋もれていくのがわかりました。


(それで、いいんだ・・もう私のことは忘れて、これからは・・おまえだけの悦びに浸ればいいんだ・・・)


私には、妻が私の方を見つめようとしないで・・無言のまま、その動作をおこなった心持ちが、よくわかりました。

決して、以前、同じ行為を行った経験が為せる業ではありません。


この部屋の中には、愛おしい男が二人いるのです。

一人は、夫婦として長い時間を共有し、愛情と信頼で結ばれている男、

もう一人は、ひと時とは言え、交わりの中で、女の体に悦びを与えてくれる男・・


夫への愛は、どんよりとした不貞の鬱となって心の底に沈み、男への愛は、徐々に高まっていく悦びとともに、自然に湧いてきます。


夫が求める切なる願いを叶えるためには・・そして、背徳と官能、切羽詰った状況から抜け出すためには・・

どっちみち、その行為を行うしかないということを、妻はよくわかっていたのです。



その間も辻本は、勃起した茎をできるだけ膣奥深く挿れようとしますが、測位の姿勢では茎の全長分を収めるのは無理なようです。

返って、辻本の血管が浮き彫りになった勃起の方が際立ってしまいます。


一旦、女陰の中に消えた肉棒が露わになると、それはまたその半分ほどの距離を滑って、埋もれていきます。


(だんだんと妻は、悦びをこらえ切れなくなっているんだ・・

男から求められた卑猥な言葉を拒んだこと、私の前で男のものを秘口に導き入れたこと・・二人の男への負い目が掻き消えて、

それまで我慢してきたものを思いっきり吐き出すんだ・・)



「あっ、ああぁ…… いやぁぁ〜…… こんなぁ〜・・」



かなりの間、妻と交わっていた辻本は、彼女の片足を持ち上げていることに疲れたのでしょうか、結合している部分を外そうとはせず・・

測位の姿勢から妻を腹ばいにし、その上に体を重ね合わせて、後背位の姿勢になりました。



そして、そのまま妻の腰を引き上げ膝立ちにさせると、私の眼の先に、実に淫らな男女の肢体が露わになります。


普段、私には見せたことがない淫らなポーズ・・

まるで、おねだりをしているかのように、男に向けて大きくお尻を突き出し、器をヒクヒクさせているようです。


後ろから見ていると、妻が腰を突き出すように撓らせているため、辻本の股間の隙間から・・

黒ずんだ欲棒、それが出入りする淫裂の花びら、そして頭をシーツにつけている妻の顔までも見えてしまいます。


形よく膨らんだ乳房と草丘、縦に走る長い淫裂、その中央に向かって出入りする男の茎を眼にすると、たまらない興奮が私を襲ってきます。


そして、辻本は、茎の出し入れに変化を加えていきます。二〜三回、緩やかに浅く突いた後、次の一突を深くします。

三拍子の連動がしばらく続けられました。


突き出すように開いた淫洞の中を、辻本の膨れあがったものが擽るようなリズムで擦り上げると、

男に体を預けるしかない受け身の性は、めくるめく悦びを湧き上がらせてしまいます。



「ああっ! いいっ!… いっちゃう…… だめぇ〜・・」



「だめなら、止めますよ。」 辻本が、動きを止めます。


「あっ・・・」


「理香さん、もう、恥ずかしい思いは十分したでしょう。心も裸になって、思いっきり叫べばいいんですよ。」



辻本が言った「恥ずかしい思い」という言葉が、それまで懸命にこらえてきた堤の堰を切ったのでしょうか、

妻の頭の中で何かが弾け飛んだようです。



「お願い、もう、ちょっとなの・・」



「もう、ちょっと・・どうして欲しいんですか?」



「あぁぁ〜… いぃぃ…… もう、構わない・・ もっと気持ちよくしてぇ〜・・」



今まで、私との交わりでは滅多に口にしない言葉が、妻の口から聞こえてきました。


こんな淫らな言葉を耳にすると、妻の意識の中から、夫という存在が完全に消滅したことを実感します。



(ああぁ〜理香、おまえのその言葉・・いくら、辻本に誘発されて出てきた言葉とは言え、それほど感じてしまうのか・・?

今までの私とのセックスでは満足できず・・それ以上のものが欲しいのか・・?)



この交わりは、あたかも妻がそれを望んでいるかのように仕向けてきたが、

実際は、夫の酷い欲望を叶えるために、妻がやむなく行っている行為なんだ。


それとはわかっていても・・

愛する妻が、私の目の前で、他人棒の抜き刺しに感じるだけならまだしも、卑猥極まりない言葉でセックスの続きをせがむ姿を見ると、

それまで分別顔をして抑えてきた自制の箍が外れ、焼け付くような嫉妬がどっと噴き出してきます。


この狂おしい嫉妬の中には、辻本への恨みは、ありません。

妻への変わらぬ愛を約束したはずなのに、この瞬間ばかりは、妻への疑念、猜疑、詰責が混じった複雑な嫉妬が湧いてきます。




このような光景を見ていると、昔 読んだある話が脳裏を走ります。

それは、戦時中、異郷の地に取り残された夫婦が、食いつないでいくために、ある家の世話になることから始まります。


夫を弟として偽り、姉弟として住み込んでいた妻は、そのうち宿主の求婚を断り切れず、夫婦になることを受け入れてしまいます。


毎夜、窓下から洩れてくる妻の喘ぎに耐え切れなくなった夫は、密かにその家を去っていくというものでした。

愛する妻と、そのことに耐えるという約束があったのに・・


私の個人的な愉しみを、戦時中の悲惨な出来事に置き換えることは、誠に申し訳ないことですが、

実際このような場面になってみると、その時の夫の気持ちがよく分かります。





【最後の抱擁】

後ろからの刺突を続けていた辻本は、妻が身も心も投げだして、自然な姿で絶頂を迎えられるように、再び、正常位の姿勢に戻りました。


見ていると、辻本の手が下に伸びていって・・ディープスポットへスラストを加えながら、クリを弄っているようです。


女体は、できるだけ一つの刺激に集中しようとしますが、刺激を受けているスポットとそんなに遠くないところから・・

新たな刺激を与えられると、快感が一気に高まってきて、頭の中が真っ白になってしまうのでしょう。


すると、最も感じる部位への効果的な貫きが欲しくなってきて・・

辻本が、変化をつけた抜き刺しで腰を突き入れると、その動きに合わせるかのように、妻の秘部も男のものを迎え入れようとします。


辻本の方へ腰を送りさえすれば湧いてくる悦びが、もうすぐ自分を絶頂にまで連れていってくれることが、妻にもわかるのでしょう。



「はあぁぁっ・・もう、だめえぇ…… いっ、イっ・・・」



男の貫きを数限りなく送られて絶頂も近いのですが、心の中まで満たされて、その悦びをより深いものにしたいのでしょう、

妻は、辻本の背中を強く抱きしめることによって、「もうすぐイキそう」というサインを送ります。


このように、満たされた至福の時間を共有していると、自分に悦びを与えてくれている男がたまらなく愛おしくなってきて当然です。




背中に回された手の動きから、妻が絶頂に達するのも間もなく・・と感じた辻本は、妻の求めに応じるかのように、秘部を強烈に貫きます。



(ああ〜、辻本の背中に回されたか細い手を、私のために差し出してくれたのは、遥か昔のことだったんだ・・

今、その手は、辻本を抱きしめているんだ・・)



女がもうすぐ極みに届くことが、辻本にもわかるのでしょう。その頂を何とか自分のものと合わせようとします。


辻本が、やや斜め上に開放されている女陰に向かって、肉棒に全精力を込めて、スラストを激しくしていくと・・



「あっ、ああぁ〜っ、いっ、イックぅ……! イッてぇ〜……!」



辻本の奔走りを、膣奥で受け止める心の準備ができたのでしょう。妻の口から、射精を求める究極の叫びがあがりました。


妻の絶頂と時を同じくして、辻本のものも終末を迎えるようです。男の双球が茎の根元にせり上がっていきます。



(ああっ、あと数回、数秒後・・・男が射精した瞬間、妻は男のものをしっかり咥え込み、噴き出す精を吸い取ろうとするんだ・・・)



「うぅ〜っ・・理香さん、もうすぐだぁ・・!」



「ああっ…… 辻本さん、いいっ…・・ いってっ、もうイッてえぇ… あぁぁっ……!」



ついに辻本は、最後の一撃を膣奥の最深部へ送り込み、それまで耐えてきた快感のすべてを奔走らせたようです。


男の臀部が強張って、その中心にあるものが、淫らに脚を広げた妻の股間に押し付けられて、じっと動きを止めている様を見ていると、

妻が凌辱される興奮、焼け付くような嫉妬・・そして取り返しがつかないことをしてしまったという悔恨がどっと湧いてきます。



そんな思いが、私の脳裏を走っている間にも・・妻の子宮は、辻本がすべての雄に共通する短いリズムで噴き出した精を、

その律射に合わせるように、より奥深いところへ導こうとしているのでしょう。



時間が止まったような真空のひと時が過ぎて・・

やがて、妻の胎内で限りなく悦びをまき散らし、愛おしそうに引きとめようとしていたものが、無慈悲にも抜かれると・・

妻は、ぐったりとなってベッドに沈みました。


そのことが終わった後も二人は・・交わりの初めの時と同じように、しっかりと抱き合っています。

まるで、セックスの余韻を楽しみ、より深くなった愛情を確かめ合うように・・・



(あぁ〜、私が男と交わした約束は、交わりが終わるまでではなかったのか?理香、おまえは悦びを与えてくれた男が、そんなに愛おしいのか?)



辻本が、想い焦がれた女と決別するための最後の抱擁とわかってはいても、狂おしい嫉妬の後から、後悔が沸いてきます。



(その嫉妬は、誰への嫉妬なんだ? おまえが求める女の姿になりきってくれた妻に感謝こそすれ、恨めしく思うような筋合いではないんだ。


セックスの神髄が互いに悦びを分かち合うものである以上、その相手が誰であれ、女が男との合歓に喘いでしまうのは当然のことなんだ。


そして、その代償として、彼女が少しずつ変わっていっても仕方が無いことを、おまえは承知の上、敢えてこのようなことを行っているのではないか。)