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 ポピュラーなドイツ歌曲 解説と対訳

Sehnsucht nach dem Frühling 春への憧れ(K596)
モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart/1756-1791)

 この曲はモーツァルトの最後の年に生まれた、歌曲の傑作です。今日では半ばドイツ民謡と化しているほど広く親しまれています。 曲に描かれているのは、小川のほとりにスミレが咲き乱れる5月の頃への思い。同日に作曲された「3つのドイツ歌曲」の一つであり、子供向けの歌曲として作曲されたようです。春が来るのを待ち焦がれる歌詞にふさわしい、明るく可愛らしいメロディーで、かつきわめて簡素で洗練され、最も澄みきった音調を聴かせてくれます。
 ところで、この「春への憧れ」のメロディーは、中田章作曲の日本の歌曲「早春賦」のメロディーにとてもよく似ています。二曲ともに春への思いが込められた歌詞の内容となっています。「春への憧れ」が子供向けの可愛らしい感じで弾んでいるのに対して、「早春賦」は日本らしい情感に満ちた高雅な感じをたたえています。

Komm, lieber Mai, und mache
die Bäume wieder grün,
und laß mir an dem Bache
die kleinen Veilchen blüh'n!
Wie möcht' ich doch so gerne
ein Veilchen wieder seh'n!
Ach, lieber Mai, wie gerne
einmal spazieren geh'n!

Zwar Wintertage haben
wohl auch der Freuden viel:
man kann im Schnee eins traben
und treibt manch' Abendspiel;
Baut Häuserchen von Karten,
spielt Blinde Kuh und Pfand;
auch gibt's wohl Schlittenfahrten
aufs liebe freie Land.

Doch wenn die Vöglein singen,
und wir dann froh und flink
auf grünen Rasen spingen,
das ist ein ander Ding!
Jetzt muß mein Stechenpfendchen
dort in dem Winkel steh'n,
denn draußen in dem Gärtchen
kann man vor Kot nicht geh'n.

Ach, wenn's doch erst gelinder
und grüner draußen wär'!
Komm, lieber Mai, wir Kinder,
wir bitten gar zu sehr!
O komm und bring' vor allen
uns viele Veilchen mit!
Bring' auch viel Nachgallen
und schöne Kuckucks mit! 
来て、大好きな五月よ、
木々をまた緑にしてね
そしてぼくに見せて 
小川のほとりに小さなスミレが咲くのを
なんてうれしいこと
またスミレを見られるのなら
ああ、大好きな五月よ、とても嬉しいよ 
もう一度外に出られて!

もちろん冬の日だって
楽しい遊びはあるよ
雪の中を駆け回れるし 
夕暮れには家で遊べる
トランプの家を建てたり 
目隠し遊びやゲームもできる
広い野原の上を
そりで走りまわることだって

でも、小鳥たちが歌い 
ぼくたちが元気にはしゃいで
緑の草原の上ではね回れるなら 
それはまた違う話だ!
今、ぼくの竹馬は
片隅に立てかけたままだ
だって、表の庭は泥んこで
誰も出られないんだから

ああ、でも外がもっと暖かくなって
緑で一杯になってくれさえすればいいんだ
来てよ、大好きな五月よ、
ぼくたち子供は待ち焦がれている!
来て、そして何よりもまず
スミレをたくさん咲かせてよ
それからたくさんのナイチンゲールと
きれいなカッコウをつれてきてよ 
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 Die Forelle 鱒 Op.32 (D.550) シューベルト(Franz Peter Schubert/1797–1828)
 1817年にシューベルトが作曲したドイツ・リートの1つ。シューベルトのピアノ伴奏独唱曲としては、きわめて人気の高い楽曲の1つです。3節からなる有節形式(繰り返し)であるが、第3節がシューベルトおなじみの技法によって大幅な変化を付けられています。
 シューバルトの歌詞に曲付けされており、歌詞はずる賢い漁師が罠を使って魚を釣り上げるさまを歌ったものですが、実際には、「男はこのようにして女をたぶらかすものだから、若いお嬢さんは気をつけなさい」という意味の寓意となっています。曲には使われていない最終節にこの表現が出てきます。
冒頭のピアノは印象的な6連符による滑らかな味付けがされており、歌い出しの最初の旋律は非常に有名で日本では電話機の保留音にも使われました。

In einem Bächlein helle
Da schoß in froher Eil
Die launische Forelle
Vorüber wie ein Pfeil.

Ich stand an dem Gestade
Und sah in süßer Ruh
Des muntern Fischleins Bade
Im klaren Bächlein zu.

Ein Fischer mit der Rute
Wohl an dem Ufer stand,
Und sah's mit kaltem Blute,
Wie sich das Fischlein wand.

So lang dem Wasser Helle,
So dacht ich, nicht gebricht,
So fängt er die Forelle
Mit seiner Angel nicht.

Doch endlich ward dem Diebe
Die Zeit zu lang. Er macht
Das Bächlein tückisch trübe,
Und eh ich es gedacht,
So zuckte seine Rute,
Das Fischlein zappelt dran,
Und ich mit regem Blute
Sah die Betrog'ne an.
明るく澄んだ川で
元気よく身を翻しながら
気まぐれなマスが
矢のように泳いでいた。

私は岸辺に立って
澄みきった川の中で
マスたちが活発に泳ぐのを
よい気分で見ていた。

釣竿を手にした一人の釣り人が
岸辺に立って
魚の動き回る様子を
冷たく見ていた。

私は思った
川の水が澄みきっている限り、
釣り人の釣り針に
マスがかかることはないだろう。

ところがその釣り人はとうとう
しびれを切らして卑怯にも
川をかきまわして濁らせた
私が考える暇もなく、
竿が引き込まれ
その先にはマスが暴れていた
そして私は腹を立てながら
罠に落ちたマスを見つめていた  
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 Heidenröslein 野ばら ウェルナー(Heinrich Werner/1800-1833)
 この曲は、様々な作曲家が曲を付けたゲーテの「野ばら」の中でも、シューベルトの作品と並んで有名です。軽く跳ねるようなシューベルトの曲に対し、ウェルナーのこの曲は静かに流れるような旋律です。
 日本でも、明治時代から音楽の教科書に取り上げられて人々に親しまれています。 近藤朔風(こんどう・ さくふう、1880-1915)による、「童(わらべ)は見たり 野なかの薔薇(ばら) 清らに咲ける その色愛(め)でつ・・・」という清々しい日本語訳詞は、誰でも一度は見聞きしたことがあるでしょう。
 ゲーテは20歳の頃、当時フランス領だったシュトラスブルグの大学で学び、そこで可愛い娘フリーデリーケと恋に落ちますが、結局ゲーテは彼女を振ってしまいます。しかし、その時の良心の呵責の念はいつまでも消えず、「野ばら」の詩には、その影響が深く出ているのだそうです。こう聞くと、フリーデリーケを野ばらになぞらえ、自分の仕打ちのひどさに自らさいなまれるという、なかなか心痛む内容ではないですか。ちなみにフリーデリーケは一生結婚をしなかったそうです。

Sah ein Knab' ein Röslein stehn,
Röslein auf der Heiden,
war so jung und morgenschön,
lief er schnell, es nah zu sehn,
sah's mit vielen Freuden.
Röslein, Röslein, Röslein rot,
Röslein auf der Heiden.

Knabe sprach: "Ich breche dich,
Röslein auf der Heiden!"
Röslein sprach: "Ich steche dich,
dass du ewig denkst an mich,
und ich will's nicht leiden."
Röslein, Röslein, Röslein rot,
Röslein auf der Heiden.

Und der wilde Knabe brach
's Röslein auf der Heiden;
Röslein wehrte sich und stach,
half ihm doch kein Weh und Ach,
musst' es eben leiden.
Röslein, Röslein, Röslein rot,
Röslein auf der Heiden.
少年が見つけた
小さな野ばら
とても若々しく美しい
すぐに駆け寄り間近で見れば
喜びに満ち溢れる
バラよ 赤いバラよ
野中のバラ

少年は言った 「君を折るよ」
野中のバラ
野ばらは言った 「ならば貴方を刺します
いつも私を思い出してくれるように
私は苦しんだりはしません」
バラよ 赤いバラよ
野中のバラ

少年は折った
野中のバラを
野バラは抵抗して彼を刺した
傷みや嘆きも彼には効かず
野バラはただ耐えるばかり
バラよ 赤いバラよ
野中のバラ
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Auf Flügeln des Gesanges 歌の翼に メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn/1809-1847)
 この曲はドイツロマン派の作曲家メンデルスゾーンによる歌曲集「六つの歌」作品34の第2曲です。メンデルスゾーンが25歳、1834年のデュッセルドルフでゲヴァントハウス管弦楽団の指揮をしていた時代に、19世紀最大のロマン派でドイツの詩人ハインリッヒ・ハイネの詩に作曲されました。当時はおとぎの国と考えられていた遠い東洋の国インドに恋人である君を連れて行こうとロマンティックに歌う歌詞は、ハイネの詩集 『歌の本』 におさめられている 「叙情挿曲」 からとられています。
 メンデルスゾーンはドイツ系ユダヤ人でしたが、裕福な銀行家の家庭に生まれ育ち、恵まれた生涯をおくったことが作風にも現れ、上品で明るい美しさに満ちた曲が多く、アルペジオの伴奏にのって流れるようななだらかなメロディのこの曲も、優雅な、ロマンの香り高い曲として広く親しまれ、彼の歌曲の代表作となっています。

Auf Flügeln des Gesanges,
Herzliebchen, trag ich dich fort,
Fort nach den Fluren des Ganges,
Dort weiß ich den schönsten Ort.

Dort liegt ein rotblühender Garten
Im stillen Mondenschein;
Die Lotosblumen erwarten
Ihr trautes Schwesterlein.

Die Veilchen kichern und kosen,
Und schaun nach den Sternen empor;
Heimlich erzählen die Rosen
Sich duftende Märchen ins Ohr.

Es hüpfen herbei und lauschen
Die frommen, klugen Gazelln;
Und in der Ferne rauschen
Des heiligen Stromes Welln.

Dort wollen wir niedersinken
Unter dem Palmenbaum,
Und Liebe und Ruhe trinken,
Und träumen seligen Traum.
歌の翼に乗せて
心から愛する君を連れてゆこう
ガンジス河の流れる沃野へ
僕はそこでもっとも美しい場所を知っている

そこには赤い花咲く庭があって
静かな月光のなか 
蓮の花が
親愛な妹であるあなたが来るのを心待ちにしている

すみれはクスクス笑い戯れ 
空高く星々を仰ぎ見る
バラはひそやかにかぐわしいおとぎ話を
お互いの耳に語り合っている

おとなしくて賢いカモシカが
飛び跳ねて寄ってきては 耳を澄ませている
そして遠くでは聖なる河が
さらさらと波音を立てている

僕は君とそこで
ヤシの木のもとに身を沈めて
愛と安らぎを飲みつくし
至福の夢を夢見ていたい 
  
 ピアノ独奏曲 解説
雨だれの前奏曲 第15番 変ニ長調 (24の前奏曲 作品28より)(F.ショパン)
 ショパンがスペインのバルセロナ沖に浮かぶ地中海の島、マジョルカ島に3人目の恋人のジョルジュ・サンドと滞在していたときに作曲されました。
 ある日、ショパンは滞在先の山の教会で一人作曲をしていました。一方、サンドは2人の子供を連れて山を降り、島の中心部へ買い出しに出かけたまま、途中から豪雨が降り出し、夜になっても帰って来ないことに不安と恐怖を抱いたショパンは、やがて、サンドも2人の子供も濁流に飲み込まれて死んでしまったのだと思い込み、幻覚に襲われながらピアノに向かって絶望を吐き出していたと言います。実際は無事にサンドは帰ってきましたが、この時に降っていた雨音の規則的なリズムがショパンに霊感を与え、曲の基調になったでは?というのが雨だれのエピソードです。作曲技術の妙を感じさせ、ショパンの前奏曲の代名詞のようになっています。
 前奏曲とは、本来、規模の大きな楽曲の前に演奏される曲のことですが、ショパンの前奏曲を始め多くの有名な前奏曲は単独で演奏されることが多いです。ショパンのこの前奏曲24曲全体でひとつと考えられ、しばしば全部を通して演奏されます。
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ノクターン(夜想曲) 第2番 変ホ長調 作品9-2 (F.ショパン)
 ショパンは21 曲のノクターンを作曲しており、そのいずれもが和声的な伴奏にのって、優雅な旋律が夢見るような夜の静けさを歌うスタイルになっています。ノクターンといえば、この第2番変ホ長調が代表になるほどよく知られている曲です。1956年のアメリカ映画「愛情物語」で用いられ、カーメン・キャバレロによるピアノは一世を風靡しました。
 右手は始終装飾音で飾られた旋律を歌い、左手は同じリズムの旋律が繰り返されます。旋律は再現のたびに装飾的に変奏されます。
 “ Nocturn ”(ノクターン)という英語は、ラテン語の“ Nox ”を語源にもち、これはローマ時代には「夜の神」という意味に使われていました。日本語では「夜想曲」と訳されるように、「夜を想う曲」というのが語源にもあるようです。しかし、ショパンのノクターンを聴く場合、必ずしもその語源にこだわる必要はなく、ほの暗く物憂い雰囲気の、いかにも夜想曲風の作品もあれば、朝露の滴る若葉を見るような、あるいは晴れやかな青空を見上げるような爽やかなノクターンもあります。