| 2006.1.22 |
上映時間:98分 制作国:日本 監督: 沖浦啓之 原作・脚本: 押井守 音楽: 溝口肇 ![]() 声の出演: 藤木義勝 武藤寿美 木下浩之 廣田行生 吉田幸紘 堀部隆一 仙台エリ 中川謙二 大木民夫 坂口芳貞 ナレーション: 坂口芳貞 |
時と場所はは昭和30年代の東京。だが、このアニメに描かれた日本の戦後史は架空のものだ。原爆投下による敗戦、占領軍の統治下から脱却して経済成長へと走り出す日本。高度経済成長のひずみが社会不安を増大させ、若者を中心とする反政府勢力が非合法活動へと先鋭化して武装闘争を展開する。これを弾圧するために首都圏治安警察機構、通称「首都警」が創設された…… という、状況説明から始まるこの映画、冒頭の口早やで生硬なナレーションを聞くだけで「うわぁ、押井作品だ」と嬉しさに身震いする。だが、勘違いしてはいけない。この作品は押井さんの脚本だが、監督は押井組のキャラクターデザイン担当沖浦啓之なのだ。これが是と出たか否と出たか、ちょっと判断に迷うところ。 ひたすらハード・ハード・ボイルドに固く茹で上がった画風、理屈っぽく抑揚のない台詞回し、人物の無表情、抑えたアクションシーンという、枯れてすすけた作風に加えて、なぜか御伽噺「狼と赤頭巾ちゃん」の朗読が重なるという凝った構成。物語が進むにつれて、この「赤頭巾ちゃん」がストーリーの要を背負っていたことがわかる。 時代は昭和30年代だが、街角に貼られたステッカーの文言は全共闘時代のそれを彷彿とさせる。街頭デモや火炎瓶、催涙ガスといった街頭闘争と弾圧の絵は、押井さんが青春時代をすごした60年代末の雰囲気の再現だ。だが、「ケルベロス」と俗称された特機隊の装備と軍備はまさにアニメ的なメカニック・デザインに彩られたものものしさで、いかにも架空の物語的に描かれている。 主人公は特機隊の有望新人・伏(ふせ)。彼は初めての出動でゲリラ組織の爆弾運び人の少女を死なせてしまった。そのことに深く傷つき謹慎を命じられた伏は、少女の姉・雨宮圭と知り合い、幾度も会うようになる。感情を表に出さない伏だが、雨宮圭とのしばしの「デート」は彼に安らぎを与えているようだ。 物語の核となる謎は、「人狼」と呼称される、警察内部の秘密組織の存在だ。権力内抗争に翻弄される伏という男の抑制された感情と使命感、淡い恋、幾重にも張られた罠。複雑な設定が足早なカットで説明されていくので、若干わかりにくい。 ラストシーンの切なさは「機動警察パトレイバー2」を思い出させる。いじらしくも悲しい恋愛をからめるこのあたりの展開は押井節、といったところか。だけどわたしはこの絵柄が好きになれなくて、これなら実写で撮ってほしかったと思う。 このアニメ、渋くて枯れきったハード・ボイルドでそのうえ理屈っぽいので、お子様には不評でしょう。大人の皆様、楽しんでください。左翼学生運動の話ではなく、警察の内部抗争の話です。組織と権力、テロと反暴力、といった現代的テーマが大きく重い。組織の正義の前には、人情は紙よりも軽いのだろうか。 地下水道を逃げ回るテロリストたち、という絵にアンジェイ・ワイダ監督「地下水道」を思い出してしまった。(レンタルDVD) |