シネマ日記(☆ひとつ10点、★は20点)
2005.5.30
父、帰る
VOZVRASHCHENIYE
制作年 : 2003
上映時間:111分
制作国: ロシア
監督: アンドレイ・ズビャギンツェフ
製作: ドミトリイ・レスネフスキー
脚本: ウラジーミル・モイセエンコ
    アレクサンドル・ノヴォトツキー
音楽: アンドレイ・デルガチョフ
 
出演: ウラジーミル・ガーリン
    イワン・ドブロヌラヴォフ
    コンスタンチン・ラヴロネンコ
    ナタリヤ・ヴドヴィナ




 DVD特典映像が長いのだけれど、お奨めです。ぜひ本編に続いてご覧あれ。
 12年間不在だった父が突然帰ってきた。兄アンドレイと弟イワンの兄弟は突然の父の帰還にとまどう。しかも父は不在の理由も帰還の理由も何も語らない。母も語らない。父が帰ってきたというのに感動の再会劇はなく、誰もはしゃがず騒がない。美しい母はとまどいの表情を一人静かにそして密かに見せるのみ。
 翌日、父と息子たちは自動車に乗って旅に出る。兄アンドレイはまだしも父の記憶があるからだろうか、「はい、パパ」と素直に応じるが、弟イワンは父の記憶もなく、まったく父になじまない。

 この父は12年間何をしていたのだろう。兄弟はあれこれと想像をめぐらせる。観客も想像をめぐらせる。「刑務所帰りじゃないか、あの面構えは。それともどこかに隔離されていたか、遠洋漁業で遠くへいってたか。それにしてはおかしいなぁ」とわたしもさんざん考えてみたが、結局わからない。

 父と息子たちは楽しい会話を交わすような雰囲気ではなく、父は子どもたちにひたすら命令し躾し教える人間として振舞う。体格といい、口ぶり、行動、すべてが「男らしい男」なのだ。父を演じたコンスタンチン・ラヴロネンコが渋くて素敵だ。寡黙な男の男臭さをムンムン発散させていて、そこに居るだけで、「いわくありげな父」の雰囲気にぴったり。
 ワーニャ(イワン)を演じたイワン・ドブロヌラヴォフ(舌を噛みそう)が小憎たらしくて、口を曲げてすねた様子がたまりません! アンドレイを演じたウラジーミル・ガーリンは撮影終了後、事故で溺死している。まだ子どもなのになんてかわいそうな。
 この3人がうまくそれぞれの持ち味を出していて、それが映画の雰囲気をイメージ通りに醸し出す。

 道中の風景がまた美しい。この映画を撮った新人監督アンドレイ・ズビャギンツェフ(これは絶対舌を噛む)はCM監督だったそうで、この映画が長編初監督らしい。それにしてはえらくロングの風景が美しく、パンのさせ方がうまい。緑広がるうねる大地や、太陽が沈む凪いだ海の景色など、息を呑むようだ。そして、やたら雨が降る。


 息子のことを愛称「ワーニャ」と呼ばず、ずっと「イワン」と呼び続けた父が、初めて「ワーニャ」と呼んだその瞬間に悲劇が起きる。なんという皮肉。

 長い不在のあと突然現れたと思えばうまく子どもたちとコミュニケーションがとれず、交わす会話はほとんどが命令口調。父の権威と強さをからだじゅうからみなぎらせつつも息子に疎んじられ、孤独のうちについには子の犠牲となる。そして最後まで父は子どもたちのもとで安らぐことはない。父は不在か、さもなくば謎だ。謎は謎のまま、永遠に解けない。父の愛は息子たちに届かない。

 寓意に満ちた物語だ。まさに「父」とはこのようなものであろう。であれば、父とはなんと哀れで悲しい存在なのか。静かで美しく悲しい物語。(★★★☆)

 メディア:レンタルDVD

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