シネマ日記(☆ひとつ10点、★は20点)
2001.3.20
左利きの女
DIE LINKESHANDIGE FRAU

上映時間 115分
製作国 西ドイツ、1977年
監督:ペーター・ハントケ
撮影:ロビー・ミューラー
出演:エーディト・クレバー
    ブルーノ・ガンツ
    マルクス・ミューライゼン
    ジェラール・ドパルデュー




 マリアンヌの夫が話すドイツ語がフランス語のように聞こえたのはなぜ?
 兪成吾氏が「吉田ヘフト」に「左利きの女」を訳していたことを思い出し、懐かしい気持ちでDVDを借りてきた。
 本作は、小津安二郎監督を敬愛するペーター・ハントケとヴィム・ヴェンダースが、小津安二郎へ捧げた日本未公開作品。ヴェンダースの『ベルリン・天使の詩』で脚本を書いたハントケの監督デビュー作だ。製作はヴィム・ヴェンダース・フィルム・プロダクション。
 物語は、主婦マリアンヌがある日突然夫に別れを持ち出すことから始まる。この映画はほとんど台詞がなく、ただ風景や人物の表情に語らせる手法をとっているので、とてつもなく役者に負担をかけている。台詞というわかりやすい媒体の不存在ゆえ、観客も映像から読みとる努力を強いられるので、一瞬たりとも画面から目を離せず、疲れる。
 豪邸に住むマリアンヌはある日、長期出張から帰った夫に別れを告げる。自信たっぷりの嫌みなエリート会社員風の夫が一人でべらべらしゃべるのを黙って聞いているだけのマリアンヌが初めて発した科白が、「啓示を受けたの」。「離れていても家族は一つだ」と語る夫に何も応えず、マリアンヌが告げる言葉は別れの宣告である。マリアンヌってわたしと同い年ぐらいかと思いきや、30歳という設定なんだそうな。えー、じゃー、人生これからやんかぁ、なんぼでもやり直せるで!
 マリアンヌは別れの理由をまったく告げず、夫も追及せず、その日から彼女と8歳の息子の生活が始まる。翻訳の仕事を始めるマリアンヌだが、なかなか捗らずいらいらは募る。二人で住むには広すぎる家でマリアンヌの孤独はいや増す。彼女の孤独を映す片田舎の殺風景な野原、寒々とした森。豊かな自然が描かれているのかと思うが、実は色の少ない寂しい風景が広がっている。明るく美しい町並みが描写されているかと思うと、列車の騒々しい音で落ち着かない街角のカフェがマリアンヌの憩いの場だったりする。
 「わたしのようになるぞ」と忠告する、老いて一人暮らしの父、失業中の俳優との邂逅など、エピソードを重ねながら、よくわからないラストへと向かう。結局、彼女には何があるのか? 何が見えたのか?
 ここには声高に闘う女の姿はない。人形の家から逃げ出したノラの苦痛もない。ただ静かに流れる時と、孤独、静寂があるのみ。
 居場所はどこか? 居場所が無いと嘆くなというスーパーで終わる本作は、おそらく原作の魅力に負けていることだろう。
 九州産業大学の野口広明氏がハントケとカフカを対比して論評されているので、こちらも参考にしてほしい。
 心象風景が続き登場人物が間延びした齣で動いている映画が苦手な人には、お薦めできません。(★★★)

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