パソコンのキーボードは、なぜQWERTY配列なのだろうか

■パソコンのキーボード
 パソコンのキーボードの文字配置は、より知れらているABC順やあいうえお順では並んでいないので、初心者にはわかりづらく入力文字がどこにあるのか必死に探さなければならない。なぜ、こんな並びなのだろうか?

●QWERTY配列
 現在のキーボードの英字配列は、元はタイプライタのそれからきたものである。なぜこんな配列にしたのか疑問に思うだろうが、QWERTY配列のタイプライタ発明当時の関係資料が残っていない。ここでは、QWERTY配列について、確からしいこと、推測だが間違ってはいないこと、間違っていると思われることに分けて列挙してみようと思う。

【確定的なこと】

・元はタイプライタ
 QWERTY配列はタイプライタの配列であり、それがパソコンのキーボードに使われるようになった。
・初めのタイプライタは?
 最初に発明されたタイプライタは、2列でABC順だった。(1868年発明)
・QWERTY的になったのは
 最初の発明の数年後には、4列でQWERTY配列に似た配列のタイプライタとなった。
・タッチタイピングのはじまり
 タイプライタの発明当時はタッチタイピングはなく、指を2本または4本使うことを前提としていた。
 タッチタイピングが言われだしたのは、タイプライタが生まれた後に何年もたってからである。
・数字の並び
 最初の発明では、数字は2列に交互に並んでいたが、4列にしたときには、数字は1列に並んでいる。
・英語圏以外のキーボードは少し並びが違う
 フランスやドイツ用はQWERTY配列を部分的に変えたものが利用される。
 ドイツ用は QWERTZ配列で、文字YとZが入れ替わり、さらに文字Lの右にハイフンつきのO,Aが、文字Pの右にハイフンつきのUが配置される。
 フランス用は AZERTY配列で、文字QとA、文字WとZが入れ替わり、文字Lの右にMが配置される。
・数字の1と0について
 はじめは、数字の1や0のキーがなかった。かわりに英字のI、Oを使った。そのため、英字の「I」と「O」キーは、数字の9のキーの下に配置されている。
・製作者の詳しい理由説明がない
 当時の開発者はQWERTY配列にした理由を明らかにしていない(資料が残っていない)。
・その後のバージョン
 当時の開発者は後に別の配列のものを発表している。
・ビジネス上の勝利
 ライバル社との競争はあったが、最終的に1つのグループに統合されてしまった為、1つの配列に絞り込まれた。
 その結果としてQWERTY配列がほとんど全てのメーカーで採用されることになった(Typewriter Trust)。

【推測に近いこと】

・大きさの工夫
 最初の2列の場合には4列の場合よりも機械の横幅が2倍大きくなる。機械としては大きくなるので、小型化のために4列にした。
・2列から4列へ
 最初のはABC順だったが、これを4列にする際には、数字は分かり易いように1列に並べ、英字もABC順に近いようにすることは念頭に置き、2本(または4本)指で打つときによく使うものと、あまり使わないものとを区別して配置した。
・営業側の要求
 開発当時、タイプライター社(TYPE WERITER)の各文字を打ちやすくしてほしいという意見が社内であったので、それを考慮した可能性が高い。このため、それらの文字を1列に並べた配列が採用された。
・発明前にあったものを参考
 タイプライタの発明前には、活版印刷があった。そこでの活字ケースの配列を参考に連続して入力する文字が離れた位置になるように配置した結果、QWERTY配列のならびに近いものになった。
 これとは逆に既にあった活版印刷をあまり参考にしなかったとの意見もある。
・ユーザからの要求
 文字のUIOやERが隣接しているのは、使用者からの意見を元に、分かりやすいように配置した。
・タイプバーとキー配列はあまり大きく関連しない。
 タイプライタでは、キーを押すと対応するタイプバーが動いて文字を打ちつけることで紙に印字する。このタイプバーは円形に並べられており、初期のころは利用者からよく見えない構造だった。2つのキーを同時に押したときには、タイプバーは絡まることになるが、その部分がよく見えないため、タイプバーが絡みにくいように配置する必要があった。このため、タイプバーの配置を決める際には、連続して入力する文字が隣同士にならないように位置が調節されたといわれている。しかし、このタイプバーの配置と、キーボードの配置とは、ある程度は関連があるが、ある程度は自由に決めることができた。例えば、英字で連続して入力されることの多い「TH」という2文字は、タイプバー上では互いに対角になるように配置されたはずだが、キー配列では(入力しやすいように)近接して設置されている。こう考えると、キーの配置を決める上では、入力しやすいことが考慮されたのではないだろうか。

【間違っていると思われること】

・でたらめな配列というのは、いいすぎでは?
 QWERTY配列は、機械が絡まないように、入力速度が遅くなるように考えられたでたらめな配列である。という見方がある。
 →反論:人々が直接操作し利用してもらうものなのに、使い易くしようと考えずに開発するとは思えない。また、数字は1列に順番に並んでいるが、機械が絡まるのなら、数字もある程度分散した配置にする必要があるのではないか。
・ABC順では使いものにならなかったからとは?
 最初のABC順は早く入力できすぎるので使いものにならず、それを改良してQWERTY配列になった。という見方がある。
 →反論:配列を変えても、位置が分かった後は高速に入力できることになるので、ABC順が駄目だとは思えない。むしろ、最初の発明は、技術的に未熟な部分があったので配列にかかわらず駄目だったのではないか。また、2列というのも横幅が大きくなりすぎて駄目だった(改良された)のだと思われる。また、ABC順が必ずしも早く入力できる配列とは限らないのではないか。

【考察】

・設計に当たっては
 機械は人に合わせられないことが多い。人は機械に合わせて使うことができる。
 発明するときに利用される資料は、発明される前にある技術で、かつ、発明の分野に関係のあるものが参考にされる。
 開発者は、機械がこわれにくく、使用者が使いやすいものという視点で設計したはずである。
 タイプライターの耐久性を上げるために、よく使うキーを分散配置したというのは考えられること。ただし、そのためにはタイプライターの構造が、磨耗などで磨り減る部分が偏ると機械が壊れやすくなる(と考えられる)構造だったことが前提となる。
・QWERTYへの改良の際、優先したこと
 開発の優先順位としては、まずは、単語などの文字を確実に打てること。次には、すぐには壊れない耐久性があること。次に、ユーザが使いやすいこと。のように、機械として使えることをまずは優先するが、人が使いやすいことも考慮したはずである。
 機械として使えるものになることを優先し、機械の構造を積極的に改良したが、文字の配列は後から変えることができると考えて適当に配置した部分がある。
・実はABC順を考慮した?
 キー配列が4段になった初めの頃は、文字「M」は「L」の右にあった。その配列で「B」と「S」を入れ替えると、少なくとも最初のAからNまでは順に並べようとしていたように見える。詳しくは、AからGは、左側3段の十字型に順に並び(横5個と縦個)、HからNまでが右側3段の十字型に順に並ぶ(Nだけは左に詰める)。OからUまでは、上段(2段目)に集め、VからZまでは残りの配置となる。こうしてみると、配置を決める上では、アルファベット順に並べることを考慮し、その結果としてQWERTY配列が決まったのではないだろうか。
・なぜ、ABC順をやめたのか?
 文字の配列を決めるとき、まずはABC順にするか、それ以外の順にするかの2つの選択がある。最初はABC順で作ったが、その後に一部の文字を隣接にしてほしいとの意見があったので、ABC順でない配列が採用された。その結果、ABC順の次の試作ではQWERTY配列に近いものが作られた。
・タイプライター時代の配列がパソコン用キーボードでも必要か
 タイプライタからパソコンのキーボードが登場するまでにはテレタイプがあった。そのころにも QWERTY配列以外のものは幾つか存在したが、徐々に少なくなった。同じように、より効率的な入力ができると言われたDvorak配列が提案されたが、ほとんど普及せずに現在に至る。
 パソコンと呼べるものが登場したのは、1970年中盤になってからであり、その頃には既にキーボードにはQWERTY配列が使われていた。雑誌などではQWERTY配列を棄てて他の配列(おそらくはDvorak配列)を使うように主張されたようだが、既に大勢に使われていたQWERTY配列に変わるほどは普及せず、次第に少なくなっていった。
 「パソコンのキーボードがQWERTYである必要は本当ははない」と思えるが、だからといってDvorak配列の方が良いとも一概には言えない。特に、日本語入力ではDvorak配列はあまり効率的ではない部分がある(ただし改良方法が提案されている)。また、押すときに力のいる昔のタイプライターと違って、現在のパソコン用キーボードは軽いタッチで入力できるので、実はそれほど疲れない。また、科学的にはもっと良い配列(おそらくはDvorak配列より良いもの)が提供できるはずである。
 どれが効率的であるかは少しは重要だが、実際のところキーボードに対してそれほど考慮されることはなくなっているように思える。特にQWERTY配列が定着した後では、とっつきの悪さからキーボード入力自体が(特に最初は)難しいものだと思われているのではないか。そのため、新しい効率的な配列だといわれても、QWERTYと同じように覚えづらい配列を熱心に説明されても、ユーザはそれが良いとは思わないだろう。つまりQWERTY配列を使っていない人にはどれも分かりづらく、また既に使っている人は、初めは配列がわかりづらかった経験から新しい配列がそれほど良くなるとは信じられず、また重要だとは思わないだろう。このような状況では、ほとんどの開発者も新しい配列を提案しようと積極的にならないだろう。
 近年、携帯電話の文字入力では、ボタンに文字をアルファベット順や50音順で割り振ったものが使われている。これは元々ボタンの数が極端に少ないため、1つの文字入力に何度もキーを押さなければならないためである。しかし、それを不便だと思う人はいても、それはそれで使われている。使いやすくなるように考えられ、同じボタンを何回か押すとキーが変わるタイプのもので(複数ボタン入力の組み合わせを覚えなくて良い)、また、単語の連想入力の機能が発達した。基本的にはキー配列による1文字入力の効率性よりも、もっと別な使いやすさがあるかどうかが重要なのだろう。もし、新しく覚えるときには、それが覚えやすければ試しに使ってみるかもしれないが、初め覚えるのはどんなものでも大変だということがあるので、使い慣れたものをそのまま使うことになるだろう。
 実際、PDAや携帯電話にもキーボードが付いている装置があるが、これらではQWERTY配列のものが提供されている。この事実は、既にパソコンでのQWERTY配列が業界標準として定着しているからだといえるが、ユーザにアピールすべき主題が別にあるため、キーの配列には無難なものを提供しているだけとも捉える事が出来る。

【まとめ】

 コンピュータキーボードははほとんどがQWERTY配列が利用されている。この配列は、もともとはタイプライターの発明初期で利用されていた配列のままである。その後に改良された配列(Dvorak配列など)があるが、それらが普及することはなかった。その原因は、下記参考資料([8][12])に考察されており、実際にコンピュータが普及する段階で、より優れた配列に変更しようとする動きもあったが、結果としては他の配列に置き換わるほどことはなかった。
 キー配列としてはQWERTY配列とDvorak配列が有名であるが、いずれもタイプライター時代のものである。当時のタイプライターと今のパソコンキーボードとは全く違う部分がある。特に、現在のキーボードはキー入力に必要な力は少なくて済むようになっている。
 タイプライターでは、入力にある程度の力が必要になるため、疲労が少なくなるキー配列であることは重要であった。しかし、今のパソコンを利用する状況ではあまり重要視されなくなってきている。 例えばQWERTY配列はDvorak配列より、左手をよく使い、小指や人差し指を良く使うという統計がある。確かにそうであるが、実際には、改行やShift、CTRLキー、など制御キーを使うときにも小指を頻繁に使う。
 さらに、キーボードを使う機会が減っている。例えば、マウス操作中心であったり、メニューから選べたり、入力途中で補完してくれたりなど、別の付随機能により便利になりつつある。
 一方で、既にQWERTY配列を使う多くのユーザがいるという事実もある。QWERTY配列、Dvorak配列ともに、人がすぐにタッチタイピングできるようになるほど分かりやすい並びではない。むしろ、最初はキーの場所を探しながら入力しなければならない。  初心者にとっては、コンピュータで、これからどういう操作をするのかを漠然と考え、入力すべき文字を考え、さらに、それをすぐには入力できず、どこにあるかを探しながら入力しなければならない。キーボードと画面の両方を見て行ったりきたりする。探している間にどういった操作している途中だったのかぼんやりとしてくる。結果としてとても操作が遅くなる。しかし慣れるとどの配列でも適度に入力できるようにはなる。  最初の混乱は、キーボードが良く知られた50音順やABC順であっても起こりうることであるが、一般ユーザにとっては、簡単にできることが重要であり、指が疲れないからとか、速く入力できるからとか、といったことは実はあまり重要ではない。さらに、QWERTY配列はそれほど入力に時間がかかる配列ではないし、疲れにくいものでもない。

 結論としては、QWERTY配列はタイプライタ時代に考えられた配列であり、現在のコンピュータキーボード用としては必要というより、歴史的な流れて主流となっただけのものである。今日ではほとんどのキーボードがこの配列であるため、QWERTY配列が使えることが前提で、ユーザの判断で配列を変更できる入力装置が登場しない限りは、別の配列に置き換わる可能性はきわめて低いといわざるを得ない。特に業務用ではその傾向が強く、業務として入力できればいいのであって、目に見えて効率的であることが証明され、それを使うという流行が起こらない限りは現状のままである。  この結論をさらに確実にするのは、モバイル機での配列である。ATMなどの不特定多数のユーザが使う機械では50音順が基本なのに、ことモバイル機にキーボードと同じキーをつける場合には、なぜかQWERTY配列として発売される。売る側の立場に立てば、最新機器に興味あるユーザは、QWERTY配列に慣れているのと、実際のセールスポイントは全く違う(例えば小型であるといったこと)ため、無難にQWERTY配列にすることが多い。  配列を変更できるキーボードも発表されたりしているが、現在のキーボードと置き換わるほどに低価格で提供できるまでは当分時間がかかる。ビジネスサイドで成功するまで続けることを断念し、最終的には全く普及せずに消えてゆく可能性が高い。
 QWERTY配列が置き換わる可能性が全く無いわけではない。それは携帯電話のようなキー数が少ない装置では現実として異なる配列が使われている。キーボードのような感覚で入力できない装置にあえてQWERTY配列にする必要はないのである。  同じように全く別の入力機構が必要な状況になれば、QWERTY配列以外が採用される可能性がある。例えば、パソコン用の装置でも、マウスとキーボードの両方を兼ね備え、何らかの理由でキーボードよりも多いか少ないボタン数がある装置では、あえて別の配列の方が良いという状況はありえる。ただしその場合でも、今のキーボードと同じような状態でキー入力する状態を提供できる場合には、間違いなくQWERTY配列はサポートされることになる。

追記: キーボード補助装置

【関連】
スキマ的ボトルネック:キーボード
色で分けてみるキーボードの配列

【参考】
[1]安岡孝一、QWERTY配列再考、情報管理、Vol.48、No.2、pp.115-118、2005年5月.
[2]Winn L.Rosch著/神代敏彦監訳、IBM-PCハードウェアバイブル 、シリーズ ASCII BOOKS 、1994/08/02 、ISBN 4-7561-0294-8 .

[3]QWERTY配列に対する誤解
http://slashdot.jp/journal.pl?op=display&uid=21275&id=280542
[4]yasuoka の日記 (21275) 
http://slashdot.jp/~yasuoka/journal/
[5]Publications by Koichi Yasuoka
http://kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/~yasuoka/publications.html
[6]キーボードの歴史
http://www7.plala.or.jp/dvorakjp/keyboad_h.htm
[7]QWERTY配列はなぜ普及したか
http://homepage1.nifty.com/cura/oya/kb_arguments.html
[8]キーボード配列の真相
http://yossalog.exblog.jp/1835350
[9]キーボード・タイピングを語ろう!
http://homepage1.nifty.com/cura/oya/kb_talk.html
[10]キーボードの情報
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Oakland/3186/
[11]キーボードのキー配列(歴史)
http://hp.vector.co.jp/authors/VA011700/moji/keyboard2.htm
[12]レミントン・タイプライタの人間工学的不備
http://www.ccad.sccs.chukyo-u.ac.jp/%7Emito/yamada/chap6/3/index.htm

●日本語のかなJIS配列

 かなの配列は、最初に考えた人は、50音の行ごとにかたまるように考えたのだが、英字キーボードに配置するときに、それを単純に拡張したため、わかりづらくなったといわれている。
 後に3段で入力できる新JISかな配列が考案されたが、普及することなく消え去った。

(C) Gekkao

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