トンボの話
うちに来たのは2003年夏、後でわかったがブリティシュショートヘアでメスのミックスらしい。鼻ペチャの野良で気が強くて怖いもの知らずの、おてんばを通り越して凶暴なところが有り、何度も指に穴が空くほど噛まれた。家中に蚤をばら撒いて大変なことになり、当時家にいた娘にバルサンを焚かせて何とか治まった。半年もすれば、心持短毛でふさふさ、しっぽが長くガ体のしっかりした綺麗な姿の猫になった。先住猫のモミジとも、我関せずで濃密に触れ合うことも無くマイペースの生活だった。野良だったせいか、人に甘える事を知らなかったようで、愛想が無く、抱かれるのも嫌い、手や顔をなめられた記憶がない。
運動能力は高く、押し入れの天袋まで軽々と登るし、襖やサッシを開けることも出来た。それでよく家から出て行き、裏山?で赤ネズミやスズメやトカゲなど取って来て見てくれと鳴くことも有った。先住猫が嫁に懐いているので、トンボは私に(仕方なく?)懐くようになった。と言っても猫の習性で気候の良い季節や夏の暑い日は自分で快適な場所を見つけて過ごしていた。また縄張りと言うものが有るのか分らないが、夜に良くパトロールに出かけ時には2~3時間、帰宅が深夜になることも有り、小雨なら気にすることも無く、多少寒い日でも出掛けることが亡くなる3か月前位まで有った。その割に来客が有ると縁の下に潜り込むか、二階の押し入れに逃げ込むかして、出てこず、一緒に暮らしたことが有る娘や息子が家を出て数年して帰って来た時でも姿を見せなかった。
10歳になった頃に私が退職して、サンデー毎日の生活になってから、秋口から春先までの寒い日には膝に乗ったり、寝る時には布団に入ってくるようになったが、その時は必ず、私の左側からで、それも必ず、まず手でチョンチョンと膝なり、布団なりを叩いて顔を見て、OKを貰ってから膝に乗るなり、布団に入るなりしていた。私がパソコンの前で遅くまで作業していると横へきて早く寝ようと文句を言うように鳴いた。
昨年夏頃に、もう1匹野良猫が我が家の一員になったが、この猫は顔つきも全く異なり口が尖がり狐のようだ。この猫と相性が合わないようで近づくとふーと大きな声を上げたが、歳のせいか喧嘩になるような事は無かった。
昨年秋に動物病院で見て貰って腎臓の機能低下で週3回通っていたのだが、1月の中頃右目に涙が出て、腫れているような表情だったので、詳しく見て貰った。その結果右の喉の上に腫瘍が有り腫れているので食道が細くなっているとの事。手術で取ることはできない場所なので、全身麻酔で腫瘍の血膿を出してもらうのが精一杯だった。その日から毎日病院へ通い、抗炎症剤と水分を点滴して貰ったが、段々と食が細り見る間に体力が衰え、それでも自力でトイレで用を足してその場でヘタっていたりした。全身麻酔から2週間後にはもう病院から帰ってくると半日以上寝たきりで苦しそうにして垂れ流しのような状態になりその後一時的に復活するが直ぐに寝たきりになった。
これ以上治療を続けても苦しい時間を伸ばすだけと思い、最後は痛み止めの注射をして貰って帰った。それから2日後の2月5日の昼、私が手を握っている間に2度手を痙攣させて旅立った。17.5歳モミジより1年長く生き、毛玉のために定期的に吐いたり、爪砥ぎで畳をぼろぼろにしたり、晩年には粗相をしたりと色々なトラブルが有ったが今はそれも思い出の一コマになっている。102歳で逝った父親の時より悲しかったが今は東大阪の稲荷山動物霊園でモミジと一緒に眠っている。 2021.04.04