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冬・水・田んぼ(冬期湛水)の試み(2004年)

〔まとめ〕「冬期湛水水田で稲が化ける」2004/10/11記
 品種による稲の特性(表1 出穂期、収量性、食味、・・・)というものは、特殊栽培には通用しない。私の冬期湛水水田の稲(品種は「秋の詩」で、中生の晩。無肥料による栽培)の生育を見ているとそう思う。稲が生育するための条件は、近代農業においては圃場によって大きく違わない。耕起、代かき、田植、中干し、施肥・水管理は、行政機関の指導によって、ほぼ同一である。実施時期の違いで微妙な差異はあるものの品種の特性の枠内にある。

 「秋の詩」特性(5/10移植) (滋賀農試1996−1998)
  草型=中間型、出穂期=8/10、成熟期=9/19、桿長=88cm、穂数=421本/u
  耐倒伏性=やや弱、耐病性(葉いもち)=やや弱、(穂いもち)=やや弱、(紋枯れ)=中
  穂発芽性=難、玄米重=65.9kg/a、千粒重=23.0、玄米品質=上の中、食味=上の中

 不耕起栽培を始めた頃は、その稲の丈夫さに驚いたが、冬期湛水水田の稲を見ていると、一般に言われている品種の特性は当てはまらない。不耕起栽培の稲と比較しても草丈で20cm程長く、茎は2周り太い。不耕起がbigなら、冬期湛水はgreatといったところだろうか。


 左:不耕起移植+無肥料栽培
   草丈=105cm、桿長=85cm、茎数=17本、千粒重=23.0
 右:冬期湛水+不耕起移植+無肥料栽培
   草丈=123cm、桿長=99cm、茎数=29本、千粒重=26.4(圃場全体では25.6)
 ※それぞれ圃場内の平均的な株を抽出
 〔参考〕 地域慣行栽培の千粒重=24.0

 育種家が想定した稲の生育環境の何かの要素が変わることで、稲の持つ遺伝子で通常機能していないものが動き出したのかと思えてくる。「稲が化ける」というのは、そういう意味をこめている。ペットの犬が子犬の時から野良犬になると凶暴になり人をも襲うが、ペットの犬は飼い主の手をじゃれ噛みこそすれ噛み砕くことはない。野生化という表現が適切かどうかは疑問があり、「稲が化ける」という表現も不適切だと思う。バケツ稲の栽培実験では、一本の苗が200本程に分げつし、きちんと穂を出し実をつける。圃場での一般的な栽培方法と全く違う生育をする。人の栽培行為は、植物の本来の能力をそぎとってしまうのではないか。飛べる鳥をカゴの中で飼い、「この鳥は飛べない」と思い込むのに似ている。稲は、子孫を残すためにその機能をプログラムされている。生育環境が均一化すれば、発揮されなくなる機能があってもおかしくない。
 バケツ稲の生育で、驚くことがある。 ・穂刈り収穫をし、肥料を与えてやると、ひこ生えとは別に穂刈りした茎の第3節あたりから新たな止め葉と穂が出てくる。 ・出穂以降も深水を続けると、第4節あたりから新たな発根が見られる。(浮稲あるいはヨシの性質を連想させる。) 気温が下がれば生育は停止するが、保温すればどうなるか想像がつかない。
 冬期湛水には謎が多い。まず窒素の収支が合わない。
  [田んぼが持つ窒素量]+[投入窒素量]+[外から入る窒素量]
 =[稲が吸収する窒素量]+[稲以外の生き物が吸収する窒素量]+[流出・気化窒素量]
この計算の結果で投入する窒素量が決まるなら、計算が合わないことは困ったことである。無肥料でも栽培が持続するかどうかは、まだ分っていない。現状では推測が大部分である。
 [田んぼが持つ窒素]・・・これが実は分らない。土壌分析では、土の有機質を取り除いて土そのものを調べるが、生き物の果たす役割が大きい冬期湛水水田では、通常の土壌分析は役に立たない。
 [外から入る窒素]・・・外から入る生き物 鳥の持ち込む物 空気中の窒素を取り込む植物 用水・雨に含まれる窒素(用水からは1〜2kg/10a(琵琶湖の場合)。冬も水を入れれば更に増える。)
 [流出・気化する窒素]・・・土壌構造と土中の生き物の生態によって、流出・気化する窒素量は大きく変わる(生き物が窒素を貯えるという意味。)。
稲体を構成する窒素原子に履歴がついていれば、せめて投入した窒素がどれだけ含まれるのか分れば、とんでもない発見があるかも知れない。田んぼの中で循環し何十年の歴史をもつ窒素原子があるかも知れない。田んぼの生き物が持つ窒素量がその収支に大きな要素となる。また、用水や冬期湛水のための用水の窒素量も大きな要素となる。いずれにしても、化学肥料に頼る農業技術からはこの発想は出てこない。
 [稲体の持つ窒素量]<[稲が吸収した窒素量] という関係が成り立つはずで、吸収した窒素が全て稲体になるわけではない。つまり、無駄になる窒素があるはずである。無機質な窒素がそのまま稲体になるとは考えにくい(鉄分不足の人がクギを食べても鉄分不足は解消されない。)。無駄になる窒素が少なければ、生育の効率は高くなる。稲とその周囲の微生物との関係とその生理が、大きく関わっている。
 冬期湛水水田の稲が化ける、その正体を早くつきとめたい。冬期湛水水田が本当に水を浄化するのかどうかも、決着をつけたい。「何だかよく分らないが、こんな米がとれた。」では、次のステップに踏み出せない。冬期湛水が正統な農法として認知を受けることが、農村環境(農業と環境)を創造するために今まさに必要とされている。

2004/9/23 稲が化けた 収穫間近の稲を掘り起こしてみました。秋の詩という品種なんですが、冬期湛水のせいか無肥料にもかかわらず、かなりのジャンボサイズ。単なる不耕起栽培のものと比べても大人と子ども状態です。米粒もジャンボサイズです。後日報告しましょう。冬期湛水がもつ能力は計り知れない。研究意欲がモリモリ状態です。

左は不耕起栽培の秋の詩(草丈:105cm、茎数:17本)、右は冬期湛水不耕起栽培の秋の詩(草丈:123cm、茎数:29本)、共に無肥料栽培 中央はメジャーを1m立てたもの。

2004/3/27 水質調査(4) 何もいなさそうな水中にも、よく見ると動く物があります。今日は、ミジンコを発見しました。藻類もフワフワしたものから、より形状のしっかりしたものに変わってきています。水質も調査しましたが、風があるせいで全面均質になっているようです。しかし、入水とは明らかに違う水になっているようです。pHはアルカリに変化し、Ecは値を下げています。

 田んぼを9ヶ所(3×3)に区切り、pH・電気伝導度・水温を調べました。
 時刻:16:00、天候:晴れ、気温:13.8℃、風:やや強
 入水の水質 pH:7.1、Ec:300μS/cm、水温:12.2℃
 田面水の水質(平均) pH:8.0、Ec:234μS/cm、水温:20.3℃


2004/3/20 水質調査(3) 入水の位置はグラフのBcの所です。水温はBcで最も低く、他では若干暖まっています。電気伝導度を見るとBcで最も高く、他では下がっています。田んぼの中で水が浄化されていると考えていいのでしょうか。今後この辺りに着目して調べてゆきたいと思います。

 田んぼを9ヶ所(3×3)に区切り、pH・電気伝導度・水温を調べました。
 時刻:16:30、天候:曇、気温:7.5℃、風:無し
 入水の水質 pH:6.9、Ec:290μS/cm、水温:9.7℃
 田面水の水質(平均) pH:7.4、Ec:243μS/cm、水温:12.2℃


2004/3/14 水質調査(2) 最近暖かくなり水温も上昇。水の中を覗いてみると、マツモムシのような虫が泳いでいます。他にも小さな虫が動き出しました。生き物ではないのですが、茶色やら黒色のフワフワした5cm程の塚のような物があちらこちらにあります。これがイトミミズの糞なのでしょうか。


 田んぼを9ヶ所(3×3)に区切り、pH・電気伝導度・水温を調べました。
 時刻:10:30、天候:晴、気温:9.5℃、風:無し
 入水の水質 pH:6.7、Ec:260μS/cm、水温:7.9℃
 田面水の水質(平均) pH:7.8、Ec:249μS/cm、水温:17.4℃


2004/2/29 水質調査(1) 2/11に湛水を始めて、18日目。水と土の中で何が起こるのか気になるところです。雨が降りましたが、とりあえず水を調べてみました。

 田んぼを9ヶ所(3×3)に区切り、pH・電気伝導度・水温を調べました。
 時刻:10:00、天候:雨、気温:8℃、風:無し
 入水の水質 pH:7.4、Ec:89μS/cm、水温:7.6℃
 田面水の水質(平均) pH:7.6、Ec:144μS/cm、水温:7.8℃


2004/2/22 2/11に湛水を始め1週間ほどで水が溜まり、トンビ・サギ・ムクドリ・マガモなどが田んぼに集まるようになりました。鳥インフルエンザの感染のニュースが聞こえてきますが、鳥が休める場所が多くあれば鳥達は分散し、これほど流行することにはならなかったのではないかなと実感できます。


2004/2/11 2/8日野川メダカシンポジウムで子どもたちに冬期湛水水田の魅力を話していたら、私も何とかできないかと、じっとしていられなくなってしまいました。家の近くの10aの田んぼに電源を伸ばしポンプを設置しました。