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バケツ稲(不耕起)栽培と「田んぼの学校」

1.はじめに
 「田んぼの学校」推進事業が進み、多くの小学校が「田んぼの学校」に取り組んでいる。育苗・田植え・草取り・生き物調査・水管理・肥料散布・刈り取り・脱穀・籾摺り・精米・調理・わら細工、「田んぼの学校」には学ぶことが多くある。教員の経験・指導者の力量・応援団の理解など、条件がそろわないと取り組み内容が不十分になったり中途半端になってしまう。多くの小学校では、田植えと稲刈りの実習だけで終わってしまい、それ以外に田んぼに足を踏み入れることはない。条件が整わず、田んぼを借りられない小学校も少なくない。田んぼが借りられない小学校では、その代替としてバケツ稲の栽培を行っている。田んぼがないから仕方なくバケツなのか、田んぼが面倒だからバケツなのかという見方ではなく、バケツ稲栽培そのものの良さについて若干の考察をしてみたい。

2.バケツ稲の生育
 バケツ稲の生育環境は、田んぼのそれと比べ大変良好である。田んぼでは隣の稲との競り合いが窮屈で、日当たり・風通しをいかに確保するかが難しい。バケツ稲は日当たり・風通し共に良く、土が気温によってよく暖まる。バケツ稲は、田んぼの稲と比べ良く育ち、1株数百本の穂を実らせることができる。  バケツ稲の栽培を取り上げたホームページが多くあるが、そこでは、田んぼで行われる作業暦をそっくりそのままバケツ稲に当てはめようとしている。農家の仕事を学ぶと言う意味はあるが、それ以上のものはない。田んぼの稲とバケツ稲とは生育が違うから、栽培方法も違うはずである。田んぼの稲は、分げつで茎が増えすぎると実りが悪くなるので、中干しによって生育を押さえる。バケツ稲はかなり多くの穂を実らせることができるから、中干しの必要がない。田んぼの代替として、バケツを用いて一般の作業暦を再現することはあまり意味がなく、むしろ稲の生命力が生かされていない。バケツ稲栽培は、田んぼとは別の栽培方法とり、ダイナミックな稲の生育を楽しみたい。

3.身近に見る稲の生育
 田んぼで「田んぼの学校」を実践している場合、どうしても学校から離れてしまう。田んぼに足を踏み入れるのが田植えと稲刈りの2回だけでは、決して身近な存在ではない。「田んぼの学校」は「田んぼ」と「バケツ」の2本立てで取り組みたい。身近にバケツ稲を置きその生育を継続して観察し、離れた田んぼの生育を予想することによって、稲刈りへの動機付けができる。

4.学校田を持ちたい
 バケツを1人1個ずつ校庭に並べれば、田んぼのようになる。現状では田んぼを借りなければ「田んぼの学校」は実践できないが、学校が田んぼを持つことができれば理想的である。1人1株程度の小さなものでもよい。敷地の一部に手作りで田んぼは作れないか。最近はビオトープ作りが盛んで、学校の敷地の中に池を掘ったりしている。私は常々「田んぼこそが日本における最大のビオトープだ。」と考えているが、このビオトープ作りを田んぼ作りにすればよいのではないか。  「田んぼの学校」の関連事業で、ある農村の小学校とある町の小学校が交流活動を行った。農村の小学校はその豊かな環境の中に田んぼを造成し学校田として「田んぼの学校」を実践した。町の小学校は近隣に田んぼが借りられないので、バケツ稲で「田んぼの学校」を実践した。双方が「バケツは大きくなっていいな」「田んぼに生き物がいっぱいいていいな」と評価し合っている。現状で遠方の田んぼを借りるしか方法がない、あるいは借りられないのであれば、バケツ稲を代替の手段と考えず本格的に取り組んでもらいたい。

5.不耕起的バケツ稲の栽培方法
 田んぼでは1株20数本の分げつが限界だが、バケツなら数百本の分げつも可能で、すべてにしっかり実が入る。どうすればよいのか。
○容器 大きければ大きいほど良い。容器が大きければ、根がよくはり養分をよく吸収し、地上では大きく生育する。小さな容器ではその逆で生育が制限される。また、水をたっぷりはれるだけの深さ(水深15cm以上)が必要になる。私は、20gのオイル缶をもらってきて使っている。
○土 稲がよく育つのは、当然田んぼの土。田起しされた田んぼの土をいただくとよい。最後に不耕起田の表層土とワラをたすと楽しい。ミジンコやイトミミズ、藻類が大発生する。収穫か終わってもそのまま2年目以降に使用すれば、不耕起となる。
○種子 いわゆる古代米の種子を用いるのは楽しい。肥料なしで野性的に育つからである。
○移植 育苗した苗を植えるのもよいが、数粒を深さ2cm程に埋め芽が出た中から立派なものを1本残す。この1本の苗が数百本に大化けする。
○施肥 肥料はなくても充分育つが、大化けさせるのなら毎日耳掻き1さじ程度の肥料が必要。
○水管理 苗の間は苗が水没しない程度に深くし、それ以降は毎朝満水にする。昼間に水をやると水温が下がってしまうので避けたい。水深は10cm〜20cm。深水ほど水中に色んな微生物が繁殖し実に楽しい。
下手に田んぼでの農作業を模倣することは全く必要ない。本来稲は野生の植物であり、人が手出しする必要はない。稲は水稲とも言い、水さえあれば育つ。水を絶やさなければ、何もしなくてよい。稲作をあまり複雑に考えて、手出しをするとかえって稲は困ってしまう。  また、不耕起の稲の生育は2年目からとなる。バケツの土は捨てずにそのまま翌年も使用したい。バケツの土がどんどん田んぼ化するのを感じる。水の中を覗くことは結構楽しい。微生物が大繁殖している。これは田んぼ(特に不耕起)の土を使用すれば顕著に見られる。ミジンコやイトミミズが動くのを見るのはアキが来ない。気温が上がればサヤミドロなどの藻類も繁茂し、まさしくミニビオトープである。2年目以降不耕起で栽培すると、稲を刈り取っても稲は生き続け新しい茎が芽生えてくる。翌春まで水を絶やさなければ、その間バケツの中は微生物のビオトープとなる。生物層豊かな小さなビオトープの中で稲がより強く育つことが実感できるはずである。

6.最後に
 バケツによる不耕起稲作は、日本の環境を支えてきた田んぼのミニチュアであり。小さなビオトープである。学校から距離のある田んぼで「田んぼの学校」を実践するより、身近であり得るものも多い。夏休みには自宅に持ち帰り家庭で観察ができる。田んぼでの実践とは別にバケツ稲栽培に取り組むことは、田んぼでの実践をより充実させる。
 条件が整わず田んぼでの実践ができなくても、バケツで我慢するのではなく、むしろバケツ稲の持つ身近さを活用したい。多くの品種を条件を変え栽培実験することもできる。水中の微生物を観察すれば、その水質浄化能力を気づくことができる。バケツ稲の方がより多くの学びの可能性をもっている。
 田んぼがあってもなくても、学校でバケツ稲に取り組むことは非常に有意義である。このことを多くの先生方に気付いていただけることを私は願っている。