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〜速いEV設計養成講座第4日目〜


第4日:モーターとエンジン
5リッターV8と2リッター直4を比べると
  • 小さいエンジンの方が燃費が良い
  • 小さいエンジンの方が高回転を得やすい
  • 大きいエンジンの方が強い
    これらは常識となっていますが、モーターの場合はどうなんでしょう?
    Q:大きいモーターと小さいモーター,どちらの方が効率が高い?
    A:大きいモーター。
    Q:大きいモーターと小さいモーター,高回転を得やすいのはどちら?
    A:一般的な傾向はありません。Advanced DCのシステムなら電池次第です。
    Q:大きいモーターと小さいモーター,どちらの方が強い?
    A:電池が一緒なら小さいモーター!
  • 対策21 大きなモーターと小さなモーター1:効率
     大きなクルマと小さなクルマではどちらが効率が良いのでしょうか?
    一般的な答えは「小さい方」ですね。それはアメリカ車と日本車を比較した場合でも,セドリックとアルトを比較した場合でも同じでしょう。これはクルマの効率は「燃費」で代表され、燃費のよいクルマが効率の良いクルマ、と考えられているからですね。
     大きなクルマは,重く,空気抵抗も大きく、減速時のブレーキからの発熱量も大きく、トータルとして必要なエネルギーが大きくなるため、一定距離を動かすには小さなクルマよりもより多くのエネルギーを必要とします。
    その一方、原動機や伝達機関の効率という観点もあります。ガソリンエンジンよりディーゼルエンジンの方が効率が高い。シングルカムのエンジンよりツインカムの方が原動機効率が高い、ピストンリングの抵抗を抑えた低回転向けエンジンの方が高回転スポーツエンジンより損失が小さい、プリウスで使っているアトキンソンサイクルエンジンの方が普通のエンジンより効率が良い、といった着眼点です。燃焼室形状、シリンダー容量、エンジン冷却方法、バルブ駆動方式などさまざまな要因が関わっています。

    コンバートEV作りでも同様です。
    EVトータルとしての効率を考える場合、大きなEVと小さなEVの比較では、エンジン車の場合と同じ様に、大きいEVを動かす方が多くのエネルギーを必要とします。言い方を換えると、小さなEVの方が軽く,空気抵抗が小さいので燃費が良い(走行抵抗が小さい)傾向があります。
    さらに効率を追求するために、効率を考えたモーター選びをする場合、大きなモーターと小さなモーターではどちらが効率が良いでしょうか?
    モーター単体では,大きいモーターの効率の方が高くなる傾向があります。

     モーターでの主な損失は巻線での発熱と励磁に伴う損失です。同じ出力を得る(同じ電流を流す)とき、損失(巻線抵抗)を減らすためには巻線を太くする事が効果的であり、太い巻線を使える大きくて重いモーターは効率が良いモーターなのです。
    大きなモーターは重いので車重を重くします。これは効率を下げる要因になりますが、Advanced DC社製EV用モーターは小さいものでも20kg,重いものでも60kgでありその差は40kg程度です。1tを超える車重全体に対する影響は小さいと言ってよいでしょう。走行損失を減らすためには、少し大きめのモーターを使い、さらに、クルマに積んである不要な工具や部品を降ろす事が大切です。
    対策22 大きなモーターと小さなモーター2:回転数
     大きなモーターと小さなモーターではどちらがより高い速度を出せる、つまりどちらが高回転が出せるでしょうか?
    どちらの場合も、電池の直列数を増やして、電圧をかければかけるほど回転数を上げることができます。
     コンバートEV作りの過程においては、コントローラーの選択肢が限られているので電池の直列数も限定されます。その条件下で、高回転を出すには大きなモーターと小さなモーターのどちらが良いか、という問題になります。
     この場合、逆起電圧の小さい、即ち設計電圧の低いモーターの方が、高回転で、より大きな電流を流すことができます。Advanced DC社製モーターのラインナップを見ると、大きいものほど、定格電圧が高く設定されているので、この点では小さいモーターの方が高回転でトルクを出しやすい、ということになります。
    もう一点注目すると良い点は、熱容量の問題です。小さいモーターは効率が低いこと、熱容量が小さいことから、温度が上昇しやすい傾向にあります。従って、モーターが小さすぎると、逆起電圧の面では加速できる余地があるにも関わらず、温度上昇の面から加速できないことも想定されます。
    次に遠心力の制約が考えられます。回転子は遠心力に耐える構造が必要です。直流電動機の場合、回転子は鉄心に銅線を巻いた構造ですが、この場合は強度面では特に問題とならない様です。
    さらに、ブラシを持つ直流電動機特有の問題として、ブラシ部の電位差の問題があります。モーターは回転子付近の磁界と、回転子に流れる電流の相互作用により回転力を出します。回転子は電流の側面だけが注目されますが、回転子もコイルの形状をしていますので、数百Aという大電流が流れた場合には、磁力を出します。この磁力が固定子が出す磁力をねじ曲げてしまうこと(電機子反作用:電機子=回転子のこと)で問題が生じます。通常の運転状態では、ブラシのあるあたりで電位差が出ないのですが、高回転、大電流域では、ブラシ部で電位差がついてしまいます。この問題に対しては、相差角を変える、即ちブラシの位置を回転方向に少しずらすことで、対応できます。
    以上を考えると、車体重量、走行抵抗、加速時間などを考えて、熱容量的に問題のない大きさで、かつ、あまり大きすぎないモーターを選ぶのが、より高い速度を得るためのモーターの選び方といえると思います。
    対策23 大きなモーターと小さなモーター3:パワー
     速く走らせようとするなら、大きな出力が必要になります。その場合、大きなモーターと小さなモーター、どちらを選べばよいのでしょうか?出力の制約は前述の通り、温度上昇と発熱量です。そして、一般には大きなモーターの方が効率が高いので、同じ出力に対する発熱量も小さく、同時に熱容量も大きい。この2点だけを考えると、ある出力を出す場合、大きなモーターの方が発熱量が小さく、熱容量が大きいので温度が上がりにくい。そのためより大きな出力を長時間出し続けるには大きなモーターの方が有利です。
     ところが、その一方で電気回路の制約もあり、状況は複雑です。特にコンバートEVの場合、モーターは直流で、製品種類はAdvanced DC社製等に限られ、その駆動方式はDCチョッパーで電池の電圧を降圧する方式となります。直流モーターの場合、回転数の上昇に従い逆起電圧が上昇するので相応の電圧をモーターに加えないと電流値が増えず、高出力が出せません。従って、大きなモーターで高回転・高出力を出そうとする場合、より多くの電池の直列数と、それに堪えるDCチョッパーが必要になります。
    現実にはDCチョッパも製品の種類が限られています。大きなモーターを使うと、回転数が上がっても十分な電流を流せるシステムが組みにくいことになります。以上より、モーターの温度が飽和する様な長時間の運転では大きなモーターの方が高出力を出しやすいと言えそうですが、短時間の場合はそうとも言い切れない様です。
     
    対策24 大きなモーターと小さなモーター4:スプリントレース
     結局、大出力を得るには高電圧が必要となり、それを受け止められるコントローラーと、適切な大きさのモーターを組み合わせる事になります。例えば数十秒程度のスプリントレースであれば、温度上昇よりも電気回路の制約の方が大きい可能性があります。従ってモーターの回転数と逆起電圧、電源電圧の関係を頭に入れた上でモーターを選ぶ事も大切かな、と思います。
     加減速の多いジムカーナの場合、モーターの回転数は低−中回転帯を多用するだろうから、最大出力よりも、低−中回転でのトルクの厚みが重要で、高トルクに耐えられる機械強度がある若干大きめのモーターの方が有利なのだろうと思います。
     その一方、0-400m等、短時間のレースでも高回転域を多用するレースの場合、高回転域での加速が重要となります。どれだけ出力が出ているか、はモーターの逆起電圧と流れ込む電流の積になります。逆起電圧は端子電圧と等しくはなく、巻線での電圧降下の分だけ小さくなります。その電圧降下に比例した電流が流れるのですが、その電圧降下はモーターの端子電圧と、回転数から決まる逆起電圧の差です。逆起電圧が高いと電流を流すための電圧降下が小さくなり、大電流が流れなくなります。この点に着目すると、若干小さめのモーターの方が大電流を流すのに都合が良いとも言えます。
     
    対策25 大きなモーターと小さなモーター5:1h耐久レース
     1時間という時間の中、電池交換なしでより速く走り続けるためには、平易な表現では電池の制約、即ち電力量面での制約が一番大きいのではないでしょうか。つまり、出力面や温度上昇の制約よりも、電力量面の制約が大きいのではないかと思います。モーターの選定に関して言えば、多少なりとも効率の高い、大きなモーターを選ぶ方が有利かと思います。
     また、電池の電力量を増やす事を考える場合、コンバートカーでは電池置き場の形状の制約から、より大型の電池に積み替えるのは容易ではない事が多く、空いた場所に追加の電池を積み、直列数を増やすケースが主と思われます。その場合、高い電圧(144Vとか168V)に耐えるシステムを構成するなら、必然的に大きなモーターを選ぶことになるのだろうと思います。
     さらに、モーターでの効率を上げるためには、回転数を上げ、逆起電圧が高い=電流が小さい状態で使用することで電気回路での発熱を抑えられるものと思います。このとき、Advanced DC社のモーターでは端部に冷却ファンが内装されているので、回転数の上昇に伴い、その風損も多少大きくなる点に注意が必要です。
     この風損を低減することも効率改善にわずかながら寄与します。風損は吐き出した空気の量に比例するので、モーター端部の吸気口を少しふさぐと風損が減るはずです。同時に冷却性能は低下するので、お奨めはできません。実施する場合には、道路表面の熱気を吸わない様な配置を心がけたり、低回転での大電流運転を避ける、モーターの温度を監視する、などの配慮が必要でしょう。
    対策26 フリクションと慣性
     モーターが大きなイナーシャ(慣性)を持つ事を経験的に知っている人はたくさんいます。たいてい,クラッチを踏んだままアクセルを踏み「びゅーーーーーん」とやってしまったからです。
    特に初期コンバート野郎は,
  • トルコンを使ったコンバートは困難であった。
  • 『モーターのトルクバンドのおいしい所』を多用するためにはミッションが必要であると考えていた。
  • たとえ円高($1=\80)でも,モーターやコントローラーは高く,ベース車両にかけるお金がなく,必然的に旧いマニュアル車がコンバートのベース車両となった。
  • コンバートをレストアの一種と考える傾向があった(嘘?)
    等の理由により,コンバートEVはマニュアル車がベースであり、ペダルが3つあり、乗客にクラッチ操作を暗に要求していたこと等が原因です。
     ところでエンジンでは「びゅーーーーん」とまわったまま回転が落ちてこない,という状況はなかなか考えられません。ディーゼルでは「ずるずる」ポルシェでは「すとん」と回転が落ちてしまいます。この違いはフライホイールの重さによる効果ですが,いずれもエンジンのフリクションが大きいので回転数が落ちるのです。
    エンジンではポンピングロス,ピストンリング,複雑なヘッド回りなど至る所にフリクションの要素があります。一方,慣性重量については,レスポンスの向上,コスト低減を目指した結果としてかなり小さい値になっています。
     従って、エンジンの回転は、慣性重量が大きい値ではなく,フリクションが大きいため、回転数がすみやかに低下するのです。
     他方,モーターではローターは鉄と銅の固まりであり,結構な重さがあります。フリクションは負荷側(ミッション側)と反負荷側(反対側)にとりつけられたベアリングとせいぜいファンがかき回す風損程度ですので大した大きさではありません。だから一度回転を上げるとなかなか落ちてこないのです。
     これを効率の面で見るとフリクションの多さはエンジンの効率を下げる大きな要因になっています。ところでモーターの大きな慣性重量は効率を下げていないか,が気になります。加速中のシフトアップ時には回転数が上がったモーターの回転数を下げざるを得ないのですがこの評価はたいへん難しいのです。
  • エネルギー保存則により,モーターの運動エネルギーは加速に使われる
  • クラッチでの摩擦熱の分は損失になる。損失の大きさは面圧とクラッチ部の相対速度と時間の関数となり、スパッとつなぐかじわっとつなぐかによっても変わる。
  • モーターの場合,3速発進というずぼらができる。
    結論としては慣性重量の違いが効率の違いに至る事を示すのはたいへん困難であるという事になるのですが、これは効率には大した差がない,という事でもあります。
    長々と書きましたが、ここでの結論はフリクションの少ないモーターは効率が良い,という事です。