藤原志保 「墨と和紙の融合」  
-Sumi ink
Japanese Paper in A Fusion-

2014.11.1()-12.21(日)


鎌倉画廊 Kamakura Gallery

248-0031 神奈川県鎌倉市鎌倉山4-1-11

Tel: 0467-32-1499  Fax:0467-32-8920

E-mail: info@kamakura-g.com 

URL: http://www.kamakura-g.com

4-1-11 Kamakurayama Kamakura Kanagawa

248-0031 Japan tel:81-467-32-1499

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                  photograhy: key okano 鎌倉画廊提供

藤原志保 「墨と和紙の融合」に寄せて

Fusion of Sumi and Washi

 

 

墨と和紙にどっぷり浸かっている今、生あることに感謝している。生後半年、兵庫県西宮市、甲子園球場の近くで第二次世界大戦の空襲で焼け出され、火の海の中、母の背に負われて防空壕にのがれ生き延びた。又、20年前、阪神淡路大震災で、アトリエ、勤務先が全壊、住居も壊れたが、間一髪で命が救われた。命があればなんとかなる。人生の苦難は芸術家の肥し。修行であり精進の糧。

小学1年生より墨と和紙を手にし、近くの書道塾で学んだ。書家になる為ではなく、その当時、田舎の丹波篠山では、人間のたしなみとして、茶道、華道なども普通の習い事であったように思う。日本画家の藤原二鶴を祖父に持つ家だったからかもしれない。今日、生涯、墨と和紙に生きようとは当時思っていなかった。しかし画の道に生きるなら生活を支える職業を持つように、売り画をかかなくて済むと、体験からの祖父の言葉に、看護師という職を選んだ。人間の深さを必要とする仕事であるように思えた。神戸市立中央市民病院を始めに、クリニック、民間病院など、定年まで勤めながら画の道に生きた。

26歳ごろ、神戸で水墨画を目にし、美しい墨色に感動し、水墨画家、松本奉山に師事し、墨と和紙の基本を学んだ。南は屋久島、北は北海道、根釧原野に取材し「樹」をテーマに作品を発表していった。30歳のころ山口県秋吉台に旅した時、台風に遭遇し、180度広がる大地すれすれに垂れこめる暗雲を目にした時、私の描きたいのはこれだと、神戸のアトリエに帰り筆を持った。勢い余って画仙紙が破れた。この破れは墨と和紙の間で起こる現象だ。それから、墨と和紙の現象実験、表現の可能性を求めて、抽象、壁掛けオブジェ、立体、空間造形、インスタレーション作品へと展開していった。それは自然の変遷だった。そのころ、京都の桂離宮を拝観した時、障子、畳、庭石の配置、建築の構図の美しさを感じそれが、和紙を折りたたみ、構図へのヒントになったと思う。モンドリアンが若い時、樹を描いていて、後に有名な黄・赤・青のコンポジションなどへ変わっていったのを知った時、ドキドキしたのを覚えている。そして、兵庫県立近代美術館で、アート・ナウを、また具体の活動を、1968年の須磨離宮現代彫刻展で、関根伸夫の《位相-大地》、多田三波、宮脇愛子などの作品を見て、すごいことをしている作家がいると思った。

阪神大震災後、周囲にまっすぐ立っているものがなく荒廃した環境の中から作品が生まれた。2009年、兵庫県立美術館のアトリエ、約195平方メートル、天井高7.2mの、安藤忠雄建築空間、会場中央から岩石も吊るせるクレーンに作品を吊るした。あの地震でも吊るしたものは耐えた、耐震展示だ。2010年には同じ展示空間に、真直ぐ立ったφ40cm、h200cmの円筒6本を、床には土佐楮手漉き和紙3m×4m6枚繋ぎ、揉み、襞をつけ、墨水につけ乾燥させたのを床に延べ、空間を表現した。空間造形は形にあらず、作品が生み出す力、空気、水墨画でいう、余白を、空気を表現する。

近年、日本古来の素材、墨と和紙を現代美術に展開した私の今を、フランス、オーストラリア、ニューヨークなどで個展を開催し、手ごたえを感じた。

鎌倉画廊が銀座にあった頃、1986,‘88,903回企画個展を開催していただき、今回は25年ぶりに、4回目の開催となる。天井から、h210cmw270cmの分厚い作品を吊るし、また、床に山形に展示して、その間を廻っていただき空間を感じていただきたい。額装の作品は、和紙に墨が浸透した、裏面をお見せしているのもある。墨と和紙は広い意味で染めと言えるかもしれないが、墨は染料ではなく粒子でできている。和紙の繊維に墨の粒子が固着している。日本画で使用するドーサ液を用いている。墨は膠で固まり固形墨となっている。固形墨を硯石で摩り下ろし、粒子の大小が混ざり、水で薄めることで墨のトーンを表現することができる。折りたたんだ和紙を墨水に浸し、そのまま乾燥させると、一番上の面が最初に乾く、毛細管現象で下層の墨の粒子が上層へ移動しすべて乾燥すると上層ほど粒子が集まり黒くなり、下層ほど白っぽくなる、墨の粒子が上層へ移動してしまうからである。その時の湿度、乾燥する速さにより、その間のグラデーションは豊かな表現になる。今も実験し挑戦している途上である。