健 忘 録 V

まさかまさかの物忘れ 改題

★01年1月某日★山で昼飯の際、いつもマグカップを忘れている。常習なので「マタ ァ」と山仲間に嘆かれる。ウーン、なぜ、カップを 忘れるか。たいがいの登山装備はひとまとめに保管しているが、カップた゛けは食器棚に戻すからだろう。理由が分かっているのに、いつも これだ。

★01年1月某日★金剛山に珍しく積雪があるというので、引き出しの中のスパッツを探す。なんと3足 あった。ショートスパッツとロングスパッツがあるつもりでいたら、ライトスパッツもあった。そして最後のは、実は実は、ご 極く最近 登山用品店で長く思案した末、買ってきたものであった。

★01年1月某日★旅行の支度をしているが、何か忘れモノをしそうな強迫観念がつきまとう。備忘メモを張り出して、厳重警戒中である。こういうストレスは、体の疲れよりも厄介。深く澱の ように沈んでいる。

★01年1月某日★西洋人は一度会った人の名前をすぐ覚える。努力して覚えるといっていい。それが生活の知恵、社交上のマナーであるからだ。年をとってもなかなか人名を忘れることがないそうだ。そうだとすると、古いことは記憶にあるが、新しいことはすぐ忘れる記銘力低下という能力も 国情で差が出ることになる。ならば、忘れたら困るプレッシャーとか、緊張に心身を置けば、忘れないかもしれない。「失礼、ド忘れしまして...」で済む日本。我が身を含めて、われわれ社会の人間関係は甘いのかもしれない。

★01年1月某日★一瞬のド忘れ、手に持ったモノをポロリと落とす。こんなことが頻出するのは、脳に微小な梗塞があるからではないか、つまり、血のめぐりに故障が出ているのではないか、という 指摘が本にあった。おお、じわじわ脳梗塞の接近。老人性痴呆の始まりだ。怖いな、怖いな。

★01年1月某日★モノ忘れして人様に迷惑をかけるのは、いまのところそう多くない。 それが救いでもあるが、図書館の本の返却日をコロリと忘れてしまった。これは、具合が悪い範疇のモノ忘れ。よくあることなので、今度は返却日を机の上にメモ書きしていた。当日の朝もしっかりそのことを自覚していた。「よし、よし」とつぶやいてメモを破ったほどなのに、忘れてしまった。それも数日たって、当の本を見るまで 見事に忘れていた。自覚と返却との間にほかの時間がかかる行動が入ると、もう忘れるのだ。情けないな、ったく。!

★01年1月某日★漢字を思い出そうとして、字画を空になぞることをしばしば行う。この行為を「空書」というそうだ。東大の佐々木正人という先生が、空書できないように手を拘束した状態で、漢字の記憶 能力を調べたところ、空書できる者とできない者との間に差があったという。文字の記憶をよみがえらすのは、頭だけではない、というご託宣。ならば、しっかり手を動かすか。

★01年1月某日★ロボットの話二題。ソニーのアイボという名前の犬のロボットがよくできている。高島屋の即売コーナーで見とれた。飼い主の教えたシツケや遊び、喜怒哀楽の表情を 動きで示すようになる。まるで記憶力が次第に向上するような仕掛けになっているように見えたので、マに受けていたが、モノの本によると、実は仕掛けがあったのだ。アイボは記憶して芸を覚えるのではなくて、 工場出荷時から、すでにその「能力」が仕組まれていて、飼い主の扱いによって徐々に芸を小出ししていくのにすぎないのだ。つまり、アイボには記憶力がないのだ。考えてみると、当たり前のことだが、 なぜか安心した。アイボがドンドン芸を覚えていったら、教え方によっては「凶犬」にも「天才犬」にもなって、えらいことになるもんね。

★01年1月某日★ホンダの人間のように動くロボットがテレビや新聞の広告に出ている。このロボットの名前が覚えられない。テレビの広告では、昔なつかしい音楽に乗ってステップを踏む。それをみている女児が同じようにステップを踏む。疑似人間ロボット技術のある到達点を 見せてもらって楽しい。けれども、この音楽の曲名が出てこない。で、もって心配なのは、何とか言う名のロボットが、何とか言う音楽でダンスするのは、楽しい場面ですな。こんな物言いで世の中通るやろか。愕然。

★01年1月某日★ここに文章を書くには、こういう手続きをしている。「ソース」の「メモ帳」を開き 、書き込む。 「ファイル」の「上書き保存」をクリックして、プラウザの画面を開き「更新」を チェックすると、いまあるような形で文章が現れる。ところが、「上書き保存」の クリックを忘れてしまうことが、ヒンピンと起きている。何十何百回やった手順さえ、 身についていない。アーア。

★01年1月某日★旅行で必要な傷害保険の加入用紙に記入していた。途中でミスに気づいた。住所のところに名前を、名前のところに住所を誤記していた。ミスが続くと、自宅の電話 番号がなかなか水面下から浮上しなかった。いよいよ、危うし、の感。

★01年1月某日★1961年のキューバ危機。第三次世界大戦が核戦争で始まる恐れがあった危機一髪の 二週間を描いた洋画「13DAYS」を見た。ケネディ兄弟そっくりの役者が登場する。ケビン・コスナー演ずる大統領補佐官の権限の絶大なのに驚いたが、役柄の名前はついに覚えられなかった。補佐官というのは、日本の公設秘書というようなええ加減な役柄て゜はなくて、ほとんど大統領の影武者の権力者。副大統領よりも密接なんだな。

★01年1月某日★21世紀、最初のモノ忘れというのは、どういう形で現れるか。興味津々であったが、オセチ料理の定番、 カズノコ、黒豆、ボウダラなどと並ぶ小魚、ビールのアテにもなる、あの小さなイワシの子。あの歯ごたえのいい食物の名前が出てこないことで始まった。「えーと、えーと」の元朝でした。


★00年12月某日★大晦日のテレビ番組予告に洋画「アラビアのロレンス」というのがあった。あの砂漠をラクダで疾走するイギリス人俳優は何という名前だっかな。冒頭の広大な砂漠のシーンがよみがえってきたが、俳優名はようとして浮上しない。

★00年12月某日★栄養補助食品にサプリメントというのが、流行りになっている。そのサプリメントのさまざまを紹介した冊子を見ていたら、「健忘症にはイチョウ葉エキスで脳の血流を促進する」 としてイチョウ葉エキスを推奨している。曰く、加齢とともに衰える記憶や判断力。しかし、脳に十分な酸素と栄養を与え、常に脳を刺激することで、そのダメージを減少することが考えられます、とある。酸素と栄養か。そんなことで 記憶力劣化を防げるなら、ノーベル賞ものだな。イチョウ葉エキスも重い責任を背負わされたと泣いているかもしれない。

★00年12月某日★クルマを運転して走行中、なんの脈絡もなく、某氏の名前が脳天に現れて「年賀状を送ったか」と 自問自答する。しかし、よく考えてみると、(考えなくてもだが)、某氏には年賀状なんかもともと出したことがないのだ。こういう記憶の突出は、どういう作用なのかな、とまどう。

★00年12月某日★夕食に出た緑濃い野菜、その名前を思い出そうとして咀嚼しているのだが、アスパラガス、キャベツなど俎上にのるが、それとは違う と分かっているのに、喉から出てこない。ついに、家人に聞く。「プロッコリー」。ハッー、ため息とともに呑み込む。

★00年12月某日★トシとって本来の力が衰えてくると、ヒトは肩書にこだわるようになる、という箴言をタレントの渡辺徹がテレビのインタビューで語っていた。肩書でモノを言うようになるのは、活力の劣化という人間観察でした。

★00年12月某日★おおむね年賀状を書き終えた。夕飯を食べていたら、ふいに家人の郷里にいる兄夫婦の宛名書きを忘れていることを思いだした。そういえば、去年、喪中とかで年賀状が来なかった人たちも忘れている。これは、もらった年賀状をアテして宛名書きした落とし穴であった。

★00年12月某日★医療ジャーナリスト、宮田親平さんが朝日新聞夕刊に寄せている記事「年につける薬」の中のいい話。退官する大学教授のスピーチ。これからいずれポケてくるであろうが、たぶん自分では気がつかないであろうから、そのときの合図として妻に「トントントンと 三回後ろから肩を叩いて」伝えてくれるよう頼んでいる、という。自分の病気を認識す る意味で「病識」という言葉があるが、心の病気ではしばしばこれに欠けるんだそうだ。

★00年12月某日★このページを下にスクロールしていたら、新着の印が三カ所にあった。移し忘れている。トホホホ。

★00年12月某日★本がたまって、狭い家のあちこちに分散、収容しているので、思い切って処分することにした。しかし、驚くことに、タイトルも中身も一切悉皆、覚えていない本がいくつもある。こういう悲惨を目の当たりにすると、本からインプットされたものは、何だったかのか。読んでも読まなくても、変わらなかったのか。そういう 根元的?疑問に突き当たる。

★00年12月某日★ひさしぶりに神戸の町を歩いた。壮年と実年の一時期、仕事で二 度過ごした町なので懐かしかった。高架下の汚い?中華料理店がまだあった。ふいにコートに長くこびりついていた油汚れが、そこで飲んだ時に付着したことを思い出した。ヘンなことが よみがえるものだナ。

★00年12月某日★評論家、鶴見俊輔が毎日新聞夕刊にいいことを書いていた。もっとも、この際のいいこととは、記憶力喪失感を補う都合のいいエピソードなんだが。「自分のもうろくをまっすぐ見つめるところからわいてくる 力が、“老いの力“であると私はうけとりたい」。また、祝賀会などで、エンドレスのような長々しい挨拶を述べるエライ人は、ヒトは自分の長広舌を聞くもんだというタガのゆるんだ傲慢があるとも指摘している。本当に、そうだ。詰まらぬことを 話し出して、止まらないヒトがいる。

★00年12月某日★知人の75才男性。夜間、電話してきた。ヨーガを健康法に取り入れて熱心なのだが、最近は 悟りの境地とか。「手を膝の上に置くと、誰でも、手の存在に気づくはずだが、私はもう何も感じない」「じゃあ、置いた手でヒザをさすってみたら分かるでしょう?「いや、何にも感じない。 手の実在感がないんだ」。相づちに窮していると、男性はいう。「解脱かもしれませんね。これは」。解脱か ボケか。電話でよかった。

★00年12月某日★鹿島茂なる共立女子大の先生が毎日夕刊にいいことを書いていた。トシとともに記憶力が鈍るのは、「脳の老眼化」であるというお話。近くのもの(近くのこと)は見え ないが、遠くのもの(遠くのこと)は見える。モノを見る能力が衰えているわけではないので、 その結果、直近のものの細部がわからなくても、全体を大づかみすることはできる。「脳の老眼化」でも、判断力が衰えるわけではない というオイシイ学説?。

★00年12月某日★家人と登山活劇映画「バーティカル・リミット」を見に行った。やたらと滑落、転落シーンがあって、心臓に悪い洋画だ。映画館を出て、家人にタイトルを聞いたら、全然覚えていない。 ハナから覚える気がないようだ。覚えなければ、忘れることもない。

★00年12月某日★孫娘の希望するクリスマス・プレゼントは、カタカナばかりのキャラクター電動オモチャで覚えられない。結局、娘が直接買ってきて、預かることになった。

★00年12月某日★電話で知人がお酒を送るといううれしい話。しかし、もう二週間になるけれども、到着しない。どうなったのかな、あの話、忘れたのかしら。こういうのって、催促できないし,,,忘れることにするか。

★00年12月某日★年賀状の宛名書きをやっていて、たちまち二人について二枚も同じものを書いてしまった。「既決」と「未決」の箱を用意して、慎重にやらないと、ムダが 多くなるが、そういう事務処理能力が衰退しつつある。

★00年12月某日★ラジカセをいじっていて、テープが入っていた。再生すると、聞き覚えのある自分の声。しかし、いつ再生しようとラジカセにセットした のか、分からない。

☆00年12月某日☆山歩きのつれづれに先輩から聞いた話二つ。目下、アメリカで大統領 選挙、奇怪な展開で白熱中。テレビで開票風景を見ていた元大阪府庁の役人、突如、老妻に申しつけて「これから選挙に行って来る。背広を出せ」 と命じたそうな。実はこの元役人、80ウン才、とっくに退官、ボケも始まっている。現職のとき、選挙事務で手痛い経験があって、その記憶がよみがえったらしい。虚実入り交じって の不可思議な言動だな。ボケの現れ方には、そのヒトの生活、職業歴、価値観が反映するようだ。

二つ目。このようにボケていても、電話の応対だけは、まことにスラスラと事務的にやれるとのこと。で、ありますから、電話しか掛けてこない人には、どう説明しても ボケ症状のことが理解してもらえないとのこと。なるほど、電話の応対は正常なのか。ナゼ、だ?

☆00年12月某日☆家人が聞き及んだ話。ある88才母、還暦すぎた定年退職している同居の長男に、怒りをこめて、こう叫ぶという。「いつまでもテレビみてないで、二階に上がって勉強せい」。コワーイ、虚実さまよう世界だな。

★00年12月某日★別住まいしている86才の実母の怖い、怖い消息。二人暮らしなのに、時々、母はお膳に箸を数人分並べる。(子育てのころのアクションが彷彿するのか)。向かいあって食事している配偶者に「あなた、誰れですか」と問いかける。突然「帰る時間をちゃん電話 してくださいね」。「この一週間、どこへ行っていたのですか」というそうな。ウーン、適切な言葉が浮かばず、ただ息 のむ。ボケと正常の狭間の漂流。

★00年12月某日★ことしの流行語大賞が「オッハー」。メール友達がよく送ってきていたが、「オハヨウゴザイマス」の略語くらいに受け流していた。 香取慎吾なるタレントの出る番組なんか、ついぞ見たことがなかったので、そこが発生源とは知らなかったね。これってオクレテいるのかな。 これくらいなら、オクレテもいいか、という気分。

 後日談。香取慎吾なるタレントが「おはスタ番組」なる子ども向け情報番組に出演 したとき、この番組で使っている「オッハー」に目覚めて、自分の番組に流用するようになった。香取クンは元祖ではなく、伝播者だったのだ。

★00年12月某日★ボケの予兆の一つに自我の過剰肥大があると評論家。たとえば、過去の事績をあれこれあげて、あれは俺が最初に手をつけたものだとか、 現在彼があるのは、オレが面倒みてやったのだとか、風化したことをやたらに自慢する傾向を言うらしい。 いるなあ、この手の人物。用心、用心しなくっちや。

★00年12月某日★暮れになると、テレビは懐メロ番組が目立つようになる。橋幸夫が「霧氷」を歌っている。昭和40年代の大 ヒットソングだと司会者。なるほど、覚えている。しかし、家人は全然記憶にないと不思議がっていた。同じ時代を同じ屋根の下に生きて、 この隔たり! ほかにも、こんなこと、大アリなんだろうな。

★00年12月某日★アメリカによる沖縄返還がいつだったか。ある講義の席で話していて、出てこなかったので、二十数年 前にとか言ってお茶を濁した。お茶を濁してすむことか。反省 している。

★00年12月某日★尾崎亜美が歌っていた。テレビを見ながら、家人がこんなふうな歌 が昔流行ったという。白い家に緑の庭、子犬がいてなんとやらという歌である。さあ、そこから歌手の名前が 出てこない。デビュー当時よりも、ふっくらサンになった姿を思い出すが、ダメ。しかし、昨夜、夜半に目覚めた時、 いきなり「小坂明子」の名がパッと出た。足かけ二ヶ月の記憶よみがえり劇でした。

★00年12月某日★パソコンからデータをフロッピーデイスクに取り込むのは、いいが、何枚か取り込んでいると、何が何やら、さっぱり整理がつかなくなる。フロッピーの色で覚えて おいて、あとでラベル張りしようしても、肝心のオリジナルの記憶がないのダ。

★00年12月某日★かつてツアー登山の際、同行者が写してくれたビデオを酒を飲みながら、再見した。遠く数年前のものだと懐かしく思っていたら、画面に日時のデータがあって、ほぼ2年前のことと知る。それにしても同行者のなかに は顔や名前さえも、まったく記憶にない 「未知の人」がいた。「未知の人」であるはずがないのに。2年前のことが20年前のことのように遠い。


★00年11月某日★パソコンで、ある場面を再生しようと、フォルダを探したが、どうしても見つからない。見つからないのに、いらだち、腹をたてていたら、そうだ、パソコンの調子が゜悪いので、過日、再セットアップしたときに、こつこつため込んでいた アプリケーションをすべて消してしまったことを思いだした。アーア、無念。アッ、この話、前に書いたかな。

★00年11月某日★新聞報道で記憶に関する話題が二つ。アメリカのなんとかという(イヤモウ、忘れている)大学の先生の研究によると、記憶という能力は、何かを覚えても、そのあと眠らないと 身につかないのだそうだ。徹夜の一夜漬けのような勉強は労多くして身につかないという説だ。これって、パソコンに新しいソフトをインストールすると、たいがい「再起動」を求めているのと、似ている なあ。大発見したような気する。

もう一つ。日本酒の成分には高血圧や健忘症を招くといわれる酵素の働きをじゃまするアミノ酸のつながり(ペプチド)を見つけた。これをラットやマウスに与えると、健忘症 などが改善する効果で出たそうな。ヒトにも効果があるかどうか、まだ研究中とか。飲ン兵衛には朗報ではないか。ただ、この研究をしているのは、日本酒メーカーだから、多少割り引きしなくてはならないかな。

★00年11月某日★パソコンで「一太郎」を使って文章を書き、レイアウトするが、次の機会には、もう手順を忘れている。毎回、一からやり直しているんだから、効率の悪いこと。腹ただしい限り。

★00年11月某日★ある場所で朝鮮民主主義人民共和国か、朝鮮人民民主主義共和国か、とっさに出てこなかった。この国の名前についてだけ、フルネームで呼ぶことがマスコミの呼称として一般化している。そのあとで「北朝鮮」という。こんな ならわしはいつできたのだろう。英国の名前なんか、フルネームで言うのは、大変なんだがね。

★00年11月某日★モノ忘れの話を友人たちと話していたら、自営の友人がいいことを言った。「モノ忘れするようになったのは、体の衰えとうまく調整してくれているんじゃんないの。アタマの方が」と。 なるほど、そう考えるとラクになるね。

★00年11月某日★大きなホテル。地下の一、二階に大駐車場がある。友人は置いたクルマの場所を忘れてしまい、走り回るが、結局、わからなかった。 改めて警備員に駐車場の構造をしっかり聞き出し、探しに出かけた。待っている間、警備員は「自分のクルマがわからなくなる人ですか。そりゃいっぱいいます」との ことだった。心温まる話だな、うれしくなって笑った。

★00年11月某日★妻を三人取り替えた友人が、ふと漏らす。嫁はん呼ぶとき、名前を間違えそうになる、と。怖い話やな。

★00年11月某日★単身赴任している某新聞社の編集局長が話していた。朝早く目覚めて朝刊を取りに行くと、ない。「あれっ、配達洩れ」と思い、しばらくして新聞休刊日だと気づくという。ここの新聞、ダイジョウブかな。

★00年11月某日★手痛い物忘れをやってしまった。パソコンの調子がとても不安定なので、思い切って再セットアップした。再セットアップは上々でやれて、いっぱし エンジニア気分でいたところ、アッという衝撃。なんとホームページのオリジナルをはじめ、これまで組み込んできたソフト一切が消えてしまっていた。長い時間をかけて積み上げてきたホームページの 元を再び、イチからやらなければならないかと思うと暗然、力が抜けた。

★00年11月某日★外出する際、留守電に切り替えたかどうか。これを思案し出すと、アリ地獄。底なしの疑念がもたげてくるから 、舞い戻ると、なに、ちゃんと切り替えてある。

★00年11月某日★クルマを走らせてていて、どうもやけに音がするな、と思いつつ走っていて、途中で、あまりのことにゾッとした。雨でもないのに、ワイパーが 左右に動いていて、それが物音の原因というのに気づかなかったのだ。目もおかしくなってきた。見ていて、見えていないのだ。

★00年11月某日★ひどいモノ忘れだ。病院の診察予約日を見事に忘れた。忘れてはいけないので、机の上の 目前30センチのところに予約券の紙片をピン留めしているというのに。当日、夜になって気がついた。 アアー、慨嘆の声もなし。

★00年11月某日★11月3日は、晴天の日が断然多い「晴天特異日」で知られている。観測史上、圧倒的多数の%で、雨天日よりも晴天日が多いのだが、その%を忘れた。大事な一点を忘れたために、話のリアリティを欠く、ということがあるもんだ。

★00年11月某日★車内の斜め向かいに或る会合でよく出会った実年女性が座っていた。しかし、どうしても名前が浮かばないので、ご挨拶をしないことにして、カバンから文庫本を取り出して、一心不乱に読み続けた。終点駅に着くと、その女性はいなかった。途中下車したらしい。不義理が多くなるナ。

★00年11月某日★マツモトさんから留守中に電話があったと、家人が言う。頭のハードディスクが激しく反応しているようだが、申し訳ないことにどちらのマツモトさんか、検索の結果に時間がかかった。ちなみに「マツモトキヨシ」という人名は、ドラッグストア兼日曜大工用品店だと最近になって、知った。長く野球中継のTVで「東京ドーム」の広告を不審に思っていた。

★00年11月某日★出かけようと、クルマのキイを持ったつもりで家を出ると、家のカギ束だった。

★00年10月某日★金剛山の山頂の寺務所に登山捺印所がある。登るたびに登山回数を確認、それを押捺で証明してくれるシステムなのだが、そのカードを持っていくのを忘れた。

★00年10月某日★ナカガワなる官房長官が引責辞任した。右翼団体幹部と会食したり、寝室にいる愛人の写真を公開されても「覚えがない」との国会答弁が虚偽と知れた。ここでハタと気がついた。記憶喪失症には政治的原因もあるということだ。そういえば、かつてロッキード事件のころ、国会の証人席に立った連中は、「記憶にございません」を連発したものだ。それに比べると、こちらのモノ忘れなどは、可愛いもんだ。ほぼ人畜無害、きわめて健全な症状であることが証明されて欣快にたえない。

★00年10月某日★朝刊を取りに郵便ポストに手を入れたら、昨日の夕刊もいっしょにあった。これはショック。昨晩は夕刊を読まなかったことに、気がつかなかったのだ。休刊日でもなく、在宅していて、この有様。いよいよボケが急接近してきたという感慨に強くとらわれて、しばらく呆然とたたずむ。エポック・メイキングなモノ忘れの到来。ウウッ。

☆00年10月某日☆40代の主婦の話。シャンプーとリンスを買って帰ったつもりだったが、帰宅してみると、両方ともシャンプーだった。容器の色に惑わされたらしい。もう一つ、モノ忘れエピソードを教えてもらったのに、忘れてしまった。ゴメン、ゴメン。

★00年10月某日★山友から「ヒメマルカツオブシムシ」の面白い生態を教えてもらった。しかし、いちばんの難点は、この長い名前をきっと覚えきれないことにある。ただいま、中東和平問題で関係四カ国の首脳会談がエジプトのシナイ半島の先端「シャルムエルシェイク」で開催されているが、この開催地名も多分、覚えきれないだろうな。

注釈・ 「ヒメマルカツオブシムシ」は「姫丸鰹節虫」とアテ字をして覚えればいい、と後刻、山友から指摘あり。ウーム。

★00年10月某日★テレビの「青春ポップス」番組で布施明が「青い影」を歌っている。この曲が好きで、なんどもなんどもCDをかけていたころがあるのだが、なんで好きになったのか、それが思い出せない。同じ番組に流れた「愛と青春の旅立ち」の方は、リチャード・ギアの顔が浮かんでくるのだが。それにしても、若くて、しかし、なんだか不満だらけだったあのころの曲は甘美だな。

★00年10月某日★朝食にトーストが定番。トースターにスライスを置く。時間セットを忘れて、数分後に取りに行くと焼けていない。これは自慢じゃないが、しょっちゅうのこと。今朝もそうだったので、時間を再セット。再び取りにいくと、なんと焼けていない。それもそのはず、電源を入れてなかった。アーア、重症になってきた。ヒタヒタというよりも、ドッドッと勢いを増して諸事忘却のペースが上がってきたぞ。

★00年10月某日★家の前に花が咲いている。秋たけなわだ。コスモスや玉スダレは分かる。けれども、新参の洋花は、なんど家人に聞いても覚えられない。無粋なことで、ほんまに落胆、落胆。

★00年10月某日★介護保険スタート半年。65才以上の人たちからも保険料の徴収が始まるというので、その方面の記事や番組が多い。しかし、なんべん見ても読んでも、よく分からない。この手の話は、我が身に危機迫らないと、身につかないものらしい。

★00年10月某日★必要があって名刺帳を点検したが、きれいサッパリ、なんの手掛かりも思い出せない名刺が三枚。申し訳ないが、ゴミ箱へ。合掌。

★00年10月某日★筑波大名誉教授の白川英樹さんがノーベル化学賞もらった。日本人で九人目という。それでアトランダムに受賞者リストを頭で反芻するが、半分くらいしか、出てこない。元首相、佐藤栄作がもらったことを思い出して不愉快になった。平和賞は政治賞、時代の政治ショーだな。

★00年10月某日★テレビに阿川佐和子が出てしゃっべている。いいとこの、才女ぶりっこがイヤ味なのだが、しきりに亡くなった父親の話をする。この父親の名がどうしても浮かばない。かつて海軍を題材にした小説を書く頑固な作家だった。

★00年10月某日★混迷のユーゴに新政権が生まれた。ミロシェビッチ大統領が倒れて、民衆が担いだのが、これがなんべん見ても聞いても覚えられない名の大統領。そういえば、シドニー五輪で活躍したオランダの水泳選手の名前も長すぎて、ゼンゼン記憶にとどまらないな。

★00年10月某日★備忘録の手帳の某日に「注意」と書いてある。これが、わからない。なんの「注意」だったのか。備忘のメモは、具体的でないといけないナ。

★00年10月某日★新しいパソコンを、、こんどはノート型か携帯型でほしいと思い、物色しに行く。事前にパソコン雑誌でスペック(仕様)を調べて行くのだが、これが全然役に立たない。覚えているのは、メーカー名くらいで、機種なんか雲散霧消しているのだから。

★00年10月某日★中島みゆきのCDを買ってきて、一日中、聞いているが、CDを離れると、もう歌い出しがわからない。もともとオンチだが、それに輪をかけて、この始末。ひとり口ずさむこともできない。

★00年10月某日★元の職場の同輩とコンサート会場で出会った。一人はすぐ氏名が浮かんだが、もう一人は出で来なかった。一時間後、帰りの電車の中で、ふいに思いだした。彼の仕事のことなんか、よく覚えているのに。この氏名欠落症候群には、ホトホト困ってしまうな。

★00年10月某日★モノ忘れも、しだいに佳境に入ってきた感がある。朝、学校の駐車場にクルマを置いた。講義のあと、駐車場に戻ったが、止めてあるクルマの位置がわからず、何列もの車列の間をウロウロ。まさか、自分のクルマがどこにあるか。人に問うこともできず、参ったな、コレハ。

★00年10月某日★最近見た映画の話を知人としたが、彼は「題名は忘れたが、監督は有名な、ほれ、あの、いまちょっとド忘れ。思い出せないが、いい映画だった」という。相づちの打ちようもない。上には上がある、心強い限りだ。

★00年10月某日★朝6時50分に目覚まし時計が鳴った。確かに、掛けた覚えがあるが、なんでその時間だったか、しばらく思い出せなかった。

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