アジア・トレッキング

アンナプルナ・ダウラギリ展望トレッキング
=ネパール(2001/2)

プーン・ヒルから遠望した(右から)マチャプチャレ(6993M)、ヒウンチュリ(6441M)、大吊り尾根の右に盛り上がるアンナプルナ・サウス(7219M) 


朝5時55分、テント場そばのロッジを出発、プーン・ヒル(3194メートル)に向かった。アンナプルナとダウラギリ山系の全容を一望できる朝が来た。幸い空は晴れていた。ここは標高2895メートルのゴラパニ。寒気が強く、みんな雨具を防寒着代わりに羽織り、その下には厚着を重ねている。一行は11人。体調を崩すなどした3人は、見合わせた。まだ薄暗く、ヘッドランプをつけた。しかし、薄明の空の彼方に、もうアンナプルナ南峰(7219メートル)がぼんやりと浮かんでいるのが見えた。胸が躍る。


期待にワクワクしながら、石段を上る。テント場を横切り、さらに石段を上る。朝飯は抜き。モーニングティを一杯飲んだだけである。黙々と足元を見つめて一列になって進む。吐く息が白い。霜が降りていて、石段が滑る。スリップしやすく、特に下山路は危ない。案の定、降りる途中で白人女性が見事に尻餅をついたところを目撃した。「ビー・ケアフル」と仲間の女性が大声をあげた。滑った女性があまり長く起き上がらないので、骨折でもしたのかと思ったほどだ。左右は霜に覆われた草木が生えている細い山道である。


先頭のサーダーが、ゆっくりゆっくり、時々後ろを振り返りながら、誘導する。 雄大な日の出に間に合うように展望台がある丘をめざしている。歩き初めて20分もすると、夜の闇は次第に白く薄くなり、ヘッドランプを消して歩いた。ジクザクの道の勾配は緩やかである。


一度、切り開きに出たら、朝日を浴びる寸前のアンナプルナ南峰やダウラギリ( 8167メートル)がはっきりと雪と岩のそそりたつ壁を露わにして立ち上がっていた。思わず、歓声が起こる壮観なパノラマ。プーン・ヒルの丘へ一層の期待が高ぶる。それだけでもすばらしい展望地というのに、二年前にさらに高さ18メートルの鉄骨製の櫓を建てている。その櫓がタダパニからゴラパニに向かうトレッキング・コースからも遠望できていた。


そして、今、櫓がはっきり間近に見えてきた。東の空が急速に茜色の強さを増してきている。朝日の勢いに押されるように山道を急ぐ。なんと白人二人がもう降りてくるではないか。ついつい、はやる気持ちを押さえきれなくて、小走りに山頂の台地に出た。真ん中に櫓が立ち、周囲は一本の草木もなく、ぐるり展望がきく広場であった。標高3210メートルとの立て札がある。地図の表記と違っている。

櫓にも、台地にも、意外にも大勢の外国人たちがいた。彼らは早くから待機していたようだ。ひときわそそり立つダウラギリがあった。巨大な白銀の斧、といった険しい山容。同行者で、古希の男性の300ミリの望遠レンズでのぞかせてもらうと、あの縦縞のヒマラヤ筋もイエローバンドもくっきりと眺められた。


朝日を浴びてヒマラヤ襞がくっきり浮かぶダウラギリ(8167m)の威容

ビッグ1のダウラギリから目を転ずると、大きな鞍部を挟んで右からツクチェ・ピーク(6920メートル)、サパ・ピーク(6021メートル)。ここでいったん前山に視界が遮られて山系がとぎ゜れたのち、今度はニルギリ(6940メートル)が頭をもたげ、アンナプルナ・パイン(7847メートル)、そしてアンナプルナ南峰と続く。南峰からは大吊り尾根でつながるヒウンチュリ(6441メートル)、少し間を置いてマチャプチャレ(6993メートル)とダウラギリ・アンナプルナ山群がそろい踏みしている。


やや春霞気味で、どんよりと大気がよどみ、山々の輪郭に鮮明さが欠けていたのに、ハイライトの朝に限って、お誂え向きの好天に恵まれた。なんという幸運!一番高いダウラギリに続いて東寄りのアンナプルナ南峰が先端を金色に染めている。金色の輝きは次第に下部に降りていき、青い空に美しく輝く偉観を展開していた。


ただ、人類が始めて8000メートル級の山頂に足跡を残したアンナプルナ本峰。そのアンナプルナ本峰(8067メートル)は見えないのだ。南峰からずっと奧にあるからだ。サーダーは「アンナプルナ・サウスのビハインド」といい、アンナプルナ本峰を眺めるには、内院トレッキング・コースでなければ拝めないとのことであった。悔しい。残念だけれど、しかし、この絶好の展望地から見る大山岳景観も実にすばらしく、見応えがあった。寒気を忘れ、カメラを構えて興奮したひとときであった。


(もっとも帰国後、写真を焼き付けてみると、壊滅的に写り具合が悪かった。怒りのあまり、このキャノン一眼レフをお払い箱にすることに決めた。というわけで、山の写真は同行者の喜捨にすがることにした。後日、大阪市内などで手広く カパン、袋物の店舗「スミレヤ」を経営をされている森本章夫氏からたくさんの写真の提供を受けました。ここに掲載されている写真のうち山の写真は、すべて森本氏撮影です。森本氏に感謝申し上げます。)

チャンドラコットから眺めた マチャプチャレ(右端)とアンナプルナ山系


今回のトレッキングは、香港を経て六日前にカトマンズ入り。国内線でポカラに移動した翌日からトレッキング・コース最初のテント場、チャンドラコットを経て、ガンドルン泊、シャウレバザールと山道を上り詰めたあと、タダパニ泊へ。そしてゴラバニについた。プーン・ヒル展望を楽しんだ後、2000メートルの標高差を一気に下り、ヒレをすっ飛ばして最後のテント場、ナヤプルまで約9時間かけて下山、河原の畔で一泊したあと、ポカラに帰着、国内線航空機でカトマンズに帰着した。展望周回コースを時計回りと反対をとったことになる。


山の大展望のほかに、道中、いろんな楽しみがあった。なかでも特筆すべきなのは、タダパニからの大シャクナゲ原生林。とてもシャクナゲとは思えぬ巨木の林立。10メートル、20メートルの苔むしたシャクナゲの純林が続く。三月半ばからが開花の全盛期とのことだったが、まるで全山桜の吉野の山のように、シャクナゲが真っ赤な花を咲かせたときのことを想像すると、息がつまりそうな迫力。なにしろ、一日歩いてもシャクナゲ・ジャングルはとぎれることがない。


プーンヒルで白銀のアンナプルナ山系をバックに同行者、森本章夫氏(右)と筆者 


幸いなことに、日当たりのいい所では、シーズンに先駆けて深紅の花が満艦飾に咲いていたり、つぼみが膨らんでいたりして、最盛期をしのぶのに十分であった。また、尾長の犬のような白いサルの群、空中停止をして獲物をねらう鷲、黄色いポピーのような花や薄紫の花をつけるサクラソウの仲間の群生。凍った滝など、いろいろな珍しい自然、骨惜しみせずにいつも愛想よく働き続けるネパールの人たちの姿に大いなる刺激を受けた山旅であった。

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