アジア・トレッキング

ランタオ・ピーク=香港・ランタオ島(934m)(1999/9)


  ランタオ・ピーク遠望。本来は、双耳峰なのだがーーーー
香港といえば、ショッピングとグルメの国際観光都市。硬派でいえば、世界の金融センターと貿易自由港。 97年7月、イギリスから中国に返還されたが、向こう50年間は、「一国二制度」という希有な政治システムが 敷かれているところだが、山好きにとっては、低山逍遙にもってこいのいい山が多くあることでも知られている。そ れは他ならぬアウトドア好きのイギリス人が長く、この地にいたため開発されたものである。神戸の六甲山を想起してもらえばいい。 六甲には、外国居留民のイギリス人によって開かれたコースが、縦横に駆けめぐっており、コースの名前やポイントにも名前をとどめている。

香港へは、キナバル山、ハルラ山と御一緒した山友のTさんと、こんどは奥さんも参加して登りに行った。 香港の最高峰は、大陸寄りの新界にあるタイモウシャン(大帽山 957メトール)。ここから香港の全容と大陸側も望見できるというので、 朝、通勤客でにぎわう地下鉄で登山口行きのバスが出る最寄り駅まで行ったが、なんと運行中止の張り紙。前夜、台風8号が香港を直撃したので、 土砂崩れでもあったのか。語学不足とあって行き交う香港人に聞いても、さっぱり要領が得ない。タクシー乗り場でも、運転手は乗り気でなく、別のミニバスの路線番号を教えて くれた。しかし、これもどう探しても該当のバスが見つからず、お手上げ。

時間がムダに過ぎていくので、急遽、二番手の高峰、ランタオピーク(現地名 鳳凰山)に行き先変更、地下鉄でランタオ島に向かった。昨年、 香港新国際空港(チュクラプコク空港)が開港された島だ。終点の東涌(トンチュン)からタクシーで約20分、世界一大きな野立ちの大仏= 写真右下=が在ることで知られているポーリン(寶蓮禅寺)寺に向かう。 島を北から横断して、南側の海岸線をドライブし、一転、島央部の山中に入る。バスターミナルやタクシー乗り場があり、明るく開かれた寺の前で下車 した。

 ティーガーデン(茶園)に進む散策路から、いよいよ山歩きが始まった。すでに11時20分。出足が遅れたが、 道は最初、舗装されており、やがて「歓迎 昂坪(ンゴンピン)高原」と鳥居型のようなアーチを抜けると、幅一メートル足らずの敷石になった。目指す山頂は、見えないが、ここに来る途中、晴れた空に 双耳峰のごとく二つの峰にくびれた山頂風景をタクシーの窓から遠望している。

亜熱帯とあって、日本でなら観葉植物として売られているような木々があったが、ジャ、ジャーン、まさに亜熱帯ならではの毒蛇が敷石にとぐろを巻いており、 みんな思わず後ずさり。体長60センチくらい。全身、抜けるような緑色の蛇だ。小石を投げたり、枝で払おうとしたら、三角形の頭部を突き出し、舌をペロペロとむき出し、猛然と突っかかる体勢 をとる。体を丸めて、尾を立てる。立てた尾は、ひりひりと小刻み振る。いまにも二、三メートルは宙を飛んで飛びかからんばかりに威嚇してくるのではないか。

投げた石がすぐ脇に落ちたり、体に当たっても平気で逃げようとしないところが、日本ではとうていお目にかかれない強者だ。 行く手を遮られて往生した。相当大きめの石を投げたら、さすがに観念したのか、草むらにずるずると逃げ込んだ。緑の草付きにこんな緑の毒蛇がいるとは、用心用心。

ゆっくり歩く。右手は山側。灌木もなく、草付きのゆるやかな斜面が上方に延びている。左手は、山にいる高度感が少し現れて、さっきタクシーで通った海岸線とダムが見下 ろせた。そして圧巻といえば、ふり返ると、高さ26メートルの天壇大仏(1990年開眼)が小高い丘の上に鎮座しているのがみえたことだ。曇り空に大きなシルエット。=写真 左。曇り空なので、かすかに映っている=びっくり大仏様だ。 やがて、歩き始めて45分、初めで終わりの水場に着いた。水場のあたりだけ、少し木が茂っている。イチヂクの木が貧相な実をつけていた。

ここから急な勾配になる。見上げると、山腹が視野を遮る壁となっている。しかし、大丈夫。ルートには、石段が丹念に積み上げられている。自然石をどこから調達してきたのか、靴裏がかかる部分は 平面に削られている石をコンクリートなどで固めないで、しっかりと並べてある。こんな細かい作業は中国人の得意技ではないかと感心する。一段ずつ踏みしめて上ると、気づかぬうちに高度がどんどん 高くなってくる。もっとも台風の余波のせいか、空模様はめまぐるしく変わり、景観を楽しむ余裕がない。 曇り空からガスが這うように漂い、いつのまにか晴れ間がでる。また、曇り空に覆われるといった調子。二度ばかり三分、五分の小休止をいれて、1時間20分後には、とうとう稜線に出た。

狭い稜線からは、それまで見えなかったランタオ島の東側の海がはるか彼方に見えた。長州島(チェンチャウ島)や、長沙(チェンシャ)の海浜も眼下にあった。瀬戸内海を見るように小島が点在して いる。稜線の延びていく先は、まさに「天梯」の名にふさわしく、梯子をかけたように尾根筋が急勾配で山頂へつながっていく。緊張感を強いられる尾根筋だ。 石段は続くが、両サイドは、切り立った崖になっており、ガイドブックにも強風のときはムリしないようにと強調している。なりより手すりにあたるような灌木が生えていないので、スリップしたら最後 、滑落するほかはない。そのような状況が展開している中を登っていくのは、ラクでない。なにより、下りの安全が気にかかる。

一行は荷物の一部をここにデポして、一列になって「天梯」を登っていった。風は柔らかく、ガスは尾根筋の行く手の左側の崖を白く染めている。数十段登ると、山頂にみえた高見に出たが、これはニセ山頂。さらに先に同じような尾根筋と高見があり、そこを登ると、ようやく頂上に着いた。出発からちょうど2時間の 山歩きだった。

結構広い山頂は、コンクリの基礎台の上に電柱並みの太さの白黒に塗り分けた 柱が建てられており、これが三角点らしかった。また、「避風小屋」やゴミ捨て用の箱があったのも珍しい。こんなところのゴミを回収にくるのだろうか。山頂の北側からは、 眼下に香港新国際空港や周辺の活発な開発工事が見渡せた。お昼をしているとき、ジャンボがふんわりと 離陸していく姿が見えて楽しかった。風が雲を流すと、東の空にサンセットピーク(大東山 香港第三の 高峰、869メートル)がかすかに現れた。この頂から縦走していくことができるのだが、われわれは十 分に満足、なぜか群れなして飛ぶ赤トンボを背に下山した。

例のよって蛇足を一つ。香港島のビューポイントで名高いビクトリアピーク(太平山 552メートル)も行ったが、あいにくの雨と時間切れで、いわば八合目あたりから引き返した。 登山電車の山上駅から上のマウント・オースチン・ロードは、日曜と祝日しか一般の人たちは立ち入りできないので、日曜の当日はいいチャンスだったが、捲土重来を期した。 かつて若かりしころ、ジェニファー・ジョーンズの「慕情」の名シーンと音楽が耳に残っている世代としては、山上駅展望台からのきれいな夜景に少しばかり感傷に浸ったことでした。

また、その美しい夜景をデイナー・クルーズと称して港の遊覧船から眺めたのも、なかなかのものでした。同じような趣向のワイキキのそれよりも遙かにすばらしかった。 若い女性二人づれがデッキにもたれて「日本に帰りたくない!」などと叫んでいたのも、むべなるかな。大陸中国は、金の卵を生む香港を大事にしなければならない。