キナバル 4101m.マーレシア (1995/3)         
  (こちらにもキナバル詳報があります)
          (こちらにキナバル山麓の花たちがあります)    

先端が目指すローズピーク

 ボルネオ島サバ州の州都、コタキナバルのホテルからバスで二時間、日本に持ってくれば随一の名滝と呼ばれそうな大滝が、人のほとんど近寄れない遠くの崖でしぶきを上げて落下していたり、セタパクローの球技に使うようなボールを売る現地の女性や子供たちの光景を車窓から見たりして、スコールのあがったばかりの国立公園管理事務所に到着。すでに標高は1500メートルを超えている。日本アルプスで見るニッコウキスゲの黄色い花が咲き乱れている。美しく清潔に整備が行き届いたところ。二階建てのロッジが宿舎である。

夕食のとき、食堂に行く途中に日が沈みだして、居合わせたみんなが息を呑んでキナバル山の夕景を見た。山肌が南シナ海に沈む夕日を浴びて、金色に光り輝いた。「赤富士」をしのぐすばらしい景観。これだけでも現地にきた甲斐があった。明日のトレッキングに期待が高まった。キナバル山の頂上は、下から望めないものの、岩峰が奇妙奇怪に変質しており、それは宿舎からも眺められた。あれがロバの耳、あれがウサギと言った具合に見える奇岩がそそりたっている。

翌朝は、朝早くからさえずる無数の野鳥の声で目覚める。聞き慣れない鳴き声のシンフォニーだ。バスで登山口まで移動。キナバル山の正式な登山口は、標高1800メートル地点の斜面にある。ここから先はトレイルとなっている。熱帯雨林のジャングルの中を山腹を何重にも巻くように登山道が開拓されている。谷側にはずっと木の柵が設けられている。そして、3300メートルのところにあるラバンバタレストハウス(山小屋)までの間に、シェルターが六ヶ所設置されている。雨露をしのぐ程度のものであるが、登山道さえはずさなければ、安全には配慮されてある。

特別な技術はいらない山である。ただ、標高差が登山口からでも約2300メートルもある山は、日本にはない。それだけ延々と歩き続けられる体力が求められる。昼飯の大休止を始め、何度も何度も一服を繰り返しながら、ラバンバタ小屋についたのは、出発から約8時間かかった。途中、食虫植物のウツボカズラ=左=の大きいやつを見た。毒々しい赤や黄色に彩られて不気味であった。又、同行の中年女性が、いきなりひっくりかえってダウンしたのには驚いた。この人は、十分間くらい伸びていたが、その後は、元気回復。結局、頂上まで登ってしまったのには、二度驚いた。

小屋は、二階建ての立派なコテジ風。食堂もシャワーもあり、二段仕立てとはいえ、一人用のベッドだ。こころあたりがアウトドアの暮らしを楽しむイギリス人の植民地の名残りの考え方が、この国にも馴染んでいる証しだろう。満員電車のように詰め込むわか゜国の山小屋と見かけも質も違う。夕食はそろって食堂で中華の八宝菜ふうのものや焼き飯を食べた。その前に小屋に着いたお祝いにアンカー印の缶ビール(中国製)を呑んだら、すぐに頭が痛くなった。他の男性も、同じように話していたから、疲れとともに高山の影響が現れたのかもしれない。

さて、いよいよ登頂の朝。といっても午前一時半に起床。半時間で準備、食事のあと出発。真っ暗闇のなか、ヘッドライトをつけて上下ともゴアテックスの雨具を防寒着として固めた。熱帯とはいえ、さすがに寒い。すぐにザイルが張ってある岩帯の斜面を通過。このころからキナバル独特の大きな一枚岩の山頂域の斜面にさしかかる。何しろ、多分、甲子園よりも数倍広いだろう。当然、草木はなく、荒涼とした岩を敷き詰めたような山。ロバの耳やウサギが座っている格好の奇っ怪な針峰を横手に見ながら、ゆっくりゆっくりと歩く。

一行十数人の列もバラけてしまい、もう思い思いのペースで進むしかない。岩の上には、太いザイルが頂上まで伸びているようだ。たとえ空模様が大荒れとなり、視界不良となっても、このザイルから目を放さない限り生還できるだろう。事実、崖っぷちから転落した過去の不幸な例から編み出された命綱である。このような長く、太いザイルを敷設してあるケースを知らない。

何度か息切れした。しまいには、およそ二十歩歩くと、立ち止まって二十回くらい呼吸を整えることを繰り返した。幸い、寒いが天気はよい。キナバル山の最高峰は、ローズピークと呼ばれている。バラ色の頂上という意味ではなくて、登頂したことがあるイギリス人の軍人の名前(LOW'S )が由来だそうだ。

広い岩の斜面の果てに、屹立する針峰がある。それが東南アジア最高峰というローズピークの頂上であった。最後の登りは、ザイルにつかまって、ゼイゼイと荒い息をはきながらはうようにして登った。午前7時半、この先端にたどり着いた。朝の光の降り注ぐ中で、ガイドのマレーシア人や仲間と喜びの握手を交わした。そこから眼下に広がる熱帯雨林と、遠くの雲間に垣間見えた南シナ海を展望した。十分に堪能したが、もっと快晴であれば、フイリピンも南沙諸島もベトナムや台湾も視野に入るという。そのスーパーパノラマは見ることはできなかった。