僕はお客さんから ある家庭を紹介された。
その家庭は 夫婦二人の家庭だった。
そして、ご主人は ガンにかかっている事も 紹介者から聞いていた。
ガン患者という事は、間違いなく保険加入は無理である。
しかしながら、僕は「何かできないだろうか・・・」
そういう思いに駆られてやまなかった。
僕は、ひとまず その家庭を訪問する事にした。
コンタクトをとり、約束をとりつけ 訪問してみた。
その夫婦は、元々幼馴染みであり 奥さんは別の人と結婚していて その後離婚
離婚後 今のご主人と再会して再婚したという。
50を過ぎた年配の夫婦であったが、まだ結婚歴は7年であるという。
奥さんから、電話で悩みを打ち明けられていたのは ガンの宣告以来 ご主人が
自暴自棄になってしまい、暴力的になって 奥さんにでさえ 手を出す程だという。
僕が、お伺いした時も 非常に邪険にされて「保険屋が何の用だ!」と、
罵声を浴びせられた事もある。
でも、僕は にこやかに「ライフプラン」の提供を始める事にした。
そして、奥さんのお願いで、ご主人は仕方なく 僕のパソコンの横に座られた。
最初は、つまらなさそうな顔をしていたご主人であったが
奥さんの問いかけに、これまでの思い出をたどりながら、ライフプランを立てて
いくうちに、どうだろう 笑顔が浮かんでくるようになったのである。
そして、僕は 未来の事に触れ「今、結婚7年目ですよね? あと3年したら10年です。
記念日には、10周年として どこかへ旅行なんてどうですか?」
と、問い掛けると 最初は 曇った顔のご主人も 恥ずかしそうに「あぁ、そうだな・・・
それまで、がんばってみるか・・・」 と、つぶやくように答えてくれたのだ。
そして、僕は そのライフプラン終了後 「また この結果をプリントして持参しますので」
と、挨拶して玄関を出たのだが・・・
その時、奥さんが小走りに出てこられて、涙を流しながら 僕の手を握り
「ありがとうございました・・・。主人が あんなに子供みたいな笑顔で・・・
生きる気になってくれたのは、あなたのおかげです・・・。」 と 何度も
感謝されたのだった。
僕も、涙を流しながら・・「いえ、お役に立てて 本当によかったと思います。 
本当に旅行にいけるようにがんばりましょうよ。」 と、手を握り返して 
その場を後にした。
本当なら、そのご主人は 余命は1年程度と宣告されていて それまでは生きる気力
さえも、失っていたという。
それが、10周年記念の旅行まで生きる気力を出してくれたという事に
僕は、保険を売るだけが保険販売員の仕事じゃないんだと実感した。
その後・・・・そのご主人は・・・ガンが進行してしまい・・・
結局、記念日の旅行は叶わなかったが・・・
最後まで 生きる希望を持っていてくれたと 奥さんから手紙を頂き
涙が止まらなかった事を覚えている。
保険屋は、保険を持って人の命までは救えない・・・でも、生きる事を提案し続ける
そんな保険屋であり続けたいと僕は 思い続ける様になった。

あるガン患者宅への訪問