何も自分の家の中で立ち読みすることも無いだろう。
誓唯は本棚の側にあった回転イスに腰掛け、開いてすぐだったアルバムの中を改めて見た。
「…俺?」
彼の幼かった頃の写真が、アルバムの一番初めのページに貼ってあった。
次のページをめくっても、その次をめくっても写真に写っているのは彼が中心になっているものばかりで…。
旧友と花火遊びをしている写真、昔飼っていた黒猫と戯れている時の写真……。
ページをめくるごとに成長していく過程が分かるアルバムで…
どうやらそれは、誓唯の親が作った彼の成長記録(親バカアルバムとも言う…)の様だ。
(部屋に無いと思ったら…)
昨日、ふと見ると自分の部屋の本棚にしまっておいたはずなのに見当たらなくて、探しても見つからなかったアルバム。
表紙がどうしても思い出せなくて、探すのを断念した。
そのアルバムが、今中身を確認しているそれだったのだ。
(何でこんなところに……)
自分のアルバムなんか、普通簡単に別の場所へ持ち出したりしない。
記憶に無いこの部屋に持ち込むなんて、論外だ―――今の彼なら。
「訳が分からない…」
今日、仕事―家庭教師のバイト―から帰ってくるまで気が付かなかった、別室へ続くドアの存在。
その部屋の内装は、何故か自分の趣味とは正反対で…そして、最近まで誰かが使っていた形跡があること。
探しても見つからなかったアルバムが、持ち込んだ記憶の無いそこにあったこと。
「…でも、これが一夏ちゃんの言っていた『繪委』の手がかりになるかも知れない。」
家に帰ってからの出来事は全て、『繪委が自分と親しい仲で、なおかつ同居していた』とすれば辻褄が合いそうだ、と
そのとき、彼は気付いていた。
繪委の記憶を思い出せていないので、心理上あまり意味は無いが…。
+ + + + +
『繪委』が自分と親しい仲なら、自分のアルバムの中の写真に少しくらい写っていてもおかしくない。
誓唯はそう考えて、いくらか分厚いアルバムの中の写真を、一枚一枚チェックしていった。
(中学校入学の時の写真にも写っていない…)
『繪委』は幼馴染みだったのだろうか?それとも親友?
よくある腐れ縁とかいうヤツで、長い間クラスが一緒だった存在…?
考えられる可能性を挙げてみるが、よくよく考えてみるとあの時の一夏の反応と照らし合わせてみると、
それだけでは片付けられなかったり、アルバムのページをめくっていく程に可能性がかき消されていったり…。
なかなか考えている存在とは一致しない。
「…はぁ」
ボーっと眺めながらページをめくるのなら大して疲れないのだろうが、
こう何か考えながら、しかも確認をしながらアルバムをめくるのは何だか酷く疲れる。
誓唯はため息をついて、アルバムを回転イスの付属らしい机の上―イスの方が付属だろうが…―に置き、
天井に向かって大きく伸びをした。
「ぅ…ん……っ!」
(疲れたな……。…そう言えば、今何時だろう?)
丁度、壁に掛けてあった時計が目に入り、時間を確認する。
9時10分。
アナログの壁掛け時計はそこを指していた。要するに午後9時10分だ。
「……。」
(もうそんな時間だったんだ……;)
誓唯は座っていたイスから立ち上がり、見入っていたアルバムを片手にそこから立ち去ろうとした…その時。
『6年も一緒に居た相手の存在を忘れてしまったんですか…?』
聞き覚えのあるセリフが、彼の頭の中を駆け巡った。
『6年も一緒に居て、どうしてそんな簡単に忘れられるんですか!?』
「そうだ、今日一夏ちゃんが言っていたじゃないか…」
数時間前、一夏が必死で誓唯の記憶を呼び覚まそうとしていたことを彼は思い出したのだった。
「今から6年前のことを言っていたんだとしたら、おそらく俺が14歳の時…その時に『繪委』が……!」
誓唯は繪委に出会った時期に気付き、通り過ぎようとしていた部屋のドアの前の床に、大胆にも座り込んで、
手にしていたアルバムの、自分が14歳だったころの写真が貼ってあるページを探し出した。
そこに、繪委の姿が写りこんでいると信じて……―――。
▼To Be Continued......