Loneliness,But Waiting…


――コポコポと、繭玉(カプセル)の中を漂う空気の泡が綺麗…。
あなたは…いつ、お目覚めになられるのですか……?――


「ザキ、どうして早くゼロナンバーズを回収しないの?!」
「前にも言っただろう。あれはギフトだからな、回収する必要が無くなったからだ。」
コミュニティ内の会話はいつもこの調子だった。バイターのザキや、見習いのニア、ブラックシープのキィにとっては迷惑な話かも知れない。

ルビが先に述べたDearSに話すときは、当り散らしているだけのような喋り方をする、…ように聞こえる。
「いいから回収しなさい!」
「しかし、お前は全統治権を握っている訳ではないはずだぞ。」
ザキはルビを説得しようとしているらしい。しかし、ルビにはそれが伝わらない…。
「…〜っ!お黙りっ!!」
パシン!
ルビの持つ皮製のムチが、床を叩いて跳ね上がる。

「…。とにかく、俺は回収する気など無いからな。」
そう言って、結局、ザキはルビを説得できずに部屋から出て行く。外の廊下で待っていたニアが、いつものように彼を『師匠』と仰ぎついて行く…。その姿が一瞬だけ、ルビの視界に入った。
「ししょー!今からニーに手合わせを願いますニー!良いですかニー?いーですかニー??」

――自分の最も尊敬するヒトと、同じ時間(とき)を共有できる者…。――

「……っ!!」

ピシィッ!
ルビのムチは、再び床を叩き跳ね返った。
天井から床まで冷たいガラスで覆われた窓へ身体の向きを変え、ルビは誰にも見られないようにそっと、一滴(ひとしずく)の哀しみをこぼした…。

† † †

プシュー…。
ある人物のいる部屋へつながっている自動ドアが、静かに開かれた。ドアを開けた張本人が、その名を呼んだ。
「…フィナさま……。」

まだ目覚めぬフィナの繭玉(カプセル)が、他のそれとは別にされている。この部屋は、本来フィナの部屋なのだ。
自分の目線より高い位置にある繭玉(カプセル)を見ようと、ルビは顔を上げる。彼女の瞳には、今にも目覚めて微笑むフィナの姿が、幻想に消えていく。目の前に突きつけられた現実のフィナは固く瞳を閉じ、おそらく、一生眠り続けてもおかしくない装いだ。

――自分の大切にしたいと願う相手に、自分は何もしてやれないのか…?――

ぽろ…。

頬を伝う涙がその量を増して、衣服や床に小さな染みをつくり始める。特に哀しみの感情をうまく表せないルビにとって、どこにそれをぶつければ良いのか見つけるだけでも難しいのだろう。…だから、誰かに当たって気を紛らわせるくらいしか、思いつかない……。

――この壊れそうな感情は、何処にぶつければいい?今のままだと、私は………――

嫌われて、蔑(さげす)まれて、誰も振り向いてはくれなくなる.。

ルビにとって、フィナが目覚めないことは一番つらいことだけれど、誰も自分のことを気に留めず無視されることだって充分つらいはずだ。それなのに……―――。

† † †

バシィ…ッ!!
「ああっ!!」
「お前が悪いんだよ?分かってるね、キィ?」
そう言うとルビは、背中に叩き付けたムチを振り上げて、もう一度叩きつける。

今まさに調教…を受けているキィの背中には、くっきりとムチの痕が残っている。一箇所だけではない。痛々しいミミズ腫れは背中以外にも見られる。
「痛ぃ…は、ぁ…」
苦痛に顔を歪ませ、堪え切れなくなったのか、瞳に限界まで涙を溜めている。首輪に繋がれた鎖は、どうにか外れないのだろうか。何でもいいから、逃げる術が欲しい。

「痛いのは当たり前じゃないかい?…でも、その原因を作ったのはお前だろう?」

――誰か、私に教えて下さい…。必要以上にこんなことをしなくてすむ方法を……――

ルビの哀しみが、『調教』という形で、自分以外の誰かを傷つける。しかし、ルビの心の中も同じように少しづつ、少しづつ削られていくことに誰が気付いただろう?気付いたのは、おそらくフィナを含めて数名だけ。それとも、もしかしたら皆気付いていて、なだめようとしたかも知れない。

だが、ルビの心の奥には届かないのだろう…。


≪あの子はただ寂しいだけ。孤独なの…。
まだ、わたしは目覚めることは出来ないけれど、ずっと、見ているからね。
……大丈夫よ、ルビ。≫


――哀しくても待ち続けるから。
孤独で、気を紛らわせる術が解らなくても、私はあなたを待ち続けるから…――

Loneliness,But Waiting…

フィナの繭玉(カプセル)の気泡が、再び上部に移動する。

コポ…と、一つだけ。
本当に、見ていて飽きない綺麗さ…。でも、それよりも気になるのは…。

――あなたは…いつ、お目覚めになられるのですか……?――

完。

あとがき
シリアス目指してみましたがどうでしょうか?
初めての試みなんですよね;マジメな話作るのは。中途半端ですいません(謝)ι
そして、キィくんにごめんなさいですね…(イタタ)。

彼は、ルビの対比(?)として使わさしていただきましたがι本日の犠牲者:1名。
原作3巻ぐらいの設定…ですが、ルビ姐さんキャラ変わり過ぎですね。