needing money…


ガタンっ!!
「………っっ!!」
今まで財布の中身を机の上に並べていた武哉はいきなり立ち上がった。
「…?タケヤ?」
武哉の傍でじっと机の上を見つめていたレンは何が起こったのか解らず、疑問符を自らの頭の上にチラつかせる。
「タケヤ、どうしたのだ?」
「レン…よーく聞け…。」
「??…了承した。」
武哉の顔は蒼ざめ始めている。
レンにはやはりその意味も解らなかった。
「……今月のバイト代で、あと何日…」
「それよりタケヤ。」
レンが割って入った。
「何だよ。」
「タケヤの顔が青い。風邪でもひいたのか?」
レンはいつものボケをかましたが、どうやらそんな呑気(のんき)なことを言っている場合ではないらしい
「…って、今まさにその原因を説明してるところじゃねーかよ!!」
「タケヤ…今度は顔が巨大化している。」
「だーかーらー!!!(怒)」

† † †

ボケボケの迷宙人との(言葉の)格闘の末、ついに武哉が勝利を収めた。その勝利者は、足りない脳みそをフルに使ったため疲れ切っている(笑)。
「…なるほど。ではタケヤは今、『赤字』の危機に立たされている…というわけだな。」
グサっ!
「そして、その解決策が見つからない…のだな?」
グサグサッッ!!
「…レンはメロンパンを食べられないのか?」
グサ…っ?
「レン…、今なんつった?」
あることに気付いた武哉は、レンのいる方に振り向く。
「…『レンはメロンパンを食べられないのか?』と言った。」
「…それだ!」
「?」
疲れ切った気持ちを吹っ飛ばして、心持ち大きな声で叫んだ武哉は思わずレンにゲッツポーズ(?)を取った。
武哉がレンの言葉でひらめいた(?)こと。それは……。

† † †

次の日―――。
「いいか?レン!」
レンの目の前で、武哉はなぜか気合充分に説明している。今は授業も終わった放課後だ。
「了承した。ではレンは、買い物が終わったら実行してみることにする。」
レンは得意そうに武哉を見て言った。…その時。
「のう、武哉よ。」
「ぉわ?!ねね子!!」
寧々子が武哉の背後に現れたのだ。あまりにも気配が無かったので武哉は一層ビビる。
「…その様子だと、また良からぬことを教え込んでいるようだのー。」
「だっ…誰が盗むなんて…って、いけねっ!」
「盗む?」
寧々子のメガネがキラリと逆光する。
「キミはそんなことをレンにさせるつもりなのか?」
「ねねこ、盗むのではない。レンは買い物の後に…」
「わーわーわー!!ι」
割って入ったレンが説明されたことを全部話す前に、武哉が大声でかき消した。寧々子にはそれが益々怪しく映ったようだ。武哉に対する疑いの視線が熱い。
「…武哉よ。」
「だから違うって言って…!」
「そうだ、違う。レンは盗みをするのではなく…」
「もー!お前は黙ってろよι」
寧々子が武哉を疑い、武哉が弁解しようとする。その武哉が何か言おうとすると、レンが話に割って入ってくる。…その繰り返しは永久に終わりそうにない。
何だかこのままだと日が暮れてしまいそうだ。武哉がそう思ったとき、教室のドアが勢いよく開く音がした。ドアの向こうには、やっぱり…というか例のDearSが一人。
「レンさん!あなた今日はトイレ掃除という使命を仰せつかって…」
「あーもう!またややこしいのが一人…!!」
武哉の台詞に気付いたミゥは、つかつかと早足でこっちに向かってくる。そして、お約束のあの台詞。
「幾原さま!もとはといえばご主人さまであるあなたがしっかりしなくては…レンさんだってレンさんなりに一生懸命やっているんですよ?!」
顔はもちろん、どアップで。
「…お、お前には関係ないだろ・・・。」
密かに抵抗してみせる。だがミゥは、さらに武哉に詰め寄る。
「いーくーはーらーさーまー?(怒)」

「ミゥ、近づき過ぎだ。タケヤが反り返っている。」
「見れば分かりますわ!」
そう言った後ミゥは一瞬、顔を赤らめ武哉から離れる。マトリックスポーズから開放された武哉が『助かった』と言っている気がするι
「さ、レンさん。行きますわよ。」
コホン、と咳払いをした後、赤くなった顔を隠すように、くるりと180度向きを変えレンの手を取った。
「だがミゥ。レンは今日、タケヤのためにパン屋に行かなくては…」
ミゥに手をとられ、ズルズルと引きずられ始めたレンが言った。
「ΣΣあ゛ーーーっっ!!」
ミゥから開放され、すぐに回復した武哉が放った第一声。けっこう大きめの声量だ。
「?何だ武哉。騒々しい…」
疑いを持った表情で、寧々子は武哉にふった。
「…っ!レンのあほ!!何で言っちまうんだよ!」
「はぁ?パン屋のことか?」
寧々子が武哉の言葉の意味を理解できずにいると、すでに歩き出したミゥに引きずられ続けているレンが答えた。
「そうだ。タケヤはレンに『パン屋へ行って様々な種類のパンを買って来い』と言ったのだ。」
レンの声が徐々に小さくなっていく…。…掃除場所はさほど遠くはないので、まだ聞こえてはいるが。
「それのどこが『盗む』と関係あるのだ?」
寧々子は逆光メガネのまま、バツの悪そうな武哉に詰め寄る。その武哉は寧々子から顔を背けてしまった。すかさず背けられた顔を覗く。
「……チッ。」
…武哉は観念したようだ。仕方なく閉まっていた口のファスナーを開け、事の始終を話し始めた。

† † †

「ほーぅ…。つまり、キミのバイトしているパン屋にレンが行けば、DearSを特別扱いしてサービスしまくる店長から大量のパンがほぼタダで食せると。」
寧々子が呆れた表情で武哉を見つめる。そうしなければならない理由に思い当たったからだ。
「メロンパンだけ毎日食べていても飽きるからのう。だから、他のパンも買って来いと言ったのであろう?」
武哉は黙ったままだ。どうやら図星か?
「盗むうちには入らんやもしれぬが、パン屋の方が大赤字になってキミのバイト代にも影響が出るかも知れんのう。」
「Σ………ι」
武哉、かろうじてまだ沈黙を保っている。
「これは、晴海さんから預かっていたものだ。受け取れ。」
武哉が寧々子に顔を向けると、一通の封筒が目に飛び込んできた。言われるがままにそれを受け取る。
「…おい!これ……!!」
封筒の中身を見た武哉が、再び寧々子を見る。寧々子の表情は、呆れた笑顔に変わっていた。
「最近ゴタゴタしてしておったのでな。渡すヒマがなくての…。」
武哉がポカンと口を開けていると、掃除の終わったレンが得意げに教室に戻ってきた。
「タケヤ。レンはトイレ掃除なるものを終わらせてきた!偉いか?レンを褒めるか?」
「あなたはただ見ていただけですわ!(怒)」
…なぜかミゥも一緒だ。
「…武哉よ、今回は黙認しておいてやろうιまだ犯行には及んでおらんからな。」
寧々子はさりげに武哉に言った。
「犯行ってなぁ…ι」
「今月はそれだけあれば充分であろう。」
「…お、おぅι」
武哉と寧々子の会話の内容が気になったのか、ミゥがちらりと2人を見遣った。寧々子はそれに気付いたらしい。
「では、レンの掃除も終わったことだし、皆で帰るかのー。」
少々のごまかしだろう。別の話題に切り替える。
「タケヤ!」
レンが武哉のもとへ駆け寄ってきた。
「何だ?レン。」
「今日は遅くなってしまったが、パン屋には行くのか?」
瞳を輝かせるレン。どうやら、ご主人さまの命令をきこうとしているらしい。
寧々子が武哉に目配せしているのが分かって、彼はレンに言った。
「もういいよ。…お前の好きなメロンパンだけ買いな。」
「…!いいのかタケヤ?!」
「あーもー…勝手にしろよー。」
レンはいっそう瞳を輝かせた。何か言いたげな顔だ。
「…なんだよ。」
「その…何ていうか、タケヤは……あれだ。」
「?」
「『太っ腹』と言いたいのか?レン。」
寧々子はレンの言わんとしていることが分かったらしい。レンは、その通りだという顔をしている。
「ありがとう、寧々子。そう、その…タケヤは太い腹だ!」
「「太っ腹!」」

終わり―――。

おまけ

「むっふーVv」
「レン…何なんだ?その大量のメロンパンι」
メロンパンだけ買っていいとは言ったものの、たかが200円でなぜ紙袋いっぱいまでそれが入っているのだろうι…やはり、DearSびいきの店長のせいか?
「…武哉がしこんだのか?」
あれほど注意したのに、と言いたげな顔で寧々子はメロンパンの山と武哉の顔を見比べる。
「だから違うって!」
「タケヤ!帰ったら一緒に食べよう!!この大量のメロンパンを!!」
「……ほーぅ…。」
そう言うと寧々子はスタスタと、さっきレンが出てきたパン屋に足を運んだ。
「ちょ…寧々子…っ!まさかテメ…っ!!」
寧々子が何をしようとしているか察した武哉は、彼女を止めにかかる。…しかし、時すでに遅し。

「店長さんすいませーん。今、店の外に幾原 武哉が…」
「何ィ?…幾原―――!!(激怒)」
「ひィーっ!ごめんなさーい!!」
今にも逃げ出しそうな武哉をよそに、寧々子はちょっとだけ、いたずらな笑顔を見せた。

完。


あとがき

この話は、私が初めてweb上で公開した小説です。人様にお見せする小説は初めてなので、色々と分かりにくいところや、ストーリー的にまだ未熟な部分もあるかとは思いますが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。拙い文章ですが、皆さまの心に少しでも何かが残れば良いな…と思います。