本日はホワイトデー。
バレンタインに蒔いた恋愛の種が実ったり実らなかったり、それぞれに変わる恋のかたち。
けど、告白なんてしていないあたしには全く関係のないイベントだ。
目の前で机に突っ伏してる友人は別だが。
「うー、緊張し過ぎて死にそう」
「あんた一ヶ月前もそんなこと言ってなかった? だいたい、待つのが嫌ならその場で返事聞けばよかったのに」
「そんな余裕がどこに!」
「あー・・・痣になってないといいわね」
「そんなに力こめてないわよ!」
受け取ってください。と腕を差し出した時に勢いよすぎて相手にヒットしたのが今から一ヶ月前。
ちなみにあたしが一部始終を知っているのは好きな人に告白するからとそれまでの時間つぶしにつき合わされ、相手が来た後あたしが去るまで待てばいいのに、間に耐えられなかったのか勢い良すぎる告白していたのが聞こえてきたからだ。盗み聞きしていたわけじゃないぞ。
まさか相手も顔を真っ赤にした女の子がそんな暴挙に出るとは思いもよらない。見てる方はたいへん面白かった。
勿論わざとじゃないんだけどさ。
「インパクトあって良いんじゃない?」
「良くない!」
「えー、でも印象で言うならその後の態度の方が問題。何もあんなに力一杯避けなくても」
「だって、体が勝手に・・・」
「なんですってさ」
と言ったあたしの視線の先には件の先輩。
実はうちの兄の友人なのだ。あたしとは面識があるくらいだけど。
そもそもうちに遊びに来てた時に、これまた遊びに来てた彼と鉢合せたのが好きになったきっかけらしい。
あ。逃げた。
先輩もその後を追っていく。
まあ、悪いようにはしないだろ。多分。
今夜あたり、半泣きで電話かかってきそうだけど。
「今の何?」
「青春満喫してるんじゃない? って、あんたまだいたの?」
何か、こんな状況前にもなかったっけ。
「告白待ち?」
「え。まさか誰にも貰えなかったからって、自分でチョコ渡して告白したの?」
相手は誰だろ。まさか、男子?
「阿呆!んなわけあるか!! これからするんだよ!」
「ちょっとした冗談じゃない。・・・これから?」
こいつもタイミング逃してた口か?
告白なんてしたことないからタイミングとか難しさとか分かんないけど。
とか考えてるうちに何か並べ始めた。
クッキー、マシュマロ、アメ・・・
「これ全部お菓子?」
「ホワイトデーのお菓子って意味がありすぎて分からん」
確かに。
キャンデーが「好き」クッキーが「友達」マシュマロが「嫌い」とか、
キャンデーが「お友達」クッキーが「好き」マシュマロが「お友達で」とか。
どれが正しいのかは知らないけど。
「無理にお菓子にしなきゃいいじゃない」
「いや、お前食い意地はってるから、食べ物の方が良いかと思って」
「失礼な!」
それにしても、ほんとに三倍返しするとは。案外マメだ。
三倍よりも多いような気はするけど、お菓子おいしそうだしまあいいや。
「三倍返しをアピールすれば来年は義理くらい貰えるんじゃない? ていうか、こんなとこで油売ってていいの?」
「お前、俺の言ったことちゃんと聞いてた?」
「聞いてたから言ってるんじゃな・・・」
ちょっと今あたしの脳が自意識過剰な感じのエラー起こしたんだけど。
「・・・こ、告白しに行くんだよね?」
「今は相手が鈍すぎてどうしたもんか考え中。だったんだけど、気付いたか?」
いやいやいや。
「あんた頭大丈夫? おかしくなってない?」
「正気。これ以上ないくらい本気」
正気、で本気。本気ってことは冗談でなくて?
冗談じゃないのは・・・今言ったことで。
それはつまり、えーと。
「その間抜けな顔から返事が想像できて嫌だから、返事は今じゃなくていい。けど、考えといて」
「え、ちょっ・・・!」
・・・と待って。ちょっとっていうか、かなり待て。
バレンタインの答えをもらうはずのホワイトデー。あたしにはおっきな課題が残された。
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