「あんたまだ残ってんの?」

放課後。
みんなとっくに部活に行くとかバイト行くとか帰るとかしてる時間。
なのに、こいつは一人で教室に残って何してるんだ。何か暇そうに見えるんだけど。

「何やってんの?」
「どっかに俺にチョコを渡したいお嬢さんがいるかと思って待ってんの」

阿呆だ。
待ってて何にもなかったら虚しさ倍増なのに。

「にしたって諦め悪すぎじゃない? もうほとんど帰っちゃってるじゃん」
「うっせーよ。そういうお前はこんな時間まで何やってたんだよ」
「告白待ち」
「・・・マジで?」
「に、付き合ってたの」

あたしはバレンタインだからって乙女ちっくに可愛らしくチョコを渡したりしない。
友達が一人で待ってたら緊張し過ぎて死ぬ!とか物凄い形相で悶えてたからそれに付き合ってただけだ。放置して帰ったらあとが怖い。

「そもそもチョコを渡すような相手がいない」
「えー、友チョコは渡してたじゃん」
「あれは別」
「何が?」
「だって、今日渡しとかないと、ホワイトデーにしたら三倍返しじゃない!」
「それは何か違うんじゃ…」
「だから、義理でもいいから欲しいっていうあんたの気持ちが全然分かんない」

三倍返しは置いといて、ホワイトデーのお返しにしょうもないもんあげたら大ヒンシュクだぞ。忘れるなんて論外だ。

「男の子は純情なんですー」
「あっそ」

意味が分からない馬鹿は放って帰るか。と、鞄を掴んで立ち去ろうとしたら何でかあたしに向かって手を突き出してきた。

「だから、ちょーだい」
「あんた、あたしの話聞いてた?」
「聞いてた。三倍返しだろ?」

それでも寄越せ、と。
おそるべしバレンタイン。というかチョコへの奴の執念。

「でもゴメン。もうないや。配りきっちゃった」
「ええ!?ここまで期待させといて!?」
「あたしは何もあげるなんて言ってな・・・何もそんなに落ち込まなくても」

机に突っ伏して分かりやすく落ち込んでる。・・・まさか泣いてないだろうな。

「俺、兄ちゃんがいるんだ」
「は?」
「これがなかなか性格悪くて。でも見てくれはいいからモテるんだ」
「はあ…」
「家帰ると毎年見せびらかしてくるんだ!甘いもの食わないくせに!!」

・・・しょーもない。

「ちょっ・・・人の話は最後まで聞こうよ!」

後ろから声が追っかけてくる。教室出たから、声だけ。
あたしは早く帰りたいんだっての。

でもあんな理由とは言え、マジでヘコんでるみたいだししなぁ・・・



「はい」
「へ?」

もういないかとも思いながら教室を覗いてみると、あたしが出て行った時からまったく動いていないんじゃないかと思うくらいそのままの状態でまだそこにいた。

ちなみに、馬鹿が突っ伏してる机の上に置いたのは、ココア。

「原料がだいたい同じようなもんなんだから、これで我慢しときなさい」

校内にお菓子なんて売ってないし、外に買いに行くのはめんどくさい。あたしは帰ってドラマの再放送が見たいのよ。かと言って、放っておくといつまでもいそうだし。不憫で。

「文句があるならあげないわよ」
「いる。いります!」

そう言って、あたしに奪われないように大事そうにココアを抱え込む。
・・・単純というかなんというか、ここまで喜ばれるとあげた甲斐があるとかいう以前に良心が痛む。1コくらい、チョコ余分に持ってきてれば良かったかなぁ。
でも、もらったもののショボさとかは全く気にしていないらしく、奴は満面の笑みで言い切った。

「お返し楽しみにしてて!」
「安・・・」

120円のココアの3倍返しで360円。
まあ、ココアくらいで高いもの返されたらひくけど。
あ。学食奢ってもらえばいいんじゃない?

「あれ、帰るの?」
「うん。目的達したから」

そうか。ホントにココアをチョコ獲得数にカウントしたのか。

「うあ、ほんとに人がいねぇ。しかも寒っ!!」
「自分の馬鹿さが滲みるでしょ」
「お前の言葉が刺さる」

何か横で大袈裟なリアクションしてるけど、構ってられない。

あー。ドラマ間に合うかなー。



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