甘く快適な安楽の淵――安楽死する才能たち――

杉浦省三  2025.4.10

 

正義を守り、悪を撃退するウルトラマン。変身すれば無敵の強さ。だが、変身しなければ、ただの人間。弱い、弱い、無力な存在だ。

初代ウルトラマン(初代マン)は、懐中電灯のようなものを携帯しており、そのスイッチを入れて変身した。小学生だった私は、あの懐中電灯を崖下に落としてしまったとき、「変身できない〜〜〜」と、焦って見ていたことを今も覚えている。

ウルトラセブンは、ゴーグルを目にあてて変身する。その時の「ジュワッ」という‟反応音がカッコよかった。しかしそのとき「ブタ顔」になるのは見苦しかった。

続く「帰ってきたウルトラマン」(新マン)は違う。死にそうな絶体絶命の瞬間、彼は光に包まれて変身する。今回は、この新マンの話である。

新マンは、自らの意思で変身するのではない。少なくとも、最初の頃はそうだった。

生身の郷隊員が、死力を尽くし、ギリギリまで戦い抜いたとき――命の灯が消えかけたそのとき、内に潜んでいたウルトラマンが姿を現す。死力を尽くさなければ、ウルトラマンにはなれないのだ。

 

2500年前のギリシャ。歴史家ヘロドトスは、こう言い残した。

「逆境には、人間の中の強さや資質を引き出す力がある。逆境がなければ、それらはいつまでも眠ったままだ」(Adversity has the effect of drawing out strength and qualities of a man that would have laid dormant in its absence. - Herodotus

逆境を避け、安楽に甘んじる者に、ウルトラマンは必要ない。なぜなら、戦わないからだ。

戦わぬ者は、一生、自分の中のウルトラマンに出会うことはない。気づきもしない。眠ったままの力に、気づくことさえないのだ。

 

忘れてはならないのは、ウルトラマンは「自分自身」ということだ。だから、戦うのもまた、自分自身でなければならない。

親に甘え、先生に頼り、マグマ大使やドラえもんに助けを求めているうちは、ウルトラマンは現れない。

誰かがピンチや困難を取り除いてくれている間は、ウルトラマンは決して目を覚まさないのだ。

 

私たちの能力や才能は、ほとんどが遺伝子(DNA)に書き込まれている。だが、その多くは必要なとき以外、眠ったままだ。

安全で、安心で、ぬるま湯のような日常に浸かっている限り、生きるために最低限必要な「ハウスキーピング遺伝子」だけが働いている。本当の力は、一度も目覚めることなく、人生を終えていく。

だが――

絶体絶命の逆境が訪れたとき、状況は一変する。

眠っていた才能が次々と覚醒する。火事場の馬鹿力――それは、自分の中のウルトラマンが目を覚ます瞬間だ。

そしてあなたは知るだろう。自分には、こんな力があったのか、と。

その瞬間から、あなたは変わる。自信を手にし、勇気を携え、何ごとにもひるまない者となる。

壁があろうが、困難があろうが、もはや恐れるものはない。なぜなら、あなたの中にウルトラマンがいるからだ。

 

だが勘違いしてはいけない。

ウルトラマンが「何でもできる」わけではない。

才能のウルトラDNAは、人それぞれ違う。いくら追い詰められても、できないこともある。ウルトラマンだって、歌は下手かもしれない。

大切なのは、自分にしかできない「得意」を見つけることだ。

逆境に挑み、自分の中からそれを掘り起こした者だけが、本当のウルトラマンに出会えるのだ。

そのためには一にも二にも、行動だ。

自分を隅々まで「実験」することだ。

受け身ではダメだ。消極的では拓けない。

人生は、自ら動き、挑み、実践する「道場」だ。

自分の意志で動けるか――それが人生の大きな分かれ道となる。

もちろん、行動の中身も問われる。

ただの娯楽やルーチンワークでは、ウルトラマンは目覚めない。

平穏無事な時間に、ウルトラマンの出番などないからだ。

 

何度も倒れ、何度も立ち上がるうちに、気づくだろう。

あなたの中に、ずっと眠っていた力の存在に。

それは、静かに、確かに、あなたを変えていく。

あなたはもう、ただの人ではない。

 

 

 

逆境に関する格言

 

何百年、何千年もの時空を超えて繰り返し支持されてきた「格言」には、普遍的な真理が宿っています。この世において、これほど信頼できるものは他にありません。世俗や一時の流行に心を惑わされることなく、先人、偉人たちの英知を、人生の指針としてください。

 

プラトン曰く、「大きな苦労、たくさんの苦労は全て(年長者よりも)若者たちにこそふさわしい」『国家』第七巻 The wide range of severe labours must fall wholly on the young. -Plato (The Republic, Book VII) 同義「若い時の苦労は買ってでもせよ」若い頃の苦労は自分を鍛え、必ず成長に繋がる。

 

孟子曰く、「憂患に生き、安楽に死す」『孟子』告子下篇.人は憂患(困難・苦しみ)の中でこそ生まれ(鍛えられ)、安楽の中で死ぬ(堕落して滅びる)。

 

孟子曰く、「天の将(まさ)に大任を是(こ)の人に降さんとするや、必ず先(ま)ず其の心志(しんし)を苦しめ、其の筋骨(きんこつ)を労せしめ、其の体膚(たいふ)を餓(う)えしめ、其の身を空乏(くうぼう)せしめ、其の為さんとする所に払乱(ふつらん)せしむ」『孟子』(告子下十五) 天が、その人に重大な仕事をまかせようとする場合には、必ずまず精神的にも肉体的にも苦しみを与えてどん底の生活に突き落とし、何事も思いどおりにならないような試練を与えるのである。

 

セネカ曰く、「労働が体を強くするように、困難は心を強くする」「困難は精神を鍛え、労働は身体を鍛える」Difficulties strengthen the mind, as labor does the body. -Lucius Annaeus Seneca (Peace of Mind)

 

ニーチェ曰く、「自分を破壊する一歩手前の負荷が自分を強くしてくれる」What doesn't kill me makes me stronger. -Friedrich Nietzsche (Twilight of the Idols)

 

エマーソン曰く、「どんな困難もそれに屈しない限り、自分のためになる」Every evil to which we do not succumb is a benefactor. -Ralph Waldo Emerson (Compensation)

 

エマーソン曰く、「もっと堂々と物怖じせずやりなさい。人生は全て実験だ。実験の数は多ければ多いほどよい。もし失敗したら、また起き上がればよい。転んだって何ともないさ」Do not be too timid and squeamish about your actions. All life is an experiment. The more experiments you make the better. What if they are a little coarse and you may get your coat soiled or torn? What if you do fail, and get fairly rolled in the dirt once or twice? Up again, you shall never be so afraid of a tumble. -Ralph Waldo Emerson (Nov. 1842 entry, Emerson in His Journals).

 

松下幸之助曰く、「逆境それはその人に与えられた尊い試練であり、この境涯に鍛えられた人はまことに強靭である」

 

ヘレン・ケラー曰く、「平穏無事のもと精神の成長はない。試練と苦難の経験のみが精神を強くし、針路を照らし、志を吹き込み、人生を成功に導くのです」Character cannot be developed in ease and quiet. Only through experience of trial and suffering can the soul be strengthened, vision cleared, ambition inspired, and success achieved. -Helen Keller (The Story of My Life)

 

 

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