義士の墓

一運寺 義士の墓由来

義士の墓
大阪住吉の一運寺には赤穂四十七義士のうち頭梁大石内蔵助良雄、その子大石主悦良金、及び寺坂吉右衛門の三基の墓があり随時参拝者が絶えません。と言ってもこの三基の墓は昔から一運寺にあるのでは無く当寺より北西すぐのところに龍海寺という寺がありここには四十七士の墓がずらりと並んでいたといいます。この龍海寺は天野屋利兵衛の菩提寺で利兵衛の四代後の当主が四十七士の墓を建立し、また同時に四十七士の木像も造って寺の境内にお堂を建てて祀ったといわれております。おそらく延享(一七四四~一七四八)の頃ではないかと推測されます。
しかし龍海寺は明治維新の際廃寺になりこの四十七士の墓は他の庭石、墓石などといっしょに砕かれつつあった。それを知った一運寺の時の住職がこれは可哀そうだと驚いてずらりと並ぶ四十七基の墓の右端の大石父子と左端の寺坂吉右衛門の三基の墓だけを一運寺に運んで懇切に供養したのである。
木像の方は天王寺の茶臼山の池の畔の観音寺という寺に移され祀られているということです。
ではなぜ天野屋の四代目当主が四十七士の墓と木像を菩提寺である龍海寺に祀ったのか。当時世間では竹田出雲の假名手本忠臣蔵が大ブームを起こしていたといい、また忠臣蔵の芝居で義士のことが有名になった頃である。そこでこの当主は非常に小さく衰微していた龍海寺に義士の墓や木像を祀り今で言う「寺おこし」のためにやったのではないかと推測される。
奇しくもちょうど寺坂吉右衛門が八十三歳の生涯を終えた頃の話である。

さて、明治初期一運寺に移って来た三基の墓であるが現在とはすこし様子が違っておりました。当時は山門をくぐりすぐ右側に石地蔵や歌碑、他の墓と一緒に三基は並んでおりました。並び方も右から大石内蔵助、大石主悦、寺坂吉右衛門の順であり、またこの墓に参拝し手向くる人もごく稀でありました。そして昭和十五年、そんな状態を由々しく思われた住吉町会の方々が三基の為に新しく基壇を築き、また痛んでいた墓石を修復しその年三月二十四日に「赤穂義士供養塔修覆追弔法会」と題し盛大に墓の開眼供養が行われました。当日は多数の参列者が集い、お稚児さんによるお練行列もあったようである。そして現在は堂々とした石壇の上に中心に大石内蔵助、その右に大石主悦、左に寺坂吉右衛門と三基並んでおります。

さて三基の墓を改めて見ますと大石内蔵助の墓には「元禄十六年癸未二月四日 大石内蔵介良雄 行年四十有五 忠誠院刄空浄釼居士」のように没年月日・俗名・年齢・戒名が記され、また大石主悦の墓には「大石主悦良金 行年十六年 刄上樹剱信士」とあり俗名・年齢・戒名が記されています。しかし寺坂吉右衛門のそれには「寺坂吉右衛門墓」とあるだけで戒名も無く誠にさびしい墓である。推測するにこの墓が出来た時寺坂はまだ存命中であったか、また討ち入り後寺坂一人逃げ行方不明であったのか。寺坂に関しては色々な説があり謎の人物である。泉岳寺の義士の供養墓にある寺坂の戒名は「遂道退身信士」となっている。他の義士たちには刄や剱の字が入り力強く堂々とした戒名であるのに寺坂のそれは「道を遂行して身を退ける」読むほどに切ない戒名ではある。
昭和十五年当時と言えばまだ戦争の真只中であり、戦局も悪化の一路を辿っていた頃と思われます。そんな中この赤穂義士供養が行えたというのは義士達の自らの命を投げ出し主君の仇を討つというその崇高な精神を讃える意味で当時の時代背景にマッチしたのではないか。式典の中で読まれた祭文に「おもんみるに元禄の快挙は赤穂義士が君臣の大義に生き己れを空しくして誠忠の悃誠を讃えたる現れにしてその烈々たる気迫は軽佻の野風を排する大旗となり万古にその範を示して昭々たるものありと言うべし。その遺烈は厳として我等郷民の頭上に輝き昭和の今日も尚我等に戒告すること秋霜の如し。今や皇国開戦以来の国難に直面し義士の追憶するの情、更に切なるものあり」とある。

大阪で海産問屋を営んでいた天野屋利兵衛が赤穂藩に出入りしていた関係で大石に討ち入り用の武具調達の依頼を受ける。主君のあだ討ちを誓った大石は頭を下げて討ち入り用の刀身が短く幅が広い刀を注文する。利兵衛は「私ごときに」と涙を流して引き受ける。そしてそれを作製するにおいてこれを堺の武具商に注文し自ら刀造りを監督した。その下請けの職人達は平常以上の臨時収入があったので当時武家か一流の商人しか行けない住吉の高級料亭「三文字屋」で宴席を持った。酒が云わせる高話を小耳に入れたのは折から隣座敷に浅酌する大阪町奉行松野越前守配下の与力衆であり、天野屋捕縛の端緒となった。「天野屋利兵衛は男でござる」という彼の劇的な伝説 挿話となったのである。その後奉行所は利兵衛の義侠心に免じて処刑はせず京都に追放した。三文字屋の跡は住吉警察署となり龍海寺もそのすぐ東側にあった。

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