ベンゾロ・1
「お客さん、その刀の方、預からせて頂きます」
グラストリアと言う大陸を離れ、少しばかりの長い航海の後に辿り着いた、とある島のとあるレストラン。
取りあえず、今すぐ肉が食いたい!
っと言うルフィの言葉に引きずられるようにやって来たその場所で、門をくぐろうするゾロの前にズイっと手が突きつけられた。
「………?」
「申し訳有りません。先日店内で乱闘騒ぎがありまして、その際に武器を携帯して居られたお客様により他のお客様が被害にあわれると言うことがありまして………。このような事故を防ぐ為にも、それ以来傷人性のあるお荷物は、クロークの方に預からせて頂くシステムを取っております」
丁寧な中にも有無を言わさぬ強さがあるその口調に、ゾロは腰にある3本の刀を見つめた。
自分の刀を他人の手に預けたまま、のんびりと食事をしろと言うのだろうか、剣士であるこの自分に。
「ゾロ?」
ズンズンと先を進んでいたルフィが、不思議そうに首を傾げて振り返る。
けれどもそんなルフィには反応を返せず、黙って自分の刀を見つめたままのゾロの肩を、ナミがポンッと叩いた。
「違う店、探しましょうか」
「そうですね、ナミさん。この店はなんとなくクソいけすかねぇと思ってた所なんです!」
「オ、オイ!」
クルリと踵を返した2人を、ゾロが慌てて呼び止める。
サンジの居た海上レストランバラティエにまでその味の評判が届き、興味を持って居たナミとサンジが、所構わず店に入ろうとするルフィを制して探し出したレストランなのだ。
それを………。
「入んねぇのか?」
キョトンと自分を見つめてくるルフィに小さな笑みを見せ、ゾロは男に3本の刀を手渡した。
そして、 いいのか?
と、視線を送るナミとサンジにも笑みを返す。
「悪かったな、余計な気を使わせて。今更あいつらが無きゃ、落ち着いてメシも食えねぇって程ガキじゃねぇよ。それに、船番してるウソップとチョッパーにもここの料理をテイクアウトしてやるって、約束したろ?」
軽い口調でそう告げると、ゾロはグッと伸びをして、小さな欠伸をかみ殺した。
「ほら、行こうぜ。さっさとメシ食って、一眠りしてぇ」
「………じゃあ、サンジ君が一目置くと言うその料理を堪能させて頂くとしましょうか」
「まぁ、俺の腕前にはまだまだ達してないとは思いますけどね」
豪語して、胸を張るサンジをハイハイといなし、一同はボーイに案内されるまま、奥のテーブルへと向かった。
「ふー、美味かった!」
最後に残った飲み干すと、ルフィは満足げに呟いて、大きく息を吐き出した。
「そうね、なかなかの味だってわ。テイクアウトの料理はサンジ君が選んでくれる?」
「お任せ下さい、ナミさん。貴女の為に、この俺が腕によりをかけて選ばせて頂きます!」
「あっ、サンジ! 俺、あのクリームの乗った肉がいい!」
「お前はさっき、2枚も食っただろうが」
「船に戻ったら、まだ食える」
「そう言う問題じゃねぇだろ! これは、船で留守番してるウソップとチョッパーの分だ」
「ええ!? 俺の分は!?」
「だから、テメェは……」
「………悪いけど、俺、先に行く」
ルフィとサンジの実のない言い合いをボンヤリ眺めていたゾロが、不意に立ち上がる。
「そうね、でも表で待っててよね。サンジ君1人じゃ持ち切れそうに無いぐらいは、頼むと思うから」
「………分かった」
あえて、お前は持たねぇのか? とは聞かずに、ゾロはコクンと頷きを返した。
ナミがナミである以上、そんな質問など無駄にしかならないと今までの経験が物語っている。
時々無意識にツッコミを入れてしまい、山ほどの理屈をこね上げられた事を思い出して、ゾロは小さく肩をすくめた。
「じゃあ、後でな」
そう言って、ゾロが背を向ける。
そんなゾロの後ろ姿を見送ったナミが、クスリと笑いを漏らした。
「………不器用で、素直で、ホント可愛いんだから」
「同感です。ナミさん」
「アラ、サンジ君。気が合うわね」
「心は常に貴女と共にありますから」
「想いは誰かさん一人だけの、モノだけど?」
全く嫌みの無い口調でそう告げられて、サンジが苦笑とも微笑ともつかない笑みを、その顔に浮かべた。
「半端な想いで落とせるような、簡単な相手じゃありませんからね」
「同感だわ」
クスクスと笑い合う二人の間に取り残されたルフィが、ウーンと首を捻る。
「何の話をしてんだ?」
そんなルフィの態度に、ナミがこめかみを押さえて、ハァっとため息を吐いてみせた。
「………ゾロの話よ」
「ゾロの?」
「………って言うか、あんたもキャプテンだったら、もうちょっと船員の気持ちとか考えてあげなさいよ」
「ゾロの事をか?」
「そうよ。みんなの事をよ」
「考えてるぞ! 俺はゾロの事が好きだぞ?」
「そういう事じゃなくって………」
そこで一旦言葉を切るとナミはチラリとルフィを一瞥し、その麦わら帽子を指さした。
「例えばあんたのソレ、預かりますって言われたらどうする?」
「イヤだ」
「じゃあ、預けないとご飯食べさせないって言われたら?」
「どっちもイヤだ」
「必ずどちらかを選ばなければいけないの」
「両方イヤだから、イヤだ」
「………あんたに人間の質問をした私がバカだったわ」
脱力感を隠しもせずに、ナミがボソリと呟く。
「つまり、分かりやすく説明すると、ちょっと感じは違うかもしれないけど、ゾロにとって自分の刀ってあんたの麦わら帽子と似たようなものなの。宝ってわけじゃないかも知れないけど、自分の体の一部と同じ位 大切なモノなの。おいそれと他人に預けたまま、ゆっくりとくつろぐなんて出来ないようなモノなの!」
まくし立てるようなナミの言葉に、ルフィの目が見開かれた。
「ええっ!? じゃあなんでゾロは預けるのイヤだって言わなかったんだ!?」
「………そんな無茶なゴリ押し、平気で言いだして強引に押し切っちゃうのなんて、あんたぐらいなもんよ」
ナミは小さな溜め息を吐くと、食後に出されたカフェラテを一息で飲み干して、立ち上がった。
「あんまり長い間ゾロを1人で待たせておくのも心配だわ。私たちもそろそろ行きましょ」
「ん、分かった。サンジ、今度この肉の焼いたの作ってくれよな!」
「………ハイハイ、キャップ」
そして、どうしても気に入った料理をテイクアウトすると言い張るルフィとの激しいバトルを繰り広げながら、レジの前までやって来た3人が、ピタリと足を止めた。
必死の形相でボーイに掴みかかっているゾロを2人の屈強な男が押さえている。
「ゾロ?」
呼びかけに振り返ったゾロの瞳は、今まで見たことの無いような色を留めていた。
「一体どうしたの?」
「どうしたも、こうしたもねぇ! 俺の、俺の刀が……」
「……………?」
この事態をオロオロと見守っていたマネージャーらしき人物に、ナミが視線で問いかける。
「こちらのお客様からお預かりしていた刀の内一本が、どうやら手違いで他のお客様の手に渡ってしまったらしく……」
言葉を濁しながら、答えを返した男を、ゾロがキッと睨み付ける。
「冗談じゃねぇ! 手違いで済むか!」
「まことに申し訳ございません。その刀の料金は、当レストランが責任を持って全額弁償させて頂きますので……」
「だから、金の問題じゃねぇって言ってんだろうが! ……なんで、よりによってあの刀なんだよ………」
微かに語尾を震わせて叫んだゾロの声に気押されるかのように、小さな沈黙が降りる。
張りつめた静寂の中、ゾロは唇を噛みしめて、ぎゅっと目を閉じた。
「ゾロの刀持って行っちまったヤツって、このレストランの客なんだよな?」
そんな空気の中に落ちた、ルフィの問いかけ。
「そうね、この店が客の持ち物をだまし取るようなシステムを取っていない限り、そうなるわね」
「め、滅相もございません! そのようなマネなど、決してしていないと、この命をかけても誓います!」
「………だって。まぁ、この雰囲気だったら、八割方信用出来ると思うけど?」
必死に言い募るマネージャーとナミを見比べて、ルフィはコクンと頷いた。
「じゃあ、みんなで捜すぞ!」
「………ハァ!?」
「壊れちまったワケじゃないんだ。ここにないなら別の所に有るって事だろ? ………ゾロの大事な刀は、俺が絶対見つけ出してやる。だから、安心して良いからな!」
突拍子もないその言葉に、思わず固まってしまったゾロをギュッと抱きしめて、ルフィは背後のナミを振り返った。 「ここの後始末はナミに任せる。ソレが終わったら船にいるウソップとチョッパーに知らせてくれ」
そして、オシっ!っと両腕を伸ばして、ルフィはその勢いのまま外へと飛び出して行った。
そんなルフィの後ろ姿を呆然と見送っていたゾロの髪にクシャリと指を絡めると、サンジまでもがその後を追うように駆けだして行く。
「愛されてるわね。未来の大剣豪」
「……………!」
「ほら、アンタもそんな所に突っ立ってないで、自分の刀を探しに行ってらっしゃい。あの2人に先を越されたら、見返りに何を要求されるか分からないわよ?」
「………………」
腕を組んでニヤニヤと笑うナミを睨み付けると、ゾロは小さく息を吐いて、2人の後に続いた。
「じゃあ、私たちは賠償金の話しでもしましょうか?」
そして、後に残されたその店の人間達は、ニッコリとしたナミの笑顔を向けられて、背筋を凍らせたのだった。
物と人とで溢れ返った大通り。
キョロキョロと首を動かしながら、ゾロは行き交う人々に視線を集中させた。
もし、ホンの一瞬でも視線の端に入ったのなら、自分があの刀を見逃す筈など無い。
そんな確信に理性を縋り付かせ、焦りをなんとか抑え込む。
少しでも似たような刀を見るたびに足を止め、そして確認の後小さな溜め息を吐いた。
幾度となくそんな事を繰り返し、暑さの為ではない汗が額に浮かび始めた頃、ゾロの視線がふと1人の男に止まった。
決して、他人と違った行動をとって居るわけではない。むしろ、周りの人間にあわせるかのように、人の中にとけ込んで居るかのようにさえ見える。
けれどもその動きが、その存在そのものが、自分の中の何かを強く惹きつけた。
………あいつ、出来る。
知らず知らずに男を目で追い、そして………。
その男の腰元が視界に入った瞬間、ゾロは反射的に駆け出していた。
「オイ!」
人の波をかき分け、目的の人間を捕らえるとその肩を掴む。
その手に握られている刀は………!
「どうした? 小僧」
「アンタ、『ルチア』って店に居た客か!?」
「ハァ?」
「さっきまで、丘の上のレストランで、メシ食ってたのかって、聞いてるんだ!」
「オイオイ、ヤブから棒に何なんだ?」
「いいから答えろ!」
食いつかんばかりの眼差しを向けられ、男は肩を竦めるとポリポリと頭を掻いた。
「………メシは食ったが、港の近くの酒屋だ。そんなトコには行ってねぇよ」
「だったら、この刀!」
「………やっぱり、盗品か………」
手の中の刀をマジマジと見つめ、男がハァっと息を吐く。
「……………?」
「………だから、言ったんだ俺は。胡散臭すぎるってな………」
そして、脱力気味にポツンとそう呟くと、ゾロに視線を戻した。
「悪いな、返してやりたいのは、山々なんだが、これは俺が買ったんじゃないんだ。さっき向こうの通 りを歩いてる時にお前ぐらいの年格好のヤツに呼び止められてな。その時一緒に居た俺の連れが、妙に気に入っちまって、言い値で買っちまいやがった」
「だったら、その金は全部返す! だから、その刀を返してくれ!」
「………それで、話がつくような人間だったら、いいんだが………、気に入ったモノは絶対に諦めない、手放さないの原則を絵に描いたような男だからな………」
ゾロに話すと言うよりも、どこか遠くに語り掛けるような口調。
「不機嫌になると、そのしわ寄せを全部引っ被らせられちまうのは、俺だし………」
眉間にシワを寄せて、ブツブツと呟いた後、男はゾロの頭にポンっと手をのせた。
「すまんが、この刀の事は諦めてくれ。出来たらあの人のぼやきには付き合いたく無いんでな」
そう言って背を向けた男の服を、ゾロがギュッと掴む。
「ふざけんな! ソレは俺の刀なんだ、返しやがれ!」
意地でも食らいつく、ゾロの当然と言えば当然の姿に、男はもう一度溜め息を吐くと、空を仰いだ。
「アンタに勝ったら、本当にその刀を返してくれるんだな?」
「ああ、俺も男だ、約束は守る。お前にコレを返して、黙ってあの人の愚痴を聞いてやるよ。その代わりお前が負けた時は、俺の言うことを聞いて貰うぞ?」
「………………」
町はずれにある小さな広場。
男と向かい合ったまま呼吸を整えると、ゾロは腕のバンダナを頭に巻き付けた。
「俺の名は、ベン・ベックマン。お前は?」
「………ロロノア・ゾロ」
「ロロノア。ゾロ、ね………」
そのまま口を紡ぎ、お互いの動きに意識を集中し始めた2人の間を、風が渡って行く。
最初に仕掛けたのは、ゾロだった。
鋭い動きで男の右肩に斬り込み、間合いをつめて上方から刀を滑らせる。
その切っ先を僅かな動きで反らせて、防御ではなく攻撃に移動してくる相手の手腕に、ゾロは小さく舌打ちを漏らした。
後一歩の間合いを、瞬時に読まれて切り換えされる。
ガムシャラに剣を受け、そしてほんの小さな隙を見つけては攻撃に移る。
張りつめた空気の中で、どのくらいの時間が経過しただろうか、お互い相手に一太刀すらあびせる事が出来ないまま、呼吸のみが荒くなってゆく。
もしこの場に他の人間が居たなら、立ちつくし、見入ってしまうであろう、激しい、けれども何故か心が惹きつけられる攻防戦。
刀の煌めきが空を斬り、ぶつかり合い、綺麗な円を描いて流れた。
そして、それはほんの一瞬の出来事だった。
いつもなら、口にくわえた刀で受ける筈の場所。
僅かに遅れたゾロの反応の隙を見逃さず、男の刀がゾロの頬を掠めた。
そして、崩れた体制を直す暇すら与えられず、足が払われる。
地面に倒れ込んでしまった体の、その喉元に切っ先を突きつけられて、ゾロはグッと男を睨み付けた。
「俺の勝ちだな」
「………………」
刀を握りしめていた両手から、力を抜く。
「殺れよ………」
「………………」
剣士として、刀と運命を共にしてきた自分だ。
敗北が死に繋がる事など知っている。
言い訳など、する気はない。
例え、今ここで自分の野望が砕けてしまうとしても、これまでの生き様に泥を塗る事だけはしたくない。
ゾロは、覚悟を決めそっと目を閉じた。
「………刀が3本揃ってなかったからって、言い訳はしないのか?」
「……………!」
突然のその問いかけに、ゾロは反射的に目を見開いた。
「ロロノア・ゾロって名には、聞き覚えがある。海賊狩りのゾロ………。確か三刀流だった筈だ。お前の事だろ?」
「………だったら、どうだって言うんだ」
「いや………」
そう言って、ベンが僅かに苦笑を漏らす。
「気に入った。だから、もう一度チャンスをやろう。お前が勝ったら、無条件で刀は返す」
そう言って、刀を鞘に納めた男に、何故かゾロの背筋をゾワリとするモノが走った。
連れてこられたその場所は、殆どの港町になら、必ずあると言って良い建物だった。
一夜のみの恋人を求める為に、女を買う男達が集う場所。
決して明るくはない店内に足を踏み入れた瞬間、ざわめきだった女達を無視して、ベンはカウンターの男に金を渡してキーを受け取った。
そして、眉を寄せるゾロを促し、2階の個室へと足を踏み入れる。
「どういうつもりだ」
「ココまで来て、分からない筈は無いだろ?」
「………………」
「勝負の方法は簡単だ。お前はただ、自分の刀を両手で握ってるだけでいい。何があっても離さずにな」
ホラっと刀を差しだした男を、ゾロが睨み付ける。
「………いらないのか?」
そう言って、口元だけに微笑を浮かべた男が、殺してやりたいほど、憎らしく見えた。
「俺は、どっちでも良いんだぜ?」
「………………」
奥歯が軋む程歯を食いしばると、ゾロは、ゆっくりと和同一文字に手をのばした。
手に馴染んだ柄を、ギュッと握りしめる。
まるでソレが合図であったかのように、男がゾロの腰に手を回し、ベッドに押し倒した。
「離すなよ?」
吐息が触れ合う程の距離で、そう囁かれて、唇がそっと重ねられる。
息を止め、体を強ばらせたゾロをからかうかのように、舌先が口内を擽った。
そして、腰に回された男の手が、足の間へと移動してゆく。
服の上から、ソレの形をなぞるように、ゆっくりと行き来する、指先。
「……んっ…!」
反射的に浮き上がった腰元を優しく撫で、男はゾロの下半身から、下着ごと衣類を取り去った。
角度をかえながら、徐々に深くなってゆく口づけ。
首を振り、その戒めから逃れようとするのだが、わき上がる下半身の疼きが、それを緩やかなものへと変えてしまう。
男としての当然の反応を、他人の手が、自分の思うがままにいたぶって行く。
「………っ……」
片手で頭上に押さえ付けられている刀を力一杯握りしめ、ゾロはわき上がる快楽を必死で堪えた。
根本から先端までを、締め付けるように強く。
そして、爪の先だけで、擽るように優しく。
快楽のツボだけを探るように、男は徐々にゾロを追いつめて行く。
背筋から直接脳に伝わる刺激が限界まで近づき、ゾロの目尻に涙が浮かぶ頃になってようやく、男は唇を解放した。
自由になった口で、思いっきり息を吸い込み、そして………。
「………なっ!」
立ち上がり、張りつめたソレに、男の舌が絡みつき、先端を痛い程に吸われる。
刀に絡みついている指が白くなるまで握りしめ、ゾロは欲望を解き放った。
真っ白に染まった意識を拡散する、男の動き。
震える唇をギュッと噛みしめ、ゾロは快楽の波に溺れてしまいそうになるそれを、頭上で握りしめた刀だけに縋り付き、耐えぬ いた。
遠くで聞こえる水しぶきの音。
開いた瞳に映った、見覚えの無い天井に意識が覚醒を促される。
腰の奥に残る怠さに現実を突きつけられ、ゾロは大きな溜め息を吐いた。
軋む体を動かして、身を起こすと辺りを見渡す。
その瞬間、右の壁に位置した扉が開き、ローブに身を包んだ男が姿を現した。
「起きたのか?」
「………………」
「気分はどうだ?」
「………最悪だ」
吐き捨てて、ウンザリと髪を掻き上げたゾロに、男が喉の奥で、クスリと笑った。
「俺の方は、十分楽しませてもらったからな。いい気分だぜ?」
「ほさけ! ………で?」
「ん?」
「俺は最後まで刀を離さなかったのかって、聞いてるんだ」
「ああ、気を失っても、必死で握りしめてたよ」
「………じゃあ、約束通り返して貰うぜ」
そう言い放ち、ゾロは回りに散らばった服を、出来るだけ男の方を見ないようにして、身につけ始めた。
「シャワーは浴びないのか?」
「帰ってからでいい」
「気持ち悪くないか?」
「悪いに決まってんだろうが! でも、それ以上に、出来るだけ早くこの部屋から立ち去りたいんだよ!」
「オイオイ、つれないな。俺はお前が起きたら一緒に飲もうと思って、酒を飲まなかったんだぜ?」
「知るか!」
三本の刀を腰に差し、身支度を整えると、ゾロは荒い足取りで出口へと向かった。
「………次ぎに会った時は、俺の方から勝負を挑ませてもらうぜ」
「ああ、お前に会える日を、楽しみに待ってるよ」
紫煙を燻らせ、あくまで自分のペースを崩さない男を睨みつけ、ゾロは力任せに扉を閉めた。
そして、バンっ!
と響いたその音に重なるかのように、腰の刀が鳴ったような気がした
■THA END■