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「貴方の健康を損なう恐れがありますので吸い過ぎには注意しましょう」
「喫煙は肺癌、心臓病、肺気腫の原因であり、妊娠合併症の可能性があります」
「喫煙は周りの人を傷つけます」
なんて言葉が、書かれているものがある。
それが何かなんて、言う必要もないほどよく知られている事実。
そう、煙草が体に悪いなんてことは誰もが理解している。
それでも止められない止まらない♪のもまた、仕方がないことで。
でも、こんなことは知らなかった・・・。
「煙草の吸いすぎは不能になる!」
何て信じられないようなことは。
ことの起こりはついさっき。
この船の実質的船長を名目的船長が、探し歩いていたときに不意に耳に入った言葉。
「お前ってほんとにヘビースモーカーだよな。そんなんじゃ不能になっちまうぞ」
「え、まじ?煙草って体に悪いだけじゃねぇのかよ」
「体に悪いことなんて分かりきったことだろ。デ・キ・ナ・クなるんだよ。だから俺なんて止めたんだもんな」
新入りって訳じゃないけれど、あまり聞きなれていない声で聞こえてきたその内容は、シャンクスの続きを盗み聞こうとする気持ちを綺麗に奪い去ってしまうに十分なものだった。
「なぁ、煙草やめろ」
大きな足音と、自分の存在を主張するためのドアの開閉音を盛大に鳴らして登場したシャンクスは、何時もの如くベンの薄い唇に挟まれていた煙草を強引に奪い取った。
眠っていたものだとばかり思っていた相手の突然の出現と行為に、昨夜の我侭を叶えるためににらめっこしてた海図をベンは一部握り締める。
その姿は、なんともこの男らしくなく、貴重な海図は手の大きさからか、少しばかり無残な姿。
「…一体、どうしたんだ」
かなりな距離を走り回り自分を探していたのであろう、少し髪の跳ねたシャンクスを見つめ、机の隅に置かれていた煙草に手を伸ばす。自然と口が求めてしまう条件反射。
「だからやめろって言ってんだろ!!」
瞬時に反応したシャンクスは戦闘中に見せる瞬発力を発揮し、ベンよりも一瞬早く煙草を手にした。それをそのまま握り潰してしまう。
吸うことは不可能なほどに。粉々になった葉が崩れた小さな箱から零れてくるまで。
自分の言う事を一切聞いてくれない相手を睨みつけながら。
「何なんだ、一体。煙草をやめろって言うのか?どうして今更」
シャンクスの訳の分からない発言や行動、発想は何時ものこととはいえ、出会って20年ずっと吸い続けてきたものを今更やめろといわれる理由が理解できない。
そして、そう訊ねている間にも、口と手は煙草を求め探している。
「兎に角、俺がやめろって言ってんだよ。」
睨み付けてくる瞳そのままに、傍若無人な台詞を吐く。それでも、その瞳の中にはベンにだけ気付ける何かがある。
「一体なんでそんなことを言い出したんだ?」
じっとシャンクスの瞳を見つめてくる自分を映した黒い瞳は優しく。大好きな低くてもよく通る声は柔らかい。
「さっき、聞いたんだ。煙草の吸いすぎは体に良くないって」
視線を外し、ぼそぼそと呟くシャンクス。その姿は何かを隠しているのが明白だ。
「そんなこと今更知ったわけじゃねぇだろ。どういうことなんだ?言ってみろよ。言ってくれりゃあ、あんたの頼みだ考えてやるよ」
眼をそらしても、それに合わせてくるベンの発言はとても魅力的なのだが、早々言えるものじゃない。
そんなことを言えない間柄って訳でも、カマトトぶってる訳でもない。今更そんな意味のないことする必要もないし、シャンクスの柄でもない。
それでも、どうしてだか言いにくい。
でも、とても大切なことなのだ。
それが有るから、それが目的でベンを好きなわけでもなく、側に居るわけでもないのだけれど、とっても重要なことで、慣れ親しんだ体には有るのと無いのとでは凄い差で。
今更、ヤレ無い生活に戻れといわれても結構無理なもんで。
いや、結構というよりは確実に無理だと断言できたりする状態。
そんなこんなを考えつつシャンクスは、恨みがましい眼で見つめ、ついでに唇を噛んでみた。
「・・・まったく、あんたって人は」
ゆっくりとした手つきでベンはシャンクスの顔へ手を伸ばした。
頬を包み、柔らかな唇を煙草の香りが染み付いた親指でなぞる。
優しくゆったりと、きつく噛まれて少し赤みの増したそれを解していく。
「言ってみろよ」
どれだけ時間が経っても、20年前と変わることの無いすねる表情のシャンクスに、ベンは顔を近づけ至近距離で囁いて、キスをする。
一瞬だけの触れるだけのキスを。
言葉の先を促すために。
「・・・さっき、聞いたんだ。煙草吸い続けてたら、できなくなるって・・・」
ボソボソと言ってきたシャンクスの表情は少し赤い。言葉としては意味が分かりにくいが、その色でベンには何となく想像がついた。
「・・・できなくなるって、・・・SEXのことか?」
「そう」
「誰が言ってたんだ?」
「わかんねぇ、聞こえてきただけだから」
優秀な男の知識の中には無かった、「煙草=SEXできない=不能」という内容に暫し驚くが、シャンクスの言いたいことは理解できたし、さほど問題の無かった事だったので内心ほっとし、すぐ側にある体を抱きしめた。
強く鼻腔をくすぐってくる香りと硬い胸や腕に包まれる。大好きな香りと感触。
それでもこれだけで満足できない不思議。
「だからやめろって事か」
「そうだよ。だって困るじゃねぇか、お前ができなくなっちまったら、俺どうすりゃ良いんだよ。全然できなくなっちまうじゃねぇか、俺まで」
「それは、そのままの意味で受け取っていいのか?」
「当たり前だろ」
胸の中に納まって、鼻を擦り付けてくるシャンクスはやはりボソボソと呟く。それが視線上唯一見えている真っ赤な髪と合わなくて、ベンの笑いを誘う。
腕の中の体を一際強く抱きしめクスクス笑いながら、「安心しな。確かに煙草は生殖能力を低下させ」と言った瞬間「やっぱり!!」という声とともに、シャンクスはガバッと顔を上げた。
「そうなんじゃねぇか、だからお前はもう禁煙しやがれ!!」
至近距離で唯でさえでかい声を大声で出してくるシャンクスに対し、ベンは眉間にしわを寄る。それはもう煩そうに。鬱陶しそうに。
「最後まで聞け」
「なんだよ」
再度青い瞳に怒りを含ませたシャンクスを、もう一度抱きしめなおす。
「生殖能力は確かに低下するが、別にあんたが子どもを生むわけでもないんだから問題ないだろ。生殖行為に一切問題でなけりゃ、ってことだ。誰が言ってたかは知らんが、SEXできなくなるわけじゃねぇ、子どもができにくくなるんだ」
「マジで?」
子どものようなビックリした表情を顔中に貼り付けてシャンクスがベンの顔をまじまじと見る。
腕の力を抜いて、顔を近づけた。
「で」と発したままの開かれた唇に口付けるために。
表情と反して、幼くもあどけなくも無い心配事を口にしたそこにkissを送る。
唇が触れる瞬間、「それともあんたは子どもが欲しかったのか?」と、からかいの言葉を囁いた。
反論は重なった唇に吸い込んで。
腕を回し、濡れた音を発て、銀の糸を引いて唇を離す。
いつの間にか、海図の上に乗り上げられた体。
シャンクスから寄せられる唇。
唇から唇に伝えられる言葉・・・。
「つくってみるか?」
一緒にクスクス笑って何度何度もkissをする。
その後、広げられていた海図たちが見るも無残なお労しい姿をしていた為に、針路が変更になったのは二人だけが知っている筈の、秘密。
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