レンズと作例

―ナハト・レンズについて―


 ナハトとは“Nacht”つまり、ドイツ語で“夜”を意味する言葉です。ナハト・レンズとは、夜でも撮影出来る大口径レンズという意味です。使用フイルムに合わせて各種、焦点距離のものがありましたが、開放値はF2前後です。本当は、夜というよりも薄暗い室内撮影での手持ち撮影が可能という程度なのですが、1920〜30年代にかけて、大口径の高性能レンズに付けられた名称です。ナハト・レ
ンズを付けたカメラは一般的にナハト・カメラと呼ばれ、高性能カメラの代名詞となりました。

 しかし、実際のナハト・レンズは総じて開放付近ではフレアが多く、また大口径レンズはレンズ枚数も多いのでレンズと空気面の接触面での反射が多くてで光の透過率が悪く、開放値付近での描写は甘いものでした。その上、大きく重く、扱いにくいので決して普遍的性能を持ったレンズではありませんでした。しかし、光学機械メーカーは自社の技術力の証として、高価だったにもかかわらず、採算性を度外視して各種、ナハト・カメラが作られました。

 ベスト判のExakta用では、4種類のナハト・レンズがあります。

・ドイツ製
 Meyer Primoplan 8cmF1.9
 Zeiss Biotar 8cm
 Schneider Xenon 8cmF2

・イギリス製
 Dallmeyer Super-six 3inF1.9

 この4つのナハト・レンズ中でも、特に珍しいのはイギリスで発売されていたダルメイヤー・スーパーシックス付きです。技術的に面白いのは、メイヤープリモプランでしょう。プリモプランは他の3種が6枚構成のガウス型だったのに比べて、エルノスター型の5枚玉です。設計者は、テッサー(Tessar)の発明者であるパウル・ルドルフ(Paul Rudolph)です。ルドルフは、ナハト・レンズとしては、他にキノ・プラズマート(Kino-Plasmat)と呼ばれるF1.5クラスの大口径レンズを開発しています。
 
 ナハト・レンズは、レンズ技術の発達史上、非常に面白い分野です。コーティング(反射防止膜)技術や希元素ガラスの技術の無い、限られた技術的条件の時代に、如何にして大口径レンズが開発されたのか?どのように、レンズ開発史に影響を与えていったのか?そのようなレンズを現在の優れたフイルムで撮影すると、どんな写り方をするのか?たいへん非常に興味深い分野です。



Lenses & Pictures

Nacht-EXAKTA (1935) Dallmeyer-super six 3in F1.9

Nacht-EXAKTA (1935) Meyer-Primoplane 8cm F1.9

Zeiss Biotar 7.5cm 1.5