照れるハークス  .

「あら、ハークス」
「…姉貴」

施薬院から自宅へと向かう途中の路地裏で出会ったのは、俺の姉貴だった。
相変わらずの童顔に大きな花の髪飾りなんてつけてやがるから、見た目は妹だけど。

「今、帰りなの?」
「まあな。ちょっとキタザキ先生に報告したいことがあって」
「えー!いいなあ、私も一緒に行きたかった…」

目に見えてしょんぼりとする姉貴は、確かに可愛い外見だとは思う。
だけど、どうだよ?このしょーんぼりの理由は歳食ったオッサンが好きっていう変な趣味のせいだ。
生憎と理解できない俺は、乾いた笑いで流すことにした。

「それにしてもハークス。最近、楽しそうねえ」

手を口元に当ててくすくすと嬉しそうに笑う。
だけどまあ、これは表向きだ。
俺がカルジェリアというギルドに入って以来、実家に戻ることがあまりなくなった。
つまり姉貴にとって体の良い遊び相手が今現在の時点ではいないわけで。
それを恨んでの発言なのだろうと手に取るように分かる。

「ああ、楽しいよ。姉貴の方は最近変わったことねえの?」

ここで少しでも嫌な顔を見せれば姉貴は調子に乗ってしまう。
俺は表情が変わらないよう意識しつつ、無難に話題転換を試みた。

「私?そうだなあ…。あ、この前ソラっちに会ったよ!」
「ソラッドに?」
「そうそう。愚弟がお世話になってますーって言ったら、こちらこそって!律儀な子よねえ。将来がちょっと楽しみかも」
「将来って…あいつもう23だぞ」
「え、そうなの?そっかあ、40過ぎくらいが期待できるかなあ」

むーっと唸り始めた姉貴に、不意に思ったことをぼそりと呟く。

「…その頃には姉貴も40代突入してるけどな」
「な に か 言 っ た ?」
「何デモゴザイマセン」

地獄耳ってこええ。
姉貴の握る杖がちらついた所で、俺は結構本気で後退った。

「それから世間話したけど、あんたって割と役に立ってるみたいね。なんか、すっごくベタ褒めされちゃった。料理がうまいとか、よく気がついて助かってるとか。実の姉である私が誇りに思っちゃうくらい」
「な、何話してんだよ…」

珍しく真剣な顔で話す姉貴に、ソラッドならさらりと言うであろう会話の概容。
詳しい話を聞きたいような、聞きたくないような。複雑な気分だ。

「あはは、ハークスったら照れちゃって、もー」
「…っ照れてない!」

言いつつ、顔が真っ赤なことは自覚している。
普段面と向かって言われることがない分、他人から聞かされると無性に恥ずかしくなる。
俺について、まるで自分のことのように嬉しそうに話すソラッドが容易に想像できた。

「いーの、いーの。でも、ソラっちってほんといい子よねえ。思わず弟をお願いしますって言っちゃった」
「それが普通だ、それが」

姉貴のどこかズレた思考にはさすがに呆れた溜息しかでない。
一体ソラッドがいい子じゃなかったら、何を口走っていたというのか。

「なんにしろ、大事にされてて安心したわよー」
「…そうか。姉貴もいい加減身を固めたらどうだよ?」
「私のことはいーの!ほらほら、あんただってカルジェリアのメンバー全員顔がいいんだから、油断してたら彼女寝取られちゃうかもよ?」
「寝取…っ!?そもそも俺彼女いねえし、あいつらはそんなことしねーよ!」

あいつらを貶す言葉にムカっときて反射的に言い返すと、姉貴は逆に楽しそうに笑う。

「ふふっ、よっぽど信頼してるんだね。よかったね、いい人たちに出会えて」
「…………ほんとにな」

まったく、毎度のことながら途端に姉の顔になりやがる。
何のために怒鳴ったのかって馬鹿らしくなってきた。
居心地が悪くて目を逸らしながら、そろそろ別れを告げる。
立ち話にしては少し長くなっちまったし。

「それじゃ、俺そろそろ戻るわ」
「うん。たまには顔見せるのよ?」
「分かってる。姉貴の誕生日には戻るよ」
「あ、じゃあ、ゲストはキタザキ先生がいいなあ」
「却下。じゃあな」
「むー!ハークスのけち!馬鹿!愚弟っ」

どんどんひどい言い様になってるぞ、おい。
最早突っ込むのにも疲れた俺は心の中で思うに留めておいて、逃げるようにその場から歩き出した。



リクエストありがとうございました!
08.10.19




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