黒いハークス .
今日も今日とて俺はソラッドとクロノの部屋の惨状を見て溜息をつく。 「なあ…どうやったら昨日の今日でこんなに散らかるのか教えてくれるか?」 一気に低下した機嫌のせいで声が少し低くなる。 それは効果を発揮したらしく、部屋主の二人は肩を揺らして互いの顔を見合わせた。 「いや、俺は何もしていない…ぞ?」 「…俺もただ実験をだな…。いや、しかしこれはなるべくしてなったのであって決して散らかしたいと思ってやったわけでは」 「そうそう。ほら、俺は別に不自由してないし。そりゃ、片付けは苦手だけど…」 「逆に散らかってしまう不思議な状況に陥るからな。ハークスが居てくれて助かっ…」 ダン! と、感情のままに横の壁を殴りつければ、べきりと音を立ててへこむ家の壁。 しまった、ついやっちまった。 しかし今は修理代云々よりも目の前の二人に苛ついて仕方ない。 「お前ら…ちょっとそこに直れ!」 「あ、ああ…」 「ふむ、どうやら怒らせてしまったようだ」 「しっ!」 いやいや、何がしっ!だよ、もう聞こえてんだよこの野郎。 最初の方こそ片付けてやっていたが、それに完全に甘えてやがるこいつらが気に入らない。 もうこれ以上は知らん。 以降はゼロにでも片付けを頼んで散乱物を捨てられてしまえばいい。 カナタは、あいつも散らかす名人だ。 あの部屋はゼロのおかげで綺麗になっていると言っても過言じゃない。 「反省はしてるのか?」 「してる。今物凄くしてる」 「…ソラッドは悪くないだろ」 「いや、でも片付けられないのは悪いと思ってるから」 そう、ソラッドには多少なりとも努力が見えるんだ。 だから俺のこの怒りは殆どクロノに向かっているわけだが。 「なんで当の本人であるお前が話を聞いてないんだよ。なあ?」 「ん?……あ。そ、そう怒るなハークス。少し実験のことが気にかかってな」 「ほう?…んなこと考えられねぇようにしてやろうか?」 言いながら指の関節を鳴らせば、クロノの顔が引き攣る。 言っとくが俺は喧嘩は強い方だ。 ただ小さな頃から姉貴に頭が上がらなかっただけで。 その点、クロノの腕は細っこいし、樹海でも一番に音を上げている。 「困る。それはすごく困るぞ。お前のその怒りは俺が謝れば収まるのか?それとも今すぐ片づけをすればいいのか?ああ、散らかすなというのは無理だ。作業をしているとどうにも…」 「いいからちょっと黙れ!」 「…………」 怒鳴れば、みるみる内に小さくなっていくクロノ。 その様はどこか小動物…そうだな、強いて言うならハムスターっぽい。 さすがの俺も怒りすぎたかと、頭に上った血を落ち着けるためにセットした髪をぐしゃぐしゃと掻き乱した。 「あーもう!いいか、これ以上俺はこの部屋の面倒を見る気はない。住み心地が悪くなっても他の部屋へ移れると思うな。それだけだ」 「すまない…ハークス。今までありがとう」 部屋を出て行く直前に言われ、不覚にも足を止めてしまう。 今ここで振り向けば、俺のちょっとした良心の痛みに気づいたソラッドがにやにやしてそうで、凄く嫌な気分になることは目に見えている。 「……分かればいい」 それだけを言って、俺は部屋を出た。 こうして自分から仕事を一つ減らしたわけだが、毎日片付けていた日課がなくなると何故か寂しさを感じるのは、後々になって気づいたことだ。 リクエストありがとうございました! |
08.10.18 |
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