姫リンゴ  .

「ルーン」
「…あれ?ソラッド?」

日が暮れる頃、エトリアの街中を歩いていると最近見慣れた姿を見つけて声をかけた。
小柄な体にバードの衣装を着て、朱金の髪はサラサラと風に揺れて靡く。
子供似つかわしくない落ち着いた雰囲気を纏う彼のその足取りはゆったりとしていた。
振り向いたルーンの表情は少し驚いていて、緑の瞳がやけに印象に残る。

「帰りか?」
「うん。ちょっと散歩したくなって」
「…この前一人で出歩くなと念を押されたって噂を聞いたんだけど」
「それは…、ソラッド、ちょっと協力してくれないかな?」

苦虫を噛み潰したような顔をした後、近くの路地まで手を引かれた。
俺よりも小さな背を伸ばし、耳打ちをしてくる。

「ソラッドがついててくれたってことにすれば大丈夫だから。…ね?」
「そんなことなら喜んで。…でも、俺が居なかったらどうしたんだ?」

そう問うと、ルーンはいつものように満面の笑みを浮かべた。

「ガッシュとクリイムの二人と遊んでたって言おうかなと思って。あの子達なら、バレた時でも嘘にノってくれるだろうから」
「それは、そうかもしれないけど…一人で出歩くのは、」
「…ソラッドまでそういう事言うの?」

少し首を傾げて見上げられれば、俺も何も言えなくなる。

「分かった。一応、皆ルーンの事を心配してるんだって事は忘れるなよ」
「うん。分かってるよ。…ありがとう」

いつもの笑みではなく、照れたようにはにかむルーン。
心の中が温かくなるのを感じつつ、今度は俺が手を引いて表通りに出た。

「ソラッドはどうしてここに?」
「今日はゼロとカナタとハークスに新人育成を任せてきたから。俺とクロノだけで潜るわけにもいかないからフリー」
「へえ…また新しく人が来たんだ?」
「ああ。ファウンスも大きくなるといいな」
「うん。賑やかなのは楽しそうだね」

他愛ない話で笑いながら歩いていると、いつの間にかファウンスの本拠地であるカインの家の前に着いていた。
名残惜しいながらもここまでだ。

「それじゃ、またねソラッド」
「ルーン」
「え?…わっ」

手持ちの袋を漁って目的の物を取り出すと、ルーンに投げ渡す。
俺の拙いコントロール力にも関わらず、上手くキャッチできる辺りはさすがだ。

「姫リンゴ。間食に買ったヤツだけど、余ったから」
「へえ…、ありがとう。美味しく頂くよ」
「それじゃ」
「うん」

手を振って今度こそ互いに別れを告げる。
さて、ここからハークスの家までは大分距離があるんだけど。どうしようか。







おまけ

「ソラッド。姫リンゴも買ってくるよう頼んでいた筈だが?」
「…別にいいじゃないか。デザートなんて」
「ねえ、ソラッド。それって僕に喧嘩売ってる?」
「僕もー!今日疲れたから甘いもの食べたかったのにー」
「確かに、珍しいな。お前が買い忘れるなんて」

四人の視線が痛い。

「…ルーンにあげた。別にいいだろ?」

「「「「ふうん?」」」」

くそ、なんでお前らそんなに揃ってるんだ…。
07.08.21




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