ロディの料理シーン  .









「こーら、つまみ食い禁止」
「あいた」

適当に取った宿屋の調理場を借りて、手にしたお玉でフィリアートの頭を小突く。
アルディスによって休日と指定された日の昼食を用意するのは俺の仕事だ。
普段の野営においては疲労している場合が多いためタクトに任せっきりな分、休日くらいは働こうと思っている。

衛生面を気遣って、小突くのに使ったお玉を水に浸けた。
普通に手で叩けばよかったと後悔するも後の祭りだ。

「暇なら手伝ってくれよ」
「え、駄目!僕が手伝ったらロディの料理の味が変わる!」
「…お前、料理オンチだったっけか?」
「じゃなくて、ただの不器用でーす」
「だよな。早く食いたかったら、邪魔すんな」
「ちぇー。聞いて、アルくーん!ロディがさー」

唇を尖らせてわざわざ人へ告げに行くアイツは相当寂しがりやだと思う。
そんなヤツをほっとけない俺も相当やられてると自覚しながら、鍋の中身を味見した。
サッパリとした味付けで、舌に残らないあっさりとした舌触り。
よし、問題なさそうだな。

「カーレス。話は聞いた。手伝いが欲しいんだって?」

別の皿の盛り付けをしていたところで、タクトが調理場に顔を出した。
どうやらフィリアートがアルディスに泣きつく様子を見ていたらしい。

「大分湾曲して伝わってるが、手伝いは欲しいな。それ、運んでくれるか?あと人数分の水も」
「ああ、分かった」

先程フィリアートがつまみ食いしようとしていた、盛り付けの終わった皿をタクトが手に取る。
そこまで見て盛り付けを再開したんだが、不意に目に入った彼女の位置は先程となんら変わりなく。

「…どうかしたか?」

じっと皿を見つめ続けるタクトに何かまずったかと不安になる。

「…いや、どうすればカーレスほどに料理が上達するのだろうかと」
「あー…数をこなすしかねーな。俺は環境が環境だっただけに自分で作らざるを得なかったから」
「そうだったな…すまない」

申し訳なさそうに金色の睫を伏せて調理場を出て行くタクト。
その背中を見て逆に俺が申し訳なくなってくる。

「一人一人味が違うのが、料理のいいところだろうに」

気持ちを切り替えて、最後の皿の盛り付けにかかる。
なんにしろ、上手いやら美味しいやらと褒められることは嬉しい。
上機嫌で昼食を運び終えれば、すぐに集まってくる仲間たち。

「「いただきまーす!」」

食べ盛りのアルディスと、腹ペコのフィリアートは、目の前に用意された皿を勢いよく食べ始める。
けれど、相変わらずタクトはじっと料理を見つめたままで。

「タクト、食べないのか?」

待つ義理もなく、俺も自分の皿から一口掬って口に運ぶ。

「カーレス。お前は良い嫁になるな」
「は、はあ!?」

思わず噴出しそうになったが、それは口を押さえてなんとか堪えた。
タクトの突拍子もない発言に調子に乗ったのはフィリアートだ。

「任せてタクトっ!ロディは僕がお嫁さんに貰うからね!」
「それは勿体無いな」
「ええ!?」

勿体無いって…。
心境は複雑だが、フィリアートを一刀両断してくれた辺りには感謝したい。

「皆、食べないの?僕が全部食べちゃうよ?」

結局その後も論争が続いて、アルディスがその一言を言わなければいつまで経っても食えなかったように思う。
すっかり冷え切ってしまったスープに、俺の溜息がやけに大きく聞こえた。












リクエストありがとうございました!
08.10.14

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