ユークリッドの一日


「はぁ・・・」

私は、隣に座っている男性を見つめた。

「ん、どうした?ミラルド」

「あ、何でもないわ。クラース」

「そうか・・・」

そういうとクラースはさっさと仕事を始めてしまった。

実を言うと、最近クラースの様子が変なのだ。

私が呼びかけてもボォ〜ってしてるし、何か別のことにとらわれてるというか・・・


「それは絶対に浮気だね!浮気!」

昔、クラースと一緒に旅をしていたアーチェ・クラインが私達の家にやってきた。

旅が終わった後、たまに遊びに来ては一緒にお茶を飲んでいる。

「で、でも・・・私達、別に付き合ってるわけじゃ・・・」

そうよ。別にアイツなんてなんとも思ってないんだから・・・

「そういう考えだと、誰かにクラースのこと取られちゃうよ!」

「・・・」

「確かにクラースは老けてるし、年寄りくさいし、スケベ大王の師匠的存在だけど・・・」

何気にいいすぎじゃない?

「それでも『ダンディーな感じが出てるから好き』とか何とか言う変な女が現れるかもしれないじゃん!」

はぁ・・・そうかしら?

「これはもうクラースを追跡して証拠を突き止めるのが一番ですな、奥さん」

誰が奥さんよ!誰が!

「でも・・・あれでも一応あの『ダオス』に勝った男なのよ?そう簡単に後を付けさせてもらえるかしら?」

「だいじょ〜ぶ、だいじょ〜ぶ。昔は無理かもしれないけど、所詮今は平和ボケしているただのオッサンよ!
 ノ〜プログレムよ!」

不安・・・

−翌日−

「じゃ、ちょっと出かけてくる」

またなの?毎週日曜になると必ず出かけるんだから・・・

「いってらしゃい」

ダメよ!ここで何か言ったらアーチェちゃんと3日掛けて製作したプロジェクトが失敗してしまうわ!

「ああ」

そういうとクラースは家を出て行った。

数分後、連絡を受けたアーチェちゃんがやってきた。

「じゃあ、ミラルドさん。行ってくるね」

「気をつけてね」

「平気平気だって!」

そういいながら既に前方不注意で木にぶつかってる。

不安・・・

「さて、私はのんびりと連絡を待ちますかね」




−ベェネツィア−

「・・・ここベェネツィアじゃない!?ったくんどうしてあの中年はこんなところまでくるの?」

私はミラルドさんに頼まれてクラースの追跡ちゅうなのだ。

「ん?あれって・・・ナンシーさんじゃない!?」

クラースが公園で仲良く話しているのは、昔私達がくっ付けたカップルの一人ナンシーだった。

「エドウィンさんとうまくいかないから、クラースに相談・・・そして二人の仲は親密に・・・」

私が妄想爆発の時、不意に一人の青年の姿が目に入る。

「・・・ん!?エドウィンさんじゃん?何だ・・・ナンシーさんじゃなかったのか・・・」

いろいろ考えてると、エドウィンさんは、クラースに何かを渡すと帰っていってしまった。

「ん?何だろ。あの紙包み・・・」

ここからだとよく分からないが、しきりにナンシーさんにお礼を言っているようだ。

これは、浮気相 手にあげるプレゼントだと、私はにらんでいる。

その後クラースは嬉しそうな顔をしながら大通りへと向かっていった。

「ん?これはナンシーさんに直接聞いたほうが早いんじゃないかい?」

そう思い直した私は、急遽ナンシーさん宅へと向かったのであった。


−ナンシー宅−

「こんにちわ〜」

「は〜い。ちょっと待っててくださ〜い」

数秒後、どたばたと言う音と共にドアがあいた。

「そちら様ですか・・・ってアーチェさんじゃないですか!?どうしたんですか?久しぶりですね〜」

「ホントに久しぶりね〜。ってそんな話しにきたんじゃないのよ!」

いかんいかん。仕事を忘れるところだった。

「はい?なんの御用で?」

「単刀直入に聞くわ!!クラースの浮気相手は誰?」

フフフ・・・とうとう聞いたわ!まっててミラルドさん。この魔法探偵アーチェさんが今すぐアナタに真実を届けるわ。

真実はいつも一つなのよ!

「はぁ・・・クラースさんって浮気してらっしゃるんですか・・・?」

「そ〜なのよ。あの中年、恋人がいるのに調子に乗って浮気してるのよ!信じられないわよね〜!!」

「浮気相手の名前なら知ってますけど・・」

「名前だけで結構!さぁ、教えて頂戴!」

「その人の名前は・・・」


−クラース自宅−

「はぁ・・・遅いわ」

もしかして途中見つかったのかしら?でもアーチェちゃんは箒に乗ってるから見つかる心配はないと思うんだけど・・・

「ただいま〜」

「あ、どうだった!・・・ってクラース?」

「ああ、私だが何か問題か?」

「ハハハ・・・何でもないのよ。何でも」

何やってるのよ!アーチェちゃん。

「そうか・・・?まぁいい。それより夕飯は出来てるのか?」

「え、ああ出来てるわよ」

「そうか・・・」

少しだけクラースが寂しそうな顔をしたのに私は気づかなかった。

「さぁ、早くご飯にしましょう」

そうしていつものように食事が始まった。

いつもと違うのは、食事を終えたらクラースはいつも書斎に行くのに、今日はリビングにいることだった。

私が後片付けをして、腰を落ち着かせたところ・・・

「ミラルド・・・これを」

そういってクラースは、紙袋を取り出した。

「え・・・?」

何だろうと思い袋を開けてみると・・・

「これ・・・私が欲しいっていってたネックレス・・」

そうだ。確かにこれは私が前に欲しいって言ってたネックレスだ。あの時は在庫がなくて買えなかったはずなのに・・・

「あ、今日・・・たまたま見つけたんでな!値段も安かったから買おうと思ってだな・・・」

嘘ばっかり・・・。

値段が付いてる。1万5千ガルドって・・・

「ありがとう。でもどうして?」

「何言ってるんだ?今日はお前の誕生日だろう?」

「え、明日よ」

「・・・」

「・・・」

「・・・今日ってことにしないか?」

「・・・そうね」

ありがとうクラース。


「まさか、ミラルドさんのプレゼントを買うのに一生懸命だったとわね〜」

「ええ、先週『このネックレスの在庫を探してるんだ!』とか言って尋ねてきたんですよ」

「へ〜。やるじゃない。クラースも」

「たまたま社に一個だけ在庫があったんでお渡ししましたけど・・・なかったらきっとミッドガルズまで行ってましたね」

「そうか・・・。あいつどうしてるかな」

私は、青髪の青年のことを思い出した。

今アセリア暦4110年。まだ90年以上も待たないといけない。

「はぁ・・・」

今日がまたゆっくりと過ぎていった。


アーティの感想
魔法探偵アーチェさん・・・何故か、ロキが頭に浮かんだのは私だけでしょうか(まてっ)
クラースさんも、値段が付いたまま渡すというお決まりのボケも決めてくれて、よかったよかった(笑)