でかいのがお好き?


「なあ、クレス」
「んー?」
「・・・お前さ、やっぱでかい方がいいか?」
クレスはチェスターの視線の先を見てうなずいた。
「まあ、ね」



でかいのがお好き?




隣室でクレスとチェスターの会話を耳にしたアーチェはその内容に耳を澄ましてしまった。
「な、何の話?」
「どうかしました?」
ミントが不審そうに聞いてくる。
「いや、ほら。なんていうか・・・」
と、隣室の会話が流れ込んできた。
「男なら皆そうじゃないかな」
「だよな。やっぱでかい方が・・・」
ミントはしばらくその会話の内容を吟味し、赤面した。
「あ、あの、これって・・・」
「しっ、黙って」
完全に盗み聞きする気のアーチェ。
「でも突然どうしたんだよ」
クレスの意外そうな声が聞こえる。
「わ、私にはクレスさんがそういう話に乗ってることの方が意外です!」
「ミント、声がちょっと大きいよ」
ちゃっかりミントも盗み聞きをしている。
「まあ、何つーか。こういうこと考える俺が異常なんかなと思ってな」
「心配しなくても僕だってそうだよ」
「お前もでかい方がいいか?」
「そりゃあ」
「だよなあ」
男たちの会話(と言うよりクレスの意見)にミントが自分の胸元を見下ろして小さく拳を握る。
対するアーチェは恨めしげに、
「ちぇすた〜・・・」
うめき声をあげている。
と、突然二人の会話が止まった。窓の外を見ながら会話していたらしいから何か妙なものでも見たのかもしれない。
「・・・やっぱさ、でか過ぎるってのも嫌だな」
「そうだね。なんていうか・・・目立ちそうだし・・・その」
「ああ。気持ち悪いぜ、あのくらいだと」
この言葉にミントが急に心配そうに自分の体を見下ろす。
「お、大きすぎたりします?」
「・・・皮肉?」
「あ、いえ、そういうつもりでは・・・」
焦り気味に半眼のアーチェをなだめる。
「服も探すの苦労しそうだよね」
「同感。それに金かかってしょうがねえし」
ミントとアーチェはいったいどんな女性を見たのかと顔を見合わせる。
「そういえばチェスター、靴のサイズは?」
「あん?」
「ほら、人間足が大きくなれば自然と体格がよくなるって言うし」
「ああ。なるほど」
チェスターが納得した声を上げる。
「えっと、いくつだったか・・・」
それから考え込むチェスター。
「な、何であんたがあたしの靴のサイズを知ってんのよ!」
「ぷ、プレゼントに靴を・・・とか?」
「あ、あいつが?」
アーチェは疑わしげに、けれども半ば期待してミントの意見を聞く。
と、チェスターが首を振った。
「いや、考えてみればとうに成長期過ぎてんだ。これ以上は望めねえか」
「はは。まあ、現状で何とかしてみなよ」
「だな・・・。あれ着こなすにはどれくらいかかることやら」
二人の会話がアーチェにはこう聞こえている。
「いや、考えてみればとうに(アーチェの胸の)成長期過ぎてんだ。これ以上は望めねえか」
「はは。まあ、現状で(我慢して)何とかしてみなよ」
アーチェは歯軋りを起こしそうな感じだ。
が、ミントは妙な違和感を感じた。
「?」
首をかしげる。妙に雰囲気が健全と言うか。
「でもほら、そのせいだけじゃないかもしれないじゃないか。体質的にも合わないって言うか」
「ああ・・・。確かにそれはあるかもな」
「高い低いじゃなくってそういうのも考えに入れとくべきだと思う。どうしてもだめなら仕立てに出すとか」
「全く。あの馬鹿女もどうしてこんな服買ってくるのやら」
アーチェとミントは顔を見合わせた。
「・・・クレス、今なんていった?」
「高いとか、低いとか・・・」
「・・・形のことじゃないよね」
「雰囲気かなり違いますが・・・」
嫌な予感。と、チェスターが盛大なため息と共に答えを口にした。
「もう少し『身長』がありゃ何とかいけるかとも思うんだがな」
少女二人、ばったりと倒れこむ。哀れ。
「・・・・・・あ、あたしたちって・・・馬鹿? でかいって・・・高いって意味で言ってたんじゃん」
「そ、そういう話だったんですね・・・」
えもいわれぬ疲労感に襲われ、二人は突っ伏したまま盛大なため息をついた。


ちなみにクレスとチェスターが見ていたのは紳士服店の理想的な体格を模したマネキンだったりする。
で、固まったのはそれより数段背の高い人が体をかがめながら店から出てきたから。


ちなみに買出しに出ていたパーティ最年少者が戻ってきたときも彼女らはそのままだった。
「・・・どうかしたのですか?」
すずの言葉に、アーチェが、
「ちょっとね〜。人生の不合理て奴を」
「・・・アーチェさんにそのような哲学的思考は似合いそうにありませんが」
すずの容赦のない客観的意見にアーチェは更にへこむのだった。
ちなみにミントは。
「・・・私、清い乙女のはずなのに・・・」
自己嫌悪モードに入っていたり。
「・・・めでたしめでたし・・・でもないかもしれませんね」








あとがき
個人的にだらーっとした友人同士の馬鹿っぽい話って好きです。
で、今回のこれはその産物。クレスとチェスターのだらーっとした意味の薄い会話に振り回される二人の少女の話。
念のために言いますが、クレスとチェスターは二人が盗み聞きしていることに気がついてません。
気がついていても聞かれて困る会話をしているつもりはないわけですし(笑)
こういう誤解系は初挑戦です。
如何でしたでしょうか?
それでは。


アーティの感想
このHP初の誤解系でした(笑)
掲示板にも書いたことなんですが、やっぱりミントが真剣に悩んでるところが好きです。「小さく拳を握る」とか(笑)
でも、成長期が過ぎてるの部分を勝手に「胸が」って意識してるということは、アーチェも多少はコンプレックスを感じてるんでしょうね。