Special day & Common day
特別な1日
朝起きて、顔を洗うのも歯を磨くのも普段より時間を掛けた。
髪も丁寧にセットして着慣れないスーツを準備する。
なんといっても今日は特別な1日なのだ。
友人の結婚式に出席するのはもちろん、使う足が「メルセデスベンツS600」だからだ。
もちろん1千万円以上すると思われる、このゲルマンの高級車を宝くじに当選して購入した訳ではない。
アコードを知り合いの電装屋に修理に出し、結婚式に出席するので代車が要ると伝えると。
気を利かして???出してくれたのだ。
ホテルの前に私の歳でこの車を横付けするのは、なんか成金趣味で気が引けるが普段乗れない車に乗れると言う期待の方が大きい。
駐車場に向かい、重量感溢れるドアを開け車に乗り込む。エンジンをスタートさせると、おおよそ自分のすぐ近くでガソリンが爆発して12個のピストンが上下しているとは実感出来ない静けさだ。
シフトをDに入れて発進させ大きなハンドルを切ると巨大なボディーの割には以外に小回りが利き見切りが良い事に驚いた。
幹線道路に出てオーディオのスイッチを入れると「北島三郎」....うーん。FMにしよう。
有料道路に乗ると想像していた通り快適に運転出来る。
スタビリティーがどうのと言う問題では無く、合流ではすぐに譲ってもらえるし、追い越し車線ではパッシングをするまでも無く(普段もしないが)みるみる進路が開けていく。
核シェルターか耐火金庫の様に頑強なフレームに包まれたこの環境で、この待遇では偉そうな気になってもなるほど不思議ではない。右足に少し力を入れると無限とも錯覚する程のトルクが湧き出てくる。
もちろん必要以上のブレーキング性能、必要以上の走行安定性も兼ね備えている。
全く移動の為の道具としては欠点の無い車だ。しかし式の帰り道には、もう飽きてしまった。
何もかもが完璧すぎて曖昧さも面白みも全く無い。加えて質実剛健なインテリアは運転しながら鼻をかんだり、缶コーヒーを飲んだりすると罪悪感を感じる。
車という物が単に移動手段だけでは無い私の様な人種には、人と同じく性能以上にもっと個性や欠点やいい加減な所があった方が良いと思った1日であった。
平凡な1日
朝、普段通り起きて、普段通り顔を洗い、歯を磨いて着替えた。
アコードを車検に出して、今日の通勤は代車だが、その代車が...
「スズキ アルト」だからだ。
駐車場に行き、ショボいキーをポケットから出し。薄っぺらいドアを開け乗り込む。
やたら軽いクラッチを踏み、何の緊張感も無く走り出す。
朝の渋滞したバイパスの合流でなかなか入れてもらえない様な気がしたり
いつもより強引な割り込みが多い気がしたりしたが、やはり何の緊張感も刺激も無く職場に到着した。普段と違って感じたのは停め慣れた駐車場が広く感じた位か...。
比較的空いた帰りのバイパスで踏むと100km/h程で今にもエンジンが壊れそうな振動と騒音だ。
バイパスが混んできたので目的より手前で降りて峠道に入る。
非力なエンジンを目一杯使って、風や振動を体で感じながら(エアコンレス)チビッコいボディーで頑張って走ると、これは紛れも無く楽しいスポーツカーだと思った。
車の面白さは絶対的な旋回速度やパワーやスタイリングでは無く、運転そのものだと再確認した1日だった。
返却前に給油して一瞬、勘定を間違えたのかと思った経済性にも感服した。
大らかな1日
ある日、後輩から電話があり、何でも最近、買った車の「マフラーを切って欲しい」らしい...(汗)。
その車は「シボレー インパラ」
約束の時間に自宅のガレージの前に到着したシボレーは想像以上にデカイ!!
下町の道路には明らかにオーバーサイズだ。ボンネットだけでも畳よりデカイし。室内も広大だ。
途中で移動交番が来てじろじろ見られたが、作業自体は簡単に終了した。
その後、食事をしに、呆れる程広い室内に乗り込み、出発...。あれっ窓が開かない!!
「あっ故障しているんですよ。この間はライトが灯かなくなったし、それを修理すると今度はオーディオが故障、更に修理すると、次はエアコン...もう諦めてます。走るのは走るんで。」
この危ういバランスの元に成り立っている車に同乗していると目的地に到着出来るか不安だ。
更に気になった事があった。
「おいガソリンEmptyだぞ。」
「燃料計なんて買った時から動きません。」
失礼...(滝汗)。
食事を済ませた後も「この車、エンジン掛かって帰宅出来るのか?」と言う心配もよそに無事帰宅。ウインカーは灯かなかったけど...。
インパラに乗っていると、やれボディーに小傷がとか、アライメントがとか、燃調が..とか
そんな細かい事はどうでも良いと思うのかもしれない。
デカいボディーにデカいエンジン、アメリカの大らかな雰囲気。
時間に追われて生活している神経質な東洋人には、とうてい創造する事の出来ない世界がその車にはあった。