ドサッ
肩に提げていたショルダーバッグを人工芝の上に降ろす。
ここは海星団のホーム。
このシリーズ、虎生が苦汁をなめさせられた場所である。
「今日の試合終わったらうちで九連戦や……」
V2をファンから期待されているというプレッシャーを身に受けながら、虎生は現在りーぐ3位というポジションにいた。
決してV2が無理なわけではないが、その道は去年ほど易しくはない。
「とーらきっ」
背中に勢いよく乗りかかる一人の女性。
羅月は今日も付いてきていた。
去年ほど勝てないのは、羅月が去年より出ているからではなかった。
虎生が出場した試合でも、接戦で負ける事が多々あった。
それは間違いなく、今年は「追うもの」から「追われるもの」に変わったからに他ならない。
「今日も頑張っていこな♪」
プレッシャーとは無縁な羅月の笑顔につられ、虎生が少し笑い
「そやな、まだ嬢ちゃん相手にカード勝ち越しもやっとらんし、張り切っていくで」
と言ってポケットに入っているたばこを取り出し、火を付けた。
「い、家の中でたばこを吸わないでほっしーな!」
向かって左の方角から良く聞いた声がした。
この家の主、星奈である。
「ええやんけ。 灰は落とさんようにするから」
「それでも駄目!」
必死に叫ぶ星奈を見て、舌打ちをしながらたばこの火を消し灰ガラ入れに捨てる。
「今日も絶対倒すんだもん」
それを見て機嫌が良くなったのか、笑いながら控え室の方へ戻っていった。
「……調子のっとるな」
最下位である海星団ではあるが、唯一吼虎団にだけは大きく勝ち越していた。
吼虎団が3位というポジションにいるのは、すべて海星団のせいである。
「あー、考えたらなんか腹立ってきたやんけ! 今日はいてこましたる!」
かけていたサングラスを乱暴にバッグの中に放り込み、虎生は踵を返して控え室へと戻っていった。
☆
『ジャストミート!』
虎生の奥義20番の守りをかいくぐり、星奈のいっぱつがヒットした。
現在スコアは1−3。
これまで虎生が失ったポイントはすべて奥義20番の隙をつくいっぱつだった。
「まぐれ当たりもええ加減にせーよ!」
怒りでまた薄くなった守りに、マシン番号30による一撃が奥義20番を破った。
「ちぃっ」
かろうじてジャストミートは避けようと体を動かすが
『ミート!』
さらに1pt取られることになった。
このラウンド4まで、確実に流れは星奈にあった。
「虎生、まだまだ大丈夫やで」
ラウンド5が終わり戻ってきた虎生に、相も変わらず羅月は笑顔で出迎えた。
「当たり前や。 まだ差は3pts。 追いつかれへんスコアや無い」
息を整えようとしている虎生にタオルを渡す。
汗を拭きながらも、虎生の頭の中は30の守りをどう破るかを考えていた。
破れそうで破れない守り。
かすり当たりで体勢を崩すまでは出来てもポイントに繋げる事が出来なかった。
(あの嬢ちゃんが30をどこまで使うかやな……)
もともとポイントの奪い合いが予想された試合。
崩せない守備に少し焦りが混じってきていた。
そうこう考えているうちに、ラウンド6が始まる時間になった。
立とうとした虎生だったが、その体は羅月の腕によって止められていた。
「虎生。 このラウンド、うちに任せてくれへんか?」
「アホ、こんな状況で任せてられへん」
羅月の腕を避け、虎生は無理矢理立とうとする。
「疲れとんねんやろ? そんなんやと後半に追いつけるもんも追いつけへんで?」
まじめな口調で虎生を制す。
「1ラウンドぐらいなら任しといてや。 絶対、離されへんようにするから」
「……」
そんな羅月に観念したのか、虎生がため息をついて手を振る。
「ありがとな」
また羅月が笑い、腕を横に大きく振った。
「ポイント取られたら許さへんで!」
大きな声で、虎生が声援を送った。
「ほえ? 羅月さんに変わったの?」
「そやで。 星奈よろしゅうな〜」
後半に羅月が出てくるとは思わなかったのか、星奈が意外そうな顔で羅月を見ていた。
そして、ラウンド6が始まった。
「行くで、奥義44番!!」
「ほ、ほえぇぇぇ〜」
始まってすぐに繰り出された羅月の奥義44番に反応できず、星奈はまともにそのいっぱつを受けてしまった。
『ジャストミート!』
スコアが、2−4に変わった。
☆
カンッ!
羅月が放った奥義33番は、ラウンド6から変わったマシン番号17によって遮られた。
このラウンド、羅月はこれですでに2発の攻撃を遮られていた。
「羅月、もう十分や! 替われ!」
肩で息をし始めた羅月に向かい、後方から虎生が大声を放った。
「虎生、後は任せたで」
パンッ!
羅月とバトンタッチで交代する。
「このラウンドは後1発防げば終わりだよ!」
星奈が自信を持って構えていた。
それを見て、鼻で笑いながら虎生が一撃を放つ。
「奥義、53番!」
一番守りが堅固な中心を外し、まず体勢を崩す。
間髪入れずに空いた隙間にもう一コンボを繋げる。
『ミート!』
星奈はその一撃で倒れていた。
その隙を見逃さず、
「とどめや、奥義6番!!」
「ほ、ほええぇぇぇ〜〜!!!」
とっさに星奈はマシン番号11を出したが、逃げる事も防ぐ事も出来ずに、そのいっぱつをまともに受けてしまった。
『ジャストミート!』
そのいっぱつは3ptsが付いた。
星奈が立って、プレイが再開されると
「これでだめ押しや!」
と、完全に守れていない11の守備に奥義24番、14番のコンボを繋げた。
『ミート!』
「ひ、ひどいよぅ……」
スコアは4−7。
すっかりボロボロになってしまった星奈であった。
☆
カンッ!
星奈が繰り出したマシン番号17は、虎生の奥義16番によって防がれた。
『ゲームセット!』
「よっしゃあ!!」
ゲーム終了の合図が鳴ると、虎生は片手を上げて大きな声を出した。
今シーズン、初めて海星団にカードを勝ち越した瞬間であった。
しかし虎生はそんな事を考えずに、ただ今日の勝ちを喜んでいた。
「おめでとー虎生♪」
とことこと羅月が虎生に近づき、お祝いの言葉を述べた。
虎生は羅月を見て、何も言わずに頭を乱暴になで回した。
「あーうー、くすぐったいがな虎生〜」
そのまま二人は、控え室へと戻っていった。