アイオリア誕生日祝SS
十数年前、アイオリアがまだ黄金聖闘士になる前の幼い頃の事、8月16日のアイオリアの誕生日を皆で 祝ってもらった事があった。 「Happy birthdayアイオリア!!」 クラッカーが鳴り、辺りが色とりどりに染まる。 皆が口々に祝いの言葉を述べ、細やかばかりの贈り物を贈ってくれた。 目の前のケーキ、友達の笑い声、暖かい空間。 アイオリアは小さな幸せに身を浸らせて顔を綻ばせた。 自分はまだ力の足りぬ若輩者だが、この仲間達と共に将来女神と世界を守る。 年を重ねる毎にその思いは強くなり、将来その使命に殉ずる事を今更ながらアイオリアは誇らしく楽し みだと思った。 そして、あの人と共に未来を歩んでいきたいとも。 年若い自分達の先輩であり親代り的存在でもある兄アイオロスと、その対となる存在サガ。 そう、サガは兄と同様かもしくはそれ以上にアイオリアにとって特別だった。 よき師であると共に、まるで母親のような慈母と安らぎを与えてくれるサガは、子供の自分から見ても 聡明で美しく。 そのサガと一緒に聖域をずっと守っていけたらとアイオリアは願った。 しかしアイオリアには不安があった。 確証も何もない、他者が聞けば心配のしすぎと笑われるかもしれない思い。 いつかサガはここからいなくなってしまうのではないか、という不安がアイオリアにあったのだ。 だからサガに願いをしてみた。 不安を打ち消すかのように。 「ねぇサガ、おれ一個だけお願いあるんだけど…」 遠くの方でプレゼント貰ったのにもう一個なんてズルイ!と騒ぐミロをまぁまぁと優しくたしなめたサ ガは、アイオリアの方を向いて何時ものように何?と微笑んだ。 「いいよ、今日は他ならぬリアの誕生日なのだから、何でもお願いごと言って構わないよ」 私の出来る範囲にして欲しいのだがな…と苦笑いするサガに、アイオリアは少し恥ずかしげに、自分の 目線と合わせるためしゃがみ込んでるサガの膝頭に掌を乗せた。 「リア?」 「おれ、ずっとずっとサガといたい、サガと皆と一緒に聖域を女神を守っていきたい。だから、もし何 時かサガが弟子をとったとしてもずっとずっと聖域にいてほしい」 一気に捲し立てるとアイオリアは小動物のような目でサガをじっと見詰めた。 一瞬、サガはぱちくりと目を見開き、しかしすぐに苦笑いが崩れたような困った笑みを浮かべた。 アイオリアは断られるのかと思い身構えたが、サガは愛しげにポフポフとアイオリアの頭を撫でた。 「リアがそう望むのなら…私はずっとここにいるよ」 「ほんとっ!?」 パァッっと輝かんばかりの満面の笑みを浮かべるアイオリアにサガは再度微笑み返した。 「あぁ、私はまだ弟子を取る予定は無いし、それ所か、今現在でもう弟子が沢山いるから手一杯だよ」 私の弟子はお前達なのだから。 そう言ってサガはアイオリアをフワリと抱き締めた。 「ほんとに?サガずっと聖域にいてくれる?何処にも行かない!?」 腕の中で再度不安げに確かめてくるアイオリアをサガは強く抱き締めた。 「あぁ約束する。私の行くべき処も帰るべき処も此処しかないよ。私はずっと此処でアイオリアを見守 ってゆく事を誓うよ」 それはアイオリアに、と言うより己に対しての誓いのような戒めな響きを持った言葉だった。 だかアイオリアはその事に気付く事なく、言葉通りに受け取り、これからもずっとサガと共に暮らして 行けると素直に喜んだ。 「サガ〜!オレもオレも!オレも見守っててね!」 サガにペトッと張り付きながら甘えるミロをしっしっと追い払いながら、アイオリアはその後自分の誕 生日を盛大に楽しんだ。 サガと共に生きてゆけると思った。 未来は光に満ちていると思った。 世界の裏側に真実が潜んでるなんて考えもしなかった。 それからサガが聖域から姿を眩ましたのは、その出来ごとから2、3年経った後の事だった。 「サガ」 あれから年月は流れ、幼子だった自分もすっかり成熟しきった青年になった。 愛しい人を呼ぶ声も完璧に大人のソレだ。 「何だリア?」 振り返った麗人はあれから立派な青年に成長したものの、基本的な美しさを兼ね備えたままのサガはや っぱり綺麗だった。 「あの時の約束覚えているか?」 「……忘れた事など一度たりとも無いさ」 聖戦から復活してから初めて迎えるアイオリアの誕生日。 アイオリアとサガは獅子宮にて静かな一時を過ごしていた。 「ずっと聖域にいる…確かにサガはずっと聖域にいた」 「リア…」 「いや、責めているわけではないんだ、ただ…」 「ただ?」 「13年間直ぐ側にいたのに全く気付かなかった自分が歯痒かっただけだ」 「…リアそれは」 「オレは何も知らなかった、サガの苦悩も悲愴も何もかも。オレは…それを仕方が無かったと言える程 出来た大人になりきれない」 「アイ、オリア…」 アイオリアはソファに座ったまま、近くに立っていたサガの手を取り引き寄せた。 「サガ…もう一度だけオレの願いを聞いてくれるか?」 「…?」 「今度は、今度こそオレの側で聖域にいて欲しい」 十数年前の今日、この場所で交わされた約束と同じようにアイオリアは言った。 サガは一瞬だけ顔を歪め、そして笑った。 「あぁ、今度こそお前の側にいるよ。約束しよう」 「本当か?前回みたいに聖域にはいるけどオレには分からないなんて例は無しだぞ」 「…分かってるさ」 苦笑いじみた笑いを浮かべるサガを真摯に見詰めたアイオリアは、しばらくして小さく笑った。 サガもつられて細やかに微笑む。 「十何年間空いてしまったが…ようやく言えるな。…誕生日おめでとうアイオリア」 「…ありがとう」 あの時幼かった無力な自分はもういない。 やっとこれからサガ達と共に歩んでゆける。 流れる歳月を憎んだ少年は既にもういない。 アイオリアは久しぶりに自分の誕生日を素直な歓喜で迎える事が出来た。 隣りにサガがいるから。 END 誕生日おめでとう、アイオリア! 当日には祝えなかったけど(←おい)、サガとお幸せに! |