七夕
「星矢、コレは一体何なんだ?」 「あ、そっかサガは知らなくて当たり前だよな、コレは笹って言って七夕に使うんだよ」 「七夕…?」 サガは初めて聞く単語にキョトンと目をしばたたかせた。 つい先程の事、星矢の訪問の声に呼ばれるまま双児宮の扉を開いたサガは、目の前の光景にビックリし て思考が停止した。 星矢が持ってたのは、190近くある長身のサガより遥かに高い筒状の植物で、サガはポカンとその植物 を見て固まったのだ。 「で、七夕とは一体何なんだ?」 訳も分からず、誘われるがまま笹の飾付けを器用に作りながらサガは星矢に尋ねた。 「えっと…日本じゃ毎年7月7日になると色紙に自分の願い事書いて笹に吊すんだよ。したら願いが叶 う〜みたいな」 「何故笹に吊すと叶うんだ?」 「さぁ?よく分かんないけど織姫と彦星が叶えてくれるんじゃないかな」 「…??」 さっぱり分からないサガはコトリと首を傾げた。 そんな様子のサガを見て、星矢もうーんと首を捻る。 「俺も詳しく知らないけど、星座の伝説みたいなもんらしいぜ?」 「星座の?」 「えっと…確か牛飼いの彦星と機織りの織姫は恋人同士だったんだけど、お互い仕事を忘れて恋愛した から罰として年に一回しか会えなくなったんだってさ」 「なっ…!恋愛しただけでそんな罰が?そんな無慈悲な…!」 驚愕に目を見開いたサガを見やり、星矢は思わず吹き出してしまった。 「や、ただの伝説だって。んで、その年に一回のデートの日が今日の7月7日七夕って訳」 「ちょっと待て星矢」 「ん?」 「では何か?織姫と彦星は今日一年振りに会えるというのに、地上にいる皆から願い事を託されるのか ?」 ひどく真剣な表情のサガは、そのままズズイと星矢に詰め寄った。 「あ、あぁ…そういう事になるんじゃない?」 「…!それは幾らなんでも酷い話ではないか?折角二人の時間を、何故皆の願いとやらに裂かなくては いけないのだ?!」 「わわっ!サガっ!ちょ、近い近い!!」 眼前に迫ったサガの勢いに押されて、星矢は慌てたようにどうどうと手を広げた。 「あ、す…すまない」 柄にも無く取り乱したのを恥じ入るかのようにサガは顔を赤らめ、ゆっくりと身を引いた。 そんな様子のサガは、とてもじゃないが普段の清閑で大人びた姿からはかけ離れており、どこか幼い雰 囲気を含んでいるかのようで。親と呼ぶに近いはずのサガを星矢は何だか可愛いなぁ…等と心の中で思 った。 「てかサガ生真面目過ぎ、普通二人の立場でモノ考えないって」 「いや、人の苦労に乗っかって願いを叶えてもらおうなんて虫の良い話には乗れないな」 どこまでも潔癖なサガに苦笑いしつつ、星矢は子供らしい含みの無い無邪気な笑みを零した。 「そうかな?俺はそうは思わないけど」 「何?」 「久しぶりに好きな奴に再会したらメチャメチャ嬉しいだろ?んで、機嫌の良い時って何でも出来ちま う気したりしてさ『よっしゃ一丁やったるか〜』みたいな気持ちになったりするんじゃないかな。だか ら苦労に乗っかっるんじゃなくて、幸せに便乗させてもらうぐらいの考えでいんじゃないの?」 ケロリと言ってのける星矢に、サガはパチクリと目を開いた。 人間こうも違う考え方が有るものかと思うと同時に、自分には決して無い星矢の素直なまでの前向きさ に眩しさを感じた。 「フ、アハハ…!そうか、ナルホドそんな考え方もあるんだな…星矢、私はお前の素直な心がたまに羨 ましくなるよ…」 「何だよ、何かソレって俺が単純って言ってるように聞こえるんだけど」 ブ、と感情を隠さず不満を露にする子供に、サガはますます笑いが零れそうになった。 「すまない星矢、そんな意味では無いんだが…」 「あぁもうイイって!とりあえずサガも短冊に何か書けよ、他の連中にも後で書かせようぜ!」 「私の、願い事……?」 普段自分からは望みなど口にしない控え目なサガにとって、イキナリ願いは何だと問われても少々困る ものがあった。 確かに願いらしきものは、あるにはある。 だが、自分がコレを望む事など過去自分が犯した罪を思うと軽々しく口に出せない、とサガは思った。 「サガ!」 「わ!な、何だ星矢?」 「眉間、皺寄ってる」 ピッと眉の間に指を置き、星矢はめ、という風に口を尖らした。 「だからあんまり深く考えんなって。自分の思ったこと素直に書けばいいんだよ」 真剣に叱咤する星矢の様子をマジマジと見つめたサガは、やがて小さく息を吐いた。 「……そうか、」 「そうだよ」 ややぎこちなく、それでもサガはようやく少しだけ微笑んで、解ったと頷いた。 「おぉ〜結構映えるじゃん〜〜!」 星矢の嬉しそうな声が聖域に響いた。 あの後、星矢はサガを引き連れて12宮を回ってゆき、皆を巻き込みまくっていった。 幸い皆ノリノリでイベントに参加してきて、今現在は頂上の教皇宮にて全員集合状態になっていた。 それぞれ各自書いた短冊が、ヒラヒラと鮮やかに笹を彩り、夜空に溶け込むかのように靡き星矢は満足 そうに笑った。 「サガ、こっち来いよ!めちゃキレイに出来てるぜ」 「あぁ、解った」 呼ばれるまま駆け寄っていくサガを見やりながら、星矢はやっぱりやって良かったなと思った。 先程サガは見えにくい奥の方へと短冊を吊したが、星矢はサガに気付かれないようコッソリと内容を読 んで思わず笑ってしまった。 らしいと言えばらしい。 しかし、自分も大概の事を書いてるし、むしろ星矢は堂々と短冊を皆の目につく所に飾った。 見るなら見やがれ。 そう心の中で思いながら、隣りにいるサガに笑いかけた。 「星キレイだな、サガ」 「あぁ…そうだな」 『どうか二度と争い無い世界になりますよう、皆が健やかに生きて欲しい。』 『早く大人になって絶対さらいにくるから!』 二人の短冊がヒラヒラと空を舞っていた。 END 七夕って事で、ネタ的に日本人しか無理って事で星矢サガ。 うーん微妙。 おもんないSSSアップしてゴメンナサイ ちなみに私の地域では天の川なんてロマンティカルなものは一切見れません。嗚呼悲しきかなコンクリ ートジャングル…(謎) |