しだけ




「トシちゃんは、夜みたいな人ネ」

巡察中に偶然会った、沖田によく似た万事屋のチャイナ娘。
(ちなみに一緒に巡察に出た筈の沖田は、何時の間にか姿を消していた)
何故か会ってからずっと、土方の隣を歩いている。その片手には、買い物帰りらしく、スーパー の袋が握られていた。
娘の上司である銀髪とは違って、特に此方の仕事の邪魔をしてくる訳でもなかったので、土方も 特に気にしない。 相手の好きなようにさせている。
(仕事に支障を出さない限り、土方はその相手に対して寛容だ)
黙って土方の隣を歩いていた神楽が、不意に口を開いて、先程の台詞を口にした。

「ああ、何だって?」

身長差の所為で、土方からは何時も差しているらしい、傘の天辺しか見えない。

「トシちゃんは、夜みたい」

もう一度、同じ言葉を呟いた神楽の表情は傘に遮られて、やはり土方からは見えなかった。

「なんだそりゃ・・・・つかその前に何だ、『トシちゃん』 って」
「お前のとこの、ゴリラが言ってたアル。『うちのトシが、トシが』 って。煩かったヨ。 だから、 『トシちゃん』 。銀ちゃんと同じようなものネ」
「全くあの人ぁ・・・・。どうでもいいけど、『トシちゃん』 は止めろ。そんな可愛らしい呼び方、 鳥肌が立つ」
「じゃあ 『ひぃちゃん』 ネ。土方だし」
「『トシちゃん』 でいいです」
「わかったらいいネ」

そこまで言うと会話が途絶えて、また黙って並んで歩く。
傍から見たら、真選組の隊服(しかも幹部服だ)を着た、見目はいいが眼光の鋭い青年と、桃色の髪 をした、一目で天人と分かる者には分かる、まだ幼い少女の組み合わせは、いかにもチグハグで 可笑しかったが、二人は周囲の視線を全く気にしない。
暫く歩いて、万事屋のある歌舞伎町へと続く道と、屯所への道の別れ角に差し掛る。

「じゃあね、トシちゃん」
「じゃあな、チャイナ娘」

そのまま自然に、お互いの目的地の角を曲がる。
相手の背中を振り返ることもしない。
そんな土方をそっと肩越しに振り返って、神楽はポツリ、と呟いた。

「やっぱり、トシちゃんは夜みたい」

太陽の光のお陰で、傘なしには自由に出歩けない夜兎の自分。そんな自分でも、夜は何も気にする ことなく、思うがまま。
神楽は夜の心地よい静けさと、体を包み込んでくれるような闇を思い浮かべた。
そして先程まで一緒だった土方を思い浮かべる。もう後ろは見ていない。前を向いて歩く。
一緒にいると、どこか安心する。銀時や新八と一緒にいるのとは、又違った安心感。
それはやはり夜に似ている。

「・・・・夜みたい」

声は周囲の喧騒にまぎれて消えた。





△モドル