サガが風邪をひいて寝込んだらしい。
その知らせは、双児宮から遠く離れた人馬宮のアイオロスの所にもスグに届いた。
聖戦から復活後、中々2人で話す機会が無かったアイオロスは、ここぞとばかりにお見舞いに託けてサ ガのいる双児宮の元へと足を向かわせた。






『DO YOU LIKE・・・・?』






「大丈夫か、サガ?」
「あ、あぁ・・・大丈夫だアイオロス・・・何やら大事になってしまったが結構大した事は無いんだ」
勝手知ったる双児宮のサガの寝室にまでやってきたアイオロスは、心配そうにサガの顔を覗き込んだ。
瞬間、アイオロスは意識のせぬ所でドキリと胸が高鳴ったのを感じた。
何時もは透けるようなサガの白い肌が、今はほんのりと上気して水蜜桃のような色合いを保っていて、 病人だと分かってはいても何やらヨコシマな気持ちを掻きたてられるような雰囲気を持ち合わせてい る。
アイオロスはいかんいかん!と己の雑念を払うかのように首をブンブンと振った。
「アイオロス?」
不思議そうなサガの声にハッとなったアイオロスは、少し気恥ずかしそうにお土産があるんだ、と笑 った。
「どうせサガの事だから面倒くさがって何も食べていないんだろう?俺が色々持ってきたから好きな の食べろよ」
そう言い終えると、アイオロスは背負ってきた鞄から沢山の食事を出し始める。
果物から始まり、肉や魚などを使った料理をタッパーに詰め込んだ食事の量は、とてもじゃないが一 人分には多すぎる量に見えた。
「あ・・・アイオロス・・・こんなに私は食べれないのだが?」
「えぇ?!これっぽっちが?コレ俺の朝食分ぐらいしか持ってきてないのに・・・相変わらずサガは 食が細いなぁ、ダメだぞそんなんじゃあ」
め!と咎めるように顔をズイと近づけてきたアイオロスに、サガはハハと乾いた笑いを返すしかなか った。
確かに自分はあまり食べない方だとは思うが、この量は半端じゃない。アイオロスが飛びぬけて大食 漢なのだろうとサガは思った。
14歳で一旦の命を閉じたアイオロスだったが、その時点ですら180代後半という脅威の体格を持 っていたアイオロスのあの強靭な肉体の秘密はここにあるのだろう。
小食のサガと、大食漢のアイオロス。話がチグハグで噛み合わないのも無理からぬ話だった。
「ホラ、サガ!俺が食べさせてやるからさ、コレ俺のお勧めなんだ」
太陽のような爽やかな微笑を撒き散らしながら、アイオロスはタッパーの一つを開けて見せた。
「え・・・でも」
(コレは・・・・・)
サガの神妙な様子に全く気づく事も無く、アイオロスは更にズイとサガの元へと近づく。
「いいから、遠慮するなって。ホラ食べてみろよ」
有無を言わさないような強引さで、アイオロスは持参したスプーンで掬い、アーンとサガの顔へと近 づけた。
「・・・・・・」
サガは少しのだけ困ったように眉を顰め、しかしアイオロスには気づかれない内に元の微笑を顔に浮か べさせる。
「分かった・・・・ありがたく頂くとするよ」
そう言うとサガはアイオロスの持っているスプーンにパクリと食いつき、そのまま口の中で咀嚼しだし た。
「どうだ?美味いか?」
興味深々な様子で感想を尋ねてくるアイオロスを見やり、サガはああ、美味しいよと小さく囁いた。
しかし、アイオロスは気づく事は出来なかったが、その時サガは小さい不快感に襲われていて苦し紛 れに笑っていただけだったのだ。

それからしばらく2人で談議していた(とは言ってもアイオロスが一方的に話しかけ、サガがそれを 聞いて微笑みながら相槌を打つ形なのだが)のだが、やがてアイオロスはサガの異変にようやく気づ きだした。
「サガ、体調悪いのか?」
先程までは大分落ち着いていた様子だったのに、今のサガは明らかに体調が悪そうだった。
苦悶に僅かに顔を歪ませ、体からはうっすらと嫌な感じのする油汗みたいなものが滲んでいる。
「だ・・・大丈夫だから、心配しないでくれアイオロス・・・」
小さく息を吐きながら喋りかける様は、どう見たって大丈夫には見えなくて。
「おい、全然大丈夫に見えないぞ、医者呼ぼうか?」
腰を半分浮かせて出て行こうとするアイオロスを見やり、サガは慌てて静止の声を上げる。
「い、いいんだアイオロス・・・・」
「しかし・・・・」
「おーい、サガ〜お見舞いきてやったぜ〜〜〜!」
「!デ、デスマスク?」
突如双児宮に響いた聞きなれた声に驚き振り返ると、そこにはデスマスクを初め、シュラ、アフロデ ィーテの年中組が並んで立っていた。
「何だアイオロスも来てたのかよ、サガの様子どうだ・・・・ってサガ!?」
「一体どうしたのですか・・・ッ!?」
ヒョイとアイオロスを避けて覗き込んだ瞬間、年中組は弾かれたようにサガの元へと近寄った。
バタバタと周りを取り囲まれ、自然アイオロスはサガから引き離されるように隅に追いやられ、ポツ ンと取り残された。
「オイ、めっちゃくちゃ顔色悪ぃじゃねーか、一体どうしたんだよ?軽い風邪じゃなかったのかよ」
怒涛の如く捲くし立てるデスマスクの横で、アフロディーテとシュラは、サガの寝ている傍らの子棚 に置かれているタッパーに眼をやり、何だコレはと眉を顰めた。
「シュラ」
「あぁ分かっている。サガ、ちょっと布団捲るぞ」
という間もなく、シュラはペラッとサガの上にかかっていた布団を剥ぎ取ると、苦しそうに胸辺りを 掴んでいるローブの袖を半分たくし上げた。
「!コレは一体・・・?」
アイオロスが驚きの声を上げたのも無理からぬ話で。
サガの普段陶器のような滑らかな白い素肌に、今は無残にもボツボツと赤い湿疹のようなモノがその 腕に幾つも刻まれていたのだ。
シュラは視線だけアイオロスの方を見やり、やや咎めるような色合いの目をしながら問うた。
「アイオロス、これを持ってきたのは貴方なのか?」
「あ、あぁ。サガのお土産に食べて貰おうと思って・・・」
その言葉を受け、年中組は重苦しい溜息を1つ吐いた。
「サガ、あんたも何でこんなん食べたんだ?」
シュラの静かな声を受け、サガは困ったように顔を顰め、すまない、と身を縮こまらせた。
「おい、一体どういう・・・」
さっぱり事情が掴めないアイオロスはじれったそうに声を出した。
「だーかーら、お前が持ってきた食べ物が原因でサガがこーなってるんだよ!」
やや怒り気味のように眼を開き、デスマスクはタッパーを持ちながらズイとアイオロスの方へと差し 出した。
「・・・何?」
「サガは重度の甲殻類アレルギーなんですよ」
冷ややかな声で言ったアフロディーテの言葉に、アイオロスは頭をガンと殴られたような衝撃を受け た。
「なッ・・・・アレルギーだって・・・?」
アイオロスがサガに勧めて半ば無理やり食べさせた食事というのは、海老やムール貝の蒸し焼きだっ た。
自分にとっての大好物だったから、何の躊躇いも疑問も無くサガに食べろと勧めた。それは本当に純 粋に、ただ美味しいものを食べれば人間少しでも元気になるもんだ、という気遣いの元によって行わ れた行動であって。
それが良かれと思ってやった行動が裏目に出てしまい、柄にも無くアイオロスは焦った。
「サガがアレルギー・・・?!そんなの俺知らないぞ・・・だって昔は食べていたじゃないか!」
「13年間の間にアレルギーが出てきたんだ。アレルギーというものは先天的なものだけじゃなく、 後発的に発生する事も多々ある」
既にサガの方を向いたっきりのシュラは、振り返る事も無くアイオロスに喋りかけた。
「・・・サガ、何で食べたんだ?こうなる事は分かっていただろう・・・・・?」
静かに問い詰めるシュラの顔を見ながら、サガはややバツが悪そうに眼を細めた。
「・・・・しかし・・・折角アイオロスが持ってきてくれた物を断わるのは悪い気がして・・・・・」
ただでさえアイオロスには償いきれない負い目もあるサガにとって、アイオロスの言動は絶大な力を 持っている。

アイオロスに対して罪を償いきる事など一生出来はしない。
ならばせめて、アイオロスが自分に望み、自分が出来る事ならば何でも叶えてやりたい。
それが自分に出来るせもてもの償い。

そう考えているサガにとって、アイオロスがわざわざ自分のために勧める食事を断わる事など到底出 来るはずもなく。
この後自分がどうなるか十分に分かった上で、サガは自分によって有害でしかない食材を口に入れた のだった。
「ったく、そーゆー気遣いがかえって相手に失礼なんだぜ!?ホラ、とっとと白状しちまえよ、腹は ?熱は?食欲はあんのか?」
ズズイっと迫ってきたデスマスクに一瞬怯んだものの、サガはアイオロスの時には見せなかった、少 々頼りなげな視線でポツリと呟く。
「お腹は・・・・少しだけ痛い、あんまり食べたくはないのだが・・・・」
「ダメですよサガ、体調の悪い時こそ食べれる物だけでもお腹に入れないと。人間の気持ちと体は常 に一緒とは限りません、食べたくないと思っているのは気持ちだけで、体内は栄養を欲しているんで すよ」
諭すように囁くアフロディーテの一言に、サガはグッと喉を詰まらせる。
「そーそー、食べないから余計気分悪くなって、また食べたなくなって・・・っていう悪循環繰り返 しちまうぜ?・・・ったく、しゃーねェーなぁ。そんじゃぁ一丁飯でも作りますか!おいサガ、リゾ ットとヨーグルトぐらいは食えんだろ?」
有無を言わさぬデスマスクの物言いにやや戸惑いながらも、サガはコクリと頷いた。
「よっしゃ、じゃーキッチン借りるぜ〜ヨーグルトはいいぞー免疫機能を元に戻してくれる働きがあ んだぜ〜?」
顔に似合わず料理の得意なデスマスクはこういった豆知識も結構詳しいらしく、サガのアレルギーを 押さえるための医療食を作りにキッチンへと消えていった。
「・・・すまない皆、迷惑をかけてしまったな」
申し訳なさそうに呟くサガを見て、アフロディーテはとんでもない、と首を振った。
「何が迷惑なものですか、私達は常に貴方と共にあるべき存在。貴方のお役に立てることを喜びこそ すれ、何故迷惑に思うんですか」
「アフロディーテ・・・」
「俺は正直怒っているが?」
「シュラ!!?」
何て事を言うんだとばかりに眉を跳ね上げさせたアフロディーテの顔は、なまじ美人なだけに壮絶な ものがあった。
「だってそうだろう?贖罪だか何だか知らないが、無理をして体を壊していくサガを見るなんてもう 懲り懲りだ。これでは一体何のための13年間だったんだ?」
「シュラ・・・・」
「サガ、俺達はアンタの元に着いて行くというのは13年前から変わらない。だがもう全ては終わっ たんだ。だから俺は・・・俺達はもう無闇に傷ついていくアンタを見るのは嫌なんだ。たとえそれが アンタの望みだとしても・・・・!」
最後は声にならない咆哮のように言い放ったシュラの顔には苦悶の色が見て取れて、サガはシュラ、 と言って黙ってしまった。
「・・・・サガ!すまない!!まさかこんな事になるなんて思ってもみなかったんだ・・・!!」
「アイオロス・・・」
今まで大人しくしていたアイオロスだったが、ここにきてもう我慢しきれないとでもいう風にサガの 元へと駆け寄ってきた。
「謝る事など何も無いよアイオロス、私が言わなかったのがいけないのだ・・・アイオロスが良かれ と思ってやってくれた事だ、私は嬉しかったよ・・・・」
うっすりと笑う様はかえって痛々しさを増長させるかのような雰囲気を醸し出していて、アイオロス は急に悲しくなった。
「そうだよ・・・何で言ってはくれなかったんだ?俺だって言ってくれれば分かったのに・・・・シ ュラ達には弱音を吐けるのに俺はそんなに頼りないのか?」
サガはとんでもない、と首を振りながら慌てて言った。
「いいや違うよアイオロス、お前は私にとってとても大切な、と・・・友だと思っている。迷惑かも しれないが・・・・それに、何故だろう、シュラ達には不思議と何でも弱音を言ってしまうんだが、 お前には・・・お前だけには言えない・・・・・言いたくないんだ」
遠慮がちに、それでもキッパリと断言したサガの言葉に再度アイオロスは鉄球の塊を脳天にぶち込ま れたかのような感覚に陥った。
(友・・・トモ・・・・TOMO〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?)
完全お友達宣言を言い渡され、あげく『お前だけには言いたくない』とまで言われ、アイオロスはそ の場で硬直した。
恐らくサガが言ったニュアンスはもう少し好意的な意味合いなのだろう、サガはまだアイオロスに対 して己の複雑な心境を語っていたが、もはや何ものもアイオロスの耳には届いておらず石造のように 停止したままだった。
(・・・・・・・アレは・・・ちょっと可哀想かもな・・)
最初サガをこんな目に合わせたアイオロスに対して少々以上の怒りを持っていたシュラだったが、今 の2人のやり取りを見たら、ほんの少しだけ同情のような気持ちが沸いて来たシュラなのだった。
「サガ、気分転換にと思って薔薇を持ってきたのですが・・・リラックス効果もある花なんでここに 飾ってもいいですか?」
「あぁ、ありがとうアフロディーテ。お願いするよ」
先程よりやや落ち着いたサガと、こんな時でもサガしか見えずアイオロスなど欠片も見ていないマイ ペースなアフロディーテを、シュラは横目でチラリと見た。
(しかし・・・可哀想だとは思うが、ここのポジションは絶対に渡せないからな、アイオロス・・・ ・)
未だ固まったままのアイオロスをもう1度サッと見て、シュラは静かに宣言した。
「俺達は、アンタのいない13年間サガと共にいたんだ。それだけは誰にも・・・アンタにも、神に すら渡せないことなんだ」
誰に聞こえるでもいない極々小さな声でそう囁いたシュラは、次の瞬間既に意識をサガの元へと飛ば し、ツカツカとその場を後にした。






END





広海っちリクエスト、「年中組とサガの絆の深さに入り込めず、1人蚊帳の外なアイオロス兄さん」。
やっば〜〜〜〜!コレヤバイんじゃねーの?(汗)ロスFANに殺されるよ!!氷河を崩すならまだし も(氷河FANはそもそもこんな所に来ないからな/笑)サガ受っつたらロスサガが王道なんだし、絶対 ロスFANが見る確率高いじゃん!(大汗)
いや・・・最初にロスFANは絶対に閲覧するべからず!と銘打っとけば・・・(苦笑)
いや、もうホンマすいません;私達の中では年中の絆はむっちゃ強いです。13年間一緒に苦楽を共に してきたのは強いと思いますよー。
私は打ってる間ごっつー楽しかったけど、きっと楽しいのは私だけ〜〜〜;
あ、ちなみにサガアレルギー説は完全に私の妄想(当たり前)サガ何かアレルギーとか1つぐらい持 っていそうな感じが・・・甲殻類アレルギーっていうのはぶっちゃけ私の事なんですけどね!(うぉ い!)
で、アレルギーには乳酸類が良いってのもマジ。ヨーグルトや牛乳なんかお勧めです!(どうでもい いですねー;)




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