晉書卷三十三　列傳第三　石苞　石崇　歐陽建　孫鑠

本文

えちぜん注

石苞字仲容，渤海南皮人也。雅曠有智局，容儀偉麗，不修小節。故時人為之語曰：「石仲容，姣無雙。」縣召為吏，給農司馬。會謁者陽翟郭玄信奉使，求人為御，司馬以苞及鄧艾給之。行十餘里，玄信謂二人曰：「子後並當至卿相〔斠注一〕。」苞曰：「御隸也，何〔斠注二〕卿相乎?」既而又被使到鄴，事久不決，乃販鐵於鄴市〔斠注三〕。市長沛國趙元儒名知人，見苞，異之，因與結交。歎苞遠量，當至公輔，由是知名。見吏部郎許允〔斠注四〕，求為小縣。允謂苞曰：「卿是我輩人，當相引在朝廷，何欲小縣乎?」苞還歎息，不意允之知己乃如此也。

〔斠注一〕『魏志』鄧艾傳注『世語』曰：鄧艾少爲襄城典農部民，與石苞皆年十二三。謁者陽翟郭玄信，武帝監軍郭誕元奕之子。建安中，少府吉本起兵許都，玄信坐被刑在家，從典農司馬求人御，以艾、苞與御，行十餘里，與語，悅之，謂二人皆當遠至爲佐相。
『御覽』四百四十二引徐廣『晉紀』作，魏謁者郭玄信出使從宏農求御人。

〔斠注二〕宋本作可。

〔斠注三〕『書鈔』五十五：王隱『晉書』石苞傳作買鐵鄴市。又七十七引王書曰：石苞爲縣吏賣鐵鄴市。
『魏志』三少帝紀注『世語』曰：初，靑龍中，石苞鬻鐵於長安，得見司馬宣王，宣王知焉。
案：郭頒以鄴市爲長安，恐有誤。

〔斠注四〕『魏志』夏侯尙傳注『魏略』曰：允字士宗，明帝時爲尙書選曹郞，出爲郡守，遷爲侍中尙書中領軍，有司奏允前擅以厨錢穀乞諸俳及其官屬，收送廷尉，考問竟，減死徙邊．以嘉平六年秋徙其年冬死。

石苞は字を仲容といい、冀州渤海郡南皮県の人である。学問があり、広い心の持ち主で、(1)容姿や振る舞いも優れており、わずかな節操を飾るようなことはなかった。このため、当時の人々は彼のことを「石仲容殿（石苞）に並ぶ美男子(2)なし」と言った。県は〔石苞を〕招聘して役人とし、農司馬〔の役職〕を与えた。ちょうど謁者の陽翟県出身の郭玄信(3)が命令により派遣されるにあたり、御者とする者を求めると、司馬は石苞と鄧艾(4)をあてがった。十里余り行ったところで、郭玄信は二人に「君たちは将来、きっと二人して大臣・高官になれるであろう。」と言った。石苞は「御者を務める小役人です。どうして大臣・高官になどなれましょうか？」と言った。間もなく使者を司州魏郡鄴県に行かせたが、事はしばらく決まらなかったので、鄴県の市場で鉄を商った。市場の長官である豫州沛国の趙元儒(5)は人の賢愚を鑑定するとして有名であったが、石苞を見て、優れた人物であると思ったので、交遊することにした。〔趙元儒は〕石苞の優れた才能を褒め称え、きっと三公・四補となるだろうと考えた。このことにより〔石苞の〕名は知られるようになった。〔石苞は〕吏部郎許允(6)に会い、小県を治めることを求めた。許允は石苞に言った。「君は私と同じ程度の人だ。きっと〔わたしたちは〕共に朝廷に招かれるだろう。どうして小県を望むのか？」石苞は帰って（感心のあまり）嘆息した。許允がこれほどまでに自身（石苞）を知っていたとは思っていなかったのである。

〔斠注一〕『三国志』魏書二十八鄧艾伝の裴松之注に次のようにある。「『世語』に次のようにある。鄧艾は若くして襄城典農部民となったが、石苞と同じく年は十二、三才のころであった。謁者の陽翟県出身である郭玄信は、武帝（曹操）の監軍、郭誕、字は元奕の子である。建安年間に、少府吉本が許都で反乱を起こし、郭玄信は連座して処罰され家にいた。典農司馬に携わって御者を探し、鄧艾・石苞を御者として、出発して十里あまり行くまでの間に、語り合い、二人のことを喜ばしく思ったので、二人とも将来きっと宰相となるだろうと言った。」
『太平御覧』巻四百四十二は徐廣『晉紀』を引用している。「魏の謁者郭玄信は使者を出すのに宏農から御者を探した。」

〔斠注二〕宋本では「可」である。

〔斠注三〕『北堂書鈔』巻五十五によると、王隱『晋書』石苞伝に「鉄を鄴の市で買った」とある。又同じく巻七十七によると、王隠『晋書』に「石苞は県吏となって鉄を鄴の市で売った」とある。
『三国志』魏書四三少帝紀の裴松之注に次のようにある。「『世語』には次のようにある。その昔、青龍年間（２３３～２３６）に、石苞は長安で鉄を商い、司馬宣王（司馬懿）に会うことができ、宣王（司馬懿）も〔彼を〕知ったのだった。」
考えるに、郭頒は鄴の市を長安としているが、恐らく誤りである。

〔斠注四〕『三国志』魏書九夏侯尚伝の裴松之注に次のようにある。「『魏略』に許允は字を士宗という。明帝（曹叡）の時、尚書選曹郎に任命され、出て郡守となり、転任して侍中尚書中領軍となった。役人が、許允は以前厨房の金銭や穀物をほしいままにし、俳優や属官に与えていた奏上したので、逮捕されて廷尉に送られた。取り調べが終わると、死刑を許されて辺境への流罪となった。嘉平六（２５４）年秋に移動し、その年の冬に死去した。」

(1)「雅曠」は、学問があって振る舞いが上品で、闊達であること。「智局」は聡明で度量のあること。「雅曠」と「有智局」は同じ様を重ねて言っている。

(2)「姣」は、容貌が美しいこと。『孟子』告子章句上に「惟目亦然。至於子都天下莫不知其姣也。不知子都之姣者無目者也。」とある。「子都」は、『詩経』鄭風に「不見子都乃見狂且」とあり、鄭玄の箋に「子都，世之美好者也」とある。「姣」は女偏であるが、美男の通称であったようだ。（小林勝人訳注『孟子　下』岩波文庫・白川静『詩経』中公新書　参照）

(3)郭玄信は、曹操の治世に監軍であった郭誕の子。郭誕は字を元奕という。郭玄信は、建安年間に少府吉本が許都で反乱した折、刑に連座して自宅へ帰された。『三国志』魏書二十八鄧艾伝の裴松之注に記述がある。

(4)鄧艾は字を士載といい、義陽郡棘陽県の人。『三国志』魏書二十八に伝がある。

(5)趙元儒については不明。

(6)許允は字を士宗といい、冀州河間郡高陽県の人。伝はないが、『三国志』魏書九夏侯玄伝の裴松之注に『魏略』を引いて、許允の記述がある。

稍遷景帝中護軍司馬〔斠注一〕。宣帝聞苞好色薄行，以讓景帝，帝答曰：「苞雖細行不足，而有經國才略，夫貞廉之士，未必能經濟世務，是以齊桓忘管仲之奢僭，而錄其匡合之大謀；漢高捨陳平之汚行，而取其六奇之妙算。苞雖未可以上儔二子，亦今日之選也。」意乃釋。徙鄴典農中郎將。時魏世王侯多居鄴下，尚書丁謐貴傾一時，並較時利。苞奏列其事，由是益見稱。歷東萊、琅邪太守，所在皆有威惠。遷徐州刺史〔斠注二〕。

〔斠注一〕『御覽』四百四十二引徐廣『晉紀』作，稍遷至宏農司馬。

〔斠注二〕『魏志』三少帝紀注『世語』曰：後擢爲尙書郞，歷靑州刺史。
『水經』泗水注曰：下邳大城中，有大司馬石苞碑。
案：本傳不言爲尙書郞，以『水經注』證之，靑州爲徐州之誤。苞嘗爲徐州，故立碑于下邳。

しばらくして景帝（司馬師）の中護軍司馬に転任した。宣帝（司馬懿）は石苞が容貌は良いが素行が悪いと聞いて、景帝（司馬師）を責めたが、景帝（司馬師）は「石苞は振る舞いは不十分ではありますが、国家を経営する知恵と計略を持っています。そもそも正しく潔い者が、国を治め民を救い、国家のなすべき務めを行えたことはありません。これは斉の桓公が管仲の身分不相応な贅沢を忘れ、乱世統一の大謀を受け入れ、(1)漢の高祖が陳平の悪行を捨て、六奇の妙算を取った(2)ことで分かります。石苞は管仲・陳平の二人に及ばずといえども、今日こそ採用すべきです。」と答えて〔中護軍司馬に採用した理由を〕釈明した。鄴の典農中郎将に転任した。当時は魏王朝の世で、王侯は多く鄴におり、尚書丁謐(3)が一時にして身を滅ぼしたが、〔石苞は〕時の利について皆調べた。石苞はその事を列挙して奏上し、よってさらに称えられた。東萊太守・琅邪太守を歴任し、任地では皆威光があって恩恵を施した。〔後に〕徐州刺史に転任した。

〔斠注一〕『太平御覧』四百四十二に徐広の『晋紀』を引用して、「しばらくして宏農司馬に転任した。」とある。

〔斠注二〕『三国志』魏書四　三少帝紀の裴松之注に次のようにある。『世語』に「後に尚書郎に抜擢され、青州刺史・鎮東将軍を歴任した。」とある。
『水経』巻二十五泗水の酈道元注に「下邳大城の中に、大司馬石苞の碑がある。」とある。
次のように考える。本伝は尚書郎に任命されたと言っていない。『水経注』でこれを証拠とすれば、青州は徐州の誤りである。石苞は嘗て徐州刺史となったので、碑が下邳に建立されたのだ。

(1)管仲は仲が字であり、名を夷吾という。斉の大夫。『史記』管晏列伝に「管仲富擬於公室，有三歸、反坫，齊人不以為侈。」とある。

(2)陳平は陽武県の人。字は分からない。『漢書』巻四十陳平伝によると、周勃・灌嬰が陳平を「聞平居家時盜其嫂，・・・使諸將，金多者得善處，金少者得惡處。」と讒言したが、高祖劉邦はこれを問わず厚遇した。また「六奇之妙算」とは、同じく陳平伝に「平自初從，至天下定後，常以護軍中尉從擊臧荼、陳豨、黥布。凡六出奇計，輒益邑封。奇計或頗祕，世莫得聞也。」とある。

(3)丁謐は字を彦靖といい、沛国の人。司馬懿により曹爽と共に誅殺される。伝はないが、『三国志』魏書九曹爽伝の裴松之注に『魏略』を引いて、丁謐の記述がある。

文帝之敗於東關也，苞獨全軍而退。帝指所持節謂苞曰：「恨不以此授卿，以究大事。」乃遷苞為奮武將軍、假節、監青州諸軍事。及諸葛誕舉兵淮南，苞統青州諸軍，督兗州刺史州泰〔斠注一〕、徐州刺史胡質〔斠注二〕，簡鋭卒為游軍，以備外寇。呉遣大將朱異、丁奉等來迎，誕等留輜重於都陸，輕兵渡黎水。苞等逆撃，大破之。泰山太守胡烈以奇兵詭道襲都陸，盡焚其委輸，異等收餘衆而退。壽春平，拜苞鎮東將軍，封東光侯、假節。頃之，代王基都督揚州諸軍事。苞因入朝。當還，辭高貴郷公，留語盡日。既出，白文帝曰：「非常主也。」數日而有成濟之事〔斠注三〕。後進位征東大將軍，俄遷驃騎將軍。

〔斠注一〕一作周泰。

〔斠注二〕案：『魏志』質傳由常山太守遷荊州刺史，不言爲徐州。

〔斠注三〕『魏志』三少帝紀注『世語』曰：甘露中入朝，當還，辭高貴鄕公，留中盡日。文王遣人要令過。文王問苞：「何淹留也？」苞曰：「非常人也。」明日發至滎陽，數日而難作。

文帝（司馬昭）が東関で敗れた(1)が、石苞のみ兵を減らさず退却した。文帝（司馬昭）は所持していた節を指して石苞に言った。「悔やまれるのは、これ（節）をそなたに授けずに、大事を決めようとしたことだ。」そこで石苞を転任させて奮武将軍・仮節・監青州諸軍事に任命した。諸葛誕(2)が淮南にて挙兵すると、石苞は青州の諸軍を率いて、兗州刺史州泰(3)と徐州刺史胡質(4)を指揮し、精鋭を選抜して遊軍とし、外寇に備えた。呉は大将の朱異と丁奉を派遣して〔石苞を〕迎撃した。諸葛誕らは輜重を都陸へ留め、軽兵は黎水を渡った。石苞らは逆に撃ち、大いにこれら（呉軍）を破った。泰山太守胡烈(5)は奇兵・詭道を用いて都陸を襲い、尽く呉軍の輜重隊(6)を焼いた。朱異たちは残った兵を集めて退却した。寿春を平定し、石苞は鎮東将軍を拝命し、東光侯・仮節に封じられた。しばらくして王基(7)に代わって都督揚州諸軍事となった。石苞はこれにより入朝した。任地へ戻ろうとして、高貴郷公（曹髦）に挨拶をおこなったが、日が暮れるまで語り合った。任地へ出発すると、文帝（司馬昭）に「大変優れた君主であります」といった。数日して成済の変事があった。(8)後に位を征東大将軍に進め、すぐに驃騎将軍に転任した。

〔斠注一〕ある本では「周泰」となっている。

〔斠注二〕次のように考える。『三国志』魏書二十七胡質伝に「常山太守から荊州刺史に転任した」とあり、徐州刺史になったとは言っていない。

〔斠注三〕『三国志』魏書四　三少帝紀の裴松之注に次のようにある。『世語』に「甘露年間（２５６～２５９）に入朝した折、ちょうど帰ろうして、高貴郷公に挨拶をしたが、日が暮れるまで留まった。文王（司馬昭）は人を派遣して立ち寄らせた。文王（司馬昭）は石苞に質問した。「なぜ長居したのだ？」石苞は言った。「大変に優れた方だからです。」次の日、出発して滎陽に到着し、数日して変事が起こった。」とある。

(1)『三国志』魏書四三少帝紀に「〔嘉平四（２５２）年〕十二月，吴大將軍諸葛恪拒戰，大破衆軍于東關。不利而還。」とあり、裴松之注が『漢晋春秋』を引用して、「時司馬文王為監軍，統諸軍，唯削文王爵而已。」とある。

(2)諸葛誕は字を公休といい、徐州琅邪郡陽都県の人。毌丘倹と文欽の反乱を鎮めた後、淮南地域に勢力を張り、反乱を起こして斬られた。『三国志』魏書二十八に伝がある。

(3)州泰は荊州南陽郡の人。司馬懿に登用され、兗州刺史・豫州刺史を歴任し、功績を挙げた。『三国志』魏書二十八鄧艾伝にその名が見え、裴松之注が『世語』を引用して略歴を伝える。

(4)胡質は字を文徳といい、揚州淮南郡寿春県の人。曹操に登用され、荊州刺史となる。品行方正な人物であった。『三国志』魏書二十七に伝がある。胡質伝には徐州刺史であったという記述はなく、子の胡威が徐州刺史になったという記述がある。

(5)胡烈は字を玄武という。父の胡遵は雍州安定郡の人。鍾会に従軍して蜀を攻めた。鍾会が成都で勢力を張ろうとした時、軍の一部を反逆させ鍾会を殺害した。伝はないが、『三国志』魏書二十八鍾会伝にその名が見える。

(6)「委輸」は貨物を運ぶこと。「委」は貨物を車上に搭載することで、「輸」は目的地に運んで卸すこと。

(7)王基は字を伯輿といい、青州東萊軍曲城県の人。司馬懿により抜擢され、司馬師・司馬昭にしばしば進言した。『三国志』魏書二十七に伝がある。

(8)成済による高貴郷公弑殺事件のこと。『三国志』魏書四三少帝紀の裴松之注にその詳細な記述がある。

文帝崩，賈充、荀勖議葬禮未定。苞時奔喪，慟哭曰：「基業如此，而以人臣終乎！」葬禮乃定。後每與陳騫諷魏帝以曆數已終，天命有在。及禪位，苞有力焉。武帝踐阼，遷大司馬〔斠注一〕，進封樂陵郡公，加侍中，羽葆鼓吹〔斠注二〕。

〔斠注一〕『御覽』二百九晉武帝太始官名曰：大司馬石苞開通爽悟，秉意不羣。又晉公卿禮秩曰：晉以石苞爲大司馬，次三司下。

〔斠注二〕『書鈔』五十一引王隱『晉書』吹下有之樂二字。

文帝（司馬昭）が崩御した後、賈充・荀勖は葬礼について話し合ったが決定しなかった。石苞はその時、葬礼に駆けつけ、慟哭して言った。「国家の基礎を支えたお方だ。人臣として終わられるのか！」こうして葬礼は決定した。その後、常々陳騫(1)と共に、「暦数は既に尽き、これは天命であります。」と言って、魏帝（曹奐）に〔禅譲を〕遠回しに勧めた。帝位を禅譲するに及び、石苞は影響力があった。武帝が帝位に就くと、大司馬へ転任し、爵位を楽陵郡公に進め、侍中を加え、羽の覆いをつけた立派な車に乗るようになった。(2)

〔斠注一〕『太平御覧』第二百九職官部七大司馬に次のようにある。『晋武帝太始官名』に「大司馬石苞度量が大きく物わかりがよく、正しい心を持ち人に流さることはなかった。」とある。また『晋公卿礼秩』に「晋は石苞を大司馬に任命し、三司下に次ぐものとした。」とある。

〔斠注二〕『北堂書鈔』巻五十一大司馬六に王隠『晋書』を引用しているが、「吹」の下に「之楽」の二字がある。

(1)陳騫は字を休淵といい、徐州臨淮国東陽県の人。蜀軍の侵攻や諸葛誕の反乱では将軍職を代行して功績を挙げ、後に各地の都督を歴任した。『晋書』列伝第五に伝がある。

(2)「羽葆鼓吹」の「羽葆」は鳥の羽で作った儀仗などに用いる車の華蓋のこと、「鼓吹」は軍楽を奏する官のこと。いずれも功績ある家臣に与えられる特権。

自諸葛誕破滅，苞便鎭撫淮南，士馬強盛，邊境多務，苞旣勤庶事，又以威德服物。淮北監軍王琛輕苞素微，又聞童謠曰：「宮中大馬幾作驢，大石壓之不得舒。」因是密表苞與吳人交通。先時望氣者云「東南有大兵起」。及琛表至，武帝甚疑之。會荊州刺史胡烈表吳人欲大出爲寇，苞亦聞吳師將入，乃築壘遏水以自固。帝聞之，謂羊祜曰：「吳人每來，常東西相應，無緣偏爾，豈石苞果有不順乎?」祜深明之，而帝猶疑焉。會苞子喬爲尚書郞，上召之，經日不至。帝謂爲必叛，欲討苞而隱其事。遂下詔以苞不料賊勢，築壘遏水，勞擾百姓，策免其官〔斠注一〕。遣太尉義陽王望率大軍徵之，以備非常。又敕鎭東將軍、[一三]琅邪王伷自下邳會壽春〔斠注二〕。苞用掾孫鑠計，放兵步出，住都亭待罪。帝聞之，意解。及苞詣闕，以公還第。苞自恥受任無效而無怨色。

〔斠注一〕勞格校勘記曰：紀傳皆不載苞免官年月，通鑑依三十國春秋，晉春秋置於泰始四年。

〔斠注二〕『讀史擧正』曰：泰始五年二月，伷鎭下邳時，未爲琅邪乃東莞王也。勞格校勘記曰：通鑑攷異曰：伷于五年二月始鎭下邳，恐傳誤也。
案：伷自撫軍將軍出爲鎭東大將軍，進拜大將軍，亦未嘗爲征東也。是年衞瓘爲征東大將軍。

諸葛誕を破って滅ぼしてから、石苞はすぐさま淮南地域を守備をおこない、軍隊を訓練したり、辺境に多く足を運ぶなど、石苞はあらゆる事務をおこない、また厳刑と恩恵を用いて民衆を従えた。(1)淮北監軍王琛(2)は石苞がもともと身分の低い出身であることを軽んじ、また童謡に「宮中の大きな馬はほとんど驢馬になろうとしていても、大きな石はこれを押さえて心地よくいられない。(3)」とあるのを聞き、石苞が呉の人々と通じていると密かに上書していた。以前に気を占う者が「東南の方角にて大兵が起こる気配がある」と言っていた。王琛が上書すると、武帝（司馬炎）はひどく彼を疑った。ちょうど荊州刺史胡烈は呉の人々が大きく侵出してきて暴動を起こそうとしていると奏上し、石苞もまた軍隊が侵入しようとしていることを聞いていたので、砦を築いて水をせき止めるなどして自ら防備を固めた。武帝（司馬炎）はこれを聞いて、羊祜に次のように言った。「呉の者どもが侵入してくる度に、常に東西で互いに連携しておる。関係がなければ偏るはずである。やはり石苞が背いているということであろうか?」羊祜は詳しく説明したが、武帝（司馬炎）はやはり疑っていた。ちょうど石苞の子の石喬を尚書郎に任命し、武帝（司馬炎）は彼を召したが、日が経っても参内しなかった。武帝（司馬炎）は必ず〔石苞父子が〕叛乱を起こすと思い、討伐しようと考えたが、そのことを隠していた。遂に詔を下して、石苞が賊の勢力を計らずに、砦を築いて水をせき止め、多くの民を疲れさせたとして、辞令を発して彼の官職を罷免した。太尉の義陽王司馬望(4)に大軍を率いて彼を追及させ、非常時に備えた。また鎮東将軍・[一三]琅邪王司馬伷に勅を下し、下邳から寿春へ向かわせた。石苞は掾の孫鑠の計画を用いて、兵士を解放して歩み出て、美しい四阿（あずまや）にて罪状を告げられるのを待った。武帝（司馬炎）はこのことを聞いて、〔石苞の〕気持ちが解った。石苞が宮門に到着すると、楽陵郡公として自邸へ帰した。石苞は受任して効果がなかったことを恥じ、恨む気持ちはなかった。

〔斠注一〕労格『校勘記』に次のようにある。紀伝共に石苞が免官された年月を記載していない。『資治通鑑』では「『三十国春秋』・『晋春秋』に依って泰始四（２６８）年のこととした」とある。

〔斠注二〕『読史挙正』に次のようにある。泰始五（２６９）年二月、司馬伷が下邳を鎮圧した時、まだ琅邪王さらに東莞王になっていない。労格『校勘記』に次のようにある。『通鑑攷異』に、「司馬伷は〔泰始〕五年二月に始めて下邳を鎮圧したあり、おそらく伝の誤りである。
次のように考える。司馬伷は撫軍将軍から出て鎮東大将軍となり、昇進して大将軍に任ぜられたので、未だ嘗て東方を征伐したことがない。この年、衞瓘が征東大将軍に任命されている。

(1)「服物」は民を従えること。

(2)王琛は字を士湲という。王覧の子。『晋書』列伝第三王覧伝にその記述がある。

(3)「宮中大馬幾作驢」は司馬一族が堕落していく様を言い、「大石壓之不得舒」は石苞が司馬一族の堕落を好ましく思っていないことを言っている。

(4)司馬望は字を子初という。司馬孚の子。司馬懿の甥。『晋書』列伝第七に伝がある。

時鄴奚官督郭廙上書理苞。帝詔曰：「前大司馬苞忠允淸亮，才經世務，幹用之績，所歷可紀。宜掌敎典，以讚時政。其以苞爲司徒。」有司奏：「苞前有折撓，不堪其任。以公還第，已爲弘厚，不宜擢用。」詔曰：「吳人輕脆，終無能爲。故疆埸之事，但欲完固守備，使不得越逸而已。以苞計畫不同，慮敵過甚，故徵還更授。昔鄧禹撓於關中，而終輔漢室，豈以一眚而掩大德哉！」於是就位。

ある時、鄴の奚官(1)の長官、郭廙は上書して(2)、石苞を糾した。武帝（司馬炎）は詔を発した。「以前の大司馬石苞は誠実で朗らかであり、その才能でなすべき仕事をおこない、有用な業績を残してきたことは、記録すべきである。教典の職(3)に就いて、今の政治を補佐するが良い。よって石苞を司徒に任命する。」役人が奏上した。「石苞は以前に挫折しており、その任務に堪えられません。公として自邸へ帰り、既に手厚く遇しておりますので、任用すべきではありません。」武帝（司馬炎）は言った。「呉の者どもは軽薄で意志が弱く、結局成すことはできぬ。だから国境の対応は、ただ守備を固くして、勝手なことをさせないことのみを望むのだ。石苞の計略は一様でなく、敵を十分に考慮分析できる。だから召し返して更に官職を授けるのだ。昔、鄧禹は関中で失敗したが、結局漢室を補佐した。(4)どうして一度の過ちで大徳を隠してしまうのか！」これにより〔司徒の〕位に就いた。

(1)奚官は馬を養うことを掌る官。晋代に置かれ少府に属した。『晋書』職官志に「少府，統材官校尉、中左右三尚方、中黄左右藏、左校、甄官、平準、奚官等令，左校坊、鄴中黄左右藏、油官等丞。」とある。

(2)『晋書』武帝紀によると、郭廙が上書したのは、泰始五（２６９）年六月のことである。

(3)教典は、周官太宰の六典の一つで、民の教化をおこなって国を安定化させる職務。

(4)鄧禹は字を仲華といい、南陽郡新野県の人。光武帝（劉秀）の下で天下平定に尽力する。建武二（２６）年、赤眉軍が長安に侵入し、鄧禹は攻略に向かうが大敗を喫した。鄧禹は功を上げられなかったことを恥じ、官職・爵位の返上を申し出ている。建武四（２８）年に赤眉軍を破っている。（『後漢書』鄧寇列伝第六　鄧禹伝）

苞奏：「州郡農桑未有賞罰之制，宜遣掾屬循行，皆當均其土宜，舉其殿最，然後黜陟焉〔斠注一〕。」詔曰：「農殖者，為政之本，有國之大務也。雖欲安時興化，不先富而教之，其道無由。而至今四海多事，軍國用廣，加承征伐之後，屢有水旱之事，倉庫不充，百姓無積。古者稼穡樹蓺，司徒掌之。今雖登論道，然經國立政，惟時所急，故陶唐之世，稷官為重。今司徒位當其任，乃心王事，有毀家紓國，乾乾匪躬之志。其使司徒督察州郡播殖，將委事任成，垂拱仰辦。若宜有所循行者，其增置掾屬十人，聽取王官更練事業者。」苞在位稱為忠勤，帝每委任焉。

〔斠注一〕『書鈔』五十二王隱晉書曰：石苞爲司徒，深陳農桑本務，明其考課。居位五年，天下稱之。

石苞は次のように奏上した。「州郡の農業・養蚕業にはまだ賞罰の制度がありません。属官を派遣して、その土地毎の農作物を比較し(1)、その優劣(2)を列挙し、その後賞罰を決める(3)ようにするのがよいでしょう。」武帝（司馬炎）は言った。「農業は、為政の根本であり、国家の大業である。時世を安定させて教化を起こそうとしても、富国を先におこなわずに教化をしたところで、その政道は根拠がないものとなる。ところが今各地で多くの軍事が発生し、軍と国の費用は拡大している。征伐を新たに行ったり継続したりした後、しばしば水害・旱害があり、倉庫は満たされず、多くのものが蓄えを持たない。昔は農業(4)については、司徒が担当した。今直ちに(5)政道を議論するとしても、国家を経営し政治を確立するには、時世の急なることを思わねばならない。だから堯の治世では、稷官（農事を掌る官）を重視したのだ。今司徒の位に就く者（石苞）は、その任務を担当するのに気持ちを王の思いと同じくして(6)、国家に緩みがあれば、我が身を顧みず君主の為に努力する者である。そこで司徒に州郡を調査させて種を播き苗を植えさせ、〔石苞に〕任せておけば、〔農政については〕民も従い、協力するであろう(7)。もし従者が必要であれば、属官十人を増員せよ。王の官吏で農政の経験があり熟達している(8)ものを配属させることを許す。」石苞は〔司徒の〕位にあって、忠勤であると称えられた。武帝（司馬炎）は常に任せていた。

〔斠注一〕『北堂書鈔』巻五十二司徒八に次のようにある。王隠『晋書』に「石苞は司徒となり、農業・養蚕業が国家経営の根本であることを十分に述べ、その賞罰を明らかにした。就任五年、天下は彼を称えた。」とある。

(1)「均」ははかりにかける、比較すること。「土宜」はその土地の産物のこと。

(2)「殿最」は功績の優秀なものと劣るもの、つまり優劣のこと。「殿」はしんがり、末尾の意、「最」はさきがけ、先頭の意。

(3)「黜陟」は功績のない者をやめさせ、功績のある者を登用・昇進させること。「黜」は官位を落とす意、「陟」は昇任する、抜擢する意。

(4)「稼穡」は作物の植え付けと取り入れのこと。「樹蓺」は作物を植えること。共に農作業のこと。『周礼』大司徒に「以教稼穡樹蓺」とある。

(5)「登」は副詞で、すぐに、ただちにの意味。

(6)「乃」は動詞で、同じであるの意味。

(7)「垂拱」は袂を垂らし腕を組み、何もしないさま。「垂拱之治」「垂拱之化」で、天子が何もしなくとも天下が良く治まることをいう。「仰辦」は『大漢和辞典』には「恭しく力をいたす」とあるが、「仰」が慕う、敬うの意味、「辦」が処理するの意味であるから、民が石苞の指示に従って農政の改善に尽くすことをいう。

(8)「更練」は経験があって事に練達している意味。

泰始八年薨〔斠注一〕。帝發哀於朝堂，賜祕器，朝服一具，衣一襲，錢三十萬，布百匹。及葬，給節幢麾、曲蓋、追鋒車、鼓吹、介士、大車〔斠注二〕，皆如魏司空陳泰故事，車駕臨送於東掖門外。策諡曰武。咸寧初，詔苞等並為王功，列於銘饗。

〔斠注一〕武帝紀作九年二月癸巳。

〔斠注二〕『寰宇記』六十五曰：石苞臺在南皮縣一十三里，高二丈，苞南皮人也。按：城冢記云南皮有石苞墓，此是也。

泰始八（２７２）年薨ず。武帝（司馬炎）は朝堂にて石苞の薨去を発表し、東園の秘器、朝服一具、衣一襲、銭三十万、布帛百匹を下賜した。葬儀の際、節(1)・幢（とう）(2)・麾（き）(3)・曲蓋(4)・追鋒車(5)・鼓吹・介士(6)・大車(7)を与え、すべて魏の司空陳泰の故事の如く(8)、車駕に乗って東掖門(9)の外で葬送した。〔武帝（司馬炎）は〕命じて諡を武とした。咸寧年間（２７５～２７９）の初め、詔して石苞たちをみな王の功績があるとし、名を列ねて弔った。(10)

〔斠注一〕『晋書』武帝紀には「〔泰始〕九（２７３）年二月癸巳」とある。

〔斠注二〕『太平寰宇記』巻六十五に「石苞の墓は南皮県から一十三里のところにあって、高さ二丈である。石苞は南皮県の人である。
次のように考えた。『城冢記』に南皮県に石苞の墓がある。とある。これのことである。

(1)「節」は朝廷が使臣に持たせた証拠の事で、割り符の事。

(2)「幢」は儀仗（儀式の際使われる武器）に用いる円筒形の旗。

(3)「麾」は作戦を指揮する指図旗。もしくは「幢麾」と読んで儀仗に用いる旗幟のことか。

(4)「曲蓋」は儀仗の柄の曲がった傘のこと。

(5)「追鋒車」は兵車で、屋根を外して幔帳を施したもの。二人乗りで走行速度が速い。『晋書』輿服志に記述がある。

(6)「介士」は鎧をつけた兵士。

(7)「大車」は荷物を運ぶための大きな車。

(8)陳泰は字を玄伯といい、陳羣の子。『三国志』魏書二十二に伝がある。「陳泰故事」とあるが、『三国志』にはその記述は見あたらない。

(9)「掖門」は宮殿の正門の脇にある小門。「東掖門」は正門の東側にある小門。

(10)「銘饗」は名を列ねて弔いを受けること。『晋書』武帝紀に「八月壬寅，沛王子文薨。以故太傅鄭沖、太尉荀顗、司徒石苞、司空裴秀、驃騎將軍王沈、安平獻王孚等及太保何曾、司空賈充、太尉陳騫、中書監荀勖、平南將軍羊祜、齊王攸等皆列於銘饗。」とあり、咸寧元（２７５）年のこと。

苞豫為終制曰：「延陵薄葬，孔子以為達禮；華元厚葬，春秋以為不臣，古之明義也。自今死亡者，皆斂以時服，不得兼重。又不得飯唅，為愚俗所為。又不得設牀帳明器也。定窆之後，復土滿坎，一不得起墳種樹。昔王孫裸葬矯時，其子奉命，君子不譏，況於合禮典者耶?」諸子皆奉遵遺令，又斷親戚故吏設祭。有六子：越、喬、統、浚、儁、崇〔斠注一〕。以統為嗣。

〔斠注一〕『元和姓纂』十作苞生喬、統、越、峻、儁、嵩。
案：林氏爲越三子，與本傳異。峻爲浚之誤，嵩爲崇之誤。

石苞はあらかじめ葬儀の手順を決めていた。「延陵の薄葬は、孔子が礼の極みとしたものであり(1)、華元の厚葬は、『春秋〔左氏伝〕』が臣下の行うことではないとしており(2)、昔からの明らかな道理である。今後死んだ時には、棺に納めるのに平時の服を着せ、重々しくする必要はない。また飯唅（死者の口に含ませる玉）も不要である。これは愚俗の所為である。また、祭壇や祭器を設ける必要もない。埋葬した後は(3)、土で墓穴を満たし(4)、土を盛り上げたり樹を植えるなどしてはならない。昔、王孫が裸で葬むるよう偽った時、彼の子供は命令を受けたが、君子は譏らなかった。(5)ましてや礼典に合致したものが譏られることがあろうか?」子供たちは皆遺言に従い、また、親戚・故吏を断って弔った。六人の息子がおり、石越・石喬・石統・石浚・石儁・石崇という。石統が跡を継いだ。

〔斠注一〕『元和姓纂』十では、石苞は石喬・石統・石越・石峻・石儁・石嵩を生んだとなっている。
次のように考える。『元和姓纂』の撰者、林宝は石越を第三子としていて、本伝と異なっている。「峻」は「浚」の誤りであるし、「嵩」は「崇」の誤りである。

(1)延陵は、春秋時代の呉の季札のことを指すと思われるが、典拠は見あたらず。調査中。

(2)華元は、春秋時代の宋の人。『春秋左氏伝』成公二年に「八月，宋文公卒。始厚葬，用蜃炭，益車馬，始用殉，重器備，椁有四阿，棺有翰檜。君子謂華元、樂舉，於是乎不臣。」とある。

(3)「窆」は墓穴のこと。

(4)「坎」は墓穴のこと。

(5)典拠不明。

統字弘緒，歷位射聲校尉、大鴻臚。子順，為尚書郎〔斠注一〕。

〔斠注一〕『元和姓纂』十作統孫瑛趙司空。
案：瑛當是順之子。

石統は字を弘緒といい、射声校尉・大鴻臚を歴任した。子の石順は、尚書郎となった。

〔斠注一〕『元和姓纂』十では、石統の孫、石瑛と石趙は司空であったとある。
次のように考える。石瑛は石順の子である。

越字弘倫，早卒。

石越は字を弘倫といい、若くして卒した。

喬字弘祖，歷尚書郎、散騎侍郎。帝既召喬不得，深疑苞反。及苞至，有慚色，謂之曰「卿子幾破卿門」。苞遂廢之，終身不聽仕。又以有穢行，徙頓丘，與弟崇同被害。二子超、熙亡走得免。成都王穎之起義也，以超為折衝將軍，討孫秀，以功封侯。又為振武將軍，征荊州賊李辰。穎與長沙王乂相攻，超常為前鋒，遷中護軍。陳眕等挾惠帝北伐，超走還鄴。穎使超距帝於蕩陰，王師敗績，超逼帝幸鄴宮。會王浚攻穎於鄴，穎以超為右將軍以距浚，大敗而歸。從駕之洛陽，西遷長安。河間王顒以超領北中郎將，使與穎共距東海王越。超於滎陽募兵，右將軍王闡與典兵中郎趙則並受超節度，為豫州刺史劉喬繼援。范陽王虓逆擊斬超，而熙得走免。永嘉中，為太傅越參軍。

石喬は字を弘祖といい、尚書郎・散騎侍郎を歴任した。武帝（司馬炎）は石喬を呼び出したがかなわず、深く石苞の謀反を疑った。石苞が到着し、恥じ入る様子であったので、石苞に言った。「そなたの子（石喬）は危うくそなたの一族を破滅させるところであったぞ」。石苞は彼を罷免し、終身出仕を許さなかった。又勝手な振る舞いがあり、頓丘に移り、弟の石崇と同じく殺害された。二人の息子の石超・石熙は逃げて免れることができた。成都王司馬穎(1)が義兵を起こすと、石超を折衝将軍に任命し、孫秀(2)を討ち、その功績により、侯に封じられた。さらに振武将軍に任命され、荊州の賊、李辰(3)を征伐した。司馬穎と長沙王司馬乂(4)が互いに戦う中、石超は常に前鋒となり、中護軍に転任した。陳眕(5)らは恵帝（司馬衷）を引き連れて北伐をおこない、石超は鄴へ戻った。司馬穎は石超に蕩陰県にて恵帝（司馬衷）の軍隊を防がせ、帝軍が大敗すると、石超は恵帝（司馬衷）に鄴宮へ行くことを強く促した。王浚(6)が司馬穎を鄴に攻めると、司馬穎は石超を右将軍に任命して王浚を防がせたが、大敗して帰った。天子（恵帝（司馬衷））にお供して洛陽へ行き、さらに西方、長安に移動した。河間王司馬顒(7)は石超に北中郎将を兼務させ、司馬穎と共に東海王司馬越(8)を防がせた。石超は滎陽で兵を募り、右将軍王闡(9)と典兵中郎趙則(10)は共に石超の指示を受け、豫州刺史劉喬(11)の援軍となった。范陽王司馬虓(12)は逆に討って石超を斬ったが、石熙は逃げて免れることができた。〔石煕は〕永嘉年間（３０７～３１２）に、太傅司馬越の参軍となった。

(1)成都王司馬穎は字を章度といい、武帝の第十六子。『晋書』列伝第二十九に伝がある。

(2)孫秀は孫匡の孫。孫晧から警戒され、不安を感じて晋に降る。『三國志』呉書六孫匡伝にこの記述がある。

(3)李辰は、張昌のこと。張昌は荊州義陽国の異民族の出身。『晋書』列伝第七十に伝があり、「太安二年，昌於安陸縣石巖山屯聚，去郡八十里，諸流人及避戍役者多往從之。昌乃易姓名為李辰。」とある。

(4)長沙王司馬乂は字を士度といい、武帝の第六子。『晋書』列伝第二十九に伝がある。

(5)陳眕は豫州潁川県の人。永興元（３０４）年、恵帝（司馬衷）を奉じて成都王司馬潁を討伐するが、大敗する。『晋書』列伝第十賈謐伝には賈謐と親交のあった二十四友の一人として名を列ねる。

(6)王浚は字を彭祖という。『晋書』列伝第九に伝がある。

(7)河間王司馬顒は字を文載といい、安平献王司馬孚の孫。『晋書』列伝第二十九に伝がある。

(8)東海王司馬越は字を元超といい、高密王司馬泰の次子。『晋書』列伝第二十九に伝がある。

(9)王闡は、王浚が出陣を命じた劉根と戦闘し殺された。『晋書』列伝第二十九河間王司馬顒伝にその記述がある。

(10)趙則については不明。

(11)劉喬は字を仲彦といい、荊州南陽国の人。『晋書』列伝第三十一に伝がある。

(12)范陽王司馬虓は字を武会といい、范陽王司馬綏の子。『晋書』列伝第七に伝がある。

浚字景倫，清儉有鑒識，敬愛人物。位至黃門侍郎，為當世名士，早卒。

石浚は字を景倫といい、心清らかで慎ましく、物事を見極めることができ、人や物を敬愛した。黄門侍郎となり、当時の名士と言われたが、若くして卒した。

儁字彥倫，少有名譽，議者稱為令器。官至陽平太守，早卒。

石儁は字を彦倫といい、幼いころから名声があり、人々は優れた才能の持ち主(1)だと言い合った。陽平太守となったが、若くして卒した。

(1)「令器」は優れた才能の意味。

崇字季倫，生於青州，故小名齊奴。少敏惠，勇而有謀〔斠注一〕。苞臨終，分財物與諸子，獨不及崇。其母以為言〔斠注二〕，苞曰：「此兒雖小，後自能得。」年二十餘〔斠注三〕，為修武令，有能名。入為散騎郎，遷城陽太守〔斠注四〕。伐呉有功，封安陽飲侯。在郡雖有職務，好學不倦，以疾自解。頃之，拜黃門郎。

〔斠注一〕『文選』王明君詞思歸引序注均引臧榮緖『晉書』曰：早有智慧。『類聚』二十一王隱『晉書』曰：石季倫少多意，智敏捷，有計略。

〔斠注二〕『御覽』八百六十三太康起居注曰：石崇崔亮母疾，日賜淸酒粳米各五升，猪羊肉各一斤半。又三百七十一志怪集曰：石季倫母喪洛下豪俊赴殯者傾都王戎亦入臨殯，便見鬼攘臂打搥鑿甚惶惶，有一人當棺立，此鬼披胸䧟之此人卽應鑿而倒人便去得病半日死。

〔斠注三〕案：『書鈔』七十八引王隱『晉書』作年三十餘。『文選』思歸引序注引臧榮緖『晉書』亦作二十餘。則三十誤也。

〔斠注四〕『書鈔』六十五山濤啓事云：太子左衞率缺城陽太守石崇、北中郞中司孫尹皆忠篤，有文武，皆其選也。
『御覽』二百四十五山公啓事曰：中庶子缺宜得俊茂者，以濟陰太守留儼城陽太守石崇參選。又二百四十七山公啓事曰：太子左率缺侍衞威重，宜得其才无疾患者城陽太守石崇忠讜有文武，河東太守焦勝淸貞有信義，皆其選也。
案：傳不言爲左衞率中庶子，非史文從略，蓋崇與楊駿有隙，故山公屢薦而終不用也。

石崇は字を季倫といい、青州にて生まれたので、幼名を斉奴という。幼い頃から賢く、勇敢で自らの意見を持っていた。石苞は死に臨んで、財産を子供たちに分け与えたが、石崇には与えなかった。彼の母がこのことを聞くと、石苞は次のように言った。「この子は幼いとはいえ、後に自分で〔財産を〕得ることができるのだ。」二十歳あまりで、修武令となり、有能であると評判が立った。〔朝廷に〕入って散騎郎となり、城陽太守に転任した。呉の討伐で功績があり、安陽郷侯に封ぜられた。城陽郡にいて職務があったが、学問を好んで飽くことなく、病を理由に自ら官職を辞めた。しばらくして、黄門郎に任命された。

〔斠注一〕　『文選』に収める「王明君詞」・「思帰引序」の李善注によると、同じく臧栄緒『晋書』を引用して次のようにある。「若くして智慧があった。」
『芸文類聚』二十一に次のようにある。「王隠『晋書』に次のようにある。「石季倫は若くして多くの考えを持ち、頭の回転が速く、はかりごとをよくした。」」

〔斠注二〕　『太平御覧』八百六十三に次のようにある。「『太康起居注』に「石崇は崔亮(1)の母が病気だと聞き、一日に清酒・うるち米をそれぞれ五升、猪肉・羊肉をそれぞれ一斤半を与えた」とある。」
　又、『太平御覧』三百七十一に次のようにある。「『志怪集』に「石季倫（石崇）の母の喪に、洛陽中の有力者が弔問に訪れ、都を挙げてのこととなり、王戎もまた弔問に訪れようとすると、幽霊が腕まくりをしてあわただしく穴を掘っていた。ある人が棺に向かって立っていると、この幽霊は胸を開いて彼を落とし、彼は穴に落ちて倒れた。彼はその場を去ると病気になって、半日で死んでしまった。」とある。」

〔斠注三〕次のように考える。『北堂書鈔』七十八に王隠『晋書』を引用して三十歳あまりとしているが、『文選』「思帰引序」の李善注では臧栄緒『晋書』もまた二十歳あまりとしている。つまり三十とするのは誤りである。

〔斠注四〕『北堂書鈔』六十五によると、『山濤啓事』に「太子左衛率に欠員ができ、城陽太守石崇・北中郎中司孫尹(2)が共に忠義に厚く、文武に優れていたので、選ばれることになった。」とある。
　『太平御覧』二百四十五によると、『山公啓事』に「中庶子に欠員ができ、優れた人物を採用すべきということで、済陰太守留儼(3)、城陽太守石崇を選んだ。」とある。また同二百四十七によると、『山公啓事』に「太子左率に欠員ができ、貴人の護衛をするのに人を従わせる力があり、病気をしていないものを採用すべきであるとして、城陽太守石崇は忠義で正直、文武に優れていること、河東太守焦勝(4)は心清らかで正しく信義に優れていることから、共に選ばれた。」とある。
次のように考える。伝では左衛率・中庶子に任命されたとは言っていないが、史文が省略されたのではない。恐らく石崇と楊駿(5)は仲が悪く、故に山公（山濤）がしばしば推薦するも採用されなかったのであろう。

(1)崔亮については不明。

(2)孫尹については不明。

(3)留儼については不明。

(4)焦勝については、『三国志』魏書三明帝紀の裴松之注に「至晉泰始三年，張掖太守焦勝上言」としてその名が見える。『太平御覧』では河東太守とあり、同一人物かは不明。

(5)楊駿については後述。

兄統忤扶風王駿，有司承旨奏統，將加重罰，既而見原。以崇不詣闕謝恩，有司欲復加統罪。崇自表曰：「臣兄統以先父之恩，早被優遇，出入清顯，歷位盡勤。伏度聖心，有以垂察。近為扶風王駿橫所誣謗，司隸中丞等飛筆重奏，劾案深文，累塵天聽。臣兄弟跼蹐，憂心如悸。駿戚屬尊重，權要赫奕。内外有司，望風承旨。苟有所惡，易於投卵。自統枉劾以來，臣兄弟不敢一言稍自申理。戢舌鉗口，惟須刑書。古人稱『榮華於順旨，枯槁於逆違』，誠哉斯言，於今信矣。是以雖董司直繩，不能不深其文，抱枉含謗，不得不輸其理。幸賴陛下天聽四〔斠注一〕達，靈鑒昭遠，存先父勳德之重，察臣等勉勵之志。中詔申料，罪譴澄雪。臣等刻肌碎首，未足上報。臣即以今月十四日，與兄統、浚等詣公車門拜表謝恩。伏度奏御之日，暫經天聽。此月二十日，忽被蘭臺禁止符，以統蒙宥，恩出非常，臣晏然私門，曾不陳謝，復見彈奏，訕辱理盡。臣始聞此，惶懼狼狽，靜而思之，固無怪也。苟尊勢所驅，何所不至，望奉法之直繩，不可得也。臣以凡才，累荷顯重，不能負載析薪，以答萬分。一月之中，奏劾頻加，曲之與直，非臣所計。所愧不能承奉戚屬，自陷於此。不媚於竈，實愧王孫。隨巢子稱『明君之德，察情為上，察事次之』。所懷具經聖聽，伏待罪黜，無所多言。」由是事解。累遷散騎常侍、侍中。

〔斠注一〕元作內。

兄の石統が扶風王司馬駿(1)に背くと(2)、役人は〔扶風王司馬駿の〕命令を受けて石統のことを奏上した。重罰を与えようとしたが、まもなく赦された。石崇が参内せず感謝の念に欠けるとの理由で、役人は再び石統に罪を加えようとした。石崇は自ら表を奉った。「私の兄、石統は亡き父（石苞）の恩によって、早くから優遇され、高い位(3)に付き、官職を歴任し、忠勤を尽くしてきました。謹んで陛下のお心のままに、ご推察頂きたく存じます。最近、扶風王司馬駿殿に意外にも誹謗され、司隸中丞等は筆を飛ばすが如く重ねて奏上し、告発するために法の適用を厳しくし(4)、陛下のご判断の邪魔をしております。私ども兄弟はびくびくとし、心配で心臓病を起こしたようでありました。司馬駿殿ご一族は尊く、権勢は盛んであります。内外の役人は、その風潮を見て命令を受けております。もし憎まれるようなことがあれば、〔罪に落とすことなど〕卵を投げ割るよりも簡単でありましょう。石統が告発に屈してより、私ども兄弟はあえて一言も稍も自ら言い訳を申し上げることはしませんでした。舌を収めてものを言わず、ただ判決を待つのみでした。昔の人も言っております。『栄華は命令に従うところにあり、衰退は逆らうところにある。』(5)と、この言葉は本当であると今にして信じているのです。このような状態では裁判官が基準を正すと言っても、その法律の運用を厳しくせざるを得ず、事実を曲げ謗りを含もうとして、道理を破らざるを得ません。幸いにも陛下は隅々までご理解下さり、優れた鑑識にて亡き父（石苞）の功績の大きなことを明らかにされ、私どもの忠勤の志をご推察下さいました。そしてお調べいただいたことを詔書に認めて(6)、冤罪を晴らしてくださいました。(7)。〔これは〕私どもが皮膚を刻み首を砕いても、まだ報いるにまだ足りません。私はすぐに今月十四日に、兄の石統・石浚等と共に公車門に参り、拝礼して謝恩の意を表しました。謹んで上奏できる日を尋ね、しばらく陛下のお許しをお待ちしておりました。〔ところが〕今月二十日、突然蘭台(8)に通行を禁止され(9)、石統が罪を許され、その恩は大変なものであるのに、私（石崇）がのんびりと自邸に居て、あろうことか感謝の意を述べていないなどと、また告発され、侮辱するのに筋道をつけられました。私は始めこの事を聞いて、驚いて狼狽しましたが、冷静になってこれを考えれば、もとから怪しいことなどありません。権勢が盛んな方が手配すれば、届かぬところはなく、法の正しい運用を望みましても、それを叶えることはできません。私（石崇）は凡才であるので、高い地位につけていただきましたが、父の功績を受け継ぐことができず(10)、〔父の〕万分の一ほどの功績しかありません。ひと月のうちに、告発の奏上が頻繁に加えられ、事実を曲げられておりますが、私（石苞）が考慮できることではありません。恥じ入るのは、親族を仕えさせることができず、自らこのような事態に陥ったことです。竈に媚びなかったことが、王孫賈に恥をかかせたことになりました(11)。『随巣子』(12)に『明君の徳は、人情を見抜くのが上であり、事象を理解するのはその次である』とあります。〔私の〕思いは全て陛下にお伝えいたしました。謹んで冤罪が晴れるのをお待ちし、これ以上は申しません。」これによって事態は解決した。散騎常侍・侍中に次々に就いた。

〔斠注一〕元は「内」であった。

(1)扶風王司馬駿は字を子臧という。司馬懿の子。

(2)「忤」は背く、逆らうの意味。

(3)「清顯」は高い位のこと。

(4)「劾案」は人の罪を取り調べる、告発すること。「深文」は法の運用を厳しくすること。「文」は刑法のこと。

(5)典拠不明。

(6)「中詔」は宮中から直接発布される天子自ら書き記した詔書のこと。「申料」は審理すること。

(7)「澄雪」は冤罪を晴らすこと。

(8)「蘭台」は奏事や印工文書を掌る役所。

(9)「符」は朝廷へ出入りするための割り符。

(10)『春秋左氏伝』昭公七年に「宣子辭，子産曰，古人有言曰：其父析薪，其子弗克負荷」とある。

(11)『論語』八佾篇に「王孫賈問曰：與其媚於奧，寧媚於竈，何謂也？」とある。孔子が衛に亡命した時に、衛の大臣である王孫賈が自身を竈の神になぞらえて、まず自分のところへ挨拶に来るべきだと婉曲に伝えたもの。孔子はこれを拒否した。
ここでは、扶風王司馬駿に石崇・石統が従わないことを、王孫賈に孔子が従わないことになぞらえている。

(12)『随巣子』は六篇からなり、墨翟の弟子が著したもの。『漢書』芸文志・『隋書』経籍志にその書名が見える。

武帝以崇功臣子，有幹局，深器重之。元康初，楊駿輔政，大開封賞〔斠注一〕，多樹黨援。崇與散騎郎蜀郡何攀〔斠注二〕共立議，奏於惠帝曰：「陛下聖德光被，皇靈啓祚，正位東宮，二十餘年，道化宣流，萬國歸心。今承洪基，此乃天授。至於班賞行爵，優於泰始革命之初。不安一也。呉會僭逆，幾於百年，邊境被其荼毒，朝廷為之旰食。先帝決獨斷之聰，奮神武之略，蕩滅逋寇，易於摧枯。然謀臣猛將，猶有致思竭力之效。[一四]而今恩澤之封，優於滅呉之功。不安二也。上天眷祐，實在大晉，卜世之數，未〔斠注三〕知其紀。今之開制，當垂于後。若尊卑無差，有爵必進，數世之後，莫非公侯。不安三也。臣等敢冒陳聞。竊謂泰始之初，及平呉論功。制度名牒，皆悉具存。縱不能遠遵古典，尚當依準舊事。」書奏，弗納。出為南中郎將、荊州刺史，領南蠻校尉〔斠注四〕，加鷹揚將軍。崇在南中，得鴆鳥雛，以與後軍將軍王愷。時制，鴆鳥不得過江，為司隸校尉傅祗所糾，詔原之〔斠注五〕，燒鴆於都街。

〔斠注一〕『御覽』一百九十八引王隱『晉書』作封賞過度。

〔斠注二〕攀本傳作散騎侍郞。『御覽』一百九十八引王隱『晉書』亦作散騎常侍。

〔斠注三〕元作莫。

〔斠注四〕『御覽』一百七十二引『嶺表錄』石季倫爲交趾採訪使，以眞珠三斛，買梁氏女綠珠。事案：晉時無採訪使官名，當平吳之後，崇以荊州刺史遙領南蠻校尉竝未親至交趾。唐人記載不足徵信。

〔斠注五〕王愷傳亦云，傅祗劾之，有司皆論正重罪，詔特原之。『書鈔』六十三引『晉諸公贊』則云，司隸傅祗於愷家得鴆奏而免之。

武帝（司馬炎）は石崇を功臣である石苞の子であり、才能もあるということで、彼をとても重く用いた。元康年間（２９１～２９９）の初め，楊駿(1)が政治を補佐し、広く封賞を与え、徒党を組んで援助した。石崇は散騎郎で蜀郡出身の何攀(2)と共に意見書を作成し、恵帝（司馬衷）に奏上した。その意見書には次のように書かれていた。「陛下の聖徳はあまねく及び、先帝が帝位にお就きになり、陛下が皇太子となられてより、二十年あまり、教化も流布し、万国が服従しております。今、帝王の事業をお受けになられたのは、天が授けたのでございます。賞を与え爵位を与えることについては、泰始の天命が改まった時（武帝即位の時）よりも勝っています。これが不安の一つ目です。呉(3)が僭称して逆らうこと、百年近くになり、辺境地域ではその害毒を被り、朝廷はこの為に対応に追われました(4)。先帝（司馬炎）はお一人で優れた決断をなされ、神の如き計略を奮いましたので、呉賊を討滅することなど、朽ち木を砕くより容易いことでした。しかしながら謀臣・猛将にも、やはり計略を巡らし武力を尽くした功績があります。[一四]しかし今の封賞は、呉を滅ぼした時の功績に勝っています。これが不安の二つ目です。天の助けにより、偉大なる晋がありますが、この世界の運命を占っても、その進むべき道は未だ分かりません。今、制度を作り、後世に伝えねばなりません。もし尊卑の差がなく、爵位が必ず進むものとすれば、数世代後の世には、公・侯でないものがいないという状況になります。これが不安の三つ目です。私どもは〔以上のような不安から〕敢えて申し上げましたが、泰始の初期の天命の改まった頃から呉を平定した頃の論功の方法を拝借いたしました。制度や名簿は、皆ことごとく残っております。たとえ遠い古の制度に従うことができないとしても、やはり前例に依拠するのがよいと思われます。」意見書は奏上されたが、採用されなかった。朝廷から出て南中郎将・荊州刺史を拝命し、南蛮校尉を兼務し、鷹揚将軍を加えた。石崇は南中郎将であった時、鴆鳥の雛を手に入れ、後軍将軍王愷(5)に与えた。当時の制（みことのり）により、鴆鳥は長江をを渡ることが許されず、司隸校尉傅祗(6)により糾弾されたが、詔により許され、都街にて鴆鳥を焼いた。

〔斠注一〕『太平御覧』一百九十八に王隠『晋書』を引用して「封賞過度」としている。

〔斠注二〕何攀の本伝では散騎侍郎となっている。『太平御覧』一百九十八に王隠『晋書』を引用して、「散騎常侍」とある。

〔斠注三〕元は「莫」という字であった。

〔斠注四〕『太平御覧』一百七十二に『嶺表録』を引用して「石季倫（石崇）は交趾採訪使に任命され、真珠三斛で、梁氏の娘緑珠を買った。」この事について次のように考える。晋代には採訪使の官名はなく、呉を平定した後、石崇は荊州刺史として遠方の南蛮の校尉を兼務したのであって、自ら交趾に行ったということはない。唐人の記載は不足しており信用できない。

〔斠注五〕王愷伝にも「傅祗は彼を弾劾し、役人は皆議論して重罪だとするも、詔により特に許された。」とある。『北堂書鈔』六十三に『晋諸公賛』を引用して、「司隸傅祗は王愷の家で鴆を発見し奏上したが免ぜられた。」とある。

(1)楊駿は字を文長といい、司州弘農郡華陰県の人。『晋書』列伝第十に伝がある。

(2)何攀は字を恵興といい、益州蜀郡郫県の人。『晋書』列伝第十五に伝がある。

(3)「呉会」は呉郡と会稽郡の二郡のこと。ここでは孫呉のことを指す。

(4)「旰食」は時刻が遅くなってからとる食事のこと。『春秋左氏伝』昭公二十年に「伍尚歸，奢聞員不來曰，楚君大夫其旰食乎」とある。伍員（伍子胥）が呉に逃れたので、楚は食事の時間に困るほどに、対応に苦慮することを言ったもの。

(5)王愷は字君夫という。文明王皇后の弟。『晋書』列伝第六十三に伝がある。『晋書』列伝第四十五の王愷は別人。

(6)傅祗は字を子荘という。魏の太常、傅嘏の子。『晋書』列伝第十七に伝がある。傅嘏は字を蘭石といい、雍州北地郡泥陽県の人。『三国志』魏書二十一に伝がある。

崇穎悟有才氣，而任俠無行檢。在荊州，劫遠使商客，致富不貲〔斠注一〕。徵為大司農，以徵書未至擅去官免〔斠注二〕。頃之〔斠注三〕，拜太僕，出為征虜將軍，假節、監徐州諸軍事，鎮下邳。崇有別館在河陽之金谷，一名梓澤，送者傾都，帳飲於此焉〔斠注四〕。至鎮，與徐州刺史高誕爭酒相侮，為軍司所奏，免官。復拜衞尉，與潘岳諂事賈謐。謐與之親善，號曰「二十四友」。廣城君每出，崇降車路左，望塵而拜，其卑佞如此。

〔斠注一〕『文選』恩倖傳注，王隱『晉書』曰：石崇貪而好利富擬王臭。
『書鈔』七十二，『晉中興書』曰：石崇爲荊州刺史，數刧商賈。
『世說』汰侈篇注，王隱『晉書』曰：石崇爲荊州刺史，刧奪殺人，以致巨富。

〔斠注二〕『文選』思歸引注，臧榮緖『晉書』作崇爲大司馬，坐未被書擅云官免。

〔斠注三〕一本無之字。

〔斠注四〕『世說』品藻篇注，石崇金谷詩敍曰：余以元康六年－『水經』突水注引作七年－從太僕卿出，爲使持節監靑徐諸軍事征虜將軍有，別廬在河南縣界金谷澗中，或高或下，有淸泉茂林衆果竹柏藥草之屬，莫不畢備，又有水碓魚池土窟，其爲娛目歡心之物備矣。時征西大將軍祭酒王詡當還長安余與衆賢共送往澗中，遂各賦詩以敍中懷或不能臭罰酒三斗，故具列時人官號姓名年紀，又寫詩褐後，凡三十人吳王師議郞關中侯始平武功蘇紹字世嗣年五十爲首。
『御覽』九百十九石崇金谷詩序曰：吾有廬在河南金谷中，去城十里，有田十頃，羊二百口，鷄猪鵝鴨之類，莫不畢備。
『寰宇記』三郭綠生述征記云：金谷，谷也。地有金水，自太白原，南流，經此谷，晉衞尉石崇因卽川阜而造爲園。
『類聚』九戴延之征西記曰：梓澤，去洛陽六十里－『御覽』五十四引作二十里－梓澤，金谷也。中朝賢達所集賦詩，猶存是石崇居處。
『御覽』七十二輿地志曰：梓澤在王城西北三十里，與金谷相近。又郡國志云：梓澤卽金谷也。有金水出焉。故謂之金谷，晉石季倫別墅在焉。
『水經』泗水注曰：下邳大城內，有監軍石崇碑。
案据詩序作靑徐，傳脱靑字。崇之葬地，史無。可攷或以其曾鎭下邳，故立碑于此。

石崇は聡明で鋭く働く才能があったが、侠気（おとこぎ）が過ぎ、節度ある行いに欠けていた。荊州にいたとき、遠方から使いでやってきた商人を脅して、財物を手に入れて、金を払わなかった。招聘されて大司農に任命されたが、招聘書が届かないことで、勝手に官職を辞めてしまった。しばらくして、太僕を拝命し、朝廷を出て征虜将軍となり、仮節・監徐州諸軍事となって、下邳を鎮撫した。石崇は別宅を河陽（黄河の北）の金谷に持っており、別名を梓沢といい、送別するものが都へ向かう際、ここで送別の酒宴を行った。〔下邳を〕鎮撫すると、徐州刺史高誕と酒を奪い合って互いに侮り、軍司に奏上され、官職を免職された。再び衛尉を拝命すると、潘岳(1)と共に賈謐(2)に媚びへつらった。賈謐は彼らと親交があり、「二十四友」と呼ばれた。広城君(3)が出かける度に、石崇は車を降りて道の左側へ行き、塵を敬うが如く拝礼し、媚びへつらう様子はこのようであった。

〔斠注一〕『文選』「恩倖伝」の注に次のようにある。王隠『晋書』に「石崇は貪欲で富を好んで王者に擬した。」
『北堂書鈔』七十二によると、『晋中興書』に「石崇は荊州刺史となり、しばしば商人を脅した。」とある。
『世説新語』汰侈篇の劉孝標注によると、王隠『晋書』に「石崇は荊州刺史となり、脅して略奪したり人を殺すなどして、巨万の富を手に入れた。」とある。

〔斠注二〕『文選』「思帰引序」の李善注によると、臧栄緒『晋書』に「石崇は大司馬となったが、すぐに招聘書が届かないことで、官職を辞めてしまった。」とある。

〔斠注三〕ある本には「之」の字がない。

〔斠注四〕『世説新語』品藻篇の劉孝標注に次のようにある。「石崇金谷詩敍に私は元康六年－『水經』突水注では七年－に太僕卿から出て、使持節監青徐諸軍事征虜将軍となり、河南県の境の金谷澗中に別荘を持った。或高或下，清らかな泉、茂る林、多くの果実、竹柏などの常緑樹、薬草の類が有り、ことごとく備えないものはなかった。また水力で動く臼、魚の泳ぐ池、洞穴もあり、それらは見て楽しみ心を喜ばせるものとして備えたのである。当時征西大将軍で祭酒の王詡が長安へ帰るに当たり、私は多くの賢人と共に澗中へ見送りに行き、そこで詩を作って心の内を述べ、出来なかったものは罰として酒三斗を飲むこととした。だから当時参加した人の官号、姓名、年齢を控え、また詩を写して著しすと、凡そ三十人であった。呉王師議郎関中侯始平武功蘇紹字は世嗣、年齢五十歳を冒頭の首とした。
　『太平御覧』九百十九に次のようにある。石崇金谷詩序に「私は別荘が河南県金谷の中にあり、街から十里のところであり、田は十頃、羊は二百頭、鶏、猪、鵝、鴨の類は、ことごとく備えないものはなかった。」とある。
　『太平寰宇記』三には次のようにある。郭緑生述征記に「金谷は谷である。地に金水があり、太白原から、南へ流れ、この谷を経由する。晋の衛尉石崇は川のそばの土地に庭園を造った。」とある。
　『芸文類聚』九に次のようにある。戴延之征西記に「梓澤は洛陽から六十里－『太平御覧』五十四の引用では二十里－のところにあり、梓澤は金谷である。朝廷の賢人が集まって詩を作った場所で、石崇の住まいとして残っている。」とある。
『太平御覧』七十二に次のようにある。輿地志に「梓澤は王城の西北三十里のところにあり、金谷に近い。」とある。また郡国志に「梓澤はつまり金谷である。金水が出ることがある。故にここを金谷といい、晋の石季倫（石崇）の別荘があった。」とある。
　『水經』泗水注に「下邳の大城の中に、監軍石崇の碑がある。
　次のように考える。石崇金谷詩序は「青徐」とあり、伝では「青」の字が抜けている。石崇が葬られた土地については、記録にない。考えられるのは、嘗て下邳を鎮撫していたので、碑がここに建てられたということである。

(1)潘岳は字を安仁といい、司州滎陽郡中牟県の人である。潘岳が作成した賦が多く『文選』に収録されている。『晋書』列伝第二十五に伝がある。

(2)賈謐は字を長深という。賈充の孫。『晋書』列伝第十に伝がある。

(3)広城君は、賈充の後妻で、郭配のむすめ。『晋書』列伝第十賈充伝にその記述がある。

財產豐積，室宇宏麗。後房百數，皆曳紈繡，珥金翠。絲竹盡當時之選，庖膳窮水陸之珍。與貴戚王愷、羊琇之徒以奢靡相尚〔斠注一〕。愷以𥹋澳釜，崇以蠟代薪。愷作紫絲布步障四十里，崇作錦步障五十里以敵之。崇塗屋以椒，愷用赤石脂〔斠注二〕。崇、愷爭豪如此〔斠注三〕。武帝每助愷，嘗以珊瑚樹賜之，高二尺許，枝柯扶疏，世所罕比。愷以示崇，崇便以鐵如意擊之，應手而碎〔斠注四〕。愷既惋惜，又以為嫉己之寶，聲色方厲〔斠注五〕。崇曰：「不足多恨，今還卿。」乃命左右悉取珊瑚樹，有高三四尺者六七株〔斠注六〕，條榦絕俗，光彩曜日，如愷比者甚衆。愷怳然自失矣〔斠注七〕。

〔斠注一〕『初學記』十八，王隱晉書曰：石崇百道營生，積財如山。
『御覽』四百七十一，徐廣晉紀曰：石季倫甚富侈,衣服伎樂夸於許史。
『世說』汰侈篇注，續文章志曰：崇資產累巨萬金，宅室輿馬僭擬王臭，築榭開沼殫極人巧。與貴戚羊琇、王愷之徒競相高以侈靡，而崇爲居最，琇等每愧羨，以爲不及也。

〔斠注二〕『世說』汰侈篇曰：王君夫以𥹋糒澳釜，石季倫用蠟燭作炊。君夫作紫絲布步障碧綾裏四十里，石崇作錦步障五十里以敵之。崇以椒爲泥，王以赤石脂泥壁。
『通鑑』晉紀注，本草圖經曰：赤石脂，出濟南射陽及泰山之陰。蘇恭云：濟南、太山不聞出臭。唯䝞州盧氏、澤州陵川縣、慈州呂鄕縣竝有，及宜州暑山亦出，今出潞州，以色理鮮膩臭爲勝。

〔斠注三〕『世說』汰侈篇注晉諸公贊曰崇性好俠與王愷競相誇衒也

〔斠注四〕『類聚』七十『御覽』七百三引『語林』而碎作瓦碎。

〔斠注五〕『世說』汰侈篇，方厲作甚厲。

〔斠注六〕『書鈔』一百三十五石崇故事曰崇有珊瑚如意長三尺有二寸。
『類聚』七十『御覽』七百三引『語林』作六十七枚。

〔斠注七〕『世說』汰侈篇，怳然作惘然。

財産を多く保有し、邸宅は広く美しかった。妻や妾(1)も多くいて、皆薄絹の衣服を着て、金色を帯びた緑色の宝石を身につけていた。音楽は当時の選りすぐりのものをそろえ、食事は山海の珍味を極めていた。外戚の王愷・羊琇の門人らと豪奢を互いに好んだ。王愷は飴で釜を温め、石崇は蠟を薪の代わりとした。王愷が紫の生地で歩障(2)を四十里の長さで作ると、石崇は錦で歩障を五十里の長さで作り、対抗した。石崇が邸宅の壁を山椒入りの土で塗ると、王愷は赤石脂(3)を用いた。石崇・王愷が豪奢を競うさまはこのようであった。武帝はいつも王愷を助けていて、嘗て珊瑚樹を彼に下賜したが、それは高さ二尺ほどで、枝が四方に広がり、世にも珍しいものであった(4)。王愷はこれを石崇に見せると、石崇はすぐに鉄如意(5)でこれを打ち付け、すぐさま手で砕いた。王愷はとても惜しく思ったが、自分の宝を嫉んだのだと、声を大にした。石崇は言った。「〔これでは〕多くの恨みを晴らすのに不足である。今に貴殿にお返しする。」そこで側近に命じて珊瑚樹を尽く取り、高さ三、四尺のものを六、七株、枝や幹も大変に見事なもので、その光彩は日を照らしているかのようであった。王愷が持っていたようなものは大変多くあった。王愷は茫然自失の有様であった。

〔斠注一〕『初学記』十八によると、王隠『晋書』に「石崇は多くの方法で生計を立て、財産を山のように蓄えた。」とある。
『太平御覧』四百七十一によると、徐広『晋紀』に「石季倫（石崇）は甚だ贅沢であり、衣服や芸事は漢代の許氏・史氏(6)より勝っていた。」
『世説新語』汰侈篇の劉孝標注によると、『続文章志』に「石崇の資産は一億金を積み上げ、家や部屋、車や馬も身分を超えて王のように振る舞った。高殿を築き、沼を作り、技巧を尽くした。外戚の羊琇・王愷などの人々と贅沢を互いに競い合ったが、石崇はその最たるもので、羊琇らはいつも悔しがり、とても及ばないと思った。」とある。

〔斠注二〕『世説新語』汰侈篇に次のようにある。「王君夫（王愷）は干飯で釜を温め、石季倫（石崇）は蠟燭で薪の代わりとした。君夫（王愷）は紫の生地で歩障を裏地に碧の綾布を使って四十里の長さで作ると、石崇は錦の歩障を五十里の長さで作って、対抗した。石崇が山椒で泥を作ると、王愷は赤石脂で泥を作った。」
『資治通鑑』晉紀三の音注によると、『本草図経』に「赤石脂は、済南郡や射陽県及び泰山の北側に産出する。蘇恭は次のようにいう。済南・太山は産出するとは聞かない。唯だ䝞州盧氏県・沢州陵川県・慈州呂鄕県にはあり、及び宜州の諸山もまた産出し、今は潞州でも産出する。色つやが鮮やかで滑らかであることで優れたものとされる。」とある。

〔斠注三〕『世説新語』汰侈篇の劉孝標注によると、『晋諸公賛』に「石崇の性格は男伊達を好み、王愷と競って互いに自慢しあった。」とある。

〔斠注四〕『芸文類聚』七十、『太平御覧』七百三では、『語林』を引用して「而碎」を「瓦碎」としている。

〔斠注五〕『世説新語』汰侈篇では、「方厲」は「甚厲」となっている。

〔斠注六〕『北堂書鈔』一百三十五によると、『石崇故事』に「石崇は珊瑚を思いのままに手に入れ、長さは三尺二寸あった。」とある。
『芸文類聚』七十、『太平御覧』七百三では、『語林』を引用して「六十七枚」としている。

〔斠注七〕『世説新語』汰侈篇では、「怳然」は「惘然」となっている。

(1)「後房」は、妻などがいる奥向きの部屋のことだが、ここでは妻や妾のことを指すと思われる。

(2)「歩障」は、身分の高い人が外出するとき、風や埃をさける為に用いる囲い幕のこと。

(3)「赤石脂」は、石の風化したもので赤色のもの。石のやに。

(4)「世所罕比」は、「世に罕（まれ）に比（なら）ぶ所なり」と書き下すか。並ぶものがないほど珍しいことをいう。

(5)「如意」は、道士が持つ道具。木・鉄・玉などで作る。ここでは鉄で作られた如意。

(6)「許史」は、漢の宣帝の外戚である許と史の両姓のこと。

崇為客作豆粥，咄嗟便辦。每冬，得韮蓱韲。嘗與愷出游，爭入洛城，崇牛迅若飛禽，愷絕不能及。愷每以此三事為恨，乃密貨崇帳下問其所以〔斠注一〕。答云：「豆至難煮，豫作熟末，客來，但作白粥以投之耳。韮蓱韲是擣韮根雜以麥苗耳。牛奔不遲〔斠注二〕，[一五]良由馭者逐不及反制之，可聽蹁轅則駃矣〔斠注三〕。」[一六]於是悉從之，遂爭長焉。崇後知之，因殺所告者。

〔斠注一〕『世說』汰侈篇曰又牛形状氣力不勝王愷牛，而與愷出遊，極晩發，爭入洛城，崇牛數十歩後，迅若飛禽，愷牛絶走不能及．毎以此三事爲搤腕。乃密貨崇帳下都督及御車人，問所以。

〔斠注二〕『世說』汰侈篇奔作本。

〔斠注三〕『世說』汰侈篇作急時聽偏轅則駛矣。

石崇は客の為に豆粥を作り、突然の訪問でもすぐに準備した。毎冬、韮蓱韲(1)を作った。嘗て王愷と遊びに出て、洛城に入るのに競争し、石崇の牛の速さは飛ぶ鳥のようで、王愷は全く及ばなかった。王愷はいつもこの三つの事を恨みに思い、石崇宅の小間使いを密かに買収してその理由を訊いた。次のように答えた。「豆は煮るのが難しいので、予め煮ておき、客が来ましたら、ただ白粥を作ってこれを入れるだけです。韮蓱韲はニラの根を搗いて麦苗を和えただけです。牛は走るのが遅くはなく、[一五]御者が牛を追うのに間に合わず抑えているのです。轅の一方を外せば速く走ります。」[一六]そこで尽くこの通りにして、一等を争った。石崇は後にこれを知って、告げ口したものを殺した。

〔斠注一〕『世説新語』汰侈篇に次のようにある。「また牛の体格や気力が王愷の牛に勝っていないのに、王愷と遊びに出た際、かなり遅れて出発することになり、洛城への到着を争ったが、石崇の牛は数十歩後ろにいても、早さは飛ぶ鳥のようで、王愷の牛はよく走ったが及ばなかった。いつもこの三つの事で悔しがって腕組みし、石崇配下の都督と御者を密かに買収してその理由を訊いた。」

〔斠注二〕『世説新語』汰侈篇では、「奔」は「本」となっている。

〔斠注三〕『世説新語』汰侈篇では、「急時聽偏轅則駛矣」となっている。

(1)「韮蓱韲」はニラの根を搗いて麦苗を和えたもの。

嘗與王敦入太學，見顏回、原憲之象，顧而歎曰：「若與之同升孔堂，去人何必有間。」敦曰：「不知餘人云何，子貢去卿差近。」崇正色曰：「士當身名俱泰，[一七]何至甕牖哉！〔斠注一〕」其立意類此。

〔斠注一〕『世說』汰侈篇作士當令身名俱泰，何至以甕牖語人。

嘗て王敦(1)と太学に入り、顔回(2)・原憲(3)の像を見、振り返って嘆いた。「もし彼らと同じく孔子の門下となれば、彼らと私とどれほどの隔たりがあろうか。」王敦は言った。「他の弟子がどうかは知らないが、子貢(4)は貴卿とほぼ同じでしょう。」石崇は態度を改めて言った。「士は身分も名声も高くなければならない、[一七]どうして甕の窓(5)になろうか！」彼が意見を言うのはこのようであった。

〔斠注一〕『世説新語』汰侈篇では、「士當令身名俱泰，何至以甕牖語人」となっている。

(1)王敦は字を処仲という。『晋書』列伝第六十八に伝がある。

(2)顔回は字を子淵といい、魯の人。孔子より３０才若かったが、２９才で死んだ。『史記』仲尼弟子列伝第七に伝がある。

(3)原憲は字を子思という。『史記』仲尼弟子列伝第七に伝がある。

(4)子貢は名を端沐賜といい、衛の人。魯・衛の宰相となり、家財千金を蓄えた。『史記』仲尼弟子列伝第七に伝がある。

(5)「甕牖」は、原憲の故事による。『世説新語』劉孝標注によると『孔子家語』に「居魯，環堵之室，茨以生草，蓬戸不完，桑樞而瓮牖，上漏下濕，坐而弦歌。」とある。

劉輿兄弟少時為王愷所嫉，愷召之宿，因欲坑之。崇素與輿等善，聞當有變，夜馳詣愷，問二劉所在，愷迫卒不得隱。崇徑進於後齋索出，[一八]同車而去。語曰：「年少何以輕就人宿！」輿深德之。

劉輿兄弟(1)は若い時に王愷に嫉まれた。王愷は彼らを招いて泊まらせ、生き埋めにしようとした。石崇は日頃から劉輿たちと仲良くしていた。劉輿兄弟に変事ありと聞き、夜馬を走らせ王愷を尋ね、劉輿兄弟の所在を聞き、王愷は迫られて隠すことができなかった。石崇は直ちに奥の部屋(2)へ進んで探し出し、車に同乗して帰った。〔石崇は〕言った。「若いのにどうして軽々しく人の家に泊まったりしたのだ！」劉輿は深く彼に感謝した。

(1)劉琨・劉輿兄弟のこと。劉琨は字を越石といい、冀州中山国魏昌県の人。劉輿は字を慶孫という。『晋書』列伝第三十二に両者の伝がある。

(2)「後齋」は邸宅の奥にあるくつろぐ部屋のこと。

及賈謐誅，崇以黨與免官。時趙王倫專權〔斠注一〕，崇甥歐陽建與倫有隙。崇有妓曰綠珠〔斠注二〕，美而豔，善吹笛〔斠注三〕。孫秀使人求之。崇時在金谷別館，方登涼臺，臨清流〔斠注四〕，婦人侍側。使者以告。崇盡出其婢妾數十人以示之，皆蘊蘭麝，被羅穀，曰：「在所擇〔斠注五〕。」使者曰：「君侯服御麗則麗矣，然本受命指索綠珠，不識孰是?」崇勃然曰：「綠珠吾所愛，不可得也。」使者曰：「君侯博古通今，察遠照邇，願加三思。」崇曰：「不然。」使者出而又反，崇竟不許。秀怒，乃勸倫誅崇、建。崇、建亦潛知其計，乃與黃門郎潘岳陰勸淮南王允、齊王冏以圖倫、秀。秀覺之，遂矯詔收崇及潘岳、歐陽建等。崇正宴於樓上，介士到門。崇謂綠珠曰：「我今為爾得罪。」綠珠泣曰；「當效死於官前。」因自投于樓下而死〔斠注六〕。崇曰：「吾不過流徙交、廣耳。」及車載詣東市，崇乃歎曰：「奴輩利吾家財。」收者答曰：「知財致害，何不早散之?」崇不能答。崇母兄妻子無少長皆被害〔斠注七〕，死者十五人。崇時年五十二。

〔斠注一〕『文選』王明君詞注引臧榮緖晉書作趙王倫專任孫秀。

〔斠注二〕『御覽』一百七十二嶺表錄曰白州有一派水出雙角山合容州江呼爲綠珠井有雙角山下梁氏之居舊井存焉。案此爲唐人記載恐出傅會附注之以備異聞。

〔斠注三〕『世說』仇隟篇注類聚十八引干寶晉紀作美而工舞。『御覽』三百八十引作美如玉善舞。

〔斠注四〕『世說』仇隟篇注類聚十八引干寶晉紀均作方登涼觀臨淸水。

〔斠注五〕『世說』仇隟篇注引干寶晉紀作曰任所以擇。

〔斠注六〕『洛陽伽藍記』一曰昭儀寺有池趙難云是晉侍中石崇家池池南有綠珠樓於是學徒始寤經過臭想見綠珠之容也。

〔斠注七〕『魏志』蘇則傳曰則弟愉注云愉子紹字世嗣爲吳王師石崇妻紹之兄女也。輿地紀勝五引夷堅庚志云平江府吳縣賣華山相傳以爲石崇墓恐不足信。

賈謐が誅殺されると、石崇は親しくしていたということで官職を免ぜられた。当時、趙王司馬倫が権力を持っており、石崇の甥である欧陽建は司馬倫との関係に亀裂が生じていた。石崇には緑珠と言う名の遊女がおり、美しく色っぽく、笛を吹くのが上手であった。孫秀は使いをやって彼女を手に入れようとした。石崇はその時、金谷の別館(1)にいて、ちょうど涼台に上り、清流を眺め、婦人がそばに侍っていた。使者は用件を告げた。石崇は彼の下女・妾ら数十人を連れ出し、使者に見せるために、皆、蘭や麝香など香りの良いものを付け、薄絹や縮緬を着せさせ、言った。「選びたまえ。」使者は言った。「石崇殿がお抱えの女性は美しいのは美しいのでありますが、緑珠という女性を探し求めるよう命を受けております。どちらの方でございますか？」石崇はむっと顔色を変えて言った。「緑珠は私が愛する女であるため、渡すことはできない。」使者は言った。「石崇殿は古今の故事を広く知られ、遠く昔の事を踏まえて今に応用なさいます。どうぞ再考願います。」石崇は言った。「ならぬ。」使者は退室してまた戻ってきたが、石崇は結局〔緑珠を渡すことを〕許さなかった。孫秀は怒り、司馬倫に石崇・欧陽建を誅殺するよう勧めた。石崇・欧陽建もその計画があることを密かに知り、黄門郎潘岳と共に密かに淮南王司馬允(2)・斉王司馬冏(3)に司馬倫・孫秀を陥れるよう勧めた。孫秀はこれを察知し、遂に偽りの詔を出して石崇・潘岳・欧陽建等を捕らえた。石崇はちょうど楼上にて宴を催していたところ、兵士が門に到着した。石崇は緑珠に言った。「私は今、そなたの為に罪人となるのだ。」緑珠は泣いて言った。「役人の前で命を捨てまする。」そして自ら楼の下へ飛び降り、死んだ。石崇は言った。「私は交州・広州への流罪で済むだろう。」車に載せられ東市に向かう途中、石崇は嘆いて言った。「おまえたちに我が家の財産をくれてやろう。」役人は答えた。「財物は害を為すと知っていて、どうしてもっと早く分け与えなかったのだ？」石崇は答えることができなかった。石崇の母や兄の妻子は老いも若いも無く皆殺され、死者は十五人に上った。石崇は五十二歳であった。

〔斠注一〕『文選』王明君詞の李善注に、臧栄緒『晋書』を引用して「趙王司馬倫は孫秀を専任とした」とある。

〔斠注二〕『太平御覧』一百七十二によると、『嶺表録』に「白州に支流があって双角山から出て容州の江に合流するあたりを緑珠井と呼んだ。双角山の麓に梁氏の居があり、古い集落があったのである。」とある。次のように考える。これは唐代の人が記載したのであって、恐らく傅会が注を付けたものが出たのだ。これを異聞として挙げておく。

〔斠注三〕『世説新語』仇隟篇の劉孝標注・『芸文類聚』十八によると、干宝『晋紀』を引用し「美而工舞」となっている。
『太平御覧』三百八十では、〔干宝『晋紀』を〕引用して、「美如玉善舞」としている。

〔斠注四〕『世説新語』仇隟篇の劉孝標注・『芸文類聚』十八によると、干宝『晋紀』を引用し共に、「方登涼觀臨淸水」となっている。

〔斠注五〕『世説新語』仇隟篇の劉孝標注によると、干宝『晋紀』を引用し「任所以擇」となっている。

〔斠注六〕『洛陽伽藍記』一に次のようにある。「昭儀寺に池がある。趙逸(4)は「これは晋の侍中石崇の家の池であり、池の南には緑珠楼があった。」と言った。ここで学生が通り過ぎたものに気付き、〔それは〕緑珠の姿をしているようであった。」

〔斠注七〕『三国志』魏書十六蘇則伝に、蘇則の弟は蘇愉とあり、その裴松之注によると、「蘇愉の子、蘇紹は字を世嗣といい、呉王の師である。石崇の妻は蘇紹の姉である。」とある。
『輿地紀勝』五は『夷堅庚志』を引用して「平江府呉県売華山は石崇の墓として代々受け継がれて来た」とあるが、恐らく信ずるに足らない。

(1)『水経注』穀水に、「穀水又東，會金谷水。水出太白原，東南流，歷金谷，謂之金谷水。東南流，逕晉衞尉卿石崇之故居。」とある。

(2)淮南王司馬允は、字を欽度という。武帝司馬炎の子。『晋書』列伝第三十四に伝がある。

(3)斉王司馬冏は、字を景治という。文帝司馬昭の孫。『晋書』列伝第二十九に伝がある。

(4)『洛陽伽藍記』二によると、趙逸は隠士で、晋の武帝の頃の人。晋朝の旧事について多く記憶していた。とある。

初，崇家稻米飯在地，經宿皆化爲螺，時人以爲族滅之應〔斠注一〕。有司簿閲崇水碓三十餘區，蒼頭八百餘人，[一九]他珍寶貨賄田宅稱是〔斠注二〕。

〔斠注一〕『廿二史攷異』二十一曰按衞瓘家人炊飯墮地盡化爲螺歲餘及禎二事正相類又裴楷傳始楷家炊黍在甑或變爲拳或爲血或作蕪菁子其年而卒事亦相近也。

〔斠注二〕『御覽』四百七十一王隱晉書曰石崇雖有人才而性麄强貪而好利富擬王臭有司簿閱崇田宅財物及水碓有三千餘區倉頭八百人他珍寶奇異不可稱數。案三千餘區當從本傳作三十。

その昔、石崇の家では地に落ちた米飯が、一晩のうちに皆田螺になっていて、当時の人々は、一族が滅びる予兆だと思った。役人が石崇の財産登記を見ると、水車の臼が三十箇所あまり、奴隷八百人あまり、[一九]その他珍宝・金銭布帛・田んぼ・邸宅などがあった。

〔斠注一〕『廿二史攷異』二十一に次のようにある。「次のように考える。衛瓘の家人が飯を炊き、地に落ちたものがすべて田螺になり、冬になって禍が起こった。この二事はまさに同類である。又裴楷伝に、その昔裴楷の家では黍を炊いたものが甑の中にあり、それがあるものは拳となり、あるものは血となり、あるものは蕪菜（かぶらな、野菜の一）となった。その年に卒去した。この事もまた似ている。」

〔斠注二〕『太平御覧』四百七十一によると、王隠『晋書』に「石崇は才能はあるが性格は粗野であった。貪欲であり、富を好んで〔自らを〕王者に擬えた。役人が財産登記を見ると、石崇の田畑・邸宅・財物・水車の臼などが三千箇所あまりあり、奴隷は八百人、その他珍宝・珍品については数え切れなかった。」とある。次のように考える。「三千餘区」は本伝が「三十」としているのに従うべきである。

及惠帝復阼，詔以卿禮葬之。封崇從孫演爲樂陵公〔斠注一〕。

〔斠注一〕『書鈔』四十八晉起居注曰惠帝元康元年詔曰故樂陵公石苞國祚莫繼其特以苞孫行爲樂陵公。案行當爲演之誤惟一作苞孫一作崇從孫互異。

恵帝（司馬衷）が再び帝位に就くと、詔を発して貴人の礼法に則って石崇を葬送した。石崇の従孫（兄弟の孫）の石演は楽陵公となった。

〔斠注一〕『北堂書鈔』四十八によると、晋起居注に「惠帝（司馬衷）は元康元（２９１）年に詔を発した。故楽陵公石苞は国家の幸いであり、その特権を継ぐものがいない。石苞の孫、石行を楽陵公とする。」とある。次のように考える。石行は石演の誤りとすべきだ。ただ、一方は石苞の孫とし、一方は石崇の従孫としており、互いに異なっている。

苞曾孫樸〔斠注一〕字玄真，[二０]為人謹厚，無他材藝，沒於胡。石勒以與樸同姓，俱出河北，引樸為宗室，特加優寵，位至司徒〔斠注二〕。

〔斠注一〕劉羣伝作石璞。

〔斠注二〕『勞格校勘記』曰据載記樸為司空非司徒。

石苞の曾孫である石樸は字を玄真といい、[二０]性格は慎み深くて人情に厚かったが、他に取り柄はなく、胡の地にて没した。石勒(1)は石樸と同姓であるとの理由で、共に河北に出てきた際、石樸を招いて宗室とし、特に寵愛を加えて、位は司徒に至った。

〔斠注一〕『晋書』列伝三十二の劉羣伝には「石璞」となっている。

〔斠注二〕『労格校勘記』に「載記によれば石樸は司空に為ったのであり、司徒ではない。」とある。(2)

(1)石勒は字を世龍といい、并州上党郡武郷県の人。十六国の一つ後趙の高祖。『晋書』載記第四・五、『魏書』列伝第八十三に伝がある。

(2)『晋書』載記七の冉閔伝に「司空石璞」とある。

歐陽建字堅石，世為冀方右族。〔斠注一〕雅有理思，才藻美贍，〔斠注二〕擅名北州。時人為之語曰：「渤海赫赫，歐陽堅石。」辟公府，歷山陽令、尚書郎、馮翊太守，甚得時譽。及遇禍，莫不悼惜之。〔斠注三〕年三十餘。臨命作詩，文甚哀楚。〔斠注四〕

〔斠注一〕　『文選』臨終詩注：王隱『晉書』曰：石崇外甥歐陽建，勃海人也。
　『寰宇記』六十五曰：建勃海重合人，石崇之甥，爲郡豪傑也。

〔斠注二〕　『書鈔』一百：歐陽建別傳云：建文辭美贍，搆理淸微。

〔斠注三〕　『文選』臨終詩注：王隱『晉書』曰：爲馮翊太守，趙王倫之爲征西，撓亂關中。建每匡正，不從私欲，由是有隙，及乎倫簒位，勸淮南王允誅倫，未行事覺，倫收崇建及母妻無少長，皆行斬。
　案隋史有頓邱太守歐陽建集二卷。與本傳作馮翊太守異。

〔斠注四〕　『寰宇記』六十五曰：歐陽建墓在臨津縣東南二十七里。

欧陽建は字を堅石といい、代々冀州方面の名族であった。(1)考えることは常に本質を捉え、文才にも恵まれ、名声を北方の州においてほしいままにしていた。当時の人々は彼のことを次のように言っていた。「渤海の輝き、欧陽堅石。」公府に召され、山陽令・尚書郎・馮翊太守を歴任し、十分に当時の名誉を得た。災禍に遭って〔死に〕、(2)彼を悼み惜しまないものはなかった。年齢は三十歳あまりであった。臨終の際、詩を作り、その文辞はとても悲しげであった。(3)

〔斠注一〕　『文選』臨終詩の〔張銑の〕注に次のようにある。「王隠『晋書』に石崇の甥である欧陽建は、勃海郡の人である、とある。」
　『太平寰宇記』六十五に次のようにある。「欧陽建は勃海郡重合県の人で、石崇の甥で、郡の豪傑となった。」

〔斠注二〕　『北堂書鈔』一百に次のようにある。「欧陽建別伝に、欧陽建は文辞に秀で、理論を組み立てるのが精緻で巧妙であった。とある。」

〔斠注三〕　『文選』臨終詩の〔張銑の〕注に次のようにある。「王隠『晋書』に〔欧陽建は〕馮翊太守に任命された。趙王司馬倫は征西将軍に任命されると、関中を混乱させた。欧陽建は常にきちんとしていて、私欲に因らなかった。ここで〔欧陽建と司馬倫の関係に〕亀裂が生じた。司馬倫は帝位を奪うに至り、〔欧陽建は〕淮南王司馬允に司馬倫を誅殺するよう勧めたが、(4)実行前に事が発覚し、司馬倫は石崇と欧陽建、および〔彼らの〕母や妻、幼いものから老齢のものまで問わずに捕らえ、皆斬った。とある。」
　考えるに、『隋史（隋書）』〔経籍志〕に、「頓邱太守歐陽建集二卷。」とある。本伝が馮翊太守としているのと異なっている。

〔斠注四〕　『太平寰宇記』六十五に次のようにある。「欧陽建の墓は臨津県の東南二十七里のところにある。」

(1)『新唐書』宰相世系四下に「欧陽氏は姒姓から来ていて、夏の少康の庶子が会稽に封ぜられ、越王無彊が楚に滅ぼされると、無彊の子、蹄が烏程欧餘山の南に封ぜられ、欧陽亭侯となり、そのまま氏とした。後に涿郡太守に任命されるものがあり、子孫のある者は渤海に住み、晋の頓丘太守欧陽建が趙王に殺害され、兄の子の欧陽質、字を純之というが、長沙臨湘に住んだ。」とある。

(2)『晋書』列伝第三石崇伝に、趙王司馬倫に殺害される経緯が書かれている。

(3)『文選』に「臨終詩」が欧陽建の詩として収録されている。

(4)この箇所は『文選』の張銑注と異同がある。「・・・欧陽建は常に政治を正し、自分の思うままにすることはなかった。楚王司馬偉を迎えて彼を立てようとしたが、これにより〔司馬倫との間に〕感情の亀裂が生じた。石崇は淮南王に勧めて司馬倫を誅殺させようしたが、実行前に事が発覚し、」となっている。

孫鑠字巨鄴〔斠注一〕，河內懷人也。少樂為縣吏〔斠注二〕，[二一]太守呉奮轉以為主簿。鑠自微賤登綱紀，時僚大姓猶不與鑠同坐。[二二]奮大怒，遂薦鑠為司隸都官從事。司隸校尉劉訥甚知賞之。時奮又薦鑠於大司馬石苞，苞辟為掾。鑠將應命，行達許昌，會臺已密遣輕軍襲苞。于時汝陰王鎮許，鑠過謁之。王先識鑠，以飲里之情私告鑠曰：「無與禍。」鑠既出，即馳詣壽春，為苞畫計，苞賴而獲免。遷尚書郎〔斠注三〕，在職駁議十有餘事，為當時所稱〔斠注四〕。

〔斠注一〕案『書鈔』六十引臧榮緖晉書作孫鑠字巨業蓋避愍帝諱。

〔斠注二〕周家祿校勘記曰樂疑當爲錄聲之誤。

〔斠注三〕『書鈔』六十臧榮緖晉書曰補吏部令史歎曰羣縣自可不爲鑠禮而天臺復爾乃爲公府掾爲令史若陳擒自表諸人竝省列不階卑雜而我獨屯塞不通如何遂就職遷尙書郞。案本傳不載鑠爲令史以公府掾爲令史一語證之自當在石苞辟掾之後遷尙書郞之前。

〔斠注四〕『類聚』六十二王隱晉書曰東宮坊有醉相殺臭中丞奏郞官從事孫鑠杖一百鑠奏東宮是行馬內而推行馬外官爲建法令詔中丞令史格一百。

孫鑠は字を巨鄴といい、司州河内郡懐県の人である。若くして喜んで県の役人となり、[二一]太守呉奮(1)は主簿に転任させた。孫鑠は卑賤の身分から記録文書係となり、当時同僚となった名門の者たちは孫鑠と同座しなかった。[二二]呉奮は大いに怒り、孫鑠を推薦して司隸都官従事になった。司隸校尉劉訥(2)は彼を認めて褒め称えた。ある時呉奮は孫鑠を大司馬石苞にも推薦し、石苞は招聘して大司馬の掾とした。孫鑠は命令に従い、許昌に到着しようとしたところ、ちょうど朝廷が既に密かに少数の軍を派遣して石苞を襲撃したところであった。その時汝陰王司馬駿(3)が許昌を鎮圧しており、孫鑠は彼（汝陰王司馬駿）に謁見した。汝陰王司馬駿は先に孫鑠を知り、同郷の好から密かに孫鑠に告げた。「禍を〔石苞と〕共にすることはない。」孫鑠は許昌を出発すると、寿春に馳せ参じ、石苞のために一計を案じ、石苞はこれに頼って、免れることができた。尚書郎に転任し、在職中に議論を正したことが十数回あり、その当時称えられた。

〔斠注一〕次のように考える。『北堂書鈔』六十で、臧栄緒『晋書』を引用して「孫鑠字巨業」としているのは、恐らく愍帝の諱を避けたのである。

〔斠注二〕周家禄校勘記に「「樂」は疑うに「録」とすべきである。発音による誤りである。」とある。

〔斠注三〕『北堂書鈔』六十によると、臧栄緒『晋書』に「補吏部令史は嘆いて言った。「羣縣では孫鑠に礼を為さなくても可としたが、天臺復爾乃爲公府の掾を令史とした。若陳擒自表諸人竝省列不階卑雜，而私はただ塞にたむろするのみで通ることができない。どうすればよいか。」遂に官職に就き、尚書郎に転任した。」とある。次のように考える。本伝は孫鑠が令史となったとは記載していない。「以公府掾爲令史」の一語は、石苞が掾として招聘して後、尚書郎に転任する前に〔令史で〕あったことを証明している。

〔斠注四〕『芸文類聚』六十二によると、王隠『晋書』に「東宮坊にて酔って殺し合いをしたものがあった。中丞が郎官従事孫鑠を杖一百の刑とするよう劾奏したところ、孫鑠は東宮は行馬内であり推行馬外官が法令に違反している(4)と奏上し、詔は中丞・令史をそれぞれ一百の刑とした。」とある。

(1)呉奮は彭城太守であり、その後侍中となった。彼の伝はないが、『晋書』列伝第十八向雄伝にその名が見える。

(2)劉訥は徐州彭城国の出身である。二十四友の一人。彼の伝はないが、『晋書』列伝第十賈謐伝にその名が見える。

(3)扶風王司馬駿のこと。武帝（司馬炎）即位時に汝陰王に封ぜられた。

(4)『芸文類聚』六十二では、「建」は「違」となっており、「違」として訳した。

史臣曰：若夫經為帝師，鄭沖於焉無愧；孝為德本，王祥所以當仁；何曾善其親而及其親之黨者也。夏禹恭儉，殷因損益。牲牢服用，各有品章，諸侯不恒牛，命士不恒豕。禦而驕奢，其關乎治政。乘時立制，莫不由之。石崇學乃多聞，情乖寡悔，超四豪而取富，喩五侯而競爽。春畦𧆑靡，列於凝沍之晨；錦障逶迤，亙以山川之外。撞鐘舞女，流宕忘歸，至於金谷含悲，吹樓將墜，所謂高蟬處乎輕陰，不知螳蜋襲其後也。

史臣が申し上げる。天子に経書を教えるについては、鄭沖はその役割を担って恥じない〔能力の持ち主である〕。孝が徳の基本であることについては、王祥は当然思いを致すべき人物である。また何曾は彼の親によく尽くし、そしてそれは親族にも及んだ。夏の禹はうやうやしく慎ましかったが、〔後に〕殷は〔夏が禹の作り上げた〕利益を損なったことによって建国した。生け贄を用いるのに、それぞれ規則はあるが、諸侯が牛を生け贄にし続けることはなく、名士が豚を生け贄にし続けることはない。食い止めようにもおごり高ぶった結果は、政治に関わってくるのである。時勢に乗じて制度を作れば、これに従わざるを得ない。石崇は学問があって博識であったが、気持ちは〔一般より〕離れ、改めること少なく、四豪を超えて富裕を求め、五侯を諭して凋落を競った。春の畦道に花が散り舞えば、霜の降りる朝から分かれる。錦の垂れ幕が〔風に〕ゆらめいて〔飛んでいけば〕、〔眺めに見える〕山・川の向こうへ行ってしまう。鐘をたたいて女を舞わせ、遠くまで遊んで帰るのを忘れたので、金谷に至って悲劇に遭い、楼に吹く風が墜とそうとするのだ。これは蝉がまばらな木陰の高いところにとまって〔安心して〕いて、カマキリがその後ろを襲おうとするのを知らないようなものなのだ。(1)

(1)巻三十三を総括する。王祥・鄭沖・何曾のように優れた人物が出ても、時間が経過すれば石崇のように身を滅ぼす人物が出ることが、この巻を通読すれば知られるということを述べているものと思われる。

贊曰：鄭沖含素，王祥遲暮。百行斯融，雙飛天路。何石殊操，芳餁標奇。帝風流靡，崇心載馳。矜奢不極，寇害成貲。邦分身墜，樂往哀隨。

総評するに、鄭沖は〔功績により〕厚く葬送され、王祥は仕官は遅いが大成した。彼らの多くの行いは広く知られ、二人は天路を飛ぶがごとしである。何曾・石苞の立派な節操は、香り良い食事のように自ずと知られるものである。皇帝の風格は衰微し、石崇の心は駆り立てられた。矜恃は行き着くところを知らず、簒奪者たちによって殺され贖うことになった。国家が分裂して身を落とし、悦楽を進めて悲しみに随ったのだ。

＜更新履歴＞
2006.06.29：第一版。