『森の獅子唄』  横井勝己

 かつて神戸のブルースシーンの『台風の目』的存在だった横井勝己は震災後、
拠点を大阪に移し、自身の『Y.K.ギターズ』をその音楽生活の中心としているが、
中古ギター販売の他に、横井勝己本人のオリジナル音楽レーベル、『Y.K.DISK
』を立ち上げた。
 その第一段が『森の獅子唄』(Y.K.disk01 ¥1500)である。
 あたかも日系三世ブルースマンとも言うべき、DEEPなブルース世界から自然に
日本人としての音楽へシフトした様は回りから見れば大胆な変身といえるだろう。
 バンジョーにギター弦を張り『四弦(よんしん)』と呼ぶ楽器を考案し、駆使する横
井の四曲入りCDは渋いVocalとあいまって『音楽(おとらく)』とでも云える世界な
のだが、実はブルースからの変身ではなく、ただ本来の横井の姿を彼自身が見つ
けたという証なのだ。

                               ドクトル・ミキ


       
『ジャズ・オルガン・トリビュート』
             
橋本有津子トリオ&小野みどりトリオ
 
 ドクトル・ミキの古くからの友人であり、プロ・ジャズ・ギタリスト橋本裕が全編にフュ
ーチャーされたJAZZライブCDである。橋本有津子(橋本裕夫人)も、小野みどりも、
美豹と才能に恵まれたハモンド・オルガン・プレイヤーではあるが、日常の研鑽無くし
て名演はあり得ない。真にオルガン・ジャズを愛する日本人プレイヤーの、ひたすら
真摯な演奏生活のこれは結晶である。元来オルガン・ジャズはもっとも黒人らしいグ
ルーヴィーで濃厚なブルース・フィーリングを持つ都会的ジャズだが、このCDではそ
ういった面の単なる模倣では決してなしに、日本人らしい、緻密な繊細さを加味した
白熱のプレイを聴くことが出来る。10曲中8曲は先人の、いわゆるスタンダードナン
バーだが、橋本有津子の手になる、オリジナル曲も2曲含まれており、魅力的だ。
 橋本裕のギターは、昔から美しいタッチの深い感情のこもった音色が印象的だった
が、ホレス・シルバーの名曲「シルバーズ・セレナーデ」のテーマ部分に、特にそれを
感じる。ジャズ・ギターを「唄わせる」事にかけては、日本でも有数の名手だろう。ま
た、時にかすかな狂気を、スリルを、そして彼ならではのユーモアを漂わすアドリブ
も聴き逃せない。
 ジャズファンとして彼を知る人には意外なことだろうが、彼はかつてフォーク・シン
ガーだった。詩と声を捨てる代わりに、彼が選んだ「声」がジャズギターだったのだ。
「唄」について深い理解のあった彼だけに、ジャズ・ボーカルの伴奏も抜群に上手く、
彼のサポートを望むボーカリストは後を絶たないのだが、やはり最愛のパートナー
である夫人とのコラボレーションには、他の人間が入り込めない楽器同士の「唄」が
存在するように感じる。
 なお、’90年代にドクトル・ミキ・バンドのギターとして友情参加していたときの演奏
は、ドクトル・ミキの2作目カセット・アルバム『エデンの東』の中の、「名もない少女」
「ドクトル・ミキのテーマ」(共に大阪城野音でのLIVE。同時に石山雅人のハープも
楽しめる。)で聴くことが出来る。こちらの方もリラックスした、ユーモアとブルース・フ
ィーリングがミックスした快演である。
 CDジャケットのバックサイドには、B−3ハモンドオルガンとその上に乗った橋本
裕の愛器、ギブソン・スーパー400の美しい写真があり、この音楽夫婦の姿を象徴
しているようで味わい深い。

                            ドクトル・ミキ