京都めぐり
『秋の京都で、めっちゃロマンティックな一日を過ごしたんねん───!』
今日は修学旅行、自由行動の日。
やっとの思いでラブラブになった憧れの彼女、と今日は二人きりで過ごせる。
今までにも何度か二人で出かけはしたが、その時はまだ友達の域を出ていなかった。
だが今日は両思いになって初めてのデート、しかも地元はばたき市の見慣れた街並みでない。
人の多い観光地ではあるが、いつもとは全く違う場所をふたりで回れるのだ。
心地よい緊張と、胸いっぱいの期待感・・・。
まさに、「どきどきわくわく」状態である。
少し前まで大阪に住んでいたので、京都に関しても多少は地理感がある。
しっかり彼女をエスコートして、頼りになるところをアピールするのだ!
・・・・ということで、問題は行き先だが。
まどかは、肩にかけていたリュックを下ろすと、中から京都のガイドブックを取り出した。
「まずは金閣寺やな。京都っちゅうたら、あそこは外されへんやろ。ほんで・・・。」
紅葉の季節なので嵐山。
あれは是非見せてやりたい。
あとは、有名どころで清水寺・・・。
こちらも紅葉が綺麗だろうが、実は、あの寺の裏にある恋の神様・地主神社の方がメインだったりする。
「ああ、でも人の多いトコばっかやなあ・・・。」
ホテルのロビーでを待ちながら、ガイドブック片手に、まどかは髪の毛をかきあげた。
せっかくの異郷の地、ムードを盛り上げて、その柔らかい身を抱きしめてみたい。
そして、あわよくば唇のひとつも奪って・・・。
・・・・・・・・・////。
「あ〜、あほあほ! いくら両思いになった言うても、いきなりそこまで進むんはまずいやろ。」
進みたいのはやまやまだが、彼女に引かれてしまっては元も子もない。
彼女は、今時の女子高生にしては珍しく、超純情派なのである。
ということで、今日のところは、観光を楽しむことに徹しよう。
☆
「・・・ちゅうことで、まずは金閣寺へ行こか。」
そちら方面へ向かうバスの中で、ガイドブックを指しながらに言う。
セミロングの髪を器用にポニーテールにした彼女は、制服姿でも、とてもかわいい。
バスの揺れに合わせて、結んだ髪の毛先がゆらゆら揺れている。
「う〜ん、金閣寺も悪くないんだけど・・・、こっちの方へ向かっているんなら、私、行きたい所があるんだけどな。」
大きめの瞳をくりくりさせて、が遠慮がちに言った。
「だめかな・・・。」
だめなわけがない。
そんな仕草もかわいくて、まどかは思わず彼女の肩を抱いた。
「いやもう、全然かまへんで〜! どこ行きたいん?」
「あのね・・・・・火之御子社・・・。」
「へ・・・・?」
どこやそれ。
「なんや・・・北野天満宮かいな。ちゃん、学生の鏡やな。」
学問の神様で有名なこの神社には、同じように修学旅行中らしい生徒たちで溢れ返っている。
どちらかというと、自分たちとは無縁な場所のような気もするのだが、彼女は意外と勤勉家なのだろうか。
せっかく来たのでお参りのひとつもして行こうかと、まどかは本殿に向かって境内を歩き出した。
だが、いつもなら横にくっついて歩いてくるはずのが、今日はどうしたのか参道の両脇をきょろきょろと見回している。
「ちゃん、はぐれてしま・・・。」
「あ〜、あった〜〜! これこれ!」
「どないしたん・・・?」
急にはしゃぎ始めた彼女に、驚いたまどかが近づくと、
参道脇にずらりと並んだ小さな社の中の、そのひとつの前でが嬉しそうに飛び跳ねていた。
【火之御子社】
横に立てられた看板には、『火雷神。雷除け・五穀豊穣の神』・・・云々といった説明が書かれている。
「なんや、これが見たかったんか? なんやねん、これ・・・。」
「・・・・ううん、いいのいいの! じゃあ、次行こっか!」
しばらく幸せそうな顔でその社を眺めていただったが、やがて満足したのか、
そういうと、くるりと方向変換して今来た道を戻り始めた。
「へ・・・? お参りして行かへんのか・・・?」
「もう、したよ!」
慌てて後を追うまどかに、はにっこりと微笑んだ。
本殿には見向きもしなかったように思うのだが・・・。
「・・・・わけわからん。」
「うっわー、きれい〜! これぞ京都って感じだね・・・。」
桂川の河川敷で、嵐山をバックにした渡月橋を眺めながら、が感嘆の声を上げている。
秋晴れの抜けるような青空の下、色とりどりに紅葉した山並みが連なっている。
その山々をバックにまっすぐに架かる木目調の長い橋。
どこか懐かしさを感じる風景に、まどかもしばらく我を忘れて眺めていた。
初めて来たわけではないが、一緒にいる人間が変わると、景色はこんなにも違って見えるものなのだろうか。
願わくばもう少し静かであって欲しいが、如何せん、京都有数の観光地で、しかも紅葉シーズン真っ盛りとあっては、致し方ない。
だがは、そんなことは全く気にならないらしく、胸の前で手を組んで目をうるうるさせている。
「ああ・・雅な世界・・・。」
み、雅・・・・?
「えらい古風な言い方やなあ・・・。でもまあ、喜んでもらえて嬉しいわ。」
彼女がいつもとは違うはしゃぎ方をしているのは、やはり旅路にあるからだろうか。
「ほな、雅を追求するために、この先にある天竜寺にでも行きまひょか、姫君?」
そう言うとまどかは、淑女をエスコートする紳士を気どって、少し腰を屈めながら手を彼女の前に差し出した。
普段はこっ恥ずかしくて、こんなこと絶対にできないが、旅の恥はかき捨てである。(注:ちょっと違う。)
「え・・・・?」
だが、まどかのそんな態度に驚いたのか、はあっけに取られた様子でこちらを見つめた。
「は・・はは・・・やっぱ似合わんか? 自分でも鳥肌たったわ・・・。あー、今のナシな! ほな行こか、ちゃん!」
彼女に固まられて居心地が悪くなったまどかは、急いで言い直した。
だが。
「ま、まどかくん、今のもう一回言って・・・?」
どうした加減かは、真剣な表情をしてまどかに詰め寄ってきた。
「へ・・・? 『ほな、行こか』・・・?」
「その前の!」
「えーと、『天竜寺にでも・・・』?」
「そのあと!」
「も、もしかして・・・『姫君』・・か? あー悪い、忘れてんか!」
気どりついでに、愛しい彼女を呼ぶにはぴったりとくる言い方のように思えたので、
深く考えずにするりと言ってしまったが、やはり、かなりキザったらしい。
今頃になって恥ずかしくなってきた。
「なしや、なし!」
まどかは髪の毛をかきあげながら、の前でぶんぶんともう一方の手を振った。
「ううん、全然変じゃないの! お願いだからもう一回言って!?
・・・あ、それから天竜寺は松尾大社に変えて、出来たら標準語で・・・。」
「はあ・・・?」
『姫君』だけでもかなりキツイのに、標準語・・・・!?
(そんなあほな・・・絶対イヤや!)
だが、は期待たっぷりのきらきらとした眼差しで、こちらを見つめている。
(あ、あかん・・・この瞳に弱いんや・・・。)
愛しい彼女の願いならば、多少の犠牲は払ってでも叶えてやるのが、男というもの・・・。
後に引けなくなったまどかは、覚悟を決めた。
「しゃーないなあ・・・い、一回だけやで?」
が瞳を大きく開いて、こちらを見つめたまま、こくこくと頷いている。
「あ〜、コホン・・・。ええと・・・『じゃあ、松尾大社にでも行こうか? 姫君。』・・・・。」
うっ・・・・!
は、はっず〜〜〜!!
顔から火が出そうだ。
まどかは思わず、頭を抱えてしゃがみこんだ。
このまま、川の水に飛び込みたい!!
だが・・・。
「す、素敵・・・・///」
うっとりとした調子で呟く声に、頭を抱えている腕の間からまどかがこっそり覗くと、
は感無量といった風情でこちらを見つめていた。
「まどかくん・・・もう一回・・・・。」
いっ・・・・?
思わず後退りする。
「・・・ぜ、絶対、イヤや〜〜〜!!」
まどかの絶叫が、桂川の河原に響き渡った。
あのあとは、『じゃあ』を『では』に変えろだの、『行こうか』を『行かないか』と言ってくれだの、
あげくのはてには『姫君』を少しアレンジして『私の姫君♪』にして・・・・。
・・・・脱力・・・・・。
「一回だけやって言うたやろ・・・。頼むから勘弁してえな・・・。」
松尾大社の広い境内を、ふたりで連れ立ってのんびりと歩く。
そういえば、嵐山といえば天竜寺なのに、どういうわけか一駅も離れたところにあるマイナーな神社にいたりする。
大社というだけあって、確かに大きな神社だし、ある程度有名なのだろうが、他の場所に比べたら人気も少ない。
だが、神社の奥へ進むにしたがって、彼女は目を輝かせ始めた。
同時に、やっと先ほどの『姫君』云々の件については諦めたらしい。
ホッと一息ついたまどかは、素朴な疑問を口にした。
「なあ、ちゃん、なんでこんなトコに来たかったん?」
北野天満宮や嵐山は有名どころなので、理解できる。
だがここは、ガイドブックにもさほど大きくは取り上げられていない。
ある程度、京都にツウな人間ならともかく、初心者が来ようとする場所ではないように思う。
そういえば、今日の彼女の行動はどこか妙だ。
京都の景色に感動しているのは間違いないと思うのだが、その景色を通して、なにか別のものを見ているような・・。
「だって今日は、恋愛イベントの場所巡りを・・・」
まどかの問いには、無邪気な表情のまま答えかけたが、まどかは思わずそれを遮った。
「恋愛・・・・?」
もしや、昔のオトコとの思い出の地巡りでもしていたのか?
「あ、なんでもないの!」
まどかの不信そうな視線に気付き、なにやら雲行きが怪しいと感じたのか、は慌ててごまかそうとした。
だがここは、うやむやにしてはいけない場面だと思う。
「ちゃん。」
自分の他に付き合っていた男がいたとしても、それが過去のものであれば別に構わない。
だが、未だに引きずっているとなると、話は別だ。
今、の前にいるのは自分なのに、彼女に違う男が見えているのは気分の良いものではない。
「あ、あの・・・ごめん・・・。」
普段おちゃらけた人間が、真面目な表情になると、実はとても迫力があったりする。
まどか自身にそういう自覚があったわけではないが、結果的には彼女に、「敵わない」と思わせたようだ。
「実は・・・・・。」
☆
「ゲーム〜〜!?」
から一通りの説明を聞いたまどかは、思いっきり力が抜けるのを感じた。
だが・・・・。
現実にいる男ではないとはいえ、自分以外のものに心ときめかせていたわけだから、
やはり何か釈然としない。
納得できないという顔をしていたのだろう、
それを見たが、ぼそりと呟いた。
「でも・・・まどか君と一緒に回りたかったんだもん・・・。」
まどかの傍で、甘い雰囲気に浸りたい。
あのときめきを、彼の横でもう一度感じてみたい。
そして自身も気付いてはいなかったが、それは、彼と甘くなりたいという心の裏返し。
「ふーん・・・・。」
いつのまにか夕暮れ時が近づいていた。
夕闇に包まれるまでには、まだ時間的に余裕があるはずだが、
神社のすぐ裏には嵐山の山並みが連なり、本殿に覆い被さるように迫っている。
そのせいで、この場所では、夕日はすでに山の向こうに隠れ、薄暗さが漂い始めていた。
「なあ、ちゃん。その・・・恋愛ナントカってやつ、どんなことするん?」
「え・・・!? ど、どんなこと・・・って・・・。」
は、心持ち頬を赤らめて、硬直している。
まどかはクスリと笑いながら、そんな彼女に一歩近づいた。
「例えば・・・こんなこととか・・か・・?」
そう言い終わらないうちに、彼女の腕に手を伸ばしたまどかは、そのままクイッと引き寄せると
バランスを崩しかけたの身を、胸の中に包み込んだ。
軽い衝撃とともに、倒れこんできた彼女は、思っていた以上に柔らかい。
ポニーテールにした髪の毛が、反動で、まどかの頬をくすぐった。
「・・・ちゃん・・・・。」
「ま・・・ま・・・まど・・・・。」
まどかの突然の行動にパニックになったは、まどかの胸に顔を押し付けたまま、硬直していた。
何か言いたいらしいが、ろれつも回っていない。
そんな彼女が、たまらなく愛しくて、まどかは思わず彼女の背に回している手に力を込めた。
「好きやで・・・・・。」
彼女の耳元で、甘く囁く。
その言葉に、がピクッと反応する。
・・・・だが。
「・・・・・・・・・なあ・・・ちゃん。もうちょっとリラックスしてくれへん?」
相変わらず、まどかの腕の中で、硬直状態の。
「せめてもうちょっと上を向いてもらわんと、次に進まれへんのやけど・・・・。」
「な・・・・っ!」
何気なくそう言ったまどかだったが、そのセリフに全身で反応したは、反動でパッと顔を上げた。
だが、まどかの視線に捕まった彼女は、顔を真っ赤にしたまま、顔の隅々までを引きつらせている。
「え・・・・・・。」
まるで、鍋から上げた直後の茹でダコの顔を、両横から思いっきり引っ張っているようだ。
「・・・く・・・・くっくっく・・・・。」
その様子に、思わず頬が緩む。
(あ、あかん! ここで雰囲気壊してどうすんねん・・・・!)
頭の中では、「笑うな!」と必死にブレーキをかけている。
ここは耐えろ!抑えるのだ!
・・・・だが、その努力も空しく。
「あ〜っはっはっはっは・・・・! ちゃん・・・か・・可愛いすぎや・・・・!」
人影も消え、薄暗くなった松尾大社の境内に、まどかの馬鹿笑いが響き渡った。
☆
「なあ・・・・ごめんて・・・。頼むから機嫌直して・・・! な? ちゃ〜ん・・・。」
門限に間に合わせるべく、ホテルに向かってスタスタと歩いていくを必死に追いかける。
当然といえば、当然だが、あれからはつーんと顔を逸らせたまま、口を聞いてくれない。
「俺が悪かったって・・・。この通りや、堪忍して・・・! 何でもするさかいに・・・な?・・な!?」
ちょっと情けない姿だとは思うが、悪いのはどうみたってこっちなのだから、仕方ない。
まどかは、の前に回りこむと、両手を合わせて拝み倒した。
道を行く人々が、くすくすと笑いながら通り過ぎていく。
「ま・・まどかくん、恥ずかしいからやめてよ・・・。」
さすがに周りが気になったのか、は足を止めて、まどかに小声で囁いた。
「ほ、ほな、許してくれるん!?」
だが、そんなことにはお構いなしのまどかは、彼女が口を聞いてくれた嬉しさのあまり、大声で詰め寄った。
その声に、かなり離れた所にいる人までもが、振り返る。
「だからやめてって・・・! わかったから〜/// ・・・・・・その代わり、なんでも言うこと聞いてくれる・・・?」
「OK、OK〜〜! もちろんや〜〜! 何して欲しいん? あ、さっきの続きか!?
それやったら、人影のない路地裏にでも行って・・・。」
「ば、馬鹿ーー!!」
思わず大声で否定する。
「・・・・ちゃん、人が見てるで?」
その声にまどかは、自分のことは棚に上げ、急にキョロキョロと周りを見回した。
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
この要求は、やはりちょっと可哀想かな?と思っていただったが、今ので迷いも吹き飛んだ。
「・・・・・まどかくん。次の自由行動の日だけど・・・。」
☆
「ほな・・・じ、じゃあ、今日こそは金閣寺に行けへん・・・もとい、行かないか、ちゃん・・・。」
「うまい、うまい・・・!」
が上機嫌で手をパチパチと叩いている。
「あ、今日はね、東寺に行ってみたいんだけど。」
「おー、東寺か! あそこの塔はめっちゃ高こうて、見ごたえが・・・・と違うて・・・
すごく高くて見ごたえがあると思うよ・・・・?」
「うんうん、その調子!」
いつものように、ニコニコととびっきりの笑顔で微笑みかけてくるは、とても可愛らしい。
この笑顔のためならば、何でもしてやりたいと思う。
思う・・・・のだが・・・・・。
『姫君』云々を言わせられないだけマシなのかもしれないが、
関西弁の圏内にどっぷりとつかっている京都の街にいるのに、標準語を強制されるなんて。
「・・・・・なんでやねん〜〜! ゲームのどあほ〜〜!!」
「まどか君・・・・?」
「ああ・・・えーと・・・。『なぜこうなるのかなあ、ゲームなんて嫌いだ』・・・・?」
がくすくすと笑っている。
(・・・・はあ〜〜〜/// )
こんな調子で、次のステップへ進むことなどできるのだろうか。
ああ、早くはばたき市へ帰りたい・・・///
切実にそう願うまどか。
だが・・・・。
まどかに言わせたいセリフ集なるもの
〜どういうわけか、「ア」の付く、仮面をつけたキャラのものが格段に多い〜
・・・を握りしめたが、
「あの場所ではこのセリフ・・・」と密かに考えをめぐらせていることなど
今の彼には、知る由もないのだった。
〜fin〜
久々のときメモGS創作です〜♪
・・・・が。
遙かメインサイトとはいえ、これはなんでしょう・・・?
ここはもう、笑ってごまかすしかない〜(^0^;
でもでも・・あんな素敵な声の持ち主が彼氏だったら・・・
しかも、どなたかの声に瓜二つなら・・・vv
言わせて見たいですねえ〜vvv
萌えセリフの数々を目の前で♪
ということで、オッキーの大ファンでいらっしゃる
響さんへのキリリク創作でした♪
(2004.9.22)