クリスマスの過ごし方
「あといくつ寝たら、正月だ?」
師走の寒風の中、慌しくも活気のある街の中を歩きながら、イノリが元気よく問うた。
二人とも学校帰りの制服姿である。
「しっかし、こっちの世界の正月って、派手なんだな〜!」
今、街の中ではいたるところに装飾を施したツリーやイルミネーションが溢れている。
「イノリ君、お正月じゃなくて、もうすぐクリスマスなのよ。」
あかねがそう言いながら、くすくすと笑った。
「くりす・・ます・・・?」
イノリは、基礎知識として入っている「記憶」の糸を手繰り寄せた。
「ああ、え〜と・・・キリストの教祖であるイエス・キリストの誕生日・・だな?
・・・って、何でそんな日のために、こんな祭りみたいな騒ぎになってんだ? おまえら、仏教徒だろ?」
「う〜ん、どっちかっていうと、そういう人のほうが多いんだろうけど・・・。
えとね・・でもこの場合、宗教は関係ないって言うか・・・。」
そもそも、仏教徒かと問われて、二つ返事で「はい」と言えるのかも疑問だ。
正月には初詣と称して神社をハシゴするし、お彼岸には寺へお墓参りに行くし・・。
キリスト教はともかくとして、昔からこの国には幾多の神と仏が同居している。
そんな国だから、他宗教の催し物であるハロウィンもクリスマスも、深く考えてなどいないのだ。
「ま、わからなくもないけどな。」
あかねのしどろもどろな説明を聞いて、イノリは意外にあっさりと頷いた。
クリスマスは知らないが、神社と寺については、京も同じだ。
「あのね、キリストさんにこじつけたお祭りっていうか・・・?」
「祭り・・・?」
その言葉に、イノリは改めて街の中の様子を見渡した。
なるほど言われてみれば、街全体が来たるべき何かを期待して、浮き立っているように見える。
「何だよ、そうならそうと、もっと早く言えよ。」
祭りと聞いては黙っていられない。
「で? その祭りってのは、どこでやるんだ!?」
イノリは目をキラキラさせながら、あかねにずいっと迫った。
「え・・・。ち・・・違うよ、イノリ君。秋祭りみたいなんじゃなくて・・・。」
近くの神社の秋祭りのときに、大はりきりでかついだお神輿のことを思い出しているらしいイノリを、
あかねが大慌てで遮った。
「ええと・・・・クリスマスにはね、ツリーを飾ってごちそうを食べて・・・。す・・好きな人にプレゼントを・・・。」
話に聞く『二人きりのロマンティックな夜』というものを想像して、あかねは微妙に頬を赤らめた。
思わず、目が泳いでしまう。
「ぷれぜんと・・・? ああ・・・贈り物のことだな。」
あかねのそんな様子に首をかしげながらも、イノリは「記憶」をたどった。
クリスマス・・・。プレゼント・・・。
この世界へ来るときに、龍神から与えられたらしい知識の中で、この二つのキーワードにひっかかってくるものがある。
「ああ、わかったぞ! あれだな、『サンタクロース』とかいうやつ!
ええと・・・寝てれば贈り物をくれる・・のか? おお〜すげえじゃん!!」
「え・・・・。」
あかねが一瞬停止したが、そんな様子には気づかず、イノリは再び目を輝かせてあかねに迫った。
「じゃあ、その日はさっさと帰って、早く寝なきゃな!」
「あ・・あは・・・?」
「も〜い〜くつ寝〜る〜と〜〜♪」
あかねの引きつり笑いをどう解釈したのか、イノリは彼女の手を取って、どんどん歩き出した。
街を飾るきらびやかな装飾に、否が応でも期待が高まっていく。
「楽しみだなーー!」
「龍神さま・・・・。」
その知識も、決して間違ってはいないのだが、対象年齢が自分たちより10歳以上若向けではないのか・・・?
「わざと・・・ですか・・・?」
イノリとは対照的に途端に足取りの重くなったあかねは、ぐいぐいと引っ張られながら、思わず空を見上げた。
彼をこの世界に連れてきて、生活に支障のない環境と知識を与えてくれたことには、感謝しても、し足りない。
だが時折、『いじわるしてる・・・?』と思うのは気のせいだろうか。
それともこれは、新たな試練なのか?
そんな彼女の胸中には露ほども気づかず、「何を頼もうかなー!」と胸躍らせているイノリ。
ふと通り過ぎた店の前で、ジングルベルが、これでもかというくらい明るく流れていた。
だが後日。
イノリが、天真から『現代日本における、カップルのクリスマスの過ごし方』について、
それはそれは詳しく教えられたとき。
教室のイスをひっくり返して倒れてしまったのは、サンタの真実を知ったからなのか、
はたまた、鼻血を吹きすぎて貧血に陥ったからなのかは───。
神のみぞ・・・・いや、天真のみぞ知る・・・のだった。
〜fin〜
「朱雀のお正月」というテーマで・・というリクを樹原ちゃんから頂いて、 まず書いてみたショートショートです(^^) ちなみにリクを頂いたのは昨年の冬・・・。 時期的にお正月にもクリスマスにも間に合わなかったので、 数ヶ月保留しておりました(^^; そろそろUPしなきゃな〜と思いつつ、バタバタしてしまい、 気が付いたらイブ・・・!(@@) またしても、時期はずれになりかけてます(汗) イノリ君、ちょっと子供っぽすぎたかな・・(^^; え〜と・・きっと龍神さまのせいです、はい・・(こら。) (2005.12.24) |