BEGIN the LOVE
規則正しい揺れが眠気を誘う。
学校のイスに比べれば、格段に座りごこちの良いシートを
後ろのヤツの邪魔にならない程度に、リクライニングさせて身体を沈めると
周りの喧騒も次第に聞こえなくなった。
修学旅行前日にもかかわらず、昨日も当然のようにクラブ活動があった。
それはいいのだが、旅行で一週間バスケが出来ない分、貯金だとか言って
顧問のヤツにいつもの3倍くらいしごかれたのだ。
バスケ大好き少年の和馬といえど、さすがに昨日のメニューは少々こたえた。
しかも家に帰っても、いつもの様に「メシ・フロ・寝る」というわけにはいかなかった。
今日の旅行の準備を何もしていなかったのだ。
集合時間は、いつも登校している時間より1時間ばかり早い。
朝起きて用意している暇はないので、眠気と闘いながらプリント片手に荷物を詰めたのだが・・・。
意外とこまごまとした物が多く、思ったより時間をくってしまった。
以前の和馬なら、だんだん嫌気が差してきて、旅行自体をエスケープしてしまっていたかもしれない。
そうしてできた時間で、心置きなくバスケをやっていたことだろう。
冗談みたいな話だが、それ程にバスケ以外のことは目に入らない熱血少年だったのだ。
だが・・・。
今の和馬には、どうしても外せない理由があった。
「ねえねえ、みんなでトランプやろうよ〜。」
遠くなった意識の向こうで、聞きなれた声がする。
「あれえ? 和馬くん、寝ちゃってるの?」
こちらを覗きこんでいるらしい気配が伝わってくる。
ドクンと波打った心臓の音に驚いて、和馬の意識は急速に覚醒し始めた。
「寝てるヤツなんかほっとけよ。何する?」
「うーん、とりあえずは堅く、ババヌキとか?」
数人の男女の声がする。
「そんなおとなしいヤツ、おもろないやん。もっとスピード感のあるヤツにせえへん?」
クラスメートの声に混じって、関西弁が聞こえてきた。
「・・・?」
うっすらと目を開くと、どこから湧いて出たのか、
かわいい子には片っ端から声をかけると有名な、女ったらしがいた。
ゲームの盛り上がりにかこつけて、女の子の手でも握ろうという魂胆がミエミエである。
(あいつ・・・!)
これは、のんびりと寝てなどいられない。
間に割って入って、ヤツのもくろみを阻止せねば!
和馬は、まだ少しボーっとしている意識を無理やり引っ張って、目を開けようとした。
その時-------。
唐突に、ふわっと甘い香りが漂ってきた。
「!?」
「和馬くん、起きないのかな・・・」
すぐ近くで、誰にともなく話す声が聞こえた。
それが誰なのか、気づいた和馬は少しあわてた。
ここは・・・起きるべきなのか、それとも寝たフリを続けるべきか・・・?
悩みつつ、先程までの体勢を保ち、目を閉じたまま焦っていると・・・。
「疲れてるんだね、和馬くん。いつもがんばってるもんね。」
ささやくような声が聞こえたかと思うと、胸のあたりにふわっした感覚が落ちてきた。
そのまま、彼女の気配は遠くなる。
しばらくして、そっと目を開くと、くま柄のスポーツタオルが乗せられていた。
半眼のまま様子を伺うと、言い出しっぺのくせに、彼女はトランプの輪には入っていないようだった。
ホッとして、胸の上に意識を戻す。
彼女と同じ香りのするタオルは、柔らかくて気持ちがいい。
思わず、頬ずりしたくなった。
もう少し、こうしていよう。
「よお、これ、おまえのだろ? サンキューな。」
到着したホテルのロビー。
和馬が、先程のタオルを差し出すと、彼女は照れくさそうにニコッと笑った。
自分だけに向けられた笑顔だと思うと、とても眩しい。
「あ、あのよ・・・よかったら明日の自由行動、俺と一緒に行かねーか?」
彼女の表情を見ているうちに、気がつくと口が勝手にしゃべっていた。
言ってから、不覚にも顔が赤くなるのを感じたが、今更あとには引けない。
「あ、いや、先約があるなら、無理にとは言わねーけどよ。」
今度は、心にもないことをしゃべっている。
「あ、ううん、大丈夫! じゃあ明日の朝、ここで待ってるね。」
「あ、ああ・・。」
彼女はもう一度にっこりと笑うと、手を振りながら友人の輪の中へ戻っていった。
自然に顔がほころぶ。
(よっしゃあ〜〜!!)
和馬は気合を入れると、部屋へと急いだ。
さっそく、京都のガイドブックを見て予習をしておこう。
「お、鈴鹿。今からB班のヤツが持ってきた本、見に行くんだけど、おまえも一緒に行かねーか?」
途中で悪友が声をかけてきた。
分かってるだろうが、普通の本じゃないぞ?
そいつは小声で囁いて、ニタリと笑った。
一瞬足が止まる。
ちょっと(?)興味をそそられたが・・・。
「あー、悪りぃ。 俺、寝不足だからもう寝るわ。」
今は、明日の自由行動のほうが大事だ。
和馬は、適当なことを言って断ると背を向けた。
「なんだあー? 行きの新幹線の中であんだけ曝睡してたくせに、まだ寝るのかよ!?」
悪友の呆れ声が聞こえてきた。
(バーロ、ほとんど寝ちゃいねーんだよ。)
同じ屋根の下に、彼女がいる。
そう考えただけで、胸の奥が波打つ。
(ヤベ、今夜眠れるかな・・・)
高校生活の一大イベントは、始まったばかりだった。
お友達の透子さまのサイトへ、5000HITのお祝いに差し上げたものです。 ときメモ創作は初めてで、必死に学生の頃を思い出しながら(笑)書きましたが、 どんなもんでしょう?? なんか続きっぽく終わってしまったら、透子様が後を受けた創作をしてくださいました。 ぜひ覗いてみてください☆→オレの修学旅行記(頂き物部屋にもおいています) |