2006年4月、中学校の教科書

 キーワードは、「教科書の増ページ、大型化」と「発展的な学習内容の登場」です。ここ20年以上にわたって、改訂のたびに減ってきた学習内容が初めて増量されるわけで、「画期的」とか「歴史的転換」という言葉が今後マスコミのあちこちで踊ることになるかもしれません。
 従来、学習指導要領はマキシマム・スタンダードであり、それ以上の内容を教えることは「指導要領外」として禁じられていたわけですが、今回からは、学習指導要領の示す内容がミニマム・スタンダードとなり、「発展的な学習内容」が正式に認められました。
 そのため、各社の教科書の随所に「発展」部分に関する記述が顔を出し、かなりの「増量」となりました。とはいえ、「発展」はあくまでもコラム的な扱いであり、また、各項目を見ていくと、A社の教科書で扱っている内容とB社の教科書で扱っている内容が必ずしも一致せず、「増ページ分、増量分」はまさに各社の「自由裁量」となっています。
 このような現状からか、文部科学省側は、「発展的内容」を各種のテストに盛り込んで生徒評価の対象とすることまでは認めていないので、当然、公立校の入試などでも正面きって扱われることはないでしょうし、各学校の現場で、「発展」をどう扱うのかどこまで教えるのか、また、各学習塾側も、どこまで重要視して「売り」にしていいのか、しばらく手探りの状態が続くでしょう。
 はっきりいって、「授業で扱うのは構わないが、テストには使わない」では、かなり厄介な存在になる恐れが大きく、実際、算数・数学の教科書で有名な啓林館では、「発展」の扱いに苦慮したのか、扱い方を変えた2種類の教科書を制作しています。
 では、具体的に、各教科ごとに見ていきましょう。
 まず、数学について。
 ページ数は、各社とも基本的に増えています。一部ページ数が減っている教科書もありますが、版型がA5→B5に大きくなっていますので、内容的には間違いなくアップでしょう。全体的な傾向としては、章末の練習問題がより実践的になるなど、「問題集」化がいえます。
 ただし、「発展」の内容には思った以上にばらつきがあり、たとえば、1年の「球の体積・表面積」は教育出版しか扱っていませんが、同じく1年の「立方体の切断」は教育出版以外の5社がすべて採り上げています。
 次に、理科について。
 5教科の中で、最大の増ページとなっていて、各社平均のページ増加率が23%です。最高は、大日本図書の1分野下で、87ページ→131ページと44ページ(50%強)の増量となっています。
 この「大増量」の原因として、「練習問題の増ページ」「練習問題の解答ページ」「発展項目の大量投入」の3つが挙げられますが、理科に関しては、出版社ごとに特徴が強く出ていて、1社のみしか扱っていない項目がかなり多くなっています。
 続いて、社会について。
 もちろん、各社ともボリュームアップが基本ですが、社会に関しては少々注意が必要です。増量となっているにも関わらず、「発展的内容」が少ないのです。
 理由は、従来除外されていて、今回「発展」として追加記述された部分が、文部科学省側から、ほとんど「指導要領内の内容」と修正(認定)されたからです。「発展」として復活するはずだったものが、「定期テストや入試にも登場する正規の内容」として扱われることになったのです。
 しかしながら、各社によって採り上げられている項目にばらつきがみられるため、採用する教科書によって、地域間格差が出てきそうです。
 4番目に、英語について。
 全体的に大きな変化は目につきにくいのですが、「書く力」「読む力」を重視する傾向がみられ、文法事項や知識の強化といえそうです。
 「発展」としては、間接疑問文や関係代名詞などが挙げられますが、従来の教科書でも「理解の段階にとどめる」として扱われていた項目であり、「内容的な発展」というよりは、「取り扱い方が発展的」というべきかもしれません。
 これらの項目が定期テストや入試でどう扱われるのかは、今後の推移を見守るしかありませんが、三省堂・光村図書の教科書では扱われていないので、大きな変化はないのかもしれません。
 最後に、国語について。
 ほとんどの出版社でページ減となっていますが、これも版型が大型化したからであり、増量に間違いありません。
 内容・レベルの変化はあまりなく、「発展」として、古文・古典文法・日本文学史などの項目が採り上げられていますが、巻末付録的に「とりあえず」ついている感も強いようです。

 総論としていえることは、もはや教科書に「スタンダード」は存在しない、ということでしょうか。現段階ではやはり不透明感が付きまといますし、「定期テストには使わない、入試では扱わない」といっていても、統一見解がまとまるまでにはしばらくかかるでしょう。

 


2006年4月、中学校の教科書




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