題名
破れ金箔と王朝継ぎ紙風の背景に浮かぶ赤い空海の信
大きさ
380×455mm(F8)
入札金額
万円
<この作品は、空海が書いた「風信帖」の2文字目、「信」をデフォルメして描いています。
美術出版社「日本美術史」p.66の写真より 「風信帖」
漢字をモチーフに絵を描くことは以前からテーマとして意識していました。
2010年夏ごろに描いた絵が自分の背中のタトゥーを元にした龍の作品です。
この絵を描いて思いついたことが、漢字も象形文字から変化したものなので元々は絵であるということです。
一方で、良寛の書、特に草書で書かれたものにも魅力を感じていました。
芸術新聞社 別冊墨第1号 「良寛」p.30の写真より
草書の魅力は線の優美さ、書くときの自由に筆を滑らせる感覚、草書を知ってないと読めない難解さなどだと思います。
自分でも字典を買って、ある程度覚えるまで練習していました。
また、北大路魯山人について調べていたときに、魯山人は元々は篆刻の作家だったことを知りました。
講談社 黒田草臣著 「美と食の天才 魯山人」p.31の写真より 魯山人作 濡額「瓦全閣」
講談社 黒田草臣著 「美と食の天才 魯山人」p.29の写真より 魯山人作 篆刻看板「七本槍」
他にもジャクソン・ポロックの作品に草書のようなものがあったり、
生誕100年ジャクソン・ポロック展図録p.124-125より ポロック作「無題」
装飾写本について知ったときに、文字は絵画芸術として描くに相応しいと考えるようになりました。
講談社「シスター・ウェンディの名画物語」p.31より「ケルズの書」キーローページ
講談社「シスター・ウェンディの名画物語」p.30より「ケルズの書」四福音書記者の象徴
講談社「シスター・ウェンディの名画物語」p.31より「リンディスファーンの福音書」キーローページ
草書を少し勉強した後で、「風信帖」を見たときこの信の字に衝撃を受けました。
この時の衝撃は、サンピエトロ大聖堂のミケランジェロのピエタを始めて写真で見た時と同じくらいでした。
まず、その美しさ、次に、自分が学んでいた草書の信の字と違っていたこと、
そして、書いてみたときになかなかあのように書けないことに驚きました。
その様な経緯で「空海の信」を制作することにしました。
この作品は空海の信と、金箔(この作品では本物の金箔は使っていません。金色の絵の具で描いています。)と王朝継ぎ紙の寄せ集めです。
こういうコラージュの手法を得意としたのは、”デザイナー俵屋宗達”です。
また、画面真ん中にある末広がりの黒い部分は、尾形光琳の「紅白梅図屏風」にある末広がりの黒い川を想起させます。
金箔も描いていることから、油彩画ながら琳派の影響が色濃い作品になりました。
しかし、琳派を意識してこの作品を制作したのではなくて、やはり一番のテーマは”装飾”文字と言うことです。
「ケルズの書」や「リンディスファーン福音書」のような色彩豊富な装飾を日本の書に取り入れて、
”白い紙に墨一色の文字”と言う日本の書のイメージから脱却することを最も意識して制作しました。
今後も、自分が今取り組んでいるテーマの「ミケランジェロ万歳」のような風景画と、「randompointing」のようなモダンアートのほかに、
三つ目のテーマとして「空海の信」のような装飾文字にも取り組んでゆきたいと思います。