題名
C-characters 述懐
大きさ
410×318mm(F6)
入札金額
万円
この「C-characters 述懐」は漢字から思い浮かぶイメージをモダンアートにした作品です。
今回、装飾文字とは別の切り口からのアプローチで、漢字をもとにアートを描くことを試みてみようと思い、
唐詩選の最初に出ている「述懐」という漢詩をモダンアートにしました。
述懐
中原還逐鹿 投筆事戎軒
縱横計不就 慷慨志猶存
杖策謁天子 驅馬出關門
請纓繋南粤 憑軾下東藩
鬱紆陟高岫 出沒望平原
古木鳴寒鳥 空山啼夜猿
既傷千里目 還驚九折魂
豈不憚艱險 深懷國士恩
季布無二諾 侯エイ重一言
人生感意氣 功名誰復論
魏徴
中原 還た鹿を逐い 筆を投じて戎軒を事とす
縦横 計は就らざりしも 慷慨 志は猶お存せり
策を杖いて天子に謁え 馬を駆って関門を出ず
纓を請うて南粤を繋ぎ 軾に憑って東藩を下さん
鬱紆 高岫に陟り 出沒 平原を望む
古木 寒鳥鳴き 空山 夜猿啼く
既に千里の目を傷ましめ 還た九折の魂を驚かす
豈に艱険を憚らざらんや 深く國士の恩を懷う
季布 二諾無く 侯エイ 一言重んず
人生 意氣に感ず 功名 誰か復た論ぜん
「中国古典選25 唐詩選1 朝日文庫」 p.20より
(9行目の7段目 エイは漢字変換ができませんでした。)
この作品のモチーフは、昔からグラフィックデザインでよく使われてきた幾何学模様で文字を表現する方法を応用しています。
私が社会人になって初めて就職した神戸の印刷会社で働いていたころ、チラシやポスターに使われているのをよく見ていました。
幾何学模様を組み合わせて一から絵を描こうとすると、組み合わせを考えるのが大変ですが、漢字をもとにすると
漢字がアルゴリズムのような役割をしてくれて、多様な組み合わせが比較的簡単に出来上がりました。
今回は漢詩の短い文章をもとに作成しましたが、長い文章をもとにするといくらでも大きな絵画を制作できます。
大きな絵になると、文字をモザイク画のピースのように使って、別のモチーフを描き出すこともできるでしょう。
色使いは、「落旭」の色使いを踏襲していて、文字を黒、白、赤のモチーフで40%、赤と緑、青とオレンジ、黄と紫の補色同士のペアと
シルバーとゴールドで60%の割合に配置しています。
「randompointingU天目」では”点”で黒をメインに様々な色を配置して表現しました。
「落旭」では黒を背景に”4o”の幾何学模様を様々な色で配置しました。
「C-characters 述懐」では”2p”の正方形を様々な色で配置しました。
文様がだんだん大きくなってきていますが、黒をベースに様々な色を配置するスタイルはそれぞれの作品に継承されています。
背景はブルーブラックをベースにウルトラマリンライトとコバルトブルーペールの点描を施した「dohzen black」で仕上げました。
「dohzen black」は黒と青の点描で星空を表現した作品です。
幾何学模様の輪郭を、シルバーとゴールドで囲みました。この線は薄暗い部屋にこの絵を飾ると浮かび上がります。
「落旭」を部屋にかけているのですが、夕暮れ時の窓から入る光にゴールドとシルバーの模様が浮かび上がるのを見て思いつきました。
夜にろうそくの明かりで鑑賞してもらても、よいかもしれません。秀吉が作った黄金の茶室のように。
一番左の白い4文字と赤い印鑑に似せたモチーフは私のサインで、落款風に仕上げました。
装飾文字を描くために日本の書を学んでいくうちに、自分の落款を入れた絵を以前から描きたいと思っていました。
この作品はグラフィックデザインの手法で描いていますが、グラフィックデザインとアートの間には明確な境界があると思っています。
その境界の一つは「文字が説明なしに読むことができなければならないか、それとも読めなくても良いか」と言うことだと思います。
グラフィックデザインは文字が必ず読むことができなければならないのではないでしょうか。
日本の書で書かれる草書も知らない人には読めない字が多く、そのため芸術性を感じる場合があります。
この作品も「述懐」の漢字で書かれた原文を見ながらでないと読めない文字が多く、グラフィックデザインとアートの境界をアート側に超えています。
これが従来のグラフィックデザインとこの作品が違うところだと思います。