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不慮の恋


終わりを描くなら
胸をとかすまでに広がる青の下でと
もし手放すことができれば
非情な顔でさよならも告げられる
そう決めて閉じた誓いに近づく
苛立つくらいの透明な


愛はなにかと問われて
奪うこと与えることと言ったのは私


余計なことをしてしまえばね
やすらかな寝息もうなされる


ぶって試せばいい
腫れあがった頬でも
負けないように平然と笑える
あなたなど居なくても


信じてた儚さを恨みたくはない
ただ何故わがままに求め続けた私を
今まで戒めなかった


やさしく乱暴できるあなたが嫌いだ
叱られるのを待つことでしか
もとに戻れなくなるから
この甘さに名など付けたくない
落ちつけと静かに諭したい
でなければ立ち上がれなくなる
繋がりに安堵して


はりついた弱さも丁寧に剥がす
抵抗となかよくしてしまえ


焦るなまだ爪は疼く
健全なその魂を忌々しく感じられる
だけど正しいとされた全てが
壊されろと捨て台詞吐いて逃げていく


痛めつけるためならまだ耐えられるのに
気紛れの娯楽だとしたら救われるのに


悪い予感を蹴飛ばして
迷いを何度でも裂き
削られる肩も気にせずに探す
緩むこめかみ撃抜くために込める弾を


あたためられてたまるものか
この背をその腕で



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一睡の夢


青白い肌
刺さりそうな睫揺らし
濡れた唇は卑猥に光り

仕立てた顔をわざと歪めながら
愛を説いてる
想いも強引になれば
やがて喧しく煩わしい

彼女は誇張した狂気味方に
どこにもいないだれか−1億数千万人?−
に仮面は手放さず
真実とやらを並べはじめた

所詮 まがい物のくせに

見るも無残で
無知な
哀れなるその女に
舞台を縫うまだらな闇は見えず
張りついた微笑はそのままに
堕ちていく

誰もあなたを思い出さない忘却の彼方へ

そして今日も
TV SHOWは騒がしい

「絶賛の声は一夜にして野次に変わる!」


真摯な瞳
信頼を逃すものかと
表情を装いながら必死で

考え抜いた己を過剰に脚色しながら
愛を説いてる
正義も強引になれば
やがて力無き者をはぶく

彼はあつく重ねた白さの下を
どこにいるどんなものにも−60億数千万人?−
暴かれないため
偽善を売るすべを覚えた

小さな蕾を摘みとった残酷さも
苦悩する恰好(ふり)で誤魔化していくのね

見るも無様で
無能な 
淋しいその男は
舞台に映るいびつな影に気付かず
しらけた風のみ世に吹かせ
消えていく

誰もあなたを憶えてなどいない群集の中へ

そして今日もチャンネルは忙しい

「喝采の嵐は一夜にして礫に変わる!」


この瞬間にも
皮をはがされ肋のない貧弱な体を晒し
支えをなくして惨めに崩れながら
過去と葬られる間抜け共の唄が


一秒後には最早亡き泡沫の輩
いつのまにやら紙面で踊る

「栄光の冠は一夜にして茨に変わる!」



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雨夜の漂流


雨垂れが密やかに
乳房に落ち
やがて荒れた心に
ひとすじの河を創る

呆れるくらい
甘やかしてばかりなこと
どうか許して
途方もない夢を編むには
やさしさだけではとても足りないけれど

記憶の骨を拾い出すたび
震えはまた病み
なぐさめることに囚われ
愛を孵す力を忘れた

もうすぐ駄目になるだろう

長い夜の闇に
散かしたでたらめな想いの丈
惜しみなく浮かせるわ
あなたへ辿りつくまで

あられもなく色が萎えても
きっと止めないでいる

泣いてしまう
それをわかっていながら結んだ
かたくつむじから足先まで
でもこの潤いは
やがてわたしを弱らせる

もうすぐ哀しみで溺れるだろう

長い夜の淵に
絶間なくしずむ想いの実
熟れるまで抱くわ
あなたに差しだすために

美しいかと
訊いてもいい?


風は約束もせずに去り
むら雲はうねり災いを煽る

空はときに唸り牙をむいて
笑いながら花は季節を走らせ

光に言葉は通じず
影は祈りを無邪気に殺す

いつも塞きとめられるのよ
あなたの場所に向うには


だけど愛していると
この耳に届くところまで
まばたきの音に肌の呼吸
一切の淀みなく
赤裸々に頬にふれるまで
体ひとつを漂わせ必ずそばへ

もうすぐ流れは果てにつくだろう
長い夜の末に



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羽 化


足踏みする鼓動
咽から這いあがる想い
先から先へ
とどまる気配をなくしてしまった
体ひとつが足りないなんて感じたの
これがはじめて

誰もいない花いちもんめ
唱えてみる
悪魔の化身に成果てれば
神様にだって縋りつく

そんな風にして破滅を
ただ我侭に要求してしまう

とおに過ぎた時代が脳裏を走る
無茶をしろと命令する


ありもしないことで苦しみたい

幽霊殺しの罪被り死刑を待つ


軽率に明日は訪れる
狂気の沙汰は
恍惚に負けて引き返し
また降参の旗を掲げ
夜明けの侵略を許す


くたびれた肢体をたたき起こせ

海に砂漠を敷き終えるまで眠りはない


胸をあけ放ち勝手に踊るは群青
靴をはいて飛び出した心に
斧を振り下ろすのは貴方よ
敬虔な笑みで待っている

凍る記憶から炎があがるのを見届けた
満ち潮までの長い時


いつか孕ませた男は臨月を迎え

女は争いのない戦場で銃をかまえた

一秒の間の永遠に狙いを定めながら



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遊泳地図


輪をめぐり藍がせめぎ
地平では飛べない腕をもった
わたしがなれない手つきで
うろこをひとつずつ付けはじめる


海に
ふたつの尾でかろやかに泳ぐ
魚はいたか?


たとえ星々が
月明かり頼りに
宇宙の会話を楽しんでいたとしても
ネオンとニュース
数えるのに夢中で
耳を澄ますまでの余裕なんてない

紅色のつぼみが
咲かずに身を落とす時
驚くほど大きく響いては
するりと私に入りこむ


麗しいものの嘆きは
どんなご馳走より美味か?


知恵の実
食べたくちびるで
ふれない接吻を
知恵の実
かかる咽もとから
いつわりない嘘を

後ろめたいだなんて
思うはずないでしょう

緑に空に
水に火に
復讐され
追われた先に
果たして海は


美しく彩られようと
脚は
どこで泳ぐというのか?


静寂は変わらずに
やさしさの在り処を知らせる
だから辿りだし
そのたび走り方を忘れて
さ迷う末路

けれど沈黙さえも
なつかしい空となり染みる頃
生まれたことに
泣いてしまうだろう
あなたも
わたしも

茜雲の群れかけ
やわらいだ風
甘いメロディ
耳をかすめたら
終わらないうちに
再会の抱擁をかわして
すぐに行こう

想い描けるならば記憶は消えず
背を押し手を引き
枯れた地からも
光ない森でも


映せる


さて
皮膚の下 隠し事をやめたら
水音はどこから溢れるか?



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UNKNOWN 201号室


からだにはりついた
汗が
鬱陶しく冷やされる



青いハネの回転音が耳に付く
─右隣から軽快な音楽 と したたりそうな恋人たちの会話
鼻腔をくすぐる香辛料の匂い
─左隣から激しい罵倒 と ショウのはじまりの如く軽薄な拍手


殺風景な部屋に
まもなく恐怖がおとずれる
今は、闘いにそなえて胃を満たしてやろう
24時間
やさしい明るさで人を癒す場所には
なんでも売っている
だけど幾ら出しても
愛だけは混入していない

なんてしっかりとした世の中なの
と的外れな文句を並べて
みたところで 感けない指先


だ れ か 居 て よ


グラスに残された氷のようにとける
私というぬけがらに
そそぐ血なまぐさい思いやりの甘露


こんばんわと掛けるまえに忍びこむ
あなたはだれ


しばらくすると芝居じみた叫び声が
鼓膜に突き刺さることだろう
片方では口喧しい罵りと共に
ナイフが突き立てられていることだろう
腐敗臭がするまで
果たして生き延びているか
賭けてみるかい
命とひきかえに


親愛なる×××、あなたの顔が浮かびません


底なしに嵌った私はだれにも知られずに
アザが発覚することもなければ
遺体が発見されることもないように
そんなふうにして 消えていく


だって、私にだって見えないもの



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呼 応


見つめるのも触れるのも容易い
責めもしないし拒みもしないよ

ほらすぐそこに横たわる景色を匂いを引き寄せて
大いなる世界に抱かれるために生まれた

揺篭から墓場まで
手にしてるものは形ない
ならば役立たずな愛もふざけた夢も掴んで
放さないでいてやる

陽を月を雲を雨を
朝を昼を夕を夜を
感じて
尊さは背負わなくてもいい
ただあなたの胸に広げたいだけ

空はなにもはがれたりなんかしない
飛べもしないけど堕ちもしないよ

ほらはやくその静寂を沈黙を塗り潰して
大いなる世界と添遂げるために逝くんだ

羊水から精魂まで
慈しまれるものは果てない
だから掛値なしの愛もちいさな夢も信じて
笑って生きてやる

善も悪も今も昔も
罪も罰も身も心も
捨てて
頑なな瞳ほどいてしまえば
ただあなたが泣ける安らかさだけ

ほらもうそばに聴こえる唄に耳を傾けて
気づいてとかろやかな音が
見つめてとやわらかな声が

大いなる世界と恋に落ちるために
大いなる世界と愛し合うために
いのちを燃やして
産声を、今。



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ヒトデナシ



染みがきえない
ゆるやかに棲みついたそれは蝕む


欲しいよ、
苛立ちだけ募る
汚れた眼つきで獣じみた乞いに飢えている
ならばいっそ壊れるほど乱暴に振舞ってしまえ
どんな行いであろうと 木偶の神なら きっと、見逃す


戦いが続くのは何処でもないこの心臓
奪うものもないまま争いは永久に
仰ぎみる空が枯れるまで終わることはない


撃ち抜かれることに焦がれてる
倒れこんだわたしが喘ぐことも出来なくなるまで
辱しめてみせて笑えるほどの滑稽さで


恐いね、
衝動だけ勝る
破れた皮膚からうねる濁流が止め処なく
馬鹿気たゆさぶりの中だらり
そう誰よりも冷たい視線で 音もたてず横切る


あんなにも不愉快なことは無い
縋付いて跪く屈服して紅花を垂らす
狩られるのはどちら?
後手に庇っているものはなあに?


熱いよ、
癪にだけ障る
熔けた血管が見窄らしい姿を晒しながら
望むことさえ冒涜になる陶酔した肢体を
白々しく誘う天国も地獄もないところへ

見据えた瞬間は一秒だっていらない
正しさを求めたことなんて一度もない
過ちだと印を付けられたとしても かまわないから
吐き捨てられ放り出される
そんなくだらないものでいたいだけ


逝末を翻弄し
情痴はつづく



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落日に


そうしてあなたはまた無邪気に笑ってみせて
頬を寄せたり
睫を舐めたり
退屈な景色を嬉しそうにかざる


震える視界を誤魔化さなければ
瞬きするたびに付いてくる目眩も
正しく伝えるには
あなたには少しむずかしい気がして


くりかえし出逢う落日なのに
どうして今日はなぜか寂しい
騒々しい音をさがしている
この世の絶望嘆き嫉妬嘲笑 すべてが嘘みたいに
そう、かすんでしまうような


似つかわしくない大きな手を
大袈裟にたたいたり
足取りだけで
わたしを呼んでみたり
孤独に驚愕することに怯えてみえる?


崩れそうな意思を保たなければ
一歩踏み出すごとに付いてくる影も
あるがままを映して
ここまで真直ぐ追われてきたのだから


くりかえし出逢う落日なのに
どうして今日はなぜか恋しい
相応しい詩をもとめてる
この空の憂鬱呟き焦燥憧憬 すべてを許すみたいに
そう、抱きよせるような


もうそろそろ
あなたが歩く旋律についていく覚悟をしないと
きっと立ち尽くし泣いてしまう
あなたを守るためだけに
この指や胸はあればいいのに
余計なものばかり掴んでは 諦めることを思い知らされる


くりかえし出逢う落日なのに
どうして今日は苦しすぎる
悩ましい言葉が
言葉がたちまち降ってきて
ぼんやりしてるうちに
口びるをふさぎ
そして窒息する


優しくされたら言えなくなる
甘やかしたいのに出来なくなる
倒れ込みそうな体を立て直さなければ
くりかえし見送る落日に