「いいか、忍者たるもの安心して眠れる場所なんざないものだと考えておけ。いつ寝首を掻かれるかわからんぞ」 前を見据えたまま先輩はそう言った。 「じゃあ、先輩は寝ないんですか……?」 酷いクマが出来ている顔を見つめれば、そうだ、と返された。眠る事があっても熟睡はまずせんな、と。何かあればすぐさま起きる、それが忍だ、と。 「寝なくても大丈夫なんですか?」 至極当然な問いかけをすると先輩は僕を見、ふ、と笑った。 そうしてぐしゃぐしゃと僕の頭を撫でながら、 「……まあ、よっぽど安心できる場所があれば話は別だがな」 「え?」 ぼそりと呟かれた。 【ひかりのどけき】 |
からりという音が不意に上がり、袋小路に陥っていた思考が強制的に打ち切られた。しかし、それが俺にとって好転条件になり得るかどうかと問われればそれはまた別次元の話で。 「……伊作?」 突然目の前に現れたのは第三者。忙しいからといって俺を部屋にあげなかった長次の、しかもどういうわけか風呂場から出てきたのは友人の伊作だった。シャワーでも浴びていたのだろう、髪は濡れどういうわけか丈のあってないだぼついたシャツを着ている。 「おま、……それ長次のシャツだろ、……?」 自分でも驚くくらいかすれた声が出た。伊作は伊作で半笑い状態で色をなくしたかのように凍り付いている。 事態が把握できない。 そんなまさかと思う反面、これだけの物的証拠が揃っておりなおかつ伊作は伊作で顔色を無くしているのだ。 【ラビューラビュー】 |
依頼主である城主の元へわざわざ身を清めてから行くのも億劫で、合戦場からそのまま首桶を持って行くと流石に驚かれた。脇にいる小姓など硬直していたが、城主は、いやしかしなんと豪胆な奴よと笑い、召抱えてやろうと言われたが丁重に断る。ならば寝床を用意してやろうとも言われたが、報酬と井戸水だけを頂く事にして早々にその場を立ち去った。 妙に気に入られたようだったが、どうでもいい事である。城仕えは学園を卒業して数年で懲りた。妬みややっかみは何処に行っても存在するもので、人間関係にもほとほと疲れ果てたのだ。フリーとなっては仕事を選り好みしている場合ではなく、血生臭い依頼ばかりになるだろうがその場凌ぎのような日々でも、気ままな方がまだましだと。最初の頃はそう思っていたのだけれど。 【一人一途】 |