□□□ ラーメン □□□





夜。オフィス街。ひときわ高いビルの最上階。
ガタガタと、なにやら不審な音。

「あっ、そこぉ、…ううんっ!…はぁ…はっ…!」
部屋に充満する淫靡な空気をたどれば、ソファーの上、蛍光灯の下で露わな白い肌。白い髪。
少年の潤んだ青い目が、自分の上にいる人物を求める。
「しゃちょお…っ!もっと、いっぱい、さわって…、なぁ いじわるすんなよ…」
自分は何も着ていない全裸で震え、欲望があけすけだというのに、相手はまったくいつも通りのつまらなさそうな無表情で、ぴっちりとスーツを着込んでいる。
それでも、媚びた表情でねだれば、口元だけで笑って、機嫌が良いことだけはわかる。
「ふっ…堪え性がない奴だな。少し躾けるか」
グッ…ググッ
「んあっ や…、変なのいれんなぁ!」
「くっくっく…」
「あっ ああっ!やだあ!イッ 痛い…!!」
「その割には、ずいぶん具合が良いようだが?」
もてあましている方の手を前にやれば、ぐちゅりと漏れた汁が泡立つ音が出る。
いじくられて、白い体がビクリビクリと大きくはねた。
「あう!はうぅ…」
「前も後ろも、まったくだらしのない体だな。いっそ貞操帯でも付けてやろうか?」
「っ、だめ…、ああんっ」
「……ふぅん」
秘部に挿れていたグロテスクな性具をずるりと抜き取り、物足りなさげにひくついているその部分に自らのものを埋めてやろうと、ベルトのバックルをカチャカチャと外している時、
部屋の扉の外から、場違いな声が飛んだ。

「ちーっす! ラーメン麺長でーっす。ご注文の出前お持ちしましたー!」ガチャッ

「……は?」
珍しく、海馬が半開きの口から阿呆のような声を出す。
あまりに温度差の激しい陽気な声とその内容。しかも声の主は、ノックも中からの確認もせず、遠慮なく扉を開けたのだ。
当然、その人物は、部屋の中のすべてを目撃することになる。
「ご注文の品、こってりラーメ、ン…… あ…?」
海馬は飛び込んできた人物を見て、合点、納得した。
「なんだ、貴様か。ノックくらいしろ、凡骨」
それはバイト中の城之内であった。
城之内は、部屋の状況を見て、そのまま固まっている。
「か、いば…と…ば、ばく、ららら…!?」
「えあ…?」
名前を呼ばれて、海馬に組みしかれていたバクラも、意識をそちらに向ける。
その表情は今さっきまでの情事のまま恍惚としたもの。息が荒く、頬が赤く、涙目はうつろで、半開きの口からはだらしなく涎を垂らしている。
それを見た城之内は、うっかり持っていたラーメンを落っことしそうになった。
あられもなくバクラの いや、城之内にとっては獏良の体の、真珠のような白い肌が、淫らに赤く色づいて、海馬の膝の上で熟れている。
「なっ…なっ…!?」
これは一体、どういうことだ。城之内には判断できない。思考回路がフリーズしてしまっている。

当の本人達はというと、やましい情事を見られているというのに、後ろめたさなどまったくない。
海馬がイライラした口調で聞く。
「誰だ、こんなやつを呼んだのは。というか、くだらんものを注文したのは」
「あ、オレ様オレ様。晩メシ食べてないから、腹減ってよぉ」
海馬は顔をしかめて、チッと舌打ちする。
「オイ、城之内、お代は社長が払ってくれっから、それそこ置いとけよ」
バクラがラーメンの器を見ながら、ソファーの正面にあるテーブルを指さす。
城之内は素直に行動する気も起きず、2人の姿から目も離すこともできず、そこに立ちつくしている。
苛ついている海馬が言った。
「邪魔だ、凡骨。さっさと立ち去れ。どうしても覗きたいというなら、扉を閉めて四隅にでも寄っていろ」
いつもと変わらない海馬の暴言に、城之内はハッと我に返った。
「ッ…!! おい海馬ぁ!そいつは本当の獏良じゃねぇんだぜ!?獏良の体で好き勝手さしてんじゃねーよ!」
城之内は持っていたラーメンをテーブルに叩きつけると、腹の底から怒鳴った。
見ると、今、獏良の体は闇人格のバクラに支配されている。
海馬と性交しているのはバクラの意志だろうが、それは獏良の体を媒体にした行為だ。獏良がそんなことを了承しているはずがない。
彼の友達として、城之内は怒りを感じずにはいられなかった。

「ふん、オカルトなことを…」
海馬はまったく聞く耳を持たない。城之内はますます怒る。
「そこにいるのは闇のバクラで!その体はそいつのじゃねぇって言ってんだよ!」
「だからどうした。この俺にはまったく関係のないことだ」
「てめえ!!」
「――磯野か。至急警備を呼べ。害虫駆除だ」


その後、駆けつけた警備員に取り押さえられ、城之内は部屋から連れ出された。
後に残ったのは、海馬とバクラ、そしてテーブルの上にあるのびきったラーメン。


「興が削がれたな」
「……」
萎えた己のものを感じ、海馬はベルトをグッと締め直した。
ぼーっとしているバクラに「どうした」と声をかける。
「いや、別に…ちっと、傷ついたかな なーんて」
いぶかしむ海馬に、バクラが続ける。
細い腕で、白い体をぎゅっと抱きながら。
「この体は宿主のもんだって、とっくにわかってんだけどな。どっかで甘えてたのかも」

(この体は、仮宿で。)
(自分の本当の体は、もう とっくの昔に砂になった。)
(望んだことだから、悲しいなんて、感じないけれども。)

「己自身が欲しいのか?」
「……」
押し黙るバクラに、海馬が続ける。
「海馬コーポレーションのサイエンステクノロジーをもってすれば、新しい体…せいぜいアンドロイド止まりだが。その器に既存の人格を投影させ、人工的なドッペルゲンガーを作成するのも、そう難しいことではない」
「ん〜、遠慮しておくぜ。オレ様の器は宿主の体しか考えらんねぇ」
それに、と バクラが身を起こして海馬の方に向き直る。
「アンドロイド(冷たい体)のオレ様を、社長は可愛がってくれんの?」
無言でいる海馬の肩に、バクラの片手がのる。
顔を寄せて、ちゅっと、唇に触れるだけのキスをする。
すると今度は海馬がバクラの首に左手を回して、ぐいと引き寄せる。
右手を頬に添え、噛みつくように舌を使っての口付けをする。
「…ふっ…んむ…」
くちゅくちゅと、舌の動きにかき混ぜられる唾液の音が出る。
いったん冷たくなったバクラの皮膚が、徐々に温かく、熱くなっていく。
濃厚な口付けをやめると、海馬は再びバクラを押し倒し、事に及んだ。(彼は本当に、城之内の言葉を聞いていなかったようだ。)
バクラも、まったくの無抵抗のまま、いつも通りの受け身になる。


ギッ ギッ と、激しい律動にソファーがきしんだ音を立てるが、それ以上にバクラの嬌声は大きかった。
「せと、…あっ…!すご、ぃ…あっ!ああっ!」
蹂躙される体の衝動に駆られるまま、本能ばかりになった脳の欲求に口から飛び出す言葉は素直だ。
「も、イかせて…、社長っ のっ、でかいチン○でイきたい…っ、欲しいよぉ!」
「ッ…貴様は、少し黙れ!」
余裕のなくなった海馬が、バクラの足首を持って引き寄せ、挿入をますます深いものにする。
「うぁあ!? はっ、はぁっ…あああッ!!」
最奥を突き刺され、爆ぜたバクラは大きく体を痙攣させ、仰け反り、勢いよく射精した。
断続的に後ろが締まり、膨張した肉棒の全体を刺激された海馬のものも、限界を超える。
「ッ…!」
唇を引き結び、海馬がバクラの中から自らを引き抜く。
白濁した汁が、無防備な獏良の下腹部から胸にかけてをどろりと汚した。

「……んで、外に出したんだよ」
ぜぇはぁと肩で息をしながら、それでも不服そうな顔で、バクラが海馬をにらむ。
「大事な宿主の体なのだろう?今日くらいは遠慮しておいてやる」
「だからって…どっちみち汚してんじゃん」
バクラが下腹部へ手をやり、へそにたまった精液をすいっとすくう。
「洗えば済む」
「そういう問題か? あー、だる…」
コテンと、バクラが再びソファーに横になる。
「なぁ、瀬人様ぁ」
だるそうに、汚れた指をぺろりと舐めて。ちらりと、バクラが海馬を見る。
(アンドロイドより、タチが悪い。)

「もし、俺が、このキレーイな宿主の体を捨てて、黒くてごつい、醜い化け物になっても…社長は、俺のこと抱いてくれる?」

それは、恋人同士のノロケ話の類ではなかった。
真剣に、そうなる未来が前提の質問で。
答えはNOだと、普通の人間ならそう言うだろう無理難題だ。
バクラも何の期待もせず、血なまぐさい味のする指をちゅっと吸いながら、沈黙する海馬をただ見ていた。

「質問の意図がわからんな……貴様の心はどこにある」
海馬がそう問い返せば、バクラは「え?」と聞き返す。
「化け物になったお前は、俺に抱かれたいと思うのか?」
「……」
バクラの表情がやや曇る。戸惑ったように、それでも、瞬きもしないで海馬を見ている。
海馬は相変わらずの、感情を出さない無表情。何を考えているのか、何を思っての言動か、わからない。
「お前はもう、そこにはいないんじゃないのか」
「……わかんねぇ」
「あると言い切れる自信がないのだろう?とんだ愚問だな」
海馬の手がバクラの体に伸びて、その白い表皮をつつ、とゆるく撫でた。
事後の敏感な神経が刺激させて、びくりと バクラを小さく反応させた。
「お前は、今、ここにいる」

(獏良了でもなく、しかしそれ以外でもない。)
(どこに存在しているとはっきり言えない、まるで蜃気楼のような。)
(だけどそれでも、幻ではない。ここに存在している。生きている。)

「俺が気に入っているお前は、これだ」
「……」
「お前は――……いや、」
化け物になど、ならなくていい。
その言葉は、なぜか、言えなかった。
何も知らない、覚えていない(らしい)自分がそこまで言うのは、あまりに無責任のような気がした。
バクラは海馬が言いかけた言葉を追求しなかった。むしろ、言われなくて安心したようだった。

(三千年前は自分の意志だったはずの復讐が、徐々に形が歪んでいって、黒くて大きな化け物を食べた後は、いつの間にか 自分は操り人形のようになっていた。)

「しゃちょぉ」
ぎゅっと、バクラが海馬の胴に腕を回して、抱きついてきた。
煩わしいと思いつつ、海馬はバクラを受け入れる。
「俺、今、幸せだぜ…?」
少なくとも、今は。
「なんも忘れてよぉ、すんげーきもちぃ」
行為の後、バクラはいつもろくな処理をしないまま、とろとろと眠る。
海馬との相性が良いのか、悪いのか、疲れきるようだ。
「オレ様も、いっそ社長みてぇに、まっさらになって生まれ変わればよかったかもなぁ…」
意識がはっきりしない時のバクラは、よくわからないことを口走ることが多い。
「ふん、またくだらんオカルト話か」
「そ…だって俺、オカルト好きだもん」
微妙にはぐらかされたような気がする。「……」
バクラは海馬にしがみつきながら、半分眠っているようにふにゃふにゃだ。
その表情は、本当に幸せそうにゆるんでいる。
「そんでー、社長も好き。カッコイーしー、チン○でかいしー」
ぐだぐだなバクラのつぶやきに、海馬はツッコミを入れる気もおこらなかった。











END/071025


「今気付いたけど、そういや社長、今日誕生日なんだな。…(伸びきった)ラーメン、いる?」「いらん」

誕生日にupした海バクなのに、誕生日要素はまったくありません。一体何が書きたかったのかもよくわからない。
海バクはエロ前後じゃないと腹割った話できないから、必然的にエロがはいるんだー。申し訳ない。
こんなところでなんですが、海城も好きです。バクラが転校してくる前、一回だけ海城で×××なネタがあったりします。
そんでもって、城之内は本田が獏良と付き合ってることを知ってるので、気が気じゃない。
その本田にも今では御伽がいるんだから(本御)ほんとこれすごい乱交だな。相関図かいたら大変なことになりそう。