※完全なオリジナルストーリーです。
原作を無視している部分が多く、また設定に差別的表現があります。ご注意ください。
闇マリクには、正式な名前がない。出生届がなされなかった。
正式にイシュタール家の跡継ぎとされたのはマリクだけで、闇マリクの存在は文字通り闇に塗り潰された。
マリク・イシュタールは双子だった。一人目を取り上げ、そして二人目を取り出そうとした時、病弱だった母親の命の灯火は消えた。
直接的な原因が、二人目の存在だった。母親を溺愛していた祖父母は二人目の存在を忌み、母親を孕ませた婿養子(父親)共々、本家から追い出した。
父親は闇マリクを生かし、育てはしたが、その方法は非道だった。
闇マリクへの愛情は一切なく、子守歌代わりにイシュタール家への怨恨をむき出しにした暴言を吐いては、荒れた。
名前のない闇マリクを不便と思わないほど、自分の近くにいる「動く物」としてしか見ていなかった。
もともとの気性の荒さと、一族から絶縁された憎悪と、最愛の妻を失った悲しみのせいで、闇マリクに激しい虐待を繰り返した。ちょっとしたことで、闇マリクは何度も生死に関わる暴行を受けた。
それらがトラウマとなり、闇マリクは精神障害を負ってしまった。体が育っても、頭や心は小さな子供のまま、成長しなくなった。
(体の方も無事ではなかった。体中に父親から受けた暴行の傷痕が残っている。背中は特に酷い。)
闇マリクは心を病み、逃げ場のない衝動に襲われ、とうとうある日、父親を包丁で刺し殺す事件を起こす。
虐待や障害のこともあり、闇マリクは罪には問われなかった。
だが、闇マリクには唯一の保護者がいなくなった。出生届のない「存在しないはずの存在」が、これからどうやって1人で生きていくというのか。
事件は一週間ほど、新聞やテレビで大きく話題になったが、それは数週間後には過去のニュースの一部とされ、すぐに人々の記憶から忘れられた。
しかし、忘れなかった者がいた。マリクだ。
自分と同じ顔の、同じ時に産まれ、ひとつの命を2人で分け合った片割れを、やっと見つけた。
それがたとえどんなに悲惨な知らせと共にあったとしても、マリクの中に最初に訪れた感情は、眩暈がするほどの感動だった。
マリクは誰にも黙って、施設にほとんど監禁状態でいた闇マリクに会いにいった。初めての対面。だけど、それは再会。
だが、闇マリクにとって、マリクの存在は憎悪や嫉妬の対象でしかなかった。
まったく同じなのに、まったく違う、もう1人の自分。幸せになれたはずの、自分の理想像。
闇マリクは、父と同じように、マリクも殺そうとした。施設内で盗み、隠し持っていたナイフを後ろ手に、マリクをじっと睨みつけて見つめた。
マリクは、悲しいような、今にも泣きそうな表情で闇マリクを見つめ返していた。口元だけは、なぜか微笑んでいた。うまく笑えない困った表情。いろいろな感情があふれて止まらなかった。
「ねぇ……僕が、わかる?」
マリクはそう尋ねた。闇マリクは答えない。
マリクも何も言わず、そのまま、歩み、手をさしのべ、闇マリクを抱きしめた。
闇マリクが目を見開いて驚く。抱擁など、されたことがなかった。直接に伝わる、人のぬくもり。
あたたかい。
「会いたかった。もう1人の僕自身」
闇マリクが手にしていたナイフが、するりとこぼれ落ちる。
音を立てて床に落ちるナイフを、マリクは見向きもしなかった。
「大丈夫だよ」
マリクは、闇マリクを抱きしめたまま、強い声で告げる。
「お前が何も持ってなくても、僕が持っているすべてを、お前にあげるから」
「……なぜ、だ…」
どうして、無価値な存在である自分に、好意を向けるのか。闇マリクには理解できなかった。
「僕は今まで、お前の分まで幸せに生きてきた。だから次は、お前が僕の分まで幸せを得るべきだ。僕の名前も、居場所も、家族も、宝物も、全部、お前のものだ。もう、辛い思いはしなくていい。僕が、させない」
闇マリクの頬に、涙の筋が通う。
「まりく」
憎悪の塊である自分が、はじめて、憎むことをやめた。幸せを受け入れることを知った瞬間。
「そう、マリクだ。それは今まで僕の名前だった。そして、今日から、お前が、マリクだ。お前が、マリク・イシュタールなんだよ。ねぇ、わかる…?」
何度も何度も、マリクは闇マリクに言い聞かせた。
2人は強く抱き合って、泣き崩れた。
もう二度と離れないよう、2人で寄り添って生きていくことを、心に誓った。
蛇足:ナムは現在リシドのアパートに居候している(でも主従関係はナム>リシド)
マリクがリシドを嫌うのは、顔は全然違うけど、声がありし日の父親に似ているため。
初めて会った時、ぶり返した恐怖に半狂乱になってリシドを殺そうとした。ナムが必死になって止め、言い聞かせたが、その衝動は今もいつ誘発するかわからない。
それでもリシドはマリクのことナムと同じくらい大切だと思っている。
マリクも、どうしても受け入れられないだけで、リシドを嫌いなわけではない。
6歳児なマリクの学校の成績はナムとリシドがなんとかしてる。
イシュタール家にいるマリクは必死で演技してる。祖父母はかなりもうろくしているし、すべてを知っているイシズ姉様が心強い味方になってくれてる。(でも本当は、双子のナムと暮らしたい気持ちがある。2人で幸せになりたい。)
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